認知症の父・母の不動産の売却について 相続前に実家は売却できる?

1 不動産売却の必要性

 認知症になってしまっている父・母が所有している不動産を売却したいけれども、大丈夫だろうか?という相談を受けることがあります。どうして不動産の売却が必要かといえば、認知症になってしまい親が独立した生活をすることが困難になったので、施設に入居させたいけれど、施設入居に必要な資金が十分にないので、もう親が住まなくなる家を売って、施設入居に必要な資金にしたい、というようなことです。

2 売買契約の有効・無効

 問題となるのは、売買契約などの法律行為をする場合には、そのような法律行為の意味内容を理解して、これを適切に行うことができるだけの判断能力が必要になる、ということです。もし、売買契約をした時点で、既に必要な判断能力がなかった、ということになると、その売買契約は無効であるということになってしまいます。

 具体的に、どの程度の判断能力があったならば売買契約は有効で、逆にどの程度の判断能力であると、売買契約が無効になるのかという点についての判断です。

 たとえば、認知症の程度を診断するために行われる「長谷川式簡易スケール診断」というものがあります。これは30点満点で、一般に点数が21点以下であると認知症の疑いがあるとされます。この点数が10点以下になっている時期に行った契約は、裁判所で争われた場合に無効と判断されやすい傾向にある、とは言えます。しかし、裁判所はこの点数だけで判断している訳ではなく、契約の内容や契約に至るまでの経緯などを総合的に検討して結論を下しているため、点数が10点以下の場合でも契約を有効と判断している裁判例もあります。

 ですから、最終的には、ケースバイケースと言わざるを得ません。

3 契約の効力を誰が争うのか

 少し見方を変えますが、仮に認知症の父母の不動産を売却しようとした場合、それを問題視するのは誰でしょうか?

 まず考えられるのは、買主です。買主としては、もし売主である土地所有者が認知症であることを知ったら、後で売買契約が無効であるとされるのが怖いので、そもそも買い取りに応じない、売買契約が成立しない、ということになってしまいます。

 次に考えられるのは、父母の不動産の売買に関与していなかった子供です。親の不動産は、将来、その親が亡くなったときには、遺産分割の対象となります。ところが、この不動産が売却されてお金になり、かつ、そのお金がなくなってしまっていると、遺産分割の対象になりません。そこで、父母の不動産の売買に関与していなかった子供が、「認知症の父母の不動産売買は無効だ!」と争ってくることが考えられます。

4 有効に売買するための方法

⑴認知症になってしまっている場合

 もう既に父母が認知症になってしまった後で、父母の不動産を有効に売買しようとすると、法定後見制度を利用することが考えられます。家庭裁判所に対して法定後見開始の審判を下して、法定後見人を選任するように求めるのです。

 そのうえで、選任された法定後見人が、家庭裁判所に対し、①認知症のために施設入居が必要なこと、②施設入居のための資金を確保するために不動産の売却が必要なこと、③不動産が居宅の場合、もうその居宅に戻る見込みがないこと、などの事情を説明した上で、家庭裁判所の許可を得る必要があります。

 こうした手続を経れば、すでに認知症になってしまった後でも、父母の不動産を有効に売買することができます。

⑵認知症になる前の場合

 父母が認知症になる前、もしくは仮に認知症になってしまっても軽度である場合、将来の不動産売却を有効に行うための事前対策として①任意後見制度の利用、②家族信託制度の利用、が考えられます。

①任意後見制度の利用

 任意後見制度とは、父母が、将来自分の判断能力がなくなってしまった際に、後見人になってもらう人を事前に決めておいて、その人との間で、公正証書で任意後見契約を締結しておく制度です。この制度を利用することで、父母は将来のことを安心して任意後見人に任せることができますし、父母の不動産の売却が必要になった場合にも、法定後見の場合よりは円滑に手続きを進めることができます。

②家族信託制度の利用

 家族信託制度とは、父母が、自らの不動産などの財産を子供などに信託(信じて託す)して、その利活用を委ねる制度です。父母は信託契約においては受益者として、信託された財産の実質的所有者として、その利益を受け続けます。特徴的なのは、形式的・対外的には、信託された財産は、受託者の所有になるということです。ですから、仮に父母が認知症になってしまった場合であっても、受託者である子供が、信託契約の趣旨に反しない限りは、有効に売買契約をすることができることになります。

5 認知症になってしまった父母の不動産の売却については、千瑞穂法律事務所にご相談下さい

 千瑞穂法律事務所には、長年にわたり裁判官や公証人を務めた弁護士や、家庭裁判所の現役の非常勤裁判官として多くの問題に取り組んでいる弁護士が在籍しています。そうした経験と実績に基づいて、認知症になってしまった父母の不動産の売却について、適切な法的助言を行うことができます。

 お困りごとがあれば、まずはお気軽に、千瑞穂法律事務所にご相談下さい。

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