【広島の弁護士解説】収益不動産・賃貸経営の相続対策|アパートの遺産分割と家族信託

はじめに

広島市およびその周辺の広域都市圏において、アパートやマンション、駐車場などの収益不動産を所有・経営されているオーナー様へ。 長年にわたり事業として不動産を守り、育ててこられたその大切な資産を、次の世代へどのように引き継ぐか、具体的な道筋はお決まりでしょうか。

広島市中心部の再開発に伴う地価の変動や、郊外エリアにおける空室リスクの増大など、広島の不動産事情は刻々と変化しています。そうした中で、収益不動産の相続は、単なる「家や土地の遺産分け」とは全く異なる難しさを含んでいます。それは、不動産という資産だけでなく、「賃貸経営」という事業そのものを承継させなければならないからです。

「うちは子供たちが仲が良いから大丈夫」 「資産といってもアパートが1棟あるだけだから」

そう油断されているケースほど、いざ相続が発生した瞬間に、銀行口座の凍結遺産分割協議の難航により、黒字経営だったアパートが一瞬にして「負動産」へと変わり、ご家族の間で修復不可能な亀裂が入ってしまうことが少なくありません。

本記事では、広島で数多くの相続・不動産案件に携わってきた弁護士の視点から、賃貸経営者が直面するリスクと、その具体的な対策について徹底解説します。

第1 賃貸経営で起こる「相続開始直後」のトラブル

オーナー様が亡くなられた、あるいは判断能力を喪失されたその瞬間から、賃貸経営の現場は「有事」に突入します。遺産分割の話し合いがまとまるまでの間も、入居者への対応や資金繰りは待ってくれません。ここでは、現場レベルで発生する深刻なトラブルについて解説します。

1.オーナーの認知症・判断能力低下による経営リスク

相続そのものの前に、オーナー様の高齢化に伴うリスクとして認識しておかなければならないのが「認知症」の問題です。

(1)大規模修繕や新規入居契約ができなくなる(資産凍結)

賃貸経営において、入居者との賃貸借契約の締結・更新・解除、あるいは建物の修繕発注などは、すべて所有者であるオーナーの法律行為です。 もし、オーナー様が認知症などで判断能力を喪失してしまうと、これらの契約行為が一切できなくなります。

例えば、広島市内のアパートで屋上の雨漏りが発生し、数百万円規模の修繕工事が必要になったとしても、本人の意思確認ができないため契約が結べず、工事が着工できないという事態に陥ります。 結果として、入居者の退去を招き、資産価値を著しく毀損することになります。成年後見制度を利用することも考えられますが、後見人はあくまで「財産の保全」が任務であるため、積極的な投資や建て替え、大規模な修繕には裁判所の許可が下りないケースが多く、経営の手足が縛られてしまうのが実情です。

(2)広島県内の金融機関口座の凍結による支払い停止リスク

認知症の診断や、あるいは相続が発生(死亡)したことを金融機関が知った時点で、オーナー名義の預金口座は凍結されます。 広島銀行やもみじ銀行、広島信用金庫など、地元の金融機関にアパートローンの返済口座や家賃の振込口座を持っている場合、これらがすべてストップします。

口座が凍結されると、毎月のローン返済、管理会社への委託料、共用部の水道光熱費などの引き落としができなくなります。相続人の誰かが一時的に立て替えるにしても、遺産分割協議が長引けば数百万円単位の負担となり、資金ショートによる経営破綻のリスクさえあります。

2.相続発生から遺産分割までの「お金」と「管理」のトラブル

無事に相続手続きが終わるまでの間、「宙に浮いた状態」の収益不動産をどう扱うかについても、法的な知識がないとトラブルに発展します。

(1)相続中の「家賃収入」は誰のものか?(賃料債権の帰属)

遺産分割協議がまとまるまでの間、毎月入ってくる家賃は誰のものでしょうか。 「長男がアパートを継ぐ予定だから、長男が全額受け取る」と安易に考えていると、後で他の相続人から訴えられる可能性があります。

判例上、遺産分割が確定するまでに発生した家賃(法定果実)は、各相続人がその「法定相続分」に応じて取得するとされています。 つまり、遺言書などがない限り、たとえ長男が物件を管理していたとしても、家賃については他の兄弟姉妹にも法定相続分通りの権利が発生するのです。これを無視して使い込んでしまうと、横領や不当利得の問題に発展します。

(2)アパートローンの返済義務と固定資産税の負担者

一方で、アパートローンなどの借金(金銭債務)も、原則として法定相続分に応じて各相続人に分割承継されます。しかし、銀行側との契約上は、相続人全員が連帯して債務を負う形になることが一般的です。

また、固定資産税についても、登記名義が変わるまでは相続人全員の連帯納付義務が生じます。「家賃は法定相続分で分けるのに、管理の手間や固定資産税の通知書への対応は誰がやるのか」という押し付け合いが、感情的な対立の入り口となるのです。

(3)広島市内の物件管理・修繕対応の責任の所在

広島市内に物件がある場合、台風や豪雨による被害、給排水設備の故障など、緊急対応を要する場面も多々あります。 遺産分割が決まっていない共有状態では、保存行為(現状維持のための修繕など)は各相続人が単独で行えますが、改良行為(バリューアップ工事など)や処分行為には全員の同意が必要です。

誰がリーダーシップをとって管理会社や業者と折衝するのか。この役割分担が決まっていないと、管理不全に陥り、入居者の不満が爆発します。当事務所では、こうした事態に備え、不動産管理の実務に精通したスタッフや連携する不動産関連企業と共に、経営を止まらせないための法的サポートを行っています。

第2 収益不動産が原因で泥沼化!「遺産分割協議」の典型トラブル

アパートやマンションなどの収益不動産は、現金のように「1円単位で分ける」ことができません。これが相続トラブルの最大の元凶です。ここでは、遺産分割協議でよくある対立構造と、その背景にある法的・経済的理由を解説します。

1.「不動産は分けられない」物理的制約と分割方法

(1)現物分割の難しさ(建物は切り分けられない)

土地であれば分筆して分けることも可能ですが、一棟のアパートやマンションを物理的に切り分けることは不可能です。 「1階は長男、2階は次男」と区分所有化して分ける方法もありますが、玄関や配管の構造上、大規模な工事が必要になったり、将来の売却時に買い手がつきにくくなったりするため、現実的ではないケースが大半です。

(2)換価分割のデメリット(収益源の喪失と譲渡所得税)

「分けられないなら売って現金化しよう」というのが換価分割です。公平に分けるには最も手っ取り早い方法ですが、先祖代々の土地を手放すことになる上、毎月の家賃収入という「金の卵を産む鶏」を失うことになります。 また、売却によって多額の譲渡所得税がかかり、手残りの現金が目減りしてしまうデメリットもあります。事業承継を望む相続人が一人でもいる場合、この方法は激しい抵抗にあい、対立が激化します。

2.相続人同士で意見が食い違う「不動産の評価額」

富裕層・資産家の相続において、最も揉めるのが「この不動産はいったいいくらの価値があるのか」という評価額の問題です。

(1)広島の不動産市況における「時価」と「相続税評価額」の乖離

不動産には「一物四価(実勢価格・公示地価・路線価・固定資産税評価額)」と呼ばれる複数の価格が存在します。 相続税の計算には「路線価」が使われますが、遺産分割協議においては、実際に売買される価格である「時価(実勢価格)」を基準にするのが原則です。 特に広島市中心部(紙屋町・八丁堀エリア)や、再開発が進む広島駅周辺などは、路線価よりも実勢価格が大幅に高くなる傾向にあります。

  • 物件をもらう側(長男など): 「評価額は低く見積もりたい(代償金を安く済ませるため、固定資産税評価額などを主張)」
  • 物件をもらわない側(次男など): 「評価額を高く見積もりたい(自分の取り分を増やすため、実勢価格を主張)」

このように利益相反が起こるため、当事者同士の話し合いでは平行線をたどります。当事務所には、広島家庭裁判所の現役の家事調停官(非常勤裁判官)を務める弁護士が在籍しています。調停の現場で裁判所がどのような基準で評価額を採用するか、その実務傾向を熟知しているため、不毛な争いを避け、説得力のある適正な評価額を提示することが可能です。

(2)遺留分侵害額請求における評価額の争点

特定の相続人に不動産をすべて相続させる遺言があった場合でも、他の相続人の「遺留分(最低限の取り分)」を侵害していれば、遺留分侵害額請求がなされます。ここでも不動産の評価額が争点となります。評価額が1,000万円変われば、支払うべき遺留分も数百万円単位で変わるため、互いに不動産鑑定書を出し合うような激しい争訟に発展することも珍しくありません。

3.収益物件を相続するなら必須の「代償金」問題

(1)代償分割とは?(物件を継ぐ人が他の相続人に現金を支払う)

収益物件を分散させず、一人の後継者に相続させるための最も現実的な方法が「代償分割」です。例えば、長男が5,000万円のアパートを相続する代わりに、次男に代償金として2,500万円の現金を支払う、という形です。

(2)代償金が用意できない場合に起こる経営破綻

問題は、後継者に十分な現金がない場合です。アパート自体に価値はあっても、それをすぐに現金化することはできません。 代償金を用意するために新たな借入をしようにも、相続紛争中の物件を担保にした融資には銀行も消極的です。結果として、代償金が払えず、泣く泣く物件を売却(換価分割)せざるを得なくなるケースが後を絶ちません。

4.とりあえずの「共有」が招く最悪のシナリオ

(1)共有状態では売却も大規模修繕も全員の同意が必要

話し合いがつかないからといって、「とりあえず法定相続分(長男1/2、次男1/2など)で共有名義にしておこう」というのは、問題の先送りに過ぎず、最も危険な選択です。 共有状態になると、物件の売却はもちろん、大規模修繕や抵当権の設定など、重要な決定には「共有者全員の同意」が必要になります。将来、次男が「お金が必要だから売りたい」と言い出し、長男が「経営を続けたい」と言えば、経営はデッドロック(膠着状態)に陥ります。

(2)広島市内の「空き家」リスクと二次相続による権利関係の複雑化

さらに恐ろしいのは、共有者のひとりが亡くなる「二次相続」です。共有持分がさらにその子供たちへ細分化され、全く面識のない親戚同士が共同オーナーになる事態が発生します。 広島市内でも、このように権利関係が複雑化した結果、修繕も解体もできずに放置されている「塩漬け物件」「空き家」が散見されます。共有は、資産価値を自ら毀損する行為であると認識すべきです。

第3 広島の不動産オーナーがとるべき相続対策と事業承継

ここまで述べたトラブルを回避し、円満に資産を引き継ぐためには、生前の対策が不可欠です。それも、単なる節税対策ではなく、法務面からの「争族対策」が重要になります。

1.遺言書の作成による「承継者の指定」

(1)「特定の物件」を「特定の後継者」に渡す意思表示

遺産分割協議という「争いの場」を作らせないための最も有効な手段は、遺言書の作成です。「〇〇町のアパートは長男に相続させる」と明確に指定することで、原則として遺産分割協議を経ずに権利を移転させることができます。

(2)付言事項を活用した「家族への想い」の伝達

法的な効力はありませんが、遺言書の最後に記す「付言事項」も重要です。「なぜ長男にアパートを継がせるのか」「兄弟仲良くやってほしい」という親としての想いを記すことで、他の相続人の納得感を高め、遺留分減殺請求などの争いを防ぐ精神的な防波堤となります。

(3)遺留分を考慮した設計(代償金の準備も含めて)

ただし、一方的な遺言はかえって争いを招きます。当事務所には、元公証人として長年実務に携わった弁護士が在籍しており、公正証書遺言の作成において「無効にならない」「揉めない」ための厳格な要件を熟知しています。遺留分への配慮や、万が一の際の予備的遺言など、プロフェッショナルな視点で「執行可能な遺言」を作成します。

2.認知症対策としての「家族信託(民事信託)」の活用

近年、アパートオーナー様の認知症対策として広島でも注目されているのが「家族信託」です。

(1)後見制度では難しい「積極的な資産活用・組み換え」を可能にする

前述の通り、成年後見制度は「財産を守ること」が主眼であり、アパートの建て替えや新規投資などの積極的な資産活用には不向きです。 一方、家族信託であれば、元気なうちに信頼できる家族(受託者)に資産の管理・処分権限を託すことで、本人が認知症になった後でも、受託者の判断で柔軟な修繕や建て替え、売却が可能になります。

(2)受託者を決めておくことで経営の空白期間を防ぐ

当事務所の元公証人である弁護士は、公証人在職中に数多くの信託契約公正証書を作成しており、広島における信託契約実務の第一人者とも言える存在です。 信託契約は非常に設計が複雑であり、経験の浅い専門家が作成すると、かえって税務上の不利益や法的な不備を招く恐れがあります。確かな実績を持つ専門家による設計が、資産防衛の要となります。

3.納税資金・代償分割資金の確保

(1)生命保険の活用(受取人固有の財産としての確保)

遺産分割の対象とならない「死亡保険金」を活用し、後継者に現金を受け取らせることで、代償金や相続税の納税資金を確保します。これは他の相続人の遺留分計算の対象外(原則)となるため、特定の相続人に資金を集中させる手段として有効です。

(2)不動産の組み換え・売却による流動性の確保

収益性の低い物件や、将来的に管理が難しくなる遠隔地の土地などは、生前に売却して現金化しておく、あるいは都心部の管理しやすい区分マンションに買い換えるなどの「資産の組み換え」も検討すべきです。

4.相続税対策と法務のバランス

(1)アパート建築などの節税対策と「争族」リスクの比較

「相続税対策でアパートを建てましょう」という提案を受けることも多いかと思いますが、借金をしてアパートを建てることは、遺産分割を難しくする側面もあります。 当事務所は、相続税に特化した経験豊富な税理士事務所と連携しており、節税メリットだけでなく、「分けやすさ」「納税資金」「経営リスク」を総合的に判断したアドバイスが可能です。

(2)広島市等の地価上昇エリアにおける小規模宅地等の特例活用

アパートの敷地については、「小規模宅地等の特例」を適用することで、相続税評価額を最大50%(貸付事業用宅地等)減額できる可能性があります。ただし、適用には厳格な要件(事業的規模であるか、保有期間など)があります。こうした税務上の特例を確実に受けるための法的な権利調整も、弁護士と税理士が連携してサポートします。

第4 広島で不動産の相続問題を弁護士に相談するメリット

不動産の相続は、法律、税金、登記、そして不動産経営の実務が複雑に絡み合います。広島市にある千瑞穂法律事務所にご相談いただくメリットは、これらをワンストップで、かつ高度な専門性を持って解決できる点にあります。

1.不動産法務と相続法務の双方に精通したサポート

(1)広島家庭裁判所の調停・審判の傾向を踏まえた主張

当事務所には、裁判官として35年のキャリアを持ち、現在は弁護士として活動するベテランや、現役の家事調停官として広島家庭裁判所で執務する弁護士が在籍しています。 「裁判官はどのような証拠を重視するか」「調停委員をどう説得すればよいか」という、裁判所の内側からの視点を持っていることは、交渉や調停を有利に進める上で極めて大きなアドバンテージとなります。

(2)広島エリアに強い他士業(税理士・司法書士等)との連携

当事務所は、全国規模の大手司法書士法人「みつ葉グループ」の広島拠点と同一のオフィスで連携して運営されており、遺産分割協議成立後の不動産登記までをスピーディーに完結できます。 また、相続税に強い税理士、地元の不動産関連企業とも緊密なネットワークを持っているため、「法律論」だけでなく、「登記」「税金」「不動産の現金化」まで、トータルでの解決策を提案できます。

2.経営的視点を持った「円満な事業承継」の実現

(1)単なる遺産分けではなく、賃貸経営の存続を守る

私たちが目指すのは、単に法律に従って財産を分けることだけではありません。 親族経営の会社の顧問弁護士として、多くの事業承継や株式評価の問題を解決してきた実績を活かし、オーナー様が大切にしてきた「賃貸経営」という事業が、次世代においても安定して存続できるよう、経営的な視点も含めた「円満な承継」をサポートします。


広島市・千瑞穂法律事務所へご相談ください

不動産オーナー様の相続対策は、早めの着手が何より重要です。 認知症になってから、あるいは相続が発生して揉めてからでは、取れる選択肢が極端に少なくなってしまいます。

千瑞穂法律事務所は、広島市中心部に事務所を構え、広島市内はもちろん、周辺の広域都市圏にお住まいの皆様からのご相談に幅広く対応しております。 元裁判官、元公証人、現役調停官、そして若手弁護士まで、多様なバックグラウンドを持つ弁護士チームが、あなたの資産とご家族の絆を守るために全力を尽くします。

「まだ元気だけれど、将来のことが少し心配だ」 「アパートの権利関係を整理しておきたい」

そう思われたら、まずは一度、当事務所の初回無料相談をご利用ください。専門家と共に、安心できる未来の設計図を描きましょう。

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