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遺産分割協議において相続不動産の評価額はいくらにすればよいのか?

2025-10-21

「親から相続した実家、遺産分割での評価額はいくらにすればいいの?」「兄弟間で評価額の意見が合わなくて困っている…」

大切なご家族が亡くなられた悲しみの中、不動産の相続問題で頭を悩ませていらっしゃる方は少なくありません。特に不動産の評価額は、相続人それぞれの利害が絡むため、深刻な対立(いわゆる「争族」)に発展しやすい問題です

この記事では、相続問題に精通した弁護士が、遺産分割における不動産評価の基本的な考え方から、ご自身の状況に応じた適切な主張、そしてお困りの際の対処法まで分かりやすく解説します。

1 なぜ相続不動産の評価額でもめてしまうのか?

遺産分割協議において相続不動産の分け方は大きく分けて、

現物分割(相続人Aさんは相続不動産のうち不動産Aを取得し、相続人Bには不動産Bを取得するといった遺産分割を現物で分割する方法)、

代償分割(特定の相続人が相続不動産を取得し、他の相続人には代償金を支払う方法)、

換価分割(相続不動産を売却して現金化し、その現金を相続人間で分ける方法)

があります。

 このうち③換価分割については売却して得られる現金を相続人間で分けるだけなので、相続不動産の評価でもめることが基本的にありません

 他方で、①現金分割の場合には、相続不動産の評価額を基準にして各相続人が取得する不動産や預貯金等の他の相続財産の取り分を協議するため、相続不動産の評価額がいくらなのかが問題となります。

 また、②代償分割についても相続不動産の評価額を相続人間で合意した上で、合意した評価額に基づき、相続人不動産を取得する特定の相続人が、相続不動産を取得しない相続人に対して代償金を支払うため、そもそも相続不動産の評価額をいくらで合意するか問題となります。

 具体的には、
現金分割の場合には、相続人Aは自身が取得する相続不動産Aの評価額が、相続人Bが取得する相続不動産Bと比べて低い方が、相続不動産A以外の相続財産の取り分が増えることになるため、相続人Aとしては相続不動産Aの評価額が低いと主張することになります(反対に、相続人Bとしては相続不動産Bの評価額が高いと主張することになります)。

代償分割の場合には、不動産を取得する特定の相続人としては他の相続人に支払う代償金を少なくするために相続不動産の評価額は低いと主張することになります。他方で、代償金を受け取る側の相続人としては相続不動産の評価額は高いと主張することになります。

このような相続人間の利害の対立が、「その金額は高すぎる」「安すぎる」といった感情的な争いを引き起こします。

2 相続不動産を評価する方法

遺産分割協議では、相続不動産をどのように評価するかについて法律上のルールはなく、「相続人全員の合意」によって相続不動産の評価額を決めることになります。

この際に相続不動産の合意形成の資料として用いられる相続不動産の評価方法には以下のようなものがあります。

① 固定資産税評価額に準拠する方法

固定資産税等の計算基準となる価格で、実勢価格の7割程度が目安です。 

メリット

各不動産の評価額を算定することが簡潔であるという点です。

デメリット

3年に1度しか評価替えがされないため、実勢価格(実際に市場で売買されると想定される価格)や公示地価等と差が生じやすい点などです。

② 相続税評価額(路線価)に準拠する方法

相続税や贈与税の計算に用いる価格で、一般的に実勢価格の8割程度とされています。

土地については「路線価方式」(路線につけられた1㎡あたりの評価額(路線価)に土地の面積・形状に応じた調整計算をして算出する方法)又は「倍率方式」(固定資産税評価額に一定の倍率を乗じて算定する方法)により算定されます。他方で、建物については固定資産税評価額をそのまま使用します。

メリット

固定資産税評価額と同様に、評価額を算定することが基本的に簡潔であるという点です。また、毎年評価替えがされているため、固定資産税評価と比べて地価変動をより反映しているとされています。

デメリット

としては土地の形状等によっては調整して計算する必要がある点です。

③ 公示地価に準拠する方法

国土交通省が正常価格(自由公開市場で取引が行われるとした場合に通常成立すると認められる価格)として毎年公示する価格です。

メリット

比較的実勢価格に近いとされている点です。

デメリット

対象となる標準地・基準地が少なく、公示地価に基づいて遺産分割協議で対象となっている相続土地の評価を算定することが難しい場合がある点です。

④ 基準地標準価格(都道府県地価調査標準価格)に準拠する方法

  都道府県が、毎年特定の基準地について公表している価格です。

  メリットとデメリットは基本的に公示地価と共通です。

④ 不動産業者の査定

各相続人が、不動産業者に相続不動産に関する査定書の作成を依頼し、この査定書に基づき相続不動産の評価額を算定する方法です。

各相続人は取得した査定書の評価額が異なる場合には、複数の査定書の中間値や平均値に基づき評価額を決める方法などがあります。

メリット

コストを抑えつつ専門家の意見を反映した評価額を算定できる点です。
 デメリットは査定書の作成者の責任が問われるものでないため、査定者、査定書を依頼した相続人の恣意が入り込む余地が低くはない点です。また、不動産業者に対して依頼する手間もかかります。

なお、遺産分割協議もし合意できずに家庭裁判所の遺産分割調停や審判に移行した場合、裁判所は原則として「遺産分割時の時価(実勢価格)」を基準に判断します。不動産鑑定士による鑑定や各相続人が提出した不動産業者の査定書などに基づき決定していきます。

3 相続不動産の額が低いと主張したほうが良い場合

 相続不動産の額が低いと主張したほうが良い場合としては、自身が被相続人の方と同居していた相続不動産をそのまま相続したいなどの希望があり、①現物分割により自身が相続不動産を取得することを考えている場合や②代償分割により自身が相続不動産を取得し、他の相続人に対して代償金を支払うことを考えている場合などです。

なぜなら、相続不動産の評価額が他の相続人が取得する相続不動産以外の相続財産の金額や自身が他の相続人に支払う代償金の金額に影響するためです。

遺産が「評価額X万円の相続人不動産」と「現金3000万円」のみで、相続人が兄弟2人(この場合、各相続人の法定相続分は2分の1です)で、兄が相続不動産の取得を希望している事例をもとに、相続不動産の評価額がどのように影響するか説明いたします。

相続不動産の評価額が5000万円の場合には、各相続人の取り分は4000万円(相続財産8000万円×法定相続分2分の1)となります。この場合において、兄が相続不動産を取得するときには、弟は現金3000万円と取得したとしても本来の取り分より1000万円少なくなるため、兄は弟から代償金として1000万円を支払うように求められることになります。

他方で、相続不動産の評価額が2000万円の場合には、各人の取り分は2500万円(相続財産5000万円×法定相続分2分の1)となります。この場合においては、兄が相続不動産を取得したとしても、まだ500万円の取り分が残るため、弟に代償金を支払うことなく、現金500万円を得る余地があります。

相続不動産の額は低いと主張したほうが良い相続人としては、固定資産税評価額や相続税評価額により相続不動産の評価を行うように交渉することなどが考えられます。

4 相続不動産の額が高いと主張したほうが良い場合

相続不動産の額が高いと主張したほうが良い場合としては、①反対に自身が相続不動産の取得を希望しておらず、他の相続人が現物分割により相続不動産の取得を希望している場合②代償分割により自身が代償金を受け取る場合などです。

相続不動産の額は高いと主張したほうが良い相続人としては、できるだけ実勢価格に近い公示地価等により相続不動産の評価を行うように交渉するほか、不動産業者から固定資産税評価額等より高額の査定書を取得し、固定資産税評価額等は実勢価格と離れていると主張し交渉することなどが考えられます。

5 まずは弁護士にご相談ください

相続不動産の評価額については様々な算定方法があり、相続不動産の評価額について他の相続人の合意を得ることに難航することは少なくありません。

当事者間の話し合いでどうしても合意できず遺産分割協議が成立しない場合、家庭裁判所での「遺産分割調停」、それでもまとまらなければ「遺産分割審判」を行っていくことになります。 このような場合には、時間や費用がかかるばかりか、他の相続人との関係性に少なからず悪影響があります。

不動産を含む遺産分割は、専門的な知識と交渉戦略が不可欠です。

少しでも「もめそう…」と感じたら、問題が深刻化する前に、ぜひ一度、相続問題に精通した弁護士にご相談ください。

当事務所では、裁判官や公証人としての経験が豊富なベテランから若手まで、複数の弁護士が在籍しており、あなたのお悩みに寄り添いながら、親身になって丁寧に対応させていただきます。

法律用語もかみ砕いて分かりやすくご説明いたしますので、どうぞご安心ください。

まずはお気軽にお問い合わせいただき、あなたの声をお聞かせください。

身寄りのない親戚が死亡。立替えた葬儀等の費用は?残った遺産の取得(相続)をできるのか?

2025-10-21

1 はじめに

 身寄りのない親戚が亡くなり、葬儀や関連費用を立て替えた場合、その費用の精算や残された遺産の取得方法について、多くの方が疑問を抱かれることでしょう。本記事では、具体的な事例をもとに、これらの問題に対する法的な手続きや注意点を詳しく解説します。

2 参考事例の紹介

質問:先日、私の姪が亡くなりました。アパートの自室内で亡くなっているのが発見されたときには、死後1週間ほど経っていたようでした。

姪の両親は既に他界していて、兄弟もいないので相続人はいません。

私が親戚として姪の部屋の特殊清掃の手配や、火葬・葬儀などの事後手続を全て行い、費用が全部で150万円ほどかかりました。

姪の預金口座には500万円ほどありましたが、口座凍結されたので引出しはできませんでした。

私が支出した費用はどうなりますか? 姪の預金を私が相続することはできますか?

3 相続財産清算人の選任申立

 人がお亡くなりになった場合、多くの場合、相続人が死後の手続きを行います。そして、多くの場合、死後の手続きに要した費用は、相続人間の遺産分割協議において、必要経費として遺産から支出されることになります。

 ところが、相続人が誰もいない場合、相続人でない人が、やむを得ず、亡くなった方の死後の諸手続きを行うことがあります。その諸手続きに要した費用を、亡くなった方の遺産で支払ってもらうためには、まず、その遺産を管理して清算処理をする人である相続財産清算人を家庭裁判所に選任するように申立をすることが必要になります。

 相続財産清算人は、亡くなられた方の財産を管理して、その財産を処分したり、債権者に対して債務の弁済を行ったりする役割を担います。

【相続財産清算人の選任申立の手続き】

●申立人:

利害関係人(葬儀費用を立て替えた人など)や検察官が申し立てることができます。

●申立先:

亡くなられた方(被相続人)の最後の住所地を管轄する家庭裁判所。

●必要書類:

⑴申立書

⑵被相続人の出生時から死亡時までの戸籍謄本類

⑶被相続人の住民票除票または戸籍附票

⑷財産関係資料(預貯金の通帳、不動産全部事項証明書、株や債券といった有価証券に関する資料など)

⑸被相続人との利害関係を示す資料(例えば、被相続人と同居していたことがわかる住民票、健康保険証、看護記録や親族関係を示す戸籍謄本類、被相続人が書き残したメモ、被相続人が支払うべき費用を立て替え払いしたことを示す書類など)

●費用:

⑴収入印紙代(800円程度)

⑵予納郵便切手代(申立先の家庭裁判所によって、それぞれ異なるので確認が必要です)

⑶官報公告費用(約4000~5000円程度)

⑷予納金(選任された相続財産清算人が行うべき活動の内容に応じて、家庭裁判所が決定します。少なくとも10万円から20万円は必要で、活動内容によって、それ以上の金額の予納が必要となります)

4 葬儀費用等の請求手続

 相続財産清算人が選任された後、本来、亡くなられた方が支払うべきであった費用などを支払った人は、それらの費用を被相続人の財産(遺産)から優先的に支払うように、相続財産清算人に対して請求することになります。

【手続きの流れ】

⑴費用の証明:立て替えた費用の領収書や明細書を相続財産管理人に提出します。

⑵相続財産清算人の判断:相続財産清算人は、提出された資料をもとに、費用の妥当性や必要性を判断します。

⑶家庭裁判所の許可:相続財産清算人は、家庭裁判所と協議し、支出の範囲や金額が合理的かどうかを検討します。家庭裁判所が許可した範囲内で、費用を支出した人に対して、遺産からの支払いが行われます。

 注意点として、支出したのが葬儀費用の場合、葬儀の規模や内容、費用の額が社会通念上適切であることが求められます。過度に高額な葬儀費用や、被相続人の意思に反するような支出は、認められない可能性があります。

5 残余財産分与請求(特別縁故者)

 上記の費用支払の請求と併せて、特別縁故者として残余財産の分与を請求することも考えられます。

 特別縁故者とは、亡くなった人(被相続人)と特別に親しい関係にあったことを理由に、相続人ではないにもかかわらず、遺産の全部又は一部を取得できることになる人をいいます。

 特別縁故者として認められる可能性があるのは、次のような人です。

⑴被相続人と生計を同じくしていた人

 内縁関係にあった人や、事実上の養子・養親などとして、被相続人と同居して生計を同じくしていた人は、特別縁故者として認められる可能性があります。

⑵被相続人の療養看護に努めた人

 被相続人の生前に、ずっと親身になって世話や介護を行っていた人は、特別縁故者として認められる可能性があります。自宅療養の場合だけでなく、施設療養の場合も、認められる場合はあります。もっとも、介護や看護を仕事として行っていた人は、原則として特別縁故者とは認められません。

⑶被相続人と特別密接な関係にあった人

 その他にも、亡くなられた方(被相続人)と特別に密接な関係にあった人は、特別縁故者と認められる可能性があります。

 特別に密接な関係があったと言えるためには、通常の交流があった程度では足りません。上記⑴の生計を同一にしていた場合や、上記⑵の療養看護の場合と同程度に密接な交流があり、その方に相続財産を分与することが被相続人の意思に合致するとみられる場合といえるか、が重要になります。

 例えば、生前に被相続人と特に親しく交流していた友人知人の方や、遺言書こそないものの、生前に被相続人が「財産を譲りたい」と言っていたことが証明できるような相手の方、被相続人から生前に継続的に金銭援助を受けていた人などが考えられます。

【手続きの流れ】

 特別縁故者であると主張する人が、遺産からの財産分与を求める申立をするのは、「相続人不存在の確定後3カ月以内」に行わねばなりません。その期限を過ぎると遺産からの財産分与を受けられなくなるので、注意が必要です。

●必要書類:

⑴申立書

⑵申立人の住民票または戸籍附票

⑶被相続人の戸籍(除籍)謄本

●費用:

収入印紙 800円

6 生前にできる対策(遺言書等の作成)

 法定相続人がいない方が亡くなられた場合、生前にその方の面倒を見ていた方や、お亡くなりになった後に葬儀を行った方などが、その方の遺産から立て替えた費用の支出などを得ようとすると、上述したような手続きを行わなければならず、大変、面倒です。また、せっかく手続きをしても、家庭裁判所に認めてもらえないリスクもあります。

 そのような手間やリスクを避けるためには、生前に、遺言書や死後事務委任契約書を作成しておいてもらうという対策をしておくことができればベストです。

 具体的には、生前にお世話になっていた方に対して、財産を残す(遺贈する)といった内容の遺言書を作成してもらい、かつ、そのお世話になった方を遺言執行者として指名しておくこと、葬儀の方法などを指定して、その葬儀の主催を委ねる死後事務委任委任契約書を作成すること、そして遺言書や死後事務委任契約書を公正証書で作成しておくといった準備ができていると、お亡くなりになったあとの手続きがスムーズになります。

7 特別縁故者の生前対策、死後の各種申立は、千瑞穂法律事務所にご相談下さい

 千瑞穂法律事務所には、長年にわたり裁判官や公証人を務めた弁護士や、家庭裁判所の現役の非常勤裁判官として多くの遺産分割問題に取り組んでいる弁護士が在籍しています。そうした経験と実績に基づいて、特別縁故者の生前対策、死後の各種申立てについて、適切な法的助言を行うことができます。

 特別縁故者の生前対策、死後の各種申立ての問題でお困りごとがあれば、まずはお気軽に、千瑞穂法律事務所にご相談下さい。

生命保険の死亡受取金は、相続(相続税、遺産分割)の対象に含まれますか?

2025-10-21

◆「税法」と「民法」で異なる取り扱い

生命保険は、相続税(税法)での取り扱いと、遺産分割(民法)での取り扱いが異なるので注意が必要です。

◆「税法」での取り扱い

生命保険は、契約者(保険料負担者)・被保険者、死亡保険金の受取人が、それぞれ誰なのか、その組み合わせによって税金の種類が変わってきます。

相続の場面で取り扱われる生命保険のほとんどは、契約者(保険料負担者)と被保険者がどちらも親で、受取人が子供になっています。このような場合、課される税金の種類は、相続税になります。

ところで、相続税の対象となるのは、原則として遺産、すなわち死亡時に被相続人の名義であった財産です。死亡保険金は受取人固有の権利だと考えられているため、原則通りであれば、遺産には含まれず、相続税の対象にはならないと言えそうです。

しかし実際には、税法上、死亡保険金は「みなし相続財産」とされており、相続税の対象になります。ですから、生命保険金についても相続税は考えなければなりません。

もっとも、生命保険金には「500万円✕法定相続人の数」の相続税の非課税枠があり、その範囲内については相続税がかかりません。

◆「民法」での取り扱い

他方、民法においては、死亡保険金を「みなし相続財産」とするというような例外的な定めはありません。したがって、原則どおり、死亡保険金は受取人固有の権利であって、遺産分割の対象に含まれません。

遺産分割の話し合いの際に、死亡保険金の受取人が「自分には死亡保険金があるから、その分を考慮して、遺産分割の金額を調整しよう」と言う場合は、そのようにすることはできますが、そうでない場合、死亡保険金の額を遺産分割の対象に含めて計算するということはできません。

◆例外的に遺産分割の対象になる場合

このように民法においては、生命保険金は原則として遺産分割の対象にならないのですが、例外的に、遺産分割の対象となる場合があります。

たとえば、親が亡くなったときの財産(=遺産)が4000万円だったのに、特定の相続人に対して別途、死亡時に受け取れる生命保険金が3000万円あった、というような場合です。

このような場合、相続人同士の間で、取得できる財産額に大きな差が生じてしまい、不公平な結果となってしまいます。

そこで、相続人同士の間で不公平となる程度が著しい場合には、生命保険金を「特別受益」として取り扱い、これを「みなし相続財産」として計算上、遺産に組戻して計算して、遺産分割の対象とするという裁判所の判断が出るケースがあります。

具体的にどの程度の不公平さの場合、裁判所がそのような判断をするか、というのは、ケース・バイ・ケースとなりますが、裁判例をみると、生命保険金が遺産総額の6割を超えてくると、裁判所はそのような判断を行う傾向があるようです。

◆まずは千瑞穂法律事務所にご相談を

 このように生命保険金をどう取り扱うかは、税法と民法で異なりますし、また民法の遺産分割の場面でも、原則と例外があって、その区別は難しい面があります。そこで、相続の場面で生命保険金をどう考えればよいかは、生命保険金と相続の関係に詳しい弁護士に相談した方が良いでしょう。

 千瑞穂法律事務所には、生命保険金と相続の関係に詳しい弁護士が在籍しています。ですので、生命保険金と相続の関係で分からないことや困ったことがある場合には、まずは千瑞穂法律事務所にご相談下さい。

囲い込まれた親を救い出したい! 問題解決のための法的対応策とは?

2025-10-21

1 親の囲い込みはなぜ起こる?

 最近、「親の囲い込み」と呼ばれる事態が増えています。

 「親の囲い込み」とは、親族(多くの場合は子どもの一人)が、高齢の親を囲い込んでしまい、他の親族(他の子ども)に会わせないようにしてしまう、という事態です。「高齢の親に会いたいのに、親に会えない、親に会わせてもらえない」といった相談が増えています。

 では、なぜ、このような「親の囲い込み」が生じるのでしょうか?

 親が高齢になると、身体が不自由になったり、認知能力が低下してきたりするため、自立した生活が難しくなります。親が自立した生活が困難になった場合、子どもなどの親族による介護が必要になったりします。親の介護はとても大変なので、以前は、子どもたち同士で、介護が必要な親を「押し付け合う事態」が問題になっていました。

 ところが、最近では、前述のように「親の囲い込み」が問題になっています。

 「親の囲い込み」が生じる理由は、事案ごとに様々ですが、親の財産を巡る子ども同士の争いが背景にある場合が少なくありません。

 「親の囲い込み」をする側の立場の方の主張として、よく聞くのが「面倒な親の介護をずっと続けてきたのに、将来、親が亡くなったときの相続の場面で、親の面倒を全然みなかった他の兄弟たちと、遺産分配で全く同じ扱いをうけるのは、不公平だ」というものがあります。こうした不満を持つ方が、親の生前に、「何らかの形で親の財産を譲り受けておこう」とか、「自分に多く遺産を渡すような内容の遺言書を親に書いてもらおう」と思い、そのために「親の囲い込み」をする、というわけです。

2 「囲い込まれた」親の意思

 「親の囲い込み」が生じた場合、囲い込んだ子どもに対して、他の兄弟たちが「親に会わせてほしい」と言っても、囲い込んだ側の子どもは、なかなか親に会わせてくれません。そのときに、会わせない理由として「親自身が会いたくないと言っている」と説明していることも、少なくありません。

確かに、本当に「親自身が会いたくないと言っている」という場合も、ありえます。ただ、多くの場合、親は、自分の子ども達には会いたいと思うものです。ですから、「親自身が会いたくないと言っている」という説明は、囲い込んだ側の子どもが親の意思に反する説明をしている可能性もあります。また、親自身が実際に「会いたくない」と言っているという場合でも注意が必要です。というのも、囲い込まれる側の親は、高齢になり、すでに自分一人では生活が維持できないため、自分の面倒を見てくれる人に頼らなければ生活できない状況になっています。そのため、自分を「囲い込んでいる」子どもの考えを無下にはできず、半ば、その言いなりになってしまう、ということもあるからです。

3 親の囲い込みの態様

では、「親の囲い込み」は、どのように行われているのでしょうか?

まず、囲い込みをしている子どもが、親と同居しているケースがあります。この場合、囲い込んでいる子どもが「(親と同居している)自分の家に入るな」「親も会いたくないと言っている」などと言って、他の兄弟たちが家に入ることを拒むことで、「親の囲い込み」を実現します。

次に、親が病院に入院しているケースや介護施設に入居しているケースがあります。このような場合、病院や介護施設は「キーパーソン」として定められた人の意向に沿って行動するところ、囲い込みをする側の子どもが、この「キーパーソン」になり、その立場から、病院や介護施設に対して「他の兄弟に会わせるな」「親も会いたくないと言っている」などと指示を出すことで、「親の囲い込み」を実現します。

4 親の囲い込みを解決する方法

 「親の囲い込み」を解決するには、どうしたら良いでしょうか? 法的な手続きとして考えられる方法は、次のとおりです。

(1)法定後見人をつける方法(=×難しい)

 「親の囲い込み」が生じている場合、その親の認知能力(判断能力)が低下していることがあります。認知能力(判断能力)が低下している人に対して、その権利や財産を保護するために用意されている制度の1つが、法定後見制度です。

 法定後見制度は、本人の認知能力(判断能力)の低下度合いに応じて、家庭裁判所が、後見人、保佐人、補助人、のいずれかを選任して、本人に代わって法的手続をしたり(代理権)、本人の判断を補助したり(同意権)する、というものです。

 法定後見人の選任をすることができれば、法定後見人が家庭裁判所の監督の下で、適切な身上監護や財産管理を期待できます。

 もっとも、実際には、「親の囲い込み」が既に生じている状態から、法定後見人を家庭裁判所に選任してもらうのは、非常に困難です。

 家庭裁判所に対して法定後見人を選任するように求める場合、必要な提出資料の中に精神科医による診断書があります。家庭裁判所の裁判官が、本人に対して法定後見制度を適用することが必要であるか否か、必要であるとして、後見人、保佐人、補助人、いずれが適切かを判断するためには、本人の認知能力(判断能力)がどの程度であるのかについて記載された精神科医による診断書が、必要不可欠といえます。

 精神科医は、本人に対して問診をしたり、様々な検査をしたりして、診断書を作成します。ですから、精神科医は本人と会う必要があります。ところが、「親の囲い込み」がなされている場合、囲い込みを行っている側は、親に精神科医を会わせることもしません。その結果、精神科医による診断書を用意できなくなるのです。

 精神科医による診断書がないまま、家庭裁判所に法定後見人の選任を申し立てても、申し立てが却下される可能性が高いです。

 こうした訳で、「親の囲い込み」を解決するために、法定後見人の選任をするという方法は、難しいと言わざるを得ません。

(2)家庭裁判所の親族間紛争調整調停(=×難しい)

「親の囲い込み」の問題は、親子間・兄弟間の問題ですので、親族間の紛争です。親族間の紛争を解決するための制度としては、家庭裁判所の親族間紛争調整調停というものがあります。これは、紛争の当事者が、家庭裁判所に集まって、中立の第三者である調停委員を介して話し合いを行って、紛争の解決を図るというものです。

 親族間の紛争は、当事者同士で話し合って解決するのが望ましいため、このような制度が設けられているのですが、実際のところ、「親の囲い込み」の問題を親族間紛争調整調停で解決するのは困難です。

 というのも、そもそも調停制度は、裁判所を活用するものではありますが、基本的に当事者が任意に話し合いをすることを前提にしています。ですから、調停が行われる日に、当事者が参加するかどうかも、その人に任されており、参加する義務もなければ、参加しなかった場合の罰則もありません。ですから、「親の囲い込み」をした側の当事者が、誰も調停に参加しないというケースがほとんどです。このような場合、話し合いになりませんので、調停手続は不成立で終了になってしまいます。

 また、仮に「親の囲い込み」をした側の当事者が、調停に参加したとしても、調停参加者の認識や意見がまったく噛み合わないことも多いです。調停手続は、当事者が話し合って合意に達することで問題を解決する手続きですので、話し合っても合意に達しないときには、調停手続は不成立で終了になってしまいます。

 こうした訳で、「親の囲い込み」を解決するために、親族間紛争調整調停を行う方法も、難しいと言わざるを得ません。

(3)面会妨害禁止の仮処分(=△有効な場合がある)

「親の囲い込み」が生じている場合、排除されている側の子どもは、親に会いたくても会えません。この状態は、「親に会う権利」ないし「親に会うという法的に保護された利益」が侵害されていると考えることもできます。

 そのような権利侵害ないし要保護利益侵害をしないことを求める訴訟を行うという方法も考えられます。もっとも、通常の訴訟手続では、多くの場合、結論が出るまでに1年以上の期間がかかってしまいます。囲い込みをされている親は高齢であることが多いところ、訴訟に時間をかけていては、親が亡くなってしまうかもしれません。

 このように、訴訟での救済を求めていたのでは、侵害された権利ないし要保護利益の保護が実現できないような場合に、まずは仮の保護を実現させるための制度として「仮処分」という制度が用意されています。「仮処分」の制度は、法的な確定的な判断は後日行う訴訟で下してもらうとして、それまでの間、迅速に、取り急ぎの判断を下して、権利や利益を仮に保護しようというものです。

 この制度を活用して、「親との面会を妨害することを禁止する」という仮処分を下すよう裁判所に求める、という方法が考えられます。

 実際、この方法により、裁判所が「親との面会を妨害することを禁止する」という仮処分を下した事例があります(横浜地裁平成30年7月20日)。

 もっとも、この事例では、仮処分の申し立て前に、上述した「親族間紛争調整調停の申立て」や、「成年後見人選任の申立て」など、様々な方法を行ったにもかかわらず、親と会うことができなかった、という事情があったうえでの、裁判所の判断でした。

 ですから、この先行事例に基づけば、面会妨害禁止の仮処分を裁判所に下してもらうためには、事前に、それ以外の方法を尽くしていることが必要になると考えられます。

(4)損害賠償請求の訴訟(=△有効な場合がある)

前述したとおり、「親の囲い込み」が生じている場合、「親に会う権利」ないし「親に会うという法的に保護された利益」が侵害されていると考えることもできます

 そこで、「親の囲い込み」を不法行為として捉え、それによって権利ないし利益を侵害されたとして、それによって生じた損害の賠償を求める訴訟を提起する、という方法も考えられます。

実際、東京地裁は「親と面会交流したいという子の素朴な感情や、面会交流の利益は法的保護に値する」とし、合理的な理由なく面会を拒む行為は不法行為であるとして、面会を妨害した子供に対する損害賠償請求を認める判決を下しています(東京地裁令和元年11月22日判決)。

ただ、訴訟手続は判決を得るまでに通常は1年以上の時間がかかること、また、損害賠償請求が認められたからといって、直ちに親と会えるようになるわけではないことには注意が必要です。「親の囲い込み」が不法行為であると裁判所に認定されることにより、例えば「キーパーソン」の指示に従っていた病院や介護施設が、不法行為者である「キーパーソン」の指示に従わなくなり、親に会わせてくれるようになる、といった間接的な効果を期待することになります。

5 親の囲い込みをされそうなときには何をすべき?

 「親の囲い込み」が発生してしまった場合、これを解決するのは多くの困難を伴います。そこで、「親の囲い込み」が生じないようにすることが一番なのですが、もし「親の囲い込み」をされそうになったときは、何をすべきでしょうか?

 まず考えられるのは、親との信頼関係を維持し、より高めていくことです。親と多くあって、いろいろな話をして、親の考え方や意向を十分に踏まえて行動するようにしておけば、他の兄弟による「親の囲い込み」の芽を摘むことができる可能性があります。

 次に考えられるのは、「親の囲い込み」をしそうな兄弟と、よく話し合うことが考えられます。もし、事前の話し合いを通じて、「親の囲い込み」を行う動機がなくなれば、「親の囲い込み」を未然に防ぐことが可能になります。

 また、親がすでに病院や介護施設にいる場合には、他の兄弟ではなく自分自身が「キーパーソン」になるという方法もありえます。この場合は、もちろん、自分自身が囲い込む側になるということではなく、他の兄弟も自由に会えるようにしつつ、他の兄弟による親の連れ去りは防止する、という形になります。

 法的な対応として考えられるのは、もし親の認知能力(判断能力)が既に低下しているのであれば、早い段階から法定後見制度を利用しておくことです。法定後見制度を利用して、親に、後見人、保佐人、補助人、のいずれかが付いている場合、他の兄弟が「親の囲い込み」を行おうとする心理的な抑止力になります。

6 囲い込まれて不利な遺言書を書かれるなど相続トラブルになったら?

「親の囲い込み」によって親と会えないまま、親が亡くなってしまった後、遺産分割の場面で、親を囲い込んだ側の兄弟から親の遺言書があるという話が出てくることがあります。そのような場合、その遺言書には親を囲い込んだ側の兄弟に有利な内容(=自分にとっては不利な内容)が書かれている場合が多いです。このような場合には、親に会えなかった子どもたちは遺言書に納得せずに、相続トラブルになることが少なくありません。このような場合、どうすればよいでしょうか?

 もし、その遺言書が、親の本心から書かれているものであるならば、たとえその内容に不満があっても、法的には有効であると考えざるを得ません。したがって、そのような場合には、もし遺留分の侵害があれば遺留分侵害額請求をするしかない、ということになります。

 もっとも、「親の囲い込み」が生じている事案では、遺言書が作成された時点で、すでに親の認知能力(判断能力)が相当程度、低下していたというケースも少なくありません。そのような場合、遺言書に記載された内容を親自身がはっきりと理解できていなかった可能性があります。

そこで、遺言書が作成された時点での親の認知能力(判断能力)を判断するための資料(医療カルテ、介護記録、認知能力診断など)を取り寄せて検討することになります。そして、それらの資料に基づいて遺言無効訴訟を提起し、裁判所に認めてもらうことができたら、その遺言書を法的に無効にすることができます。

7 「親の囲い込み」にまつわるお悩みは弁護士に相談を

これまで述べた通り「親の囲い込み」の問題を解決するためには、多くの困難が伴います。また「親の囲い込み」に関係する相続トラブルも多発しています。

この点、千瑞穂法律事務所には、長年にわたり裁判官や公証人を務めた弁護士や、家庭裁判所の現役の非常勤裁判官として多くの親族間トラブルに取り組んでいる弁護士が在籍しています。

そうした経験と実績に基づいて、千瑞穂法律事務所では、「親の囲い込み」にまつわる様々な問題や相談に対して、適切な法的助言を行うことができます。

 「親の囲い込み」の問題や、それにまつわる相続トラブルについてお困りごとがあれば、まずはお気軽に、千瑞穂法律事務所にご相談下さい。

特別受益と寄与分とは?弁護士が特別受益・寄与分で損をしないための3Stepを解説

2025-10-21

大切な方が亡くなる際には、相続時のことをあまり考えていない方も多いのではないかと思われます。もっとも、あなた1人が被相続人の方の看病をし、それなりにお金をかけたという場合、相続される額が他の相続人と同じだとすれば、不満に思われる方が多いのではないのでしょうか。

本記事では、そのような不満など相続時に生じることが多い不満、その不満を是正する制度について解説し、弁護士が認められるケースと請求方法をご説明いたします。

遺産分割で生じる不満

遺産分割の際の不満とはどのようなものなのでしょうか。よくある例をご紹介いたします。

(1) 「あの子だけずるい!」生前の援助が招く不公平

あなたのお父様が亡くなる際、相続財産が2000万円あり、相続人はあなたと兄の2人だけであったとします。もっとも、亡くなる直前、あなたのお父様がお兄様に対して生計の資本として1000万円を譲渡していたという事情が明らかになったとしましょう。
この際、お父様が亡くなった時点では相続財産が2000万円しかなかったのであるから、相続財産が原則通りに分配されると、あなたは相続財産として1000万円しか受け取ることができないということになってしまいそうです。これに対し、お兄様は亡くなる直前に譲渡された分も含めて2000万円を受け取ることになります。この際、あなたはお兄様に対し、「あの子だけずるい!」と思うことでしょう。

(2) 「私が面倒を見たのに!」生前の援助が招く不公平

上記と同様にあなたのお父様が亡くなる際、相続財産が2000万円であり、相続財産はあなたとお兄様の2人だけであったとします。そして、あなたのお父様は生前病院に入院しており、あなたはお父様が入院してから亡くなるまで500万円の支払いをしていたとしましょう。
この際、原則通りに相続を分配されると、あなたは1000万円ずつお兄様と同額の相続財産を受け取ることになります。この際、あなたはお兄様に対し、「私が面倒を見たのに同じ額を受け取るなんてずるい!」と思うことでしょう。

2. 不公平を是正する制度①(特別受益)

1(1)に記載した不公平(「ずるい!」と思う気持ち)を是正する制度として特別受益をご説明いたします。

(1) 特別受益とは

特別受益とは、被相続人から遺贈を受け、又は婚姻若しくは養子縁組のため若しくは生計の資本として贈与を受けた場合に当該遺贈又は贈与を特別受益といいます(民法903条1項参照)。
そして、特別受益が存在する場合、相続開始時に被相続人が有していた財産の価格に特別受益の価格を加えたものを相続財産とみなし(このようにして計算される財産を「みなし相続財産」という。)、かかるみなし相続財産を前提に相続分を算定します(このような定め方を「特別受益の持ち戻し」といいます。)。その後、特別受益を得ている者は、上記の特別受益の持ち戻しによって計算された額から特別受益の価額を控除した残額が具体的相続分となります(その他の相続人は、上記の相続分が具体的相続分となります)。

(2) 具体的計算方法

1(1)に示した例の相続分の具体的計算方法をご説明いたします。まず、1(1)で示した事例では、あなたのお父様はお兄様に対し生計の資本として1000万円を譲渡しており、かかる1000万円が「特別受益」に該当します。
 この場合、相続財産の2000万円に1000万円を加算した額である3000万円がみなし相続財産となります。そして、遺言等がない場合、それぞれ2分の1ずつ相続されることとなりますので、3000万円の2分の1、すなわち1500万円が特別受益の持ち戻しによって計算された額となります。そして、お兄様は1500万円から特別受益の額である1000万円を引いた500万円を受け取り、あなたは1500万円を受け取ることになります。

(3) 持ち戻し免除の意思表示について

以上が「特別受益」についての原則となります。もっとも、被相続人が特別受益に該当する贈与又は遺贈をする際、これらを持ち戻しによる計算をしない旨の意思表示をされている場合(これを「持ち戻し免除の意思表示」といいます。)、上記のような持ち戻しによる計算は行われなくなります(民法903条3項)ので、注意が必要です。

3. 不公平を是正する制度②(寄与分)

1(2)に記載した不公平(「ずるい!」と思う気持ち)を是正する制度として寄与分をご説明いたします。

(1) 寄与分とは

寄与分とは、相続人の中に、被相続人の事業に関する労務の提供又は財産上の給付、被相続人の療養看護その他の方法により被相続人の財産の維持または増加について特別の寄与をした場合にかけた金額を言います(民法904条の2参照)。
 そして、寄与分が存在する場合、相続分から寄与分に当たる金額を控除した額を相続財産とみなし(このようにして計算される財産を「みなし相続財産」という。)、かかるみなし相続財産を前提に相続分を算定します。その後、寄与分がある相続人は、みなし相続財産を前提に計算された額に寄与分を加えた額を具体的相続分として受け取ることになります(その他の相続人は上記の相続分が具体的相続分となります。)。

(2) 具体的計算方法

1(2)に示した例の相続分の具体的計算方法をご説明いたします。まず、1(2)で示した事例では、あなたはお父様が入院してから亡くなるまで500万円の支払いをしており、これは本来お父様の財産から支払われるべき額をあなたが支払ったものであり、「寄与分」に該当します。
 この場合、相続財産の2000万円から500万円を控除した1500万円がみなし相続財産となります。そして、遺言等がない場合、それぞれ2分の1ずつ相続されることとなりますので、1500万円の2分の1、すなわち750万円がみなし相続財産を前提とした相続分となります。そして、あなたは500万円分の寄与分がありますので、750万円に500万円を加えた1250万を受け取り、お兄様は750万円を受け取ることとなります。

4. 特別受益・寄与分で損をしないための3Step

 相続の際に生じる不公平を解消する制度についての説明は以上のとおりです。以下では、上記の特別受益・寄与分で損をしないためにあなたがとるべき行動を3Stepに分けて説明させていただきます。

(1) Step1(証拠集め)

あなたの行った支出が寄与分に当たるのではないか、また被相続人の方の支出が特別受益に当たるのではないかなどと疑問に思われた場合、これらの証拠(病院への支払いの領収書や、何月何日誰の口座に金銭を振り込んだかがわかる記録等)を残しておく必要があります。仮にあなたが、支出時点で相続時のトラブルが生じると思われないとしても、相続時点では関係が悪化し、トラブルに発展するというケースはよくあります。後の相続トラブルに備えておくという意味でも、これらの証拠は必ず残しておくべきでしょう。

(2) Step2(特別受益、寄与分該当性の判断)

 Step1のとおり証拠を収集した後は、これらの支出が特別受益、寄与分に該当するかを判断する必要があります。本記事で紹介した典型例以外にも寄与分、特別受益に該当する可能性のあるものは多くありますので、判断に迷われた場合には、弁護士等の専門家の意見を聞くことが望ましいでしょう。
 

(3) Step3(交渉、遺産分割調停)

 Step2で特別受益、寄与分に該当すると判断される場合には、そのような前提で計算した相続分を他の相続人に提示し、交渉を行います。こちらの主張に任意に応じてもらえる場合には問題は生じませんが、相手方がこちらの主張に応じてくれない場合、弁護士等の第3者を通じた交渉や遺産分割調停を行うことになります。このように紛争性の高い場合には、解決に専門的見解や法的手続きが必要となるケースが多いため、弁護士等の専門家に依頼することが望ましいでしょう。

5. 遺産の不公平に関するお悩みは当事務所にご相談ください

これまで述べてきたとおり、特別受益、寄与分の問題が生じている場合に、弁護士ができることも多くあります。当事務所では特別受益、寄与分の問題でお困りの方を全力でサポートいたします。
 具体的には、特別受益、寄与分該当性の判断についてのリーガルコメントの提供、他の相続人の方との交渉、遺産分割調停の代理人として参加するなど様々なサポートを行っております。
また、千瑞穂法律事務所では、相続分野を強みとしている弁護士のほか、非常勤裁判官に任官されている弁護士や36年という長期にわたって裁判官を務めていた弁護士がおり、裁判官の視点も踏まえた解決方法の提示をすることが可能です。

特別受益、寄与分の問題で悩まれている方は、お気軽にご相談ください。

親の賃貸アパート、相続後の家賃は誰が受け取る?放置が招く「共有不動産の悲劇」と専門家による3つの解決策

2025-10-21

広島市内やその近郊で、親御さんが大切に経営されてきた賃貸アパートや駐車場。ご家族にとっては、安定した収益をもたらす貴重な資産であり、同時に多くの思い出が詰まったかけがえのない場所でもあるでしょう。

 しかし、いざ相続が始まると、真っ先にこんな疑問が頭をよぎりませんか?

親が亡くなった後、毎月入ってくるアパートの家賃は、一体誰が受け取る権利があるのだろう?

 この素朴な疑問こそ、資産家一族が深刻な相続トラブルに陥る、まさにその入り口なのです。「家族だから大丈夫」とこの問題を放置した結果、

「兄が全ての家賃収入を独り占めし、話し合いにも応じてくれない…」 

相続人の意見がまとまらず、誰も管理しないアパートが廃墟のようになっている…

 といった、取り返しのつかない事態に発展するケースを、私たちは広島でも目にしてきました。私たちは、これを「共有不動産の悲劇」と呼んでいます。

 この記事では、あなたのその最初の疑問に法律の専門家として明確な答えを提示し、放置した場合に待ち受ける「悲劇」の正体を明らかにし、そして、その全てを解決するための「専門家による3つの解決策」を具体的にお示しします。

 あなたの家族と資産の未来を守るため、ぜひ最後までお付き合いください。

1 【答え】相続後の家賃は「法定相続分に応じて相続人全員で」受け取るのが法律の結論

 まず、あなたの最初の疑問に、専門家として単刀直入にお答えします。

(1)最高裁判所が示したルール(判例)

 相続が開始してから遺産分割の話し合いが完了するまでの間に発生した家賃収入は、「遺産」そのものではありません。法律上は「遺産から生じる果実」と呼ばれ、遺産分割協議を待つことなく、発生した瞬間に、各相続人がその法定相続分に応じて受け取る権利が確定します。

 これは、最高裁判所が示した明確なルール(判例)であり、交渉や裁判における大前提となります。例えば、相続人が配偶者と子2人であれば、家賃収入を受け取る権利の割合は、配偶者が2分の1、子がそれぞれ4分の1ずつ、となります。

(2)なぜ、この単純なルールが深刻なトラブルを生むのか?

 それは、「遺産分割(財産分けの話し合い)」と「家賃の分配」が、法律上、完全に別問題として扱われるからです。

 多くの方は、「兄が管理している家賃収入も、遺産分割の際にまとめて精算すればいい」と考えがちです。しかし、法律上、これは間違いです。

 もし兄が3年分の家賃1,000万円を分配していなくても、家庭裁判所で行われる遺産分割の場で「兄は1,000万円多く得ているから、その分アパートの所有権は私が多くもらうべきだ」という主張は、原則として認められません。

 家賃の不払い問題は、遺産分割とは別に地方裁判所で行う「不当利得返還請求」という手続きで解決する必要があり、問題が二重化・複雑化してしまうのです。この法的な構造を理解していないと、話し合いはいつまでも平行線を辿ることになります。


2 【悲劇】放置が招く「共有不動産の悲劇」その恐るべき実態

 「共有不動産の悲劇」とは、問題を先送りした結果、資産と家族の両方を失ってしまう最悪のシナリオです。具体的には、次の3つの段階を経て深刻化していきます。

(1)悲劇①:金の切れ目が縁の切れ目。「賃料独り占め」と家族の断絶

 最も多く、最も根深いトラブルです。生前から親の不動産管理を手伝っていた長男が、相続発生後もそのまま管理を続け、他の相続人に収支を明かさず、賃料を分配しない。最初は「兄さんだから任せておこう」と思っていた他の兄弟姉妹も、やがて不信感を募らせます。

 電話をしても出ない、手紙を送っても返事がない。猜疑心は憎悪に変わり、かつて仲の良かった兄弟姉妹は、法廷で罵り合う関係へと堕ちていきます。

【弁護士の視点】 

 弁護士として数多くの骨肉の争いを見てきました。その経験から断言しますが、一度こじれた親族間の金銭問題が、感情的な話し合いだけで円満に解決することは、まずありえません。弁護士による内容証明郵便の送付や訴訟といった「法的な介入」という外部からの力を加えなければ、事態は確実に悪化の一途を辿ります。躊躇や遠慮は、あなたの正当な権利を永遠に失わせるだけなのです。

(2)悲劇②:誰も決められない。「塩漬け不動産」化による資産価値の暴落

 相続人の間で関係が悪化すると、不動産の経営(管理・運営等)に関する意思決定が完全にストップします。法律上、共有不動産(相続による遺産分割前の共有を含む)に関する行為には、以下のような厳格なルールがあるからです。

  • 大規模修繕や売却(変更・処分行為): 全員の同意が必要
  • 新規の賃貸契約(管理行為): 持分の過半数の同意が必要

 共有者の一人でも反対すれば、老朽化した建物の修繕も、有利な条件での売却もできません。空室が増え、雨漏りが発生しても、誰も責任を取らない。結果、広島市内の一等地にあるはずの優良物件が、管理不全のスラムと化し、資産価値は半値、更には3分の1へと転がり落ちていくのです。

(3)悲劇③:資産の強制喪失。望まない「競売」という結末

 相続人間での話し合いによる解決が絶望的となった場合の最終手段が「遺産分割調停・審判」です。しかし、これは諸刃の剣です。審判にまで至ると、裁判所が、当事者の主張する分割方法では公平な解決は困難と判断した場合、不動産全体を競売にかける、という判断を下すことがあります。

 競売による売却価格は、通常の不動産市場で取引される価格の6~7割程度になってしまうことも珍しくありません。つまり、法的手続きに訴えた結果、相続人全員が経済的に大きな損失を被るという、誰も望まない最悪の結末を迎えるリスクをはらんでいるのです。

3 【解決策】専門家集団が提言する「共有不動産の悲劇」を回避する3つの解決策

 ここまで見てきた悲劇を回避し、あなたとご家族の資産を守るため、私たちは状況に応じて3つの段階的な解決策をご提案します。

(1)解決策①:【紛争解決】発生してしまったトラブルを法的に、かつ有利に解決する

 すでに相続人間の関係がこじれてしまっている場合、感情的な話し合いは無意味です。法律という客観的なルールに則り、問題を解決する必要があります。

ア 交渉・調停・訴訟による権利の実現:

 弁護士が代理人として介入し、賃料の返還や遺産分割協議を進めます。当事者同士では不可能な冷静な交渉が可能です。話し合いがまとまらなければ、家庭裁判所での調停や審判、訴訟へと移行します。 

【調停の現場を熟知】

 広島家庭裁判所の調停の現場では、法律論だけでなく、当事者の感情やこれまでの経緯も重視されます。しかし、最終的に調停委員や裁判官の心を動かすのは、客観的な証拠と、第三者が聞いても納得できる論理的な主張です。私たちは、広島の調停実務を熟知しており、どのような資料を、どのタイミングで提出すれば、調停を有利に進められるかを戦略的にアドバイスします。

イ 揉めないための4つの分割方法の選択:

 不動産の分割には、4つの方法があります。私たちは、ご家族の状況を伺い、最適な方法をご提案します。

(ア)現物分割

 たとえば、不動産Aを長男が取得し、不動産Bを次男が取得する、といったように、現にある物を、物理的に分割する方法

 一つの筆の不動産を現物分割するような場合であれば、測量や分筆登記が必要となります。私たちは、提携している土地家屋調査士や司法書士と連携して、円滑な手続きの進行をサポートします。

(イ)代償分割

  一人が不動産を取得し、他方に金銭を支払う方法

 不動産をいくらと評価すべきなのか、適切な主張を行うために、提携している不動産業者からの査定書を取得したり、提携している不動産鑑定士に鑑定意見書の作成を依頼するなどのサポートを行います。

(ウ)換価分割

  不動産を売却し、現金を公平に分ける方法

 売却する方法のなかでも、相続人同士が協力しあって行う「任意売却」と、裁判所の手続きで強制的に行う「競売」とがあります。「競売」では適正な価格が実現できないので、換価分割をするのであれば「任意売却」をお勧めしています。提携している不動産業者を通じて、適切な価格での販売の実現をサポートします。

(エ)共有分割

 共有名義のままにする方法(非推奨

 これは問題を将来に先送りするだけであり、私たちは、この選択肢を回避する方法を全力で模索し、提案します。

(2)解決策②:【生前対策】「争族」の火種そのものを消し去る

 最も賢明で、最も効果的な解決策が、問題が起きる前に手を打つ「生前対策」です。これは、親が子に残せる、最高の贈り物です。

  • 遺言書|あなたの「想い」を法的な形にする 

 遺言書があれば、そもそも遺産分割協議は不要となり、「共有不動産の悲劇」は起こりえません。

 【多くの実務経験から】

 弁護士として多くの遺言作成に立ち会いました。その経験から言えるのは、愛情のこもった「付言事項」(なぜその分割にしたのか、家族への感謝などを綴る欄)が、時に法的な効力以上に、残された家族の心を繋ぎ、無用な争いを防ぐ力を持つということです。私たちは、法律的に完璧なだけでなく、あなたの「想い」が100%伝わる、血の通った公正証書遺言の作成を、言葉選びの段階からお手伝いします。

  • 家族信託|認知症による資産凍結をも乗り越える究極の承継手法

 遺言は死後の対策ですが、生前のリスクで最も恐ろしいのが「認知症による資産凍結」です。家族信託は、元気なうちに信頼できる家族に財産の管理権限を託すことで、この最悪の事態を回避できる柔軟な制度です。

 【元公証人が在籍する強み】

 当事務所には、その信託契約公正証書をご自身の手で数多く作成してきた、広島の信託実務における第一人者が弁護士として在籍しています。 私たちは、信託契約のあらゆるパターンを熟知しています。だからこそ、法務・税務・登記、そしてご家族の感情面まで、360度どこにも隙のない「失敗しない」信託契約を設計できるのです。これは、他のどの事務所にも決して真似のできない、当事務所の強みです。

(3)解決策③:【高度な資産承継】資産と事業を次世代へ円滑に引き継ぐ

 複数の収益物件や親族経営の会社をお持ちの資産家の皆様には、より高度な戦略が必要となります。

  • 資産管理会社の設立・活用:

 法人を設立し、そこに不動産を所有させることで、相続の対象を「不動産」から「法人の株式」へと転換します。これにより、後継者に株式を集中させることで経営権の分散を防ぎ、安定した資産経営を継続できます。

  • 事業承継と自社株対策:

 親族経営の会社がある場合、株式の承継が最大の難問です。株式が分散すれば、会社の経営は即座に不安定化します。

【元国税OB税理士と弁護士の連携】

  私たちは、税務署で資産税を長年担当した元国税OB税理士と緊密に連携しています。税務署の視点を熟知した税理士と、数々の事業承継紛争を解決してきた弁護士がタッグを組むことで、後継者への円滑な株式集中と、他の相続人の遺留分対策、そして相続税の圧縮という、複雑な方程式の最適解を導き出します。

【知らないと数千万円損も】広島の相続不動産「円満売却」の絶対法則|税金・揉め事・事業承継の最適解

4 結論:「あなたに全てを託したい」当事務所が広島の資産家から選ばれる、唯一無二の7つの理由

 ここまでお読みいただき、ありがとうございます。最後に、なぜ私たちが、広島の複雑な不動産・事業承継の問題の解決に、絶対的な自信を持っているのか。その理由を「7つの強み」としてお伝えさせてください。

  1. 信託実務の第一人者】元公証人による絶対的な信頼性

 私たちは、机上で家族信託を語るだけの事務所ではありません。信託契約公正証書をその手で作成してきた張本人であり、広島の信託実務を知り尽くした第一人者が、あなたの未来を守るための、完璧で、戦略的な信託契約を設計します。

  1. 【最終判断者の視点】元裁判官在籍

 あなたの紛争がもし裁判になれば、最終判断を下すのは裁判官です。私たちは、その「判断者」の思考を知るからこそ、決して負けない戦略を立てられます。

  1. 【調停の現場を知る】現役の広島家裁・家事調停官在籍

 広島の相続紛争の「今」を、私たちは知っています。どのような主張が通り、どのような提案が調停委員の心を動かすのか。机上の空論ではない、生きたノウハウがここにあります。

  1. 【登記までワンストップ】大手司法書士法人と一体運営

 法的な解決が決まっても、不動産の名義変更(登記)ができなければ意味がありません。私たちは、司法書士法人みつ葉グループとの連携で、解決から実行までをシームレスに行います。

  1. 【税務署の視点を熟知】元国税OB税理士との連携

 相続に税金問題はつきものです。私たちは、税務署の思考を読み解き、あなたの税負担を最小化し、税務調査にも耐えうる万全の対策を講じます。

  1. 【不動産実務に精通】不動産関連企業との強力なネットワーク

 私たちは、広島の優良不動産会社と常に連携しています。絵に描いた餅ではない、現実的な不動産の価値や市場動向を踏まえた、最も有利な解決策をご提案します。

  1. 【事業承継のプロ】親族経営の顧問実績多数

 私たちは、多くの親族経営企業の法律顧問をしています。だからこそ、単なる相続問題としてではなく、会社の未来、従業員の生活まで見据えた、大局的な視点での事業承継サポートが可能です。

 私たちは、弁護士、司法書士、税理士、不動産のプロが結集した、あなたの資産と家族を守るための「専門家チーム」です。

【当事務所からのメッセージ】

もう、一人で悩まないでください。あなたのその悩み、私たちには解決できます。

 相続問題は、風邪と違って、時間が経っても自然に治ることはありません。むしろ、時間と共にガン細胞のように蝕み、気づいた時には手遅れになります。

今、この瞬間のあなたの小さな一歩が、ご家族の未来を、そしてあなた自身が守りたかったはずの「大切なもの」を救う、唯一の道です。

 まずは、お話をお聞かせください。あなたの状況を整理し、私たちが提示できる「未来へのロードマップ」を、具体的にご説明します。相談したからといって、依頼を強要することは決してありません。安心してお問い合わせください。

未来を変える60分が、ここにあります。

 当事務所は広島市中心部にございます。お電話または下記フォームより、お気軽にご連絡ください。

【広島の経営者様へ】「家督相続のように、後継者だけに全資産を遺したい」その願い、何もしなければ“争族”を招きます。

2025-10-21

広島市及びその周辺で、幾多の困難を乗り越え、会社を、そしてご一族の資産を守り抜いてこられた経営者・資産家の皆様へ。

「俺の目の黒いうちは大丈夫だ」

 「事業の後継者である長男に、すべての財産を集中させて円滑に事業承継を終えたい」

 「家督相続のように、財産を分散させずに会社を引き継がせたい」

 もし、少しでもこのようにお考えなら、“思い込み”が、あなた様が人生をかけて築き上げてきたすべてを、数年後に崩壊させてしまうかもしれない「時限爆弾」のスイッチになり得ることを、ご存知でしょうか。

 これは決して脅しではありません。三代続いた優良企業が、たった一度の事業承継の失敗をきっかけに経営権争いに発展し、見る影もなく衰退してしまった…そんな悲劇もあります。事業承継の失敗は、そのほとんどが、「ウチは大丈夫」という、何の法的裏付けもない自信から始まっているのです。

 この記事は、単なる法律の解説書ではありません。皆様が直面する経営上の最重要課題、すなわち「事業承継」を成功に導くため、「株式の集中方法」「後継者が直面する遺留分問題」「不動産相続のトラブル」「事業に関係ない相続人への対処」といった、あらゆるお悩みに対し、現代の法律に即した最適解を網羅的にお伝えする「事業承継の処方箋」です。

 そして何より、なぜこれらの問題を解決する上で、当事務所が広島の経営者・資産家の方のお役に立てることを、その理由も具体的にお伝えします。この記事を最後まで読み終えたとき、あなたはご自身の会社と後継者、そしてご家族の未来を守るための、具体的で、かつ最も確実な一歩を踏み出すことができるはずです。

【危険度セルフチェック】あなたの事業承継、本当に大丈夫ですか?

 本題に入る前に、まずはご自身の現状を客観的に把握してみましょう。一つでも当てはまる項目があれば、将来、事業承継が「争族」の引き金となるリスクが潜んでいます。

▢ 遺言書をまだ作成していない、または10年以上前に作成したままだ。

▢ 会社の財産のほとんどが、自社株と事業用の不動産だ。

▢ 後継者である長男以外にも、子供がいる。

▢ 事業に関わっていない子供から、「自分の取り分はちゃんともらえるのか」と聞かれたことがある。

▢「相続税がいくらかかるか」「自社の株価が今いくらか」を正確に把握していない。

▢ 財産はすべて後継者に渡したいので、他の子供には「相続放棄」してもらえば良いと思っている。

▢ 顧問税理士はいるが、事業承継の専門家ではない。

▢ 家族仲が良いので、法律よりも家族の話し合いで円満な事業承継ができると信じている。

 もし3つ以上当てはまったら、要注意です。 今すぐ具体的な対策を講じなければ、あなたの引退後、残された後継者とご家族が、取り返しのつかない事態に巻き込まれる可能性が高いと言えます。

1 なぜ「後継者に全財産」という想いが“争族”の火種になるのか

 そもそも、なぜ「跡取りである後継者にすべてを」という、経営者として当然の願いが、トラブルを引き起こすのでしょうか。それは、皆様が持つ「家督相続」のイメージや経営者の「常識」と、現代の法律との間に、決定的なズレがあるからです。

(1)旧民法の「家督相続」と現代法の残酷な現実

 戦前の家督相続は、家の財産分散を防ぎ、長男が単独で全財産と戸主の地位を承継する制度でした。しかし、現行民法の大原則は「法定相続人は、皆平等」です。この根本的な違いを認識しないまま、ご自身の想いだけを突き通そうとすれば、それは法的には「不平等」な要求となり、他の相続人からの強い反発と法的な権利主張に直面するのです。

(2)最大の障壁!「遺留分」という、後継者を襲う〈最強の権利〉

 たとえ遺言書で「全財産を後継者である長男に相続させる」と明記しても、他の子供たちには「遺留分」という、法律で保障された最低限の遺産取得分を主張する権利があります。

 これは、あなたが遺言で「お前には1円もやらん!」と書いたとしても、覆すことのできない非常に強力な権利です。遺留分を侵害された相続人が権利を行使(=遺留分侵害額請求)すれば、財産を多く受け取った後継者は、その不足分を現金で支払う義務を負います。

遺留分をご存知ですか?

【ケーススタディ】ある製造業A社の悲劇

 A社の社長は、後継者である長男に自社株と工場敷地のすべてを相続させる遺言を遺し、盤石な事業承継ができたと安心していました。しかし、会社経営に全く関わってこなかった次男と長女が、弁護士を立てて遺留分を請求。長男は、会社の運転資金にも手を付けられず、やむなく相続したばかりの工場敷地の一部を売却して支払いに応じました。結果、事業承継直後の拡大計画は頓挫し、会社の成長は完全に止まってしまいました。社長が望んだのは「会社の発展」と「後継者の幸せ」だったはずで、後継者が苦しむ姿は望んではいなかったはずです。

(3)【不動産 相続 トラブル】が事業承継を頓挫させる

 特に賃貸アパートなどの収益不動産が絡むと、その評価額や将来の収益分配を巡って、対立はさらに深刻化します。当事務所は、不動産関連企業との緊密な連携により、このような収益不動産を含む相続紛争を数多く手掛けてきた実績があります。単なる法律論だけでなく、不動産の実務的価値を踏まえた現実的な解決策をご提案できるのが、当事務所の強みです。

(4)家庭裁判所における「調停」のリアル

 もし話し合いで解決できなければ、家庭裁判所で「遺産分割調停」を行わなければなりません。調停は、裁判官と民間の有識者からなる調停委員が間に入り、話し合いでの解決を目指す手続きです。

 しかし、この調停で有利な結果を得るには、単に自分の主張を繰り返すだけでは不十分です。調停委員を納得させ、裁判官が最終的に下すであろう「審判」を見据えた、法的かつ論理的な主張を展開する必要があります。

 当事務所には、広島家庭裁判所の現役の非常勤裁判官(家事調停官)として、実際に数多くの相続案件の調停を担当している弁護士が在籍しています。広島の家裁で、どのような主張が通りやすく、どのような証拠が重視されるのか。その実務と空気を肌で知っているからこそできる、的確なアドバイスと戦略立案が可能です。事業承継が紛争化した際に、後継者の立場を最大限に守るための戦い方を、私たちは熟知しています。

2 あなたの想いを形にするための「3つの処方箋」

 では、どうすれば法的なリスクを回避し、円滑な事業承継を実現できるのでしょうか。そのための具体的な方法を、3つのステップで解説します。

【処方箋①】遺言書 ― すべての基本、しかし奥が深い“事業承継の第一歩”

 遺言書は、すべての対策の基本です。しかし、ただ書けば良いというものではありません。

Q1. どの種類の遺言書が良いのですか?

A1. 資産家・経営者の皆様には、公証役場で作成する「公正証書遺言」一択です。 当事務所には、公証人を8年間務め上げたベテラン弁護士が在籍しています。公証人として何千という遺言書作成に携わった弁護士が断言しますが、自筆の遺言書は、形式不備で無効になったり、死後、他の相続人に「無理やり書かされたものだ」と争われたりするリスクが常に付きまといます。その点、公正証書遺言は、専門家である公証人が内容を厳格にチェックするため、後から無効と争われるリスクを限りなくゼロに近づけられます。

Q2. 遺言書で一番大切なことは何ですか?

A2. 法的な効力以上に、「付言事項」であなたの“想い”を後継者と他の家族に伝えることです。 付言事項とは、法的な効力はないものの、家族へのメッセージを自由に記せる欄です。 「なぜ私が、数いる子供の中から長男を後継者として選んだのか。彼の真面目さ、従業員からの信頼、そして何よりこの会社を愛する気持ちを、私はずっと見てきた」 「他の子供たちへ。お前たちの人生を応援している。この会社を守り続けることが、皆の未来の礎になると信じている。どうか、後継者である兄を支えてやってほしい」 このような想いを自分の言葉で綴ることで、他の相続人の感情的なわだかまりを和らげ、事業承継への納得感を促す絶大な効果があります。

【処方箋②】生前対策 ― 「遺留分」という時限爆弾から後継者を守る技術

 遺言書だけでは、遺留分の問題をクリアできません。将来必ず請求されることを見越して、生前から周到な準備を進めることが、後継者と会社を守る上で絶対不可欠です。

◆王道にして最強の対策:「生命保険」の活用

 これは、遺留分対策と納税資金対策を兼ねた、事業承継における「必須科目」です。 【契約者・被保険者:あなた】、【保険金受取人:後継者である長男】という形で生命保険に加入します。あなたが亡くなった際に支払われる死亡保険金は、後継者固有の財産となり、遺産分割の対象になりません。後継者は、この保険金を原資として、他の兄弟から遺留分を請求されても、会社の資産に手を付けることなく支払うことができます。これは、あなたが後継者に残してあげられる、最後の、そして最大の武器になります。

◆税務のプロと組む「戦略的生前贈与」

 遺留分を請求する可能性のある他の子供たちに対し、生前から暦年贈与などを活用して計画的に財産を渡しておくことも有効な対策です。しかし、これは相続税の問題と表裏一体であり、やり方を間違えれば多額の税金が発生します。 当事務所は、税務署で相続税などの資産税分野を長年担当していた国税OB税理士が所属する税理士事務所と緊密に連携しています。税務調査の現場を知り尽くしたプロの視点から、皆様の資産状況に合わせた、最も安全かつ効果的な節税対策と遺留分対策を一体でご提案します。

【処方箋③】民事信託(家族信託) ― 現代に「家督相続」を実現する“究極の一手”

 遺言書の「一代限り」という限界を超え、より確実で永続的な資産承継を実現する、現代における最強のツールが「民事信託(家族信託)」です。

◆事業承継における絶大な効果

 自社株を信託財産とすることで、議決権を後継者に集約し、あなたが存命のうちからスムーズな権限移譲を進めることができます。相続発生時に株式が分散するリスクを完全に排除し、経営の安定化を図ります。

◆後継者育成プログラムとしての信託

 信託は、単なる資産承継のツールではありません。あなたが「委託者兼受益者」、後継者を「受託者」とすることで、あなたが元気なうちから、後継者に受託者として会社資産の管理を任せ、その仕事ぶりを監督・指導することができます。これは、事業承継に向けた、極めて実践的なOJT(オンザジョブトレーニング)の仕組みとなり、後継者の経営者としての自覚と能力を育む上で、計り知れない効果を発揮します。

◆広島における信託契約の第一人者によるオーダーメイド設計

 民事信託は非常に強力ですが、その契約書は極めて専門的で、誰が作っても同じではありません。 当事務所に在籍する元公証人の弁護士は、公証人として在職中、公正証書で作成する信託契約を広島で誰よりも多く手掛けてきた、まさに信託契約の『広島における第一人者』です。特に、複雑な条項が求められる事業承継のための信託契約においては、その経験と知識が、計画の成否を分けると言っても過言ではありません。

3 なぜ、あなたの事業承継は当事務所で成功できるのか

 ここまで様々な対策をお話ししましたが、これらを個別に実行するだけでは不十分です。法務(弁護士)、税務(税理士)、登記(司法書士)という異なる分野の専門家が、あなたの事業承継への想いを共有し、一つのチームとして機能する必要があります。

 当事務所が、広島で事業承継をお考えの皆様にとって、必ずお役に立てる理由は、この「高度な専門性と、盤石な連携体制」を、一つの窓口でご提供できる点にあります。

理由1:裁判所と公証役場の「思考」を知り尽くしているから

◆元裁判官(35年)の視点:

 もし事業承継が紛争化し、裁判になった場合、裁判官はどのような証拠を重視し、後継者の正当性をどう判断するのか?当事務所には、裁判官を35年間務め上げたベテラン弁護士が在籍しています。長年の経験から、裁判官の思考回路を熟知しているため、紛争を未然に防ぐための、本当に「効く」対策を講じることができます。

◆元公証人(8年)の視点:

 先述の通り、広島における信託契約の第一人者である元公証人が、あなたの事業承継プラン、いわば「現代版家督相続」の設計図を、完璧に反映した鉄壁の信託契約・公正証書遺言を作成します。公証役場の実務を知り尽くしているからこそできる、スピーディーでミスのない手続きをお約束します。

理由2:広島の家庭裁判所の「今」をリアルタイムで把握しているから

◆現役の家事調停官の視点:

  当事務所には、広島家庭裁判所の現役の非常勤裁判官(家事調停官)として、実際に数多くの相続案件の調停を担当している弁護士が在籍しています。現在の広島の家裁で、どのような主張が通りやすく、どのような解決案が受け入れられやすいのか。その「生きた情報」と「現場感覚」に基づき、あなたのケースに最適な戦略を立案します。

理由3:各分野のトッププロとの「盤石なワンストップ事業承継チーム」があるから

 あなたは、弁護士、税理士、司法書士をそれぞれ探し、事業承継という複雑な計画を何度も説明する必要はありません。

◆司法書士:

 全国規模の大手司法書士法人「みつ葉グループ」広島拠点と事務所を一体で運営。信託や相続に伴う、複雑な不動産登記手続きを迅速かつ正確に行います。

◆税理士:

 元国税OBが所属する税理士事務所との連携により、税務調査の視点を踏まえた、最も安全で効果的な相続税・贈与税対策を事業承継計画と一体で実現します。

◆不動産・M&A関連企業:

 親族経営の会社の顧問弁護士を数多く務めてきた実績から、不動産評価や株式評価が絡む複雑な案件も、提携企業と連携し、ワンストップで解決に導きます。後継者がいない場合のM&Aという選択肢も含め、あらゆる可能性を検討します。

4 相談すべきか迷っている、あなたへ

 ここまでお読みいただき、「対策の重要性はわかったが、弁護士に相談するのはまだ早い」「費用が心配だ」「何から話せばいいかわからない」と感じていらっしゃるかもしれません。

 どうか、その一瞬の迷いで、手遅れにならないでください。

 事業承継対策は、あなたが元気で、正常な判断能力があるうちにしか、講じることができません。認知症になってしまってからでは、有効な遺言書も信託契約も、もう作れないのです。それは、あなたが守りたかった会社と後継者、そしてご家族を、無法地帯に置き去りにするのと同じことです。

 私たちは、単に法律手続きを代行するだけの事務所ではありません。あなたの想いに深く耳を傾け、後継者の覚悟を受け止め、ご家族一人ひとりの人生に配慮しながら、10年後、20年後に「あの時相談しておいて、本当によかった」と思っていただける、最高の事業承継を共に創り上げるパートナーです。

 事業承継は、あなたの経営者人生における、最後にして最大のプロジェクトです。

 初回のご相談は60分無料です。その60分で、あなたが今抱えている漠然とした不安の正体を明らかにし、事業承継への道のりを明確に照らし出します。無理にご契約を勧めることは一切ありませんので、ご安心ください。

 人生をかけて守り抜いてきた大切な会社と、未来を託す後継者、そして愛するご家族のために。 まずは、あなたの想いをお聞かせください。

 当事務所は広島市中心部にございます。お電話または下記フォームより、お気軽にご連絡ください。

葬儀費用は誰が負担すべきなのか?相続の遺産から出してもよい?

2025-10-21

遺産から支出するのが普通なのでは?

遺産分割の話し合いにおいて、葬儀費用をどのように取り扱うかで、相続人間で争いになることがあります。

1 相続税の分野での取扱い

この点、相続税の分野では、葬儀費用を遺産から控除して、残った金額を対象に相続税を計算していきます。

2 遺産分割での取扱い

⑴遺産から控除するとの考え方

遺産分割においても、相続税の分野での取り扱いと同様に、葬儀費用は遺産から出して(立て替えた人に先に充当して)、残った遺産を分割の対象にしよう、という考え方があります。もともと、亡くなった父母が、葬儀費用は遺産から出してくれと生前に語っていたような場合で、相続人全員がそれに同意しているケースでは、そのように扱われます。

⑵喪主が負担するとの考え方

これに対して、葬儀費用は、葬儀の主催者である喪主が負担するものであって、遺産から出す(喪主が支出した分に充当する)ことを認めない、という考え方もあります。この考え方は、そもそも葬儀というのは、亡くなられた方を弔うために喪主が開催するものであって、香典なども全て喪主が受領するのだから、喪主の計算で行うべきだ、というものです。このような処理をすべきだと主張されるのは、例えば、もともと兄弟間の中が悪く、兄弟の一人が他の兄弟に相談せずに独断で葬儀の段取りを整えて進めたような場合で、かつ、場合によっては仲の悪い兄弟を葬儀にすら招かなかった、というような場合で主張されたりします。

3 裁判所の考え方

 では、家庭裁判所は、葬儀費用の取扱いについて、どう考えているでしょうか。

 この点、葬儀費用を最終的に誰が負担するのかについては、実は法律に定めはないため、意見が分かれています。

 また、法律上の制度としての遺産分割調停は、あくまでも〈遺産の分割〉を目的にしているため、相続開始後に発生する葬儀費用を誰がどう負担するのかは、遺産分割調停制度の直接の対象とはなっていません。

 ですので、相続人間で負担のあり方に合意できなかった場合、遺産分割調停(および移行後の審判)からは切り離して、裁判で決着をつけざるを得ないことになります。

 そして、裁判にまでなったケースでは、「喪主が負担すべき」という考え方(喪主負担説が主流になってきています。

 遺産分割調停の実務の多数説と、裁判での判断の主流の考え方とが異なっている理由は、裁判にまで発展するのは、もともと「遺産分割の内容との兼ね合いで、葬儀費用を相続人全員で負担することにするのはおかしい」という事案が多いからだと思われます。たとえば、喪主を務めた方が遺産分割においては多額の遺産を相続することになってた場合であるとか、生前贈与により多額の特別受益を受けていた場合などです。このような場合でも、相続人全員が「葬儀費用は相続人間で平等に負担する」というような合意に達するのであれば遺産分割協議で解決できますが、そうでなければ裁判にまで発展します。そして遺産を多くもらった人が喪主になっているケースが大半であるため、裁判にまでなったケースでは「喪主が負担すべき」という判断になることが多いのです。

 このように、葬儀費用の負担のあり方は、一律に正しいやり方が決まっているわけではなく、事案に応じてケース・バイ・ケースと言わざるを得ません。

4 葬儀費用の負担について争いになっている場合は、千瑞穂法律事務所にご相談下さい

 千瑞穂法律事務所には、長年にわたり裁判官や公証人を務めた弁護士や、家庭裁判所の現役の非常勤裁判官として多くの相続問題に取り組んでいる弁護士が在籍しています。そうした経験と実績に基づいて、葬儀費用の負担について争いになっている場合について、適切な法的助言を行うことができます。

 お困りごとがあれば、まずはお気軽に、千瑞穂法律事務所にご相談下さい。

余った香典は誰のもの?香典にまつわる注意点や生じうるトラブルについて

2025-10-21

大切な方を亡くされ、葬儀を執り行っている皆様、心からお悔やみ申し上げます。

葬儀費用については全額ないし一定額を香典から支払うことを検討されている方もおられるでしょうが、この香典はそもそも誰のものなのでしょうか。このような話はあまり一般的な話ではなく、自分が当事者となるまで意識しない方が多いと思われます。もっとも、香典を相続財産としてよいのかという点や税務上どのように取り扱われるのかという点については、よくわからないまま判断すると法律上誤った判断をする恐れがあり、後のトラブルにつながりかねません。

そこで、本記事では、香典にまつわる注意点や生じうるトラブルをご紹介いたします。本記事を読むことで、香典についての知識を深めていただけますと幸いです。

1.香典の特徴について

(1)香典は相続財産に当たるか

結論から申し上げますと、香典は、被相続人に対して与えられるものではないため、相続財産には該当しません。一般に、香典は遺族の方の負担を軽減することを目的とする喪主への贈与と考えられています。そのため、香典については、他の相続財産とは異なるルールが適用されることになります。

(2)税務上の注意点

まず、香典については、(1)に記載のとおり相続財産ではありませんので、相続税はかかりません

次に、香典に対して贈与税がかかるかについてですが、国税庁のHPの「タックスアンサーNo4405」では、贈与税のかからない財産として「個人から受け取る香典で・・・社会通念上相当と認められるもの」としています。したがって、社会通念上相当(=常識的に考えて妥当)な香典の額と認められるものの場合には贈与税もかからないということになります。もっとも、香典に対して贈与税が発生するかについて、具体的にいくらもらうと贈与税が発生するかなどの基準はなく、社会的な常識等を考慮して妥当な額といえるかによって決定されるところ、かかる判断を行うためには一定の専門的知見が必要となります。

以上から、香典に対して贈与税がかかるかご不安な方は、お近くの税理士等の専門家に相談してみるのがよろしいかと思われます。

2.香典で生じうるトラブル

(1)香典について生じるトラブルの具体例

一般的に香典については、葬儀費用に充てられるところ、香典を全て葬儀費用に充てる限りにおいてトラブルになる事例は少ないでしょう。

もっとも、社葬などを行い、香典の総額が葬儀費用よりも高くなった場合には、余った香典を喪主が取得するか、相続人が取得するかでトラブルになることがあります。

(2)余った香典は誰のものか

余った香典が誰のものになるかについて、法律は明確な規定を設けていません。余剰分の香典を誰が取得するかについては、喪主に帰属するという考えと、相続人に帰属するという考え方があります。

裁判例でも余剰分の香典の帰属について明確に判断したものはありません。もっとも、香典について、香典の基本的性格は葬式費用の一部負担であり、香典は喪主に贈られたものと解するのが相当であるとした裁判例(広島高裁平成3年9月30日)があります。この裁判例は、香典を喪主への贈与としているところ、贈与の範囲について具体的にどの範囲という限定を付しておらず、香典の全額が喪主への贈与であることを前提としていると思われます。そのため、この裁判例は、余剰分の香典について喪主に帰属するという考え方と親和性が高いものといえるでしょう。ただし、香典の基本的性格を葬式費用の一部負担としている以上、余った香典を喪主が私的に使い込んだというような場合には、かかる裁判例を前提としても、当該香典については、喪主に帰属しないとされる可能性が高いです。

3.香典トラブルに対する対応策

(1)トラブルにならないための予防策

2(2)に記載のとおり、香典に余剰が生じた場合に当該香典が誰に帰属するかについて、明確な規定はありません。そのため、後のトラブルを防止するという観点では、香典に余剰分が生じた場合にどのように分配するかについてあらかじめ書面等で合意をしておく方法が考えられます。

また、香典の総額や使途について明確にしておくことものちのトラブル防止という観点から望ましいといえるでしょう。

(2)トラブルが生じてしまった場合にはどうすればよいか

香典についてトラブルが生じてしまった場合、当事者間で協議を行う方法のほか、家庭裁判所に対し調停や審判の申立てを行う方法や地方裁判所に訴訟提起をする方法が考えられます

いずれの方法にもメリット、デメリットがあり、ベストな解決方法は人によって様々です。そのため、どの方法による解決が自分にとってベストな解決方法か気になる方は、弁護士などの専門家に相談することをお勧めします。

4.香典トラブルに関して千瑞穂法律事務所ができること 

香典についての説明は以上のとおりであるところ、特に香典で余剰金が生じた場合にはトラブルとなる可能性を含んでいると言えます。

千瑞穂法律事務所では上記のようなトラブルを抱えている方々を全面的にサポートしていきます。具体的には、法律相談を通じた適切な解決手段をアドバイスすることや調停ないし訴訟の代理人となり、書類の作成や手続きのサポートをするといったことを行っております。

また、香典についてトラブルが生じている場合、相続財産についても同時にトラブルが生じている可能性が高いと思われるところ、それぞれについて解決することが望ましいのか、それとも一挙に解決することが望ましいかなど、一人一人の状況に応じて、ベストな対応は異なると思われます。そして、ベストな対応をするには、その分野について深い知識を持つ専門家のサポートが不可欠です。

千瑞穂法律事務所では、相続分野を得意分野としており、当事務所の口コミで丁寧な対応であると依頼者様から高く評価していただいている弁護士が在籍しており、依頼者様のお話をじっくり聞いたうえで最も満足のいく解決方法を提示することができます。また、30年以上にわたって裁判官を務めた弁護士も在籍しており、裁判官の視点も踏まえた解決方法の提示をすることも可能です。

香典についてのトラブルで悩まれている方は、お気軽にご相談ください。

家族が亡くなった場合に仏壇・お墓は誰が負担する?祭祀財産の承継について

2025-10-21

亡くなった人の仏壇・お墓は誰が承継するのでしょうか。 

 大切な方とのお別れの際には、その方が生きている時間を少しでも大切にしたいと思われることでしょう。そのため、亡くなった後の相続問題についてはどうしても後回しになってしまうことが多いです。また、仮に相続問題について意識していたとしても、仏壇・お墓を誰が承継するかという問題まで意識している方は少ないのではないでしょうか。

もっとも、昨今では、先祖代々お墓を継ぐのが当たり前であるという価値観が変化していること、仏壇やお墓は維持費がかかること等様々な要因から、お墓・仏壇を相続したくないという方も多くなっており、兄弟間で誰がお墓・仏壇を相続するかというトラブルが生じる可能性は高まっております。

そこで、本記事では、亡くなった人の仏壇・お墓を誰が承継するかをご説明いたします。
 本記事を読まれることで祭祀財産の承継についての知識を深めていただければ幸いです。

1.仏壇・お墓は相続財産に当たるのか

(1)仏壇・お墓は相続財産とは異なる「祭祀財産」に該当することについて

結論から申し上げますと、仏壇・お墓などは相続財産には該当しません。かつての家制度の名残もあり、祖先の祭祀を特に尊重すべきだとする習俗や国民感情が存在することから、上記のような財産については、通常の相続財産とは異なる性質を有するものとされています。そのため、仏壇・お墓に代表される「祭祀財産」(民法897条1項)に該当するものについては、通常の相続とは異なるルールによって承継者が決定されます(具体的な決定方法については2参照)。

(2)祭祀財産とは何か

民法897条1項では、祭祀財産に当たるものが列挙されており、系譜、祭具、墳墓が祭祀財産に当たるとされています。

「系譜」とは、家系図など家系について示された図や文書を指します。また、「祭具」とは、祭祀や礼拝に用いる道具で位牌、仏壇などがこれに当たります。そして、「墳墓」とは、墓石や墓地の使用権などを指します。

これらの「祭祀財産」に該当するものについては、2に記載の方法に従って承継方法が決定されることとなります。

2. 仏壇・お墓等の祭祀財産の承継者となるのは誰か、その決定方法について

(1)承継者の指定がある場合について

祭祀財産を誰が承継するかについて、被相続人が指定している場合には、指定された者が祭祀財産の承継者となります(民法897条1項但書)。この指定の方法は、遺言などの書面によるもののほか、口頭によるものでも認められることとなります。

もっとも、裁判例において、祭祀財産の承継人の指定について、特定の方式を必要とはしないものの、人の死後に効果を生ずる場合が原則である意思表示であるから、表意者の真摯さ、表示内容の明確さにおいて、一般の意思表示より慎重にその存在を判断すべきもの(前橋家審平成3年5月31日)とされていることからすれば、安易に指定による承継が認められると判断するべきではありません。

祭祀財産の承継について指定している場合で、兄弟間で争いが生じる場合には、上記指定の効力が争われる可能性が高いと思われます。そのようなリスクを回避するためには、公正証書遺言を作成し、相続財産の分割についてと共に祭祀財産の承継を指定しておくのが望ましいといえるでしょう。

(2)承継者の指定がない場合について

祭祀財産の承継者について被相続人の指定がない場合、慣習に従って祖先の祭祀を主催すべき者が承継することとなります(民法897条1項本文)。

そして、慣習が明らかでない場合には、家庭裁判所が承継する者を定めることとなります(民法897条2項、家事事件手続法190条、別表第二の11)。裁判所がどのような者を承継者としているかという点について、裁判例(大阪家審平成28年1月28日)では、被相続人と共同生活を行うなどの密接な関係が認められるのが誰か、葬儀を主催したのが誰か、祭祀財産を現に所持しているのは誰かなどの事情を考慮して承継者を決定しています。このような裁判例が存在することからすれば、家庭裁判所によって承継者が決定される場合には、上記要素が考慮されることになるでしょう。

(3)祭祀財産を承継した場合どうなるか

被相続人による指定、慣習、裁判所による決定によって承継者が決定された場合、被相続人の死亡時点において当然に祭祀財産を承継することになります。

この際、承継者は権利を放棄することはできず、遺産分割等において特別な分配を得る権利を持ちません。もっとも、承継者になったからといって祭祀の主催が義務付けられるわけではなく、公序良俗に反しない限り、祭祀財産を自由に処分することは許されるでしょう。

3.祭祀財産について争いが生じた場合にはどうするか

祭祀財産の承継者の決定方法については、以上のとおりです。そして、祭祀財産の決定方法について争いが生じる場合の解決策として、相手方との間で協議を行う方法のほか、家庭裁判所に対して調停ないし審判申立てを行うことが考えられます。

また、祭祀財産の承継の問題は厳密には遺産分割とは別個の問題であるところ、紛争の一体的解決の観点から、当事者間に争いがない場合には、遺産分割調停で祭祀財産の承継者を指定するという方法も実務上取られています。

どのように紛争解決を図るかについては一人一人の事情によって様々であると思われますので、自分にとってどの手段が適切かについて気になる方は、弁護士などの専門家に相談することをお勧めいたします。

4. 千瑞穂法律事務所ができること

これまで述べてきたとおり、祭祀財産に争いが生じた場合に考えるべきことは多くあり、解決のために弁護士ができることも多くあります。以下では、祭祀財産の承継問題でお困りの方に当事務所がサポートできる内容をお示しします。

(1)あらかじめ仏壇・お墓等に関して承継者を指定しておきたい方へ

依頼者様のお話を聞いたうえで費用対効果を比較のうえ、どのような手法により承継者を指定しておくことが将来の紛争トラブル防止の観点から望ましいかを、法律の専門家の視点からアドバイスさせていただきます。そして、法律相談の内容をもとに、遺言書等の書面を残すのが望ましいと判断した場合には、遺言書の作成についてもサポートさせていただきます。

(2)仏壇・お墓の承継に関して揉めている方へ

(1)と同様に、依頼者様のお話を聞いたうえで紛争の解決としてどのような手段が最も望ましいかという点をアドバイスいたします。そして、相談の結果、調停や審判を行うことが望ましいと判断した場合には、裁判所に提出する文書の作成についてもサポートいたします。

(3)千瑞穂法律事務所の強み

祭祀財産の承継についてトラブルが生じている場合、相続財産についても同時にトラブルが生じている可能性が高いと思われるところ、それぞれについて解決することが望ましいのか、それとも一挙に解決することが望ましいかなど、一人一人の状況に応じて、ベストな対応は異なると思われます。そして、ベストな対応をするには、その分野について深い知識を持つ専門家のサポートが不可欠です。

千瑞穂法律事務所では、相続分野を得意分野としており、当事務所の口コミで丁寧な対応であると依頼者様から高く評価していただいている弁護士が在籍しており、依頼者様のお話をじっくり聞いたうえで最も満足のいく解決方法を提示することができます。
また、30年以上にわたって裁判官を務めた弁護士も在籍しており、裁判官の視点も踏まえた解決方法の提示をすることも可能です。

祭祀財産の承継問題で悩まれている方は、お気軽にご相談ください。

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