遺産分割協議を終えた後で、新たな事実が発覚したり、内容に納得がいかなかったりした場合、そのやり直しは可能なのでしょうか。 本記事では、遺産分割協議をやり直すことができるケース及び遺産分割のやり直しについてのポイントをご説明いたします。

遺産分割協議をやり直すことができる場合とは
遺産分割に不満があったとしても、一度遺産分割協議が有効に成立している以上、法的安定性を確保する観点から、それだけの理由で遺産分割協議をやり直すことは原則としてできません。もっとも、遺産分割協議の対象となる財産や意思決定過程に問題があり、遺産分割協議が無効となる又は取り消しが認められる場合や遺産分割協議の合意解除が認められる場合には、例外的に遺産分割のやり直しが認められる可能性があります。
以下では、遺産分割協議がどのような場合にやり直すことができるかについて裁判例も交えながらご説明いたします。
(1) 相続人全員の合意がある場合に遺産分割協議をやり直すことができるか
遺産分割協議は、当事者たる相続人の私的自治で行われるものです。そのため、相続人全員の合意があれば、遺産分割協議を合意解除したうえで、遺産分割協議をやり直すことが可能です。判例も、遺産分割協議の相続人全員による合意解除を認めています(最判平成2年9月27日)。
(2) 遺産分割協議の当事者に間違いがあった場合にやり直せるか
遺産分割協議の当事者に間違いがある場合としては①本来相続人となるべき者を何らかの事情で除外して遺産分割協議を行った場合や、②相続欠格である者など、相続人でない者を加えて遺産分割協議を行った場合があり、これらそれぞれについて遺産分割協議のやり直しが認められるかをご説明します。
まず、①の場合、そのような遺産分割協議は原則として無効となり、遺産分割協議のやり直しが認められる可能性が高いです。裁判例でも同様の事例において、遺産分割協が無効となるとしています(東京地判昭和39年5月7日)。もっとも、相続開始後、死後認知等によって相続人となった者がやり直しを請求する場合、すでに他の相続人が財産の処分等をしていれば価額の支払いによる解決となり、遺産分割協議が無効であるとしてのやり直しは認められません(民法第910条)。
次に、②の場合、遺産分割協議が無効となり、遺産分割協議のやり直しが認められるかについては、事情によって結論が異なります。この点について、裁判例では、法的安定性確保の観点から、原則として当該相続人でない者が取得するとされた部分に限って無効となるとして、遺産分割協議全体を無効としてやり直しをすることは認めていません(大阪地判平成18年5月15日)。もっとも、上記裁判例でも、遺産分割協議の全体を無効としなければ著しく不当な結果となるような特段の事情がある場合には遺産分割協議全体が無効となる余地を残しており、相続人でない者が取得するとしていた財産の重要性等の事情次第では遺産分割協議全体が無効となり、遺産分割協議をやり直すことが可能となるでしょう。
(3) 遺産の範囲に関して間違いがあった場合にやり直せるか
遺産の範囲に関して間違いがある場合としては①遺産に属しない財産を分割の対象とした場合や、②本来遺産分割の対象とすべき財産を遺産分割の対象としなかった場合があり、これらについて遺産分割協議のやり直しが認められるかをご説明いたします。
まず、①の場合には、実務上遺産に属しない部分の財産分割のみが無効となり、遺産分割協議のやり直しまでは認められないとしており、裁判例でも同様の考え方がとられています(名古屋高決平成10年10月13日)。
次に、②の場合については、遺産分割の前提となる財産に認識の食い違いが生じている以上、錯誤(民法第95条)が認められ、遺産分割協議を取り消すことで遺産分割のやり直しが可能となる可能性が高いです。裁判例でも②の事例で、錯誤(改正前民法95条)が認められた結果、遺産分割協議が全体として無効となるとしたものがあります(東京地判平成27年4月22日)。
(4) その他遺産分割のやり直しが可能な場合
一般的に遺産分割協議が無効となる可能性があるのは上記の(1)~(3)に記載した通りです。もっとも、上記の場合のほかにも、遺産分割協議において詐欺や脅迫が行われた場合や、遺産分割協議の前提とした事情について認識の食い違いがあった場合には遺産分割協議を取り消した上で、遺産分割協議のやり直しができるとされています(民法第94条、第95条、第96条)。
遺産分割のやり直しのポイント
続いて遺産分割のやり直しを希望される方へ向けたポイントを3つご紹介します。
まず1つ目のポイントは、遺産分割を相続人全員の合意によってやり直す場合、前回の遺産分割協議を全員の合意によってやり直すことを明記しておくことが重要であるということです。
遺産分割協議を1(1)に記載した相続人全員の合意解除によってやり直す場合、遺産分割協議が2回存在することとなります。そのため、のちに2回目の遺産分割協議の有効性を争われた場合に備え、遺産分割協議書に1回目の遺産分割協議を相続人全員の合意によって解除し、新たに遺産分割協議を行う旨を明記しておくことが望ましいです。
次に2つ目のポイントは、他の相続人の同意を得ず、1回目の遺産分割協議が無効であるとして遺産分割のやり直しを行う場合、証拠収集が非常に重要であるということです。
他の相続人の同意を得ず、遺産分割協議のやり直しを行い、争いになった場合、そもそも前回の遺産分割協議は無効であるとして、裁判所に対し、遺産分割協議無効確認の訴えを起こす必要がある可能性があります。こうした場合には、1回目の遺産分割協議の有効性に争いがあることを証拠によって示す必要があります。ですので、1回目の遺産分割が無効であることを示す客観的な証拠を収集しておくことが望ましいです。また、ご自身の考える証拠が十分なのか不安がある方は、弁護士等の専門家に相談することも有力な選択肢となるでしょう。
そして3つ目のポイントは、やり直しが必要であることが判明した場合には、できるだけ早く手続きを開始するないし専門家に相談することが重要であるということです。
理由としては、仮に遺産分割の無効、解除によるやり直しが認められ、新たに遺産分割協議を行うとしても、遺産が第三者に売却等されている場合には、当該遺産を取得できない可能性があるためです。平成30年の民法改正によって追加された民法第899条の2により、法定相続分を超える権利の承継については、対抗要件を備えなければ第三者に対抗することができないということが明記されました。これにより、遺産分割後、土地や建物についてやり直しを行う前に売却等が行われ、登記がされた場合には、やり直しによる遺産の取得を主張できなくなってしまいます。ですので、やり直しが必要であることが判明した場合には、遺産が売却・登記される前に、できるだけ早く手続きを開始したり、専門家に相談したりすることが望ましいでしょう。
遺産分割のやり直しについてのお悩みは当事務所にご相談ください
これまで述べてきたとおり、遺産分割のやり直しは原則として認められませんが、特段の事情がある場合や相続人全員の同意があれば可能です。もっとも、遺産分割のやり直しを考える場合、必要な資料の準備や証拠収集など、ご自身のみで行うには非常に大きな負担となる可能性が高いです。そして、これらの手続きについては、弁護士等の専門家のサポートを受けることで迅速かつ満足のいく解決が可能な可能性も高いといえます。そこで、当事務所では遺産分割のやり直しについての問題でお困りの方を全力でサポートいたします。
具体的には、遺産分割のやり直しが可能かどうかについてのリーガルコメントの提供、他の相続人の方との交渉、遺産分割協議無効確認の訴えを行うなど様々なサポートを行っております。
また、千瑞穂法律事務所では、相続分野を強みとしている弁護士のほか、非常勤裁判官に任官されている弁護士や36年という長期にわたって裁判官を務めていた弁護士がおり、それぞれの事例で遺産分割協議の無効によるやり直しを裁判官が認めるかどうかの判断基準をお伝えすることができ、裁判官の視点も踏まえた解決方法の提示をすることが可能です。
遺産分割のやり直しに関する問題で悩まれている方は、お気軽にご相談ください。

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