亡くなった方の預金をおろすにはどうすればよいですか?

亡くなった方の預金口座はいつ凍結されるか

亡くなった方の預金口座は、金融機関が口座の名義人が亡くなった事実を把握した時点で凍結されます。役所に死亡届を提出したからといって、自動的に預金口座が凍結されるわけではありません

金融機関が口座名義人の死亡を知る経路の大部分は、ご親族からの連絡です。その他、銀行担当者が新聞の訃報欄を見たり、口座名義人の葬儀が行われたことを知ったりするといったケースもあります。

一度預金口座が凍結されてしまうと、その口座からの入出金が一切できなくなります
これには、口座からの引き落としや、振り込みによる受け取りも含まれます 。  
そのため、葬儀費用など、急を要する資金が必要な場合であっても、口座から預金を引き出すことができなくなってしまいます。

口座凍結前に預金を引き出すと起こること

葬儀費用や生活費などを確保するために、亡くなった方の預金が凍結される前に預金を引き出すことを検討される相続人は一定数おられます。

もっとも、口座凍結前に亡くなった方の預金口座から預金を引き出すことには、以下のリスクがあるため、注意が必要です。

⑴ 相続放棄ができなくなる可能性

亡くなった方に多額の借金があった場合、亡くなった方の借金を引き継がないようにするために「相続放棄」という手続きを相続人は行うことができます。

相続放棄が認められるためには、①相続人が、被相続人(亡くなった方)が亡くなったことと自分が相続人になったことを知った日から3カ月以内に行うこと(原則)や②単純承認に該当しないこと(相続人が相続財産の全部又は一部を処分しないこと等)などの条件があります。

亡くなった方の預金を引き出す行為は、この「単純承認」とみなされる可能性があります
このため、もし亡くなった方の預金口座から預金を引き出し、単純承認とみなされた場合には、亡くなった方に多額の借金などのマイナス財産があることが発覚した場合でも、相続放棄が認められないというリスクがあります。

相続放棄手続きについては、以下の記事で詳しく解説しておりますので、ぜひご参照ください。

相続放棄をしたい方へ

⑵ 他の相続人とのトラブルに発展する可能性

亡くなった方の預貯金は、遺言により取得者が定まっている場合や遺産分割協議により誰がどの預金をいくら取得するか定まった場合を除いて、相続人全員の共有財産となります。

そのため、遺言がなく、遺産分割協議が未了の段階で、一部の相続人が他の相続人の了解を得ずに無断で預金を引き出してしまうと、他の相続人との間でトラブルに発展する可能性があります。

最悪の場合には、他の相続人の方から、不当利得返還請求や損害賠償請求といった訴訟を起こされる可能性があります。

後々のトラブルを防止するためにも、口座凍結前に亡くなった方の預金口座から預金引き出しはできる限り行わない方が賢明です。

どうしても引き出す必要がある場合には、その使途を明確にし、さらに相続人全員の了承を事前に得ておくことが重要です。

また、引き出した預金の使途、金額を他の相続人の方に説明できるように領収書等を残しておくべきです。

3 口座が凍結された後に、預金を引き出す方法

 ⑴ 相続手続きによる引き出し

口座が凍結されてしまった後に預金を引き出すには、相続手続きを完了させなければなりません。具体的には、亡くなった方の遺言がある場合はその内容に基づき、遺言がない場合は相続人全員で遺産分割協議を行い、亡くなった方の遺産(預貯金を含む)をどのように分割するのか決定します。

その後、相続人全員で決定した内容を「遺産分割協議書」にまとめて、これを金融機関に提出することで、預金口座を引き継ぐ者に指定された相続人が、預金口座から預金を引き出すことができるようになります。

この方法は時間がかかりますが、最もトラブルの少ない方法と言えます。

⑵ 仮払い制度の利用

もっとも、葬儀費用の支払いや、亡くなった方の借入金の返済が滞ったり、残された相続人が困窮する事態などが生じ、亡くなった方の預金口座から緊急で預金口座を引き出す必要がある場合も考えられます。

このような場合には、仮払い制度を活用することにより、亡くなった方の預金口座から預金を引き出すことができます。

この制度は、各相続人が単独で凍結された口座から預金の払い戻しを受けることができるものです。

もっとも、無制限に引き出すことはできず、以下の計算式により算出される金額が上限額となっています。

亡くなった方の死亡時の預金口座残高×3分の1×仮払い制度により払い戻しを受ける相続人の法定相続分

※ ただし上記により算出された金額が150万円を超える場合には、150万円が引き出せる上限額となります。

また、仮払い制度に基づいて銀行に預金の払い戻しを請求する際には、以下の書類を提出する必要があります。

・ 銀行所定の申請書

・ 亡くなった方の出生から死亡までの戸籍謄本

・ 相続人全員の戸籍謄本等

・ 払い戻しを受ける相続人の印鑑証明書

なお、仮払い制度は比較的新しい制度であり、銀行ごとに必要書類等が異なる場合があります。

そのため、仮払い制度を利用される場合には、事前に各銀行に問い合わせてご確認ください。

⑶ 仮払い制度を利用する際の注意点

仮払い制度を利用する場合であっても、口座凍結前に預金を引き出した場合と同様に、①相続放棄ができなくなるおそれや②他の相続人とのトラブルに発展するおそれは変わりません。

②については、使途が明確であることを証明できるよう、必ず領収書などの証拠書類を保管しておくようにしましょう。これは、後々「使い込み」と疑われ、相続人間でトラブルに発展することを防ぐ上で非常に重要です。

①については、葬儀費用として妥当な金額だけ引き出し支出した場合などには単純承認に該当しない可能性もあります。ただし、明確に判断することは難しいので、事前に弁護士に相談するのが安全です。

身内が亡くなったらトラブルになる前に弁護士に相談を

相続は、相続人間の感情と法律が絡み合うため、親族間でのトラブルに発展しやすいものです。特に、亡くなった方の預金の使い込みが疑われるような場合、遺産分割協議とは別に、不当利得返還請求や不法行為に基づく損害賠償請求がなされるリスクも考えられます。

このようなリスクを避けるためにも、身内が亡くなり、相続や預金に関する問題が生じた場合は、できるだけ早い段階で弁護士に相談することをおすすめいたします。

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