生前に合意された遺産分割方法は、相続発生後に法的に有効か?

よくあるご質問

 私の父は、母に先立たれて実家で一人暮らしをしていました。10年前の正月、久しぶりに実家に兄弟3人全員が集まった際、父は「今後は近くに住む次男(=私)の家で面倒を見てもらう。そこで将来、自分が死んだときの遺産の分け方は、次男に多くしてくれ」と言いました。

 そこで兄弟3人で話し合い、「長男1:次男2:三男1」の比率で遺産を分けることで合意し、兄弟三人が署名押印した文書も作りました。

 ところが先日、父が亡くなったあと、長男と三男は「あのときとは事情が変わった。やっぱり法定相続分どおり平等に遺産を分けよう」と言い出しました。

 そんな事が許されるのでしょうか?

はじめに

 質問(参考事例)のように、親が亡くなる前に、相続人同士で遺産の分割方法について話し合い、合意しているケースは少なくありません。しかし、その合意は実際に相続が発生した際に法的に有効なのでしょうか?この記事では、「生前に合意した遺産分割の効力」について解説します。

1 生前の遺産分割合意は法的に有効か?

 結論から言うと、生前に相続人同士で合意した遺産分割の方法は、法律上の効力を持ちません。なぜなら、民法において相続が開始するのは被相続人(親など)が死亡した時点であり、それ以前に行われた合意は、正式な「遺産分割協議」には該当しないからです。

【民法の規定】

相続開始の時期:被相続人の死亡時点で相続が発生(民法第882条)。

遺産分割の要件:相続発生後に法定相続人全員で行う必要がある(民法第907条)。

生前の遺産分割の無効性:生前に相続人同士で決めた合意は、民法上、有効な「遺産分割協議」とはみなされない。

2 相続発生後も、相続人全員が生前の合意を守る場合

 もし相続発生時も相続人全員の考えが変わっていない場合には、相続発生後の正式な遺産分割協議において、生前の遺産分割合意の内容通りの遺産分割協議を成立させることにより、生前の合意を実現することは可能です。

 もっとも、冒頭の質問(参考事例)のように、生前の合意から、実際に相続が発生するまでに長い年月が経過している場合などでは、その間に様々な出来事が発生して事情が変化しているために、相続発生時には相続人の考えが変わってしまっていて、生前の合意と同じ内容では、遺産分割協議が成立しないケースも多々あります。

 したがって、生前の合意を実現させるためには、生前に対策を行っておくことが有効です。

3 生前の合意を実現するために、生前にできる対策

(1)遺言書で「相続分の指定」を行う

 冒頭の質問(参考事例)のような生前の合意を実現するためには、親に遺言書を作成してもらうのが最も効果的です。

 具体的には、親に公正証書遺言を作成してもらい、その公正証書遺言で、各相続人の相続分(相続する割合)を定めておくのです。これを「相続分の指定」といいます。

 冒頭の質問(参考事例)の場合、遺言書に「長男1:次男2:三男1」ということを記載して、「相続分の指定」を行えばよいということになります。

(2)遺留分に注意

このように、遺言書では、法定相続分とは異なる相続割合にすることを遺言者が指定することができるのですが、その際、「遺留分」に注意することが必要です。

「遺留分」とは、兄弟姉妹以外の相続人に認められた、相続できる遺産の最低保障割合のことです。

遺言書に基づいて取得した遺産が「遺留分」を下回っている場合、その相続人は、遺産を多く取得した他の相続人に対して、「遺留分侵害額請求」(民法1046条1項)を行うことができます。この遺留分侵害額請求が認められると、請求した相続人は、遺産を多く取得した他の相続人から、金銭の支払いを受けられます。

 ですから、「相続分の指定」を行う際、「遺留分」を侵害が発生するような割合に変更すると、相続発生後に、相続人同士の間で、「遺留分」を巡る紛争が発生してしまう恐れがあります。

 そこで、「遺留分」を侵害しない限度で「相続分の指定」を行うのが得策であると思われます。

(3)遺留分の放棄を生前にしてもらう

「遺留分」を侵害するような内容での「相続分の指定」を、あえて行いたいという場合は、「遺留分」を侵害されることになる将来の相続人に、「遺留分の放棄」を生前のうちに行っておいてもらうという方法があります。

「遺留分の放棄」は、相続発生の後であれば、各相続人が自由に行うことができるのですが、相続発生の前(生前)に行う場合は、家庭裁判所の許可が必要です。そこで、家庭裁判所に対して「遺留分の放棄」を許可する審判を出すように申し立てる必要があります。

4 相続発生後(死後)に揉めてしまった場合

 これまで述べてきたとおり、遺産分割についての生前の合意を実現させるためには、被相続人に遺言書を書いておいてもらうのが有効です。しかし、遺言書を書いてもらっておくことができず、相続発生後(死後)に、相続人間で揉めてしまう場合もあるでしょう。

 そのような場合、遺産分割協議の話し合いの中で、生前の合意があったことを主張して、その内容に近づけるように、反対する相続人を説得することを試みるしかないことになります。

 もっとも、冒頭の質問(参考事例)の場合、次男が他の相続人よりも多く遺産を取得することになっていた理由は、次男が親の面倒をみるから、というものでした。

 もし本当に、次男が親の面倒をみていたのであれば、そのことを理由に「寄与分」の主張を、遺産分割協議の中ですることも考えられます。

生前の遺産分割の合意については、千瑞穂法律事務所にご相談下さい

 千瑞穂法律事務所には、長年にわたり裁判官や公証人を務めた弁護士や、家庭裁判所の現役の非常勤裁判官として多くの遺産分割問題に取り組んでいる弁護士が在籍しています。そうした経験と実績に基づいて、生前の遺産分割の合意の問題について、適切な法的助言を行うことができます。

 生前の遺産分割の合意の問題について、お困りごとがあれば、まずはお気軽に、千瑞穂法律事務所にご相談下さい。

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