絶対に遺言書を作成した方が良いケースとして、次の9つのケースを例示します。
- 法定相続分と異なる割合で相続させたいケース
- 配偶者との間に子どもがいないケース
- 内縁(事実婚)の配偶者がいるケース
- 法定相続人以外の人に遺産を与えたいケース
- 前妻と後妻のそれぞれに子どもがいるケース
- 配偶者以外の人との間に子ども(婚外子)がいるケース
- 遺産を渡したくない相続人がいるケース
- 別居中の配偶者に遺産を遺したくないケース
- 相続人が1人もいないケース
このページの目次
1 法定相続分と異なる割合で相続させたいケース
遺言書がない場合、遺産の分け方は、法定相続人全員による遺産分割協議で決めることになりますが、原則として、法定相続分に従って分けることになります。
しかし、被相続人としては、例えば「三男は最後まで自分の面倒を見てくれたから、他の子どもたちよりも多く遺産を渡してあげたい」などと考えることもあるでしょう。
このような場合、遺言書を作成しておいて、法定相続分と異なる割合で遺産が分けられるようにしておく必要があります。
2 配偶者との間に子どもがいないケース
子どもがいない夫婦のどちらかが先に死亡すると、配偶者は必ず法定相続人になるのですが、血族相続人の方は、第1順位(子ども)がいないので、第2順位(直系尊属・親など)、もしくは第3順位(兄弟姉妹)も法定相続人になります。
遺された配偶者は、被相続人の親や兄弟姉妹と遺産分割協議をしなくてはならなくなり、精神的なストレスが大きくなると同時に、トラブルも生じかねません。
そこで、遺言書を作成しておいて、遺産分割協議の必要がないようにしておく必要があります。
3 内縁(事実婚)の配偶者がいるケース
内縁(事実婚)の配偶者がいる場合、その方は法定相続人にはなりえません。遺言書がないまま死亡してしまうと、内縁(事実婚)の配偶者には、遺産が何もいかずに、法定相続人である子どもたちだけで遺産が分割されてしまいます。
そこで、遺言書を作成しておいて、内縁(事実婚)の配偶者にも、住居や預貯金などの必要な遺産が渡るようにしておく必要があります。
4 法定相続人以外の人に遺産を与えたいケース
遺言書がない場合、法定相続人だけで遺産の分割を行うことになりますが、被相続人としては、例えば「自分に対して献身的な介護をしてくれたヘルパーさんにも、自分の遺産を少し渡したい」などと考えることもあるでしょう。
このような場合、遺言書を作成しておいて、法定相続人以外の人に遺産を渡す(遺贈する)ことを記載しておく必要があります。
5 前妻と後妻のそれぞれに子どもがいるケース
離婚した前妻との間に子どもがいて、再婚した後妻との間にも子どもがいる場合、遺言書がないままで死亡すると、前妻との間の子どもと、後妻との間の子ども、その全員で遺産分割協議をしなければならなくなります。
前妻との間の子どもと、後妻との間の子どもと、お互いに感情的な対立があることが少なくないため、遺産分割協議も紛糾してしまう可能性が高いといえます。
そこで、遺言書を作成しておいて、遺産分割協議の必要がないようにしておく必要があります。
6 配偶者以外の人との間に子ども(婚外子)がいるケース
内縁(事実婚)の方との間に生まれた子(婚外子)どもは、認知していない限り、法律上の親子関係はないため、法定相続人にはなれません。
この点、「自分が生きている間は、法律上の配偶者がいる手前、認知できないけれども、自分が死んだ際には、婚外子にも遺産を渡したい」というケースもあります。
この場合、遺言書を作成して、①遺言書で婚外子の認知を行い婚外子を法定相続人とするか、②遺言書でも認知はしないが遺贈の形で婚外子に遺産を渡す、などの方法をとる必要があります。
7 遺産を渡したくない相続人がいるケース
遺言書を作成しなければ、原則として、法定相続人にはその法定相続分に従った分だけ遺産が渡ります。しかし、法定相続人の中に、どうしても遺産を渡したくない人がいる場合もあります。
そのような場合、遺産を渡したくない法定相続人には何も渡らない内容での遺言書を作成しておくのが、1つの方法です。もっとも、配偶者や子ども、親など、遺留分が認められる法定相続人については、遺留分に相当する分の遺産が渡ってしまう恐れがあります。
そこで、遺言書によって「相続人の廃除」をするという方法もあります。遺言書による「相続人の廃除」について遺言執行者が家庭裁判所に申立て、家庭裁判所がこれを審判で認めたら、対象者は法定相続人ではなくなるため、遺留分の権利行使もできなくなります。
8 別居中の配偶者に遺産を遺したくないケース
夫婦関係が破綻し、すでに別居生活になっている配偶者であっても、離婚が成立していない限り、法定相続人として取り扱われます。したがって、遺言書を作成していなければ、遺産が別居中の配偶者にも渡ってしまいます。
そこで、遺言書を作成することにより、別居中の配偶者には何も渡らないようにしておくのが、1つの方法です。もっとも、配偶者には遺留分が認められるため、遺留分に相当する分の遺産が渡ってしまう恐れがあります。
そこで、遺言書によって「相続人の廃除」をするという方法もあります。遺言書による「相続人の廃除」について遺言執行者が家庭裁判所に申立て、家庭裁判所がこれを審判で認めたら、別居中の配偶者は法定相続人ではなくなるため、遺留分の権利行使もできなくなります。
9 相続人が1人もいないケース
法定相続人が1人もいない場合であって、さらに特別縁故者もいなければ、最終的に遺産は国のものになります(国庫帰属)。
被相続人が、そのような結末を望まないのであれば、遺言書を作成して、自分の遺産を遺したい人に渡すようにする必要があります。
上記の9つのケースのほかにも、遺言書を作成した方が良いケースはあります。
遺言書を作成した方が良いかどうか迷う場合は、遺言と相続について専門的知識を有する弁護士に相談されることをお勧めします。