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1 複数の相続人が遠方で暮らしている場合の遺産分割の難しさ
複数の相続人が遠方で暮らしている場合、遺産分割を行うのには難しさが伴います。
⑴距離の問題
相続人がそれぞれ遠方に住んでいる場合、全員が一カ所に集まることが難しいため、遺産分割のための話し合いを行うのが困難になります。
⑵情報の非対称性の問題
相続に関して重要な情報や文書(預貯金通帳など)は、多くの場合、亡くなられた方のお住まいの場所に同居していた親族や、最後に面倒を見ていた親族が管理しています。そのような場合、他の相続人は、それらの情報や文書の内容を確認することが難しくなり、情報の非対称性が生じてしまいます。
⑶感情的な問題
遺産分割では感情的な対立が生じやすいのですが、相続人が遠方に居住している場合、もともと親族としての交流が薄くなって、疎遠になっている場合が多く、感情的な対立が生じやすくなる素地があります。
⑷合意形成の難しさの問題
遺産分割の話し合いでは、相続人それぞれの考えが異なる場合に、話し合いを重ねて合意形成に至る必要がありますが、全員が一堂に会することが難しいため、伝言ゲームのような形にならざるを得ず、そこで誤解が生じてしまい、合意形成が難しくなる、ということが生じます。
2 相続人が遠方に住んでいる場合の遺産分割協議の進め方
⑴法事で集まる機会の活用
遺産分割の話し合いをする機会としては、四十九日の法要で、親族が集まる場が活用される場合があります。もっとも、そのような場で遺産分割の話をしづらいとして話さないこともありますし、仮に話をしたとしても、時間が限られているため、細かいことや具体的な話はできないということが多いです。
⑵オンラインミーティングの活用
今では、ZOOMやLINEなどのビデオ通話ができるツールが普及しているので、これらのツールを活用して、遠方に住んでいる相続人同士が話し合うということも増えています。もっとも、特に高齢者の場合、これらのツールに不慣れなことが多く、ビデオ通話での話し合いを実現できない場合もあります。
⑶手紙等の文書のやりとり
手紙等の文書のやりとりで話し合いを進めていくことは、昔から行われていた方法です。もっとも、文書のやりとりに時間がかかるため、相続人の数が多いと、大変な時間がかかってしまい、話し合いが進まないという事態に陥ったりします。
⑷弁護士等の士業を通じた交渉
弁護士や司法書士、税理士といった専門職の士業が遺産分割協議を中心になってとりまとめて進めていく、という方法も、多く採用されています。この場合、中心となる士業が情報のハブになって進めていくため、話が進みやすくなります。もっとも、士業は依頼者のために活動する立場であって、中立ではありません。他の相続人から「一方的に話を進めるな」と反発を受けて、話が進まなくなるケースもあります。
⑸家庭裁判所の調停手続の利用
複数の相続人がそれぞれ遠隔地に住んでいる場合、家庭裁判所の遺産分割調停の手続を利用することも考えられます。他の方法で遺産分割の話し合いをするよりも、最初から調停手続を利用した方が、結果的に一番早く合意に達するということもあります。
3 相続人が遠隔地に住んでいる場合に家庭裁判所で遺産分割調停を行う場合の具体例
たとえば、3人の相続人がいて、それぞれ広島市内、大阪市内、東京23区内に住んでいるとします。この場合、遺産分割調停を申し立てられた人(=相手方)の住所地を管轄する家庭裁判所に、調停を申し立てる必要があります。広島市内に住む相続人が、大阪市内に住む相続人と、東京23区内に住む相続人を、それぞれ相手方とする遺産分割調停を申し立てる場合には、大阪家庭裁判所か、東京家庭裁判所か、どちらかを選んで遺産分割調停を申し立てることになります。
このケースで、広島市内に住む相続人が大阪家庭裁判所に調停を申し立てた場合、広島市内に住む相続人と、東京23区内に住む相続人は、大阪に出向かなくても、裁判所の電話会議システム等を利用することで、調停手続を進めることができます。
4 相続人が遠隔地に住んでいる場合に弁護士に手続を依頼することのメリット
⑴適切な交渉方法を選択できる
相続人が遠隔地にいる場合の遺産分割の話し合いをどう進めるかは、複数の方法が考えられますが、弁護士が相続人の人数や住んでいる場所の距離、遺産の内容等を考慮して、最も適切な交渉方法を選択してくれます。
⑵相続の法令・審判例に精通していること
弁護士は、遺産分割に関する法令や家庭裁判所の審判例に精通しています。ですから、遺産分割の手続の流れだけでなく、もし紛争になった場合に、裁判所がどのような判断を下すかの予測を立てることができます。
⑶紛争性のある案件も扱えること
遺産分割については、行政書士、司法書士、税理士などの士業も取り扱っています。しかし、これらの士業が取り扱えるのは、原則として、紛争性のない案件のみです。相続人の間で遺産分割について意見対立がある場合、すなわち紛争性がある場合には、他の士業は取扱いができません。紛争性ある案件は、弁護士のみが取り扱うことができます。
遺産分割の話し合いは、何も最初から相続人の意見が対立している場合だけではありません。最初は円満だったのに、話し合いが進むにつれ、関係が険悪になって、紛争になっていく場合もあります。
そのような場合、最初に他の士業に依頼していると、新たに弁護士に依頼し直さなければならなくなります。最初から弁護士に依頼しておいた方が、万一のとき安心ということになります。
⑷調停手続にそのまま移行できること
弁護士は遺産分割調停の手続の代理人になることもできます。他の士業は調停手続の代理人になることはできません。
ですから、もし遺産分割の話し合いが紛糾して進まなくなった場合であっても、弁護士に依頼していれば、その弁護士がそのまま、遺産分割調停の手続代理人として、遺産分割調停を申し立ててくれ、調停手続へと円滑に移行することができます。
5 遺産分割を弁護士に依頼する場合の流れ
⑴法律相談
まずは弁護士との面談です。弁護士は遺産分割に必要な情報をヒアリングで収集し、その遺産分割の案件で検討が必要なことを把握したうえで、法的助言を行います。
⑵委任契約の締結
どのような方法・手続で遺産分割を行うのが適切かを検討したうえで、弁護士費用等の説明にご了解頂いた場合、正式に委任契約を締結します。
⑶相続人調査
遺産分割は全ての相続人が参加しなければ成立しません。そこで依頼を受けた弁護士は、関係人全ての戸籍を遡って取得して、全ての相続人が記載された相続関係図(法定相続情報)を作成します。知られていない相続人(=隠し子)が出てくる場合もあります。
⑷相続財産調査
依頼を受けた弁護士は、遺産分割の対象となる財産(=遺産)を洗い出すための調査を行います。相続人が把握していなかった預貯金口座などが出てくることがあります。
⑸遺産分割案の作成
相続人調査、相続財産調査が終わったら、具体的にどの遺産を相続人の誰が取得するかという遺産分割案を作成することになります。弁護士は、様々な考慮要素を踏まえて、最も適切な案を作成します。
⑹交渉と調整
弁護士は、作成した遺産分割案をもとに、他の相続人に連絡をとって交渉し、意見調整を行います。この際、意見対立が激しく、当事者同士での話し合いでは進展が見込めない場合には、家庭裁判所に遺産分割調停を申し立てます。
⑺合意形成
当事者同士での話し合い、もしくは、家庭裁判所の遺産分割調停による話し合いにより、最終的には、相続人全員での合意に達することになります。合意形成ができると、遺産分割協議書(調停の場合は遺産分割調停調書)が作成されます。
⑻遺産分割実務の実施
最後に、成立した遺産分割協議の内容にしたがって、実際に遺産を分割する実務作業を実施します。たとえば、預貯金を解約して相続人に分配したり、不動産の登記名義を変更したりします。
6 遺産分割は千瑞穂法律事務所にご相談下さい
千瑞穂法律事務所には、長年にわたり裁判官や公証人を務めた弁護士や、家庭裁判所の現役の非常勤裁判官として多くの遺産分割問題に取り組んでいる弁護士が在籍しています。そうした経験と実績に基づいて、どのような遺産分割案件であっても、適切な法的助言を行うことができます。 遺産分割の問題でお困りごとがあれば、まずはお気軽に、千瑞穂法律事務所にご相談下さい。