遺産分割協議書は法務局での登記で必要? 各自1通持つ必要性や紛失した際の対応について

1 遺産分割協議書とは

親が亡くなった場合、親の財産(=遺産)をどうするかは、遺言書があれば遺言書の定めに従うことになりますが、遺言書がなければ、法定相続人の全員が話し合って、遺産の分割(分配)を決めることになります。この遺産の分割(分配)の話し合いを遺産分割協議といいます。そして遺産分割協議が成立した場合、その合意内容を書面に記載したものを、遺産分割協議書といいます。

 遺産分割協議が有効に成立するためには、法定相続人全員が参加して、その内容に同意している必要があります。そのため、遺産分割協議が成立したことを証明するための書面でもある遺産分割協議書には、法定相続人全員の署名押印が必要になります。

2 遺産分割協議書を使う場面

そもそも遺産分割協議それ自体は、法定相続人の全員が同意しているのであれば、わざわざ書面を作成しなくても、法的に有効に成立します。つまり、法律上は、書面を作成する義務はありません。

しかし、多くの場合、遺産分割協議が成立した場合には、遺産分割協議書を作成します。その理由は、どのような内容の遺産分割協議が成立したのかを、法定相続人それぞれが確認するためでもありますし、第三者(たとえば銀行や法務局)に対して、成立した遺産分割協議の内容を証明するためでもあります。

 銀行は、被相続人が死亡したという事実を知った場合、原則として、被相続人名義の預金口座を凍結します。そして、銀行は、被相続人名義の預金口座を解約する際には、法定相続人全員の同意があることを証明することを求めてきます。この際、法定相続人全員の署名押印がある遺産分割協議書を用いることになります。

 法務局で、被相続人名義の不動産(土地・建物)の名義変更登記(相続登記)を行う際にも、法定相続人全員の署名押印がある遺産分割協議書を提出することになります。法務局の登記官は、遺産分割協議書を確認して、法的に有効な遺産分割協議が成立しているか否か、そして被相続人名義の土地を誰が相続することになったのかを確認して、被相続人名義の不動産(土地・建物)の名義変更登記(相続登記)を行います。

 逆に言えば、遺産に不動産が含まれていないのであれば、法務局に対して遺産分割協議書を提出する必要はありません。

3 遺産分割協議書を各自1通持つ必要性

 遺産分割協議書は、通常、法定相続人の人数分(たとえば、法定相続人が5人であれば、5通)作成して、それぞれの法定相続人が1通ずつ保持することになります。

 しかし、そもそも法律上、遺産分割協議書は作成しなければならないものではありませんし、作成するとしても、法定相続人の人数分作成しなければならないわけでもありません。

 たとえば、第三者(銀行や法務局など)に対して、成立した遺産分割協議の内容を証明するために1通のみ作成するということでも、法的には問題ありません。

 ただ、遺産分割協議書が1通しか存在しないとすると、その1通しかない遺産分割協議書を、法定相続人の誰が保持・保管すべきか?という問題が生じます。また、その1通しかない遺産分割協議書を保持・保管する法定相続人しか、成立した遺産分割協議の内容を証明できなくなるため、他の法定相続人が困る事態も考えられます。

 そのため、法定相続人であれば誰でも、いつでも、成立した遺産分割協議の内容を確認し、かつ、第三者に証明することができるようにするために、遺産分割協議書を法定相続人の人数分作成して、法定相続人が各自1通を保管するのです。

4 遺産分割協議書を紛失した場合の対応

では、遺産分割協議書を紛失してしまった場合、どうすればよいでしょうか?

成立した遺産分割協議に基づいて、既に遺産の分割(分配)が適正に行われた後であれば、たとえ遺産分割協議書を紛失してしまったとしても、大きな問題はないと思われます。

しかし、仮にまだ、成立した遺産分割協議に基づく銀行や法務局での手続をしていない段階で遺産分割協議書を紛失してしまった場合、その法定相続人は、成立した遺産分割協議の内容を証明する手段を失ってしまったことになり、必要な手続きをすすめられなくなってしまいます。

このような場合、他の法定相続人に対して協力を求め、他の法定相続人が保有する遺産分割協議書の原本等を借りるか、または、他の法定相続人全員に対して協力を求め、遺産分割協議書の再発行をお願いしたり、成立した遺産分割協議の内容を第三者に対して証明するための証明書(=遺産分割協議証明書)を発行してもらったり、という対応をとることになります。

5 法務局で遺産分割協議書を確認できる場合も

この他に、過去に行われて成立した遺産分割協議の内容を確認するための方法として、法務局で確認するという方法も考えられます。

改正不動産登記法が平成17年3月7日に施行され、登記原因証明情報を法務局に提出することが必要となりました。そして、当事者または利害関係人は、法務局に保管されている登記原因証明情報を閲覧できるようになりました(保存期間は30年)。

 そこで、遺産に不動産が含まれていて、名義変更のために遺産分割協議書が法務局に提出されていた場合には、法務局に申請することで、これを閲覧することができます。この確認は、原則として閲覧するだけで、必要であれば写真撮影をすることは認められますが、謄本などを請求することはできないのが難点です。

6 遺産分割協議書に関する相談は千瑞穂法律事務所へ

遺産分割協議書を法的に有効になるように適正に作成し、保管するためには、法的知識や経験が必要となります。

この点、千瑞穂法律事務所には、長年にわたり裁判官や公証人を務めた弁護士や、家庭裁判所の現役の非常勤裁判官として、遺産分割協議書の作成等に携わってきた弁護士が在籍しています。

そうした経験と実績に基づいて、千瑞穂法律事務所では、遺産分割協議書の作成や保管にまつわる様々な問題や相談に対して、適切な法的助言を行うことができます。

 遺産分割協議書の作成や保管にまつわる様々な問題についてお困りごとがあれば、まずはお気軽に、千瑞穂法律事務所にご相談下さい。

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