囲い込まれた親を救い出したい! 問題解決のための法的対応策とは?

1 親の囲い込みはなぜ起こる?

 最近、「親の囲い込み」と呼ばれる事態が増えています。

 「親の囲い込み」とは、親族(多くの場合は子どもの一人)が、高齢の親を囲い込んでしまい、他の親族(他の子ども)に会わせないようにしてしまう、という事態です。「高齢の親に会いたいのに、親に会えない、親に会わせてもらえない」といった相談が増えています。

 では、なぜ、このような「親の囲い込み」が生じるのでしょうか?

 親が高齢になると、身体が不自由になったり、認知能力が低下してきたりするため、自立した生活が難しくなります。親が自立した生活が困難になった場合、子どもなどの親族による介護が必要になったりします。親の介護はとても大変なので、以前は、子どもたち同士で、介護が必要な親を「押し付け合う事態」が問題になっていました。

 ところが、最近では、前述のように「親の囲い込み」が問題になっています。

 「親の囲い込み」が生じる理由は、事案ごとに様々ですが、親の財産を巡る子ども同士の争いが背景にある場合が少なくありません。

 「親の囲い込み」をする側の立場の方の主張として、よく聞くのが「面倒な親の介護をずっと続けてきたのに、将来、親が亡くなったときの相続の場面で、親の面倒を全然みなかった他の兄弟たちと、遺産分配で全く同じ扱いをうけるのは、不公平だ」というものがあります。こうした不満を持つ方が、親の生前に、「何らかの形で親の財産を譲り受けておこう」とか、「自分に多く遺産を渡すような内容の遺言書を親に書いてもらおう」と思い、そのために「親の囲い込み」をする、というわけです。

2 「囲い込まれた」親の意思

 「親の囲い込み」が生じた場合、囲い込んだ子どもに対して、他の兄弟たちが「親に会わせてほしい」と言っても、囲い込んだ側の子どもは、なかなか親に会わせてくれません。そのときに、会わせない理由として「親自身が会いたくないと言っている」と説明していることも、少なくありません。

確かに、本当に「親自身が会いたくないと言っている」という場合も、ありえます。ただ、多くの場合、親は、自分の子ども達には会いたいと思うものです。ですから、「親自身が会いたくないと言っている」という説明は、囲い込んだ側の子どもが親の意思に反する説明をしている可能性もあります。また、親自身が実際に「会いたくない」と言っているという場合でも注意が必要です。というのも、囲い込まれる側の親は、高齢になり、すでに自分一人では生活が維持できないため、自分の面倒を見てくれる人に頼らなければ生活できない状況になっています。そのため、自分を「囲い込んでいる」子どもの考えを無下にはできず、半ば、その言いなりになってしまう、ということもあるからです。

3 親の囲い込みの態様

では、「親の囲い込み」は、どのように行われているのでしょうか?

まず、囲い込みをしている子どもが、親と同居しているケースがあります。この場合、囲い込んでいる子どもが「(親と同居している)自分の家に入るな」「親も会いたくないと言っている」などと言って、他の兄弟たちが家に入ることを拒むことで、「親の囲い込み」を実現します。

次に、親が病院に入院しているケースや介護施設に入居しているケースがあります。このような場合、病院や介護施設は「キーパーソン」として定められた人の意向に沿って行動するところ、囲い込みをする側の子どもが、この「キーパーソン」になり、その立場から、病院や介護施設に対して「他の兄弟に会わせるな」「親も会いたくないと言っている」などと指示を出すことで、「親の囲い込み」を実現します。

4 親の囲い込みを解決する方法

 「親の囲い込み」を解決するには、どうしたら良いでしょうか? 法的な手続きとして考えられる方法は、次のとおりです。

(1)法定後見人をつける方法(=×難しい)

 「親の囲い込み」が生じている場合、その親の認知能力(判断能力)が低下していることがあります。認知能力(判断能力)が低下している人に対して、その権利や財産を保護するために用意されている制度の1つが、法定後見制度です。

 法定後見制度は、本人の認知能力(判断能力)の低下度合いに応じて、家庭裁判所が、後見人、保佐人、補助人、のいずれかを選任して、本人に代わって法的手続をしたり(代理権)、本人の判断を補助したり(同意権)する、というものです。

 法定後見人の選任をすることができれば、法定後見人が家庭裁判所の監督の下で、適切な身上監護や財産管理を期待できます。

 もっとも、実際には、「親の囲い込み」が既に生じている状態から、法定後見人を家庭裁判所に選任してもらうのは、非常に困難です。

 家庭裁判所に対して法定後見人を選任するように求める場合、必要な提出資料の中に精神科医による診断書があります。家庭裁判所の裁判官が、本人に対して法定後見制度を適用することが必要であるか否か、必要であるとして、後見人、保佐人、補助人、いずれが適切かを判断するためには、本人の認知能力(判断能力)がどの程度であるのかについて記載された精神科医による診断書が、必要不可欠といえます。

 精神科医は、本人に対して問診をしたり、様々な検査をしたりして、診断書を作成します。ですから、精神科医は本人と会う必要があります。ところが、「親の囲い込み」がなされている場合、囲い込みを行っている側は、親に精神科医を会わせることもしません。その結果、精神科医による診断書を用意できなくなるのです。

 精神科医による診断書がないまま、家庭裁判所に法定後見人の選任を申し立てても、申し立てが却下される可能性が高いです。

 こうした訳で、「親の囲い込み」を解決するために、法定後見人の選任をするという方法は、難しいと言わざるを得ません。

(2)家庭裁判所の親族間紛争調整調停(=×難しい)

「親の囲い込み」の問題は、親子間・兄弟間の問題ですので、親族間の紛争です。親族間の紛争を解決するための制度としては、家庭裁判所の親族間紛争調整調停というものがあります。これは、紛争の当事者が、家庭裁判所に集まって、中立の第三者である調停委員を介して話し合いを行って、紛争の解決を図るというものです。

 親族間の紛争は、当事者同士で話し合って解決するのが望ましいため、このような制度が設けられているのですが、実際のところ、「親の囲い込み」の問題を親族間紛争調整調停で解決するのは困難です。

 というのも、そもそも調停制度は、裁判所を活用するものではありますが、基本的に当事者が任意に話し合いをすることを前提にしています。ですから、調停が行われる日に、当事者が参加するかどうかも、その人に任されており、参加する義務もなければ、参加しなかった場合の罰則もありません。ですから、「親の囲い込み」をした側の当事者が、誰も調停に参加しないというケースがほとんどです。このような場合、話し合いになりませんので、調停手続は不成立で終了になってしまいます。

 また、仮に「親の囲い込み」をした側の当事者が、調停に参加したとしても、調停参加者の認識や意見がまったく噛み合わないことも多いです。調停手続は、当事者が話し合って合意に達することで問題を解決する手続きですので、話し合っても合意に達しないときには、調停手続は不成立で終了になってしまいます。

 こうした訳で、「親の囲い込み」を解決するために、親族間紛争調整調停を行う方法も、難しいと言わざるを得ません。

(3)面会妨害禁止の仮処分(=△有効な場合がある)

「親の囲い込み」が生じている場合、排除されている側の子どもは、親に会いたくても会えません。この状態は、「親に会う権利」ないし「親に会うという法的に保護された利益」が侵害されていると考えることもできます。

 そのような権利侵害ないし要保護利益侵害をしないことを求める訴訟を行うという方法も考えられます。もっとも、通常の訴訟手続では、多くの場合、結論が出るまでに1年以上の期間がかかってしまいます。囲い込みをされている親は高齢であることが多いところ、訴訟に時間をかけていては、親が亡くなってしまうかもしれません。

 このように、訴訟での救済を求めていたのでは、侵害された権利ないし要保護利益の保護が実現できないような場合に、まずは仮の保護を実現させるための制度として「仮処分」という制度が用意されています。「仮処分」の制度は、法的な確定的な判断は後日行う訴訟で下してもらうとして、それまでの間、迅速に、取り急ぎの判断を下して、権利や利益を仮に保護しようというものです。

 この制度を活用して、「親との面会を妨害することを禁止する」という仮処分を下すよう裁判所に求める、という方法が考えられます。

 実際、この方法により、裁判所が「親との面会を妨害することを禁止する」という仮処分を下した事例があります(横浜地裁平成30年7月20日)。

 もっとも、この事例では、仮処分の申し立て前に、上述した「親族間紛争調整調停の申立て」や、「成年後見人選任の申立て」など、様々な方法を行ったにもかかわらず、親と会うことができなかった、という事情があったうえでの、裁判所の判断でした。

 ですから、この先行事例に基づけば、面会妨害禁止の仮処分を裁判所に下してもらうためには、事前に、それ以外の方法を尽くしていることが必要になると考えられます。

(4)損害賠償請求の訴訟(=△有効な場合がある)

前述したとおり、「親の囲い込み」が生じている場合、「親に会う権利」ないし「親に会うという法的に保護された利益」が侵害されていると考えることもできます

 そこで、「親の囲い込み」を不法行為として捉え、それによって権利ないし利益を侵害されたとして、それによって生じた損害の賠償を求める訴訟を提起する、という方法も考えられます。

実際、東京地裁は「親と面会交流したいという子の素朴な感情や、面会交流の利益は法的保護に値する」とし、合理的な理由なく面会を拒む行為は不法行為であるとして、面会を妨害した子供に対する損害賠償請求を認める判決を下しています(東京地裁令和元年11月22日判決)。

ただ、訴訟手続は判決を得るまでに通常は1年以上の時間がかかること、また、損害賠償請求が認められたからといって、直ちに親と会えるようになるわけではないことには注意が必要です。「親の囲い込み」が不法行為であると裁判所に認定されることにより、例えば「キーパーソン」の指示に従っていた病院や介護施設が、不法行為者である「キーパーソン」の指示に従わなくなり、親に会わせてくれるようになる、といった間接的な効果を期待することになります。

5 親の囲い込みをされそうなときには何をすべき?

 「親の囲い込み」が発生してしまった場合、これを解決するのは多くの困難を伴います。そこで、「親の囲い込み」が生じないようにすることが一番なのですが、もし「親の囲い込み」をされそうになったときは、何をすべきでしょうか?

 まず考えられるのは、親との信頼関係を維持し、より高めていくことです。親と多くあって、いろいろな話をして、親の考え方や意向を十分に踏まえて行動するようにしておけば、他の兄弟による「親の囲い込み」の芽を摘むことができる可能性があります。

 次に考えられるのは、「親の囲い込み」をしそうな兄弟と、よく話し合うことが考えられます。もし、事前の話し合いを通じて、「親の囲い込み」を行う動機がなくなれば、「親の囲い込み」を未然に防ぐことが可能になります。

 また、親がすでに病院や介護施設にいる場合には、他の兄弟ではなく自分自身が「キーパーソン」になるという方法もありえます。この場合は、もちろん、自分自身が囲い込む側になるということではなく、他の兄弟も自由に会えるようにしつつ、他の兄弟による親の連れ去りは防止する、という形になります。

 法的な対応として考えられるのは、もし親の認知能力(判断能力)が既に低下しているのであれば、早い段階から法定後見制度を利用しておくことです。法定後見制度を利用して、親に、後見人、保佐人、補助人、のいずれかが付いている場合、他の兄弟が「親の囲い込み」を行おうとする心理的な抑止力になります。

6 囲い込まれて不利な遺言書を書かれるなど相続トラブルになったら?

「親の囲い込み」によって親と会えないまま、親が亡くなってしまった後、遺産分割の場面で、親を囲い込んだ側の兄弟から親の遺言書があるという話が出てくることがあります。そのような場合、その遺言書には親を囲い込んだ側の兄弟に有利な内容(=自分にとっては不利な内容)が書かれている場合が多いです。このような場合には、親に会えなかった子どもたちは遺言書に納得せずに、相続トラブルになることが少なくありません。このような場合、どうすればよいでしょうか?

 もし、その遺言書が、親の本心から書かれているものであるならば、たとえその内容に不満があっても、法的には有効であると考えざるを得ません。したがって、そのような場合には、もし遺留分の侵害があれば遺留分侵害額請求をするしかない、ということになります。

 もっとも、「親の囲い込み」が生じている事案では、遺言書が作成された時点で、すでに親の認知能力(判断能力)が相当程度、低下していたというケースも少なくありません。そのような場合、遺言書に記載された内容を親自身がはっきりと理解できていなかった可能性があります。

そこで、遺言書が作成された時点での親の認知能力(判断能力)を判断するための資料(医療カルテ、介護記録、認知能力診断など)を取り寄せて検討することになります。そして、それらの資料に基づいて遺言無効訴訟を提起し、裁判所に認めてもらうことができたら、その遺言書を法的に無効にすることができます。

7 「親の囲い込み」にまつわるお悩みは弁護士に相談を

これまで述べた通り「親の囲い込み」の問題を解決するためには、多くの困難が伴います。また「親の囲い込み」に関係する相続トラブルも多発しています。

この点、千瑞穂法律事務所には、長年にわたり裁判官や公証人を務めた弁護士や、家庭裁判所の現役の非常勤裁判官として多くの親族間トラブルに取り組んでいる弁護士が在籍しています。

そうした経験と実績に基づいて、千瑞穂法律事務所では、「親の囲い込み」にまつわる様々な問題や相談に対して、適切な法的助言を行うことができます。

 「親の囲い込み」の問題や、それにまつわる相続トラブルについてお困りごとがあれば、まずはお気軽に、千瑞穂法律事務所にご相談下さい。

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