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1 遺言の保管方法
(1)公正証書遺言の場合
公正証書遺言の場合、遺言書の「原本」は、公証人役場で保管されます。遺言書を作成したご本人(=遺言者)には、「原本」と同じ効力を持つものとして交付される写しである「正本」が渡されます。ですので、遺言者は、この「正本」を保管することになります。
遺言者が公正証書遺言を作成した場合であっても、ご本人以外の方(例えば子ども)が、公正証書遺言が作成されているか否かやその内容を問い合わせても、公証人役場は一切、応えてくれません。公正証書遺言が存在するか否かも含め、すべて秘密だからです。
ですから遺言者は、自ら他者に伝えない限り、公正証書遺言の存在自体を秘密にすることができます。
遺言者が死亡した際、ご自宅を探して発見されることがあるのは、公正証書遺言の「正本」です。ただ、公正証書遺言を作成したのに、「正本」がどこに保管してあるかが分からなくなってしまう場合もあります。
上記のように、遺言者が、公正証書遺言が存在することを、生前には、敢えて、秘密にしておくような場合もあります。このような場合、相続人は、公証人役場に出向いて、公正証書遺言の存否を問い合わせることになります。
生前の場合と異なり、死後の場合には、公証人役場は、公正証書遺言の有無を回答してくれます。また存在する場合、写しの交付を受けることもできます。
(2)自筆証書遺言の場合
自筆証書遺言については、2020年7月10日から「法務局が自筆証書遺言を保管してくれる制度」がスタートしました。そこで、その制度を使わない場合と使う場合に分けて説明します。
ア 自筆証書遺言の保管制度を「使わない」場合
(ア)遺言者が保管
自筆証書遺言の保管制度を使わない場合、基本的には、遺言者自身が保管します。遺言者自身が保管するメリットは、遺言書の存在を第三者に知られない、ということです。逆に、デメリットとしては、遺言者が死亡した後に、誰も遺言書を発見してくれずに、遺言の内容が実現されない恐れがある、という点です。
(イ)遺言者以外の第三者に保管を依頼
自筆証書遺言を、遺言者が、自分以外の第三者に預けて保管してもらう場合もあります。この場合、自分とその第三者だけの秘密にしておけば、遺言書の存在を知られる可能性は低くなります。
しかし、その第三者が遺言書の存在を口外してしまう恐れや、その第三者が遺言書の記載内容を改ざんする恐れ、更には、遺言者が死亡したのに、その第三者が、遺言書の存在を隠してしまう、という恐れもあります。
(ウ)信託銀行に保管を依頼
信託銀行のサービスの1つに、「遺言信託」という名称のサービスがあります。これは、自筆証書遺言の遺言書を信託銀行が預かること、また、場合によっては遺言書の中で信託銀行を遺言執行者に指定して、相続発生後に、信託銀行に遺言を執行してもらう、というものです。
許認可事業である信託銀行のサービスですので、秘密は守られますし、改ざんの恐れもなく、死亡後に遺言書を隠されてしまう恐れもありません。ただ、問題があるとすれば、信託銀行の報酬設定は、かなり高額な設定になっているため、意外と多くの費用がかかるということです。
(エ)弁護士に保管を依頼
弁護士に依頼して自筆証書遺言を保管してもらうということも可能です。この場合も、信託銀行の「遺言信託」のサービスと同様に、単に保管するだけでなく、遺言書の中で弁護士を遺言執行者に指定しておくということもできます。
そして、信託銀行の場合と同様に、秘密は守られますし、改ざんの恐れもなく、死亡後に遺言書を隠されてしまう恐れもありません。そのうえ、信託銀行よりは報酬設定が低いので、信託銀行に比べて費用を抑えることができます。
イ 自筆証書遺言の保管制度を「使う」場合
自筆証書遺言の保管制度を使う場合、法務局が自筆証書遺言を保管してくれます。この制度を利用する場合のメリットは、次のとおりです。
ⅰ 法務局が保管するので、遺言の紛失・隠匿・改ざん等が防止できる
ⅱ 家庭裁判所での検認手続が不要となり、相続手続をスムーズに進めることができる
ⅲ 法務局が保管の際に形式要件を確認してくれるので、形式要件不備で無効となる可能性がない
ⅳ 相続発生後に相続人から問合せがあれば回答してくれるので、遺言書の発見漏れになりにくい
2 遺言書を発見したら
(1)自筆証書遺言の場合
自筆証書遺言の場合、法務局の自筆証書遺言の保管制度を利用していたか否かで、家庭裁判所での検認手続の要否が変わってきます。
まず、法務局の自筆証書遺言の保管制度を利用していなかった場合、その自筆証書遺言を家庭裁判所に提出して確認してもらうという「検認」という手続きが必要になります。遺言書が封をされている場合には、開封せずに、そのまま家庭裁判所に提出する必要があります。
次に、法務局の自筆証書遺言の保管制度を利用していた場合ですが、この場合は、法務局が保管していたことから、その保管期間中、偽造・変造された恐れはないこともあり、家庭裁判所での「検認」の手続きは必要ないことになっています。
(2)公正証書遺言の場合
公正証書遺言の場合、遺言書の「原本」は公証人役場が保管していたことから、その保管期間中、偽造・変造された恐れはないこともあり、家庭裁判所での「検認」の手続きは必要ないことになっています。
3 遺言の執行
(1)遺言の執行とは
家庭裁判所での「検認」が必要な場合は、「検認」が行われた後に、遺言の執行に入ります。「検認」が不要な場合は、そのまま遺言の執行に入れます。
遺言の執行とは、遺言書に記載された内容を、実際に実現していくことを言います。遺言の内容には、認知、遺贈、推定相続人の廃除又はその取消しのように、実現するための行為を必要とするものがあります。そのような遺言の執行を行う者を、遺言執行者といいます。
遺言では、遺言執行者を指定したり、第三者に指定を委託したりすることができます。遺言執行者の指定は遺言の中だけで認められていて、生前の取り決めは無効になります。遺言の内容を実現すること自体が複雑になると予想されるときは、遺言執行者を複数名指定しておくことも可能です。
遺言に遺言執行者の指定がなかった場合や、遺言執行者が辞任してしまって遺言執行者がいないときは、相続人や利害関係人が、家庭裁判所に対して、遺言執行者選任の請求をすることができます。
(2)遺言の執行の流れ
遺言執行の流れは、以下のとおりです。
① 財産目録(遺産目録)の作成
財産(遺産)を構成する土地や建物、預貯金などの資料(登記簿、権利書、残高証明書)などをそろえて財産目録(遺産目録)を作成します。作成した財産目録(遺産目録)は、これを相続人に提示しなければならないことになっています。
② 遺言の記載内容の実行
(ⅰ)各相続人へ定められた相続割合や、遺産の分配の実行
遺言書の記載内容に沿って、各相続人への相続割合の指定や、遺産の分配を行います。この段階で、必要があれば、登記申請や債権の回収、債務の弁済なども行います。
(ⅱ)相続財産の不法占有者に対して明け渡しや移転の請求
(ⅲ)受遺者への遺産の引渡し
相続人以外に財産を遺贈する旨の記載が遺言書にある場合は、その配分・指定にしたがって遺産を引き渡します。その際、所有権移転の登記申請も行います。
(ⅳ)認知の届出
遺言書に、認知する旨の記載があるときは、それを実現するために、戸籍の届出をします。
(ⅴ)相続人廃除を家庭裁判所に申立て
遺言書に、相続人を廃除する旨の記載があるときは、その実現のため、家庭裁判所に申立てます。
③ 遺言執行の職務の終了・報酬
遺言執行者が遺言執行の職務を終了したとき、相続人はそれに応じた報酬を遺言執行者に支払います。その報酬額は遺言でも指定できますが、家庭裁判所で定めることもできます。
4 遺言執行者を弁護士とするメリット
遺言執行者は誰がなってもかまいません。ただ、遺言執行の内容には、法律の知識が必要ですので、弁護士に依頼した方がよいです。遺言執行に慣れた弁護士であれば、遺言執行業務を円滑に進めることができるというメリットがあります。