「広島市内の実家がアパート経営をしているが、公務員の自分が相続しても大丈夫だろうか」 「親が広島県内で複数の駐車場を持っているが、相続すると副業禁止規定で懲戒処分を受けるのではないか」
広島県職員、広島市職員、あるいは県内の警察官や公立学校の教職員といった公務員の方から、このようなご相談をいただくことが増えています。 親御様が資産家である場合、相続財産の中に「収益不動産(アパート、マンション、貸駐車場など)」が含まれることは珍しくありません。しかし、相続人であるお子様が公務員である場合、そこには民間企業の社員とは異なる「法律の壁」が存在します。
まずは結論から申し上げます。公務員であっても収益不動産を相続することは可能ですが、以下の基準を超える場合は「人事委員会等の許可(自営兼業承認)」が必要です。
【公務員の不動産相続・要注意チェックリスト】
▢ アパート・マンションの部屋数が10室以上ある
▢ 賃貸物件の棟数が5棟以上ある
▢ 駐車場の台数が10台以上ある
▢ 不動産賃貸収入が年額500万円以上ある
▢ 管理業務を自分(または家族)で行っている
この記事では、広島の相続・不動産問題に精通した弁護士が、公務員特有の副業制限のルール(いわゆる5棟10室基準)から、職を守るための許可申請、そしてトラブルを未然に防ぐための遺産分割戦略について、詳しく解説します。

第1 広島の公務員が収益物件を相続する際、「副業禁止規定」が最大の壁になる
公務員としての安定した地位にある一方で、予期せぬ相続によってそのキャリアが脅かされることは避けなければなりません。まずは、なぜ公務員が不動産経営を行うことに制限があるのか、その法的根拠とリスクを正しく理解しましょう。
1. なぜ公務員の不動産経営は制限されるのか(法的根拠)
公務員は「全体の奉仕者」として、職務に専念する義務を負っています。これは国家公務員だけでなく、広島県や広島市の地方公務員にも厳格に適用されます。
(1) 国家公務員法における「職務専念義務」の基本原則
国家公務員法第103条および第104条では、営利企業への従事や自営の兼業を原則として禁止しています。これは、公務員が副業(不動産賃貸業を含む)に精力を奪われて本業がおろそかになったり、職務上の秘密を利用したりすることを防ぐためです。
(2) 広島県・広島市の条例における「営利企業等の従事制限」
地方公務員の場合も同様です。地方公務員法第38条に基づき、各自治体は条例で営利企業への従事制限を定めています。 例えば、広島県職員や広島市職員の方であれば、それぞれの自治体が定める「職員の営利企業等の従事制限に関する規則」等が適用されます。基本的には国家公務員のルール(人事院規則)に準じて運用されていますが、所属する組織(県庁、市役所、県警本部、教育委員会など)によって申請の窓口や審査基準の細則が異なるため、正確な確認が必要です。
2. 違反した場合のペナルティ「懲戒処分」のリスク
もし、許可が必要な規模の不動産を無許可で相続・経営し続けた場合、どうなるのでしょうか。
(1) 過去の処分事例と広島県人事委員会等の指針
人事院や各自治体の人事委員会は、無許可での不動産賃貸業に対して厳格な姿勢を示しています。過去には、無届で家賃収入を得ていた公務員が「減給」や「戒告」といった懲戒処分を受けた事例が全国で数多く存在します。 特に悪質な場合(虚偽の報告をした場合など)や、警告を受けたにもかかわらず改善しなかった場合は、停職などより重い処分が下される可能性もあります。
(2) 「知らなかった」では済まされない事後発覚の恐ろしさ
よくあるのが、「親から相続しただけだから、自分から始めた事業ではないし届出はいらないと思った」という誤解です。しかし、相続であっても、自分名義で継続的に収益を得ていれば「自営」とみなされます。 また、近隣住民からの通報や、マイナンバー制度の普及に伴う税情報の紐づけなどにより、職場に発覚するリスクは年々高まっています。「バレないだろう」という安易な判断は、長年積み上げてきた公務員としての信用を一瞬で失うことになりかねません。
第2 どこからが副業?許可が必要になる「5棟10室」基準の具体的判断
では、どのような不動産を相続した場合に許可が必要になるのでしょうか。ここからは、一般的に適用される「人事院規則14-8」に準じた基準(いわゆる5棟10室基準)について解説します。
1. 形式的基準:不動産の規模による線引き(人事院規則等)
まずは物件の「数」や「広さ」による基準です。以下のいずれかに該当する場合、原則として「自営」とみなされ、許可申請(自営兼業承認請求)が必要となります。
(1) アパート・マンションの場合:「10室以上」または「5棟以上」
賃貸アパートやマンションなどの建物を相続する場合、独立した区画が「10室以上」あるか、または建物が「5棟以上」ある場合が対象です。 広島市中心部(中区や南区など)の分譲マンションを1室だけ貸すような場合はここには該当しませんが、親御様が安佐南区や佐伯区などの住宅街にアパートを一棟丸ごと所有している場合は、容易に10室を超えるため注意が必要です。
(2) 広島市内でよくある「駐車場経営」の場合:「10台以上」が目安
広島市内、特に郊外や住宅密集地では、土地を駐車場として貸しているケースが非常に多く見られます。駐車場経営の場合、駐車台数が「10台以上」であると許可が必要になります。 コインパーキングとして業者に土地を一括で貸している場合でも、契約形態によってはこの基準に含まれることがあるため、契約書の確認が必須です。
(3) 土地の賃貸の場合:「契約件数10件以上」
建物や駐車場以外の土地賃貸については、賃貸契約の件数が「10件以上」の場合などが基準となります。
2. 実質的基準:賃料収入額による線引き
物件の規模が小さくても、収入額が大きい場合は制限の対象となります。
(1) 年間賃料収入「500万円」の壁(広島の相場でどう判断するか)
不動産賃貸による賃料収入の合計が、年額「500万円」以上になる場合、許可が必要です。これは手取り額ではなく、固定資産税や修繕費などの経費を引く前の「総収入金額」で判断されます。 広島市内の物件であれば、人気のエリアのマンションやテナントビルを相続すると、数室であっても年間500万円を超えることは珍しくありません。
(2) 共有持分で相続した場合の収入計算の注意点
兄弟で不動産を共有名義(例えば2分の1ずつ)で相続した場合、「自分の持分に対応する収入」だけで判断するのか、「物件全体の収入」で判断するのか、迷うところです。 基本的には「自身の持分に応じた収入」で判断される傾向にありますが、共有者全員で実質的に事業を行っているとみなされる場合もあります。このあたりの解釈は非常にデリケートですので、自己判断せず専門家へ相談することをお勧めします。
3. 管理業務の関与度合いによる基準
規模や収入にかかわらず、公務員自身が管理業務を行っている場合は許可されません。
(1) 自主管理はNG?管理会社への委託が必須条件となる理由
公務員が勤務時間中に「入居者からのクレーム対応」や「家賃の集金」を行うことは、職務専念義務違反に直結します。 そのため、許可を得るためには、管理業務の一切を不動産管理会社等へ委託していることが大前提となります。「親が自主管理でやっていたから、自分も休日にやればいい」という考えは通用しません。
第3 基準を超えても諦めない!広島で適法に持ち続けるための「許可申請」
基準を超えてしまったからといって、すぐに売却しなければならないわけではありません。適切な手続きを踏めば、公務員の身分のまま不動産経営を継続(兼業)することが可能です。
1. 「自営兼業承認申請書」の提出と審査の流れ
相続によって不動産を取得した場合は、自発的に事業を始めたわけではないため、許可が下りやすい傾向にあります。
(1) 広島県教委や県警、市役所など所属庁ごとの申請フロー
許可申請は、ご自身が所属する組織の人事担当部署へ「自営兼業承認申請書」を提出して行います。 広島県職員であれば任命権者(知事など)、広島市職員であれば市長、教職員であれば教育委員会が承認権者となります。申請書類の書式や添付書類(登記事項証明書、賃貸借契約書、確定申告書の写しなど)は所属庁によって異なるため、事前に確認が必要です。
(2) 相続は「やむを得ない事由」として許可が下りやすい傾向
公務員の副業は原則禁止ですが、相続は自分の意思に関わらず発生するものであるため、「やむを得ない事由」として考慮されます。 重要なのは「相続発生後、遅滞なく」手続きを行うことです。放置期間が長くなればなるほど、事後的な承認を得ることが難しくなり、処分のリスクが高まります。
2. 許可を得るための必須条件(管理委託契約)
申請を通すための最大のポイントは、「公務員としての職務に全く支障がない」ことを証明することです。
(1) 広島市内の管理会社等へ業務をフルアウトソースする契約
先述の通り、管理業務の委託は必須です。入居者募集、契約更新、集金、清掃、修繕手配など、すべての業務を管理会社に委託する契約を結ぶ必要があります。 当事務所には、広島市近郊の不動産実務に精通した連携先がありますので、信頼できる管理会社の選定や契約内容のチェックについてもサポートが可能です。
(2) 職務と利害関係(許認可権限など)がないことの証明
また、ご自身の現在の職務が、その不動産事業と利害関係がないことも条件となります。例えば、都市計画課や建築指導課に所属している職員が、管轄内の不動産経営を行う場合などは、配置転換が必要になるケースもあります。
第4 許可申請だけではない!キャリアを守り資産を活かす「遺産分割・対策」
許可申請は一つの手段に過ぎません。不動産の種類やご家族の状況によっては、「そもそも不動産を相続しない」あるいは「形を変えて相続する」方が、結果として資産を守れる場合があります。 ここでは、弁護士ならではの法的スキームを用いた解決策をご提案します。
1. あえて「相続しない」選択肢と代償分割の活用
公務員であるあなたが不動産を持つこと自体がリスクや負担になる場合、「代償分割」という方法が有効です。
(1) 公務員以外の兄弟姉妹に不動産を集中させ、代償金を受け取る
例えば、民間企業に勤めている兄弟姉妹や、すでにリタイアしている親族が不動産を相続し、その代わりにあなたが「代償金(不動産の価値に見合う現金)」を受け取る方法です。これなら副業規定を気にする必要は一切ありません。
(2) 広島市内の不動産評価額上昇に伴う「代償金不足」への対策
近年、広島市中心部や再開発エリア(広島駅周辺など)では不動産価格が上昇傾向にあります。そのため、不動産を相続する側に多額の現金(代償金)を用意する資力がないケースも増えています。 このような場合でも、分割払いの合意書を作成したり、銀行融資と組み合わせたりすることで解決できる場合があります。弁護士が間に入ることで、親族間で感情的なしこりを残さない、現実的な分割案を調整できます。
2. 相続してから売却・組み替えを行う(換価分割)
不動産を保有し続けることにこだわらないのであれば、「換価分割」も検討に値します。
(1) 一度共有で相続し、すぐに売却して現金を分ける方法
不動産を一旦相続登記した上で、すぐに第三者に売却し、諸経費を引いた売却益を相続人間で分配する方法です。これなら将来の管理リスクもゼロになります。 ただし、共有名義のまま売却活動を行うには全員の同意が必要です。
(2) 広島の不動産市場動向を踏まえた売却タイミングの検討
「すぐに売りたいが、安く買い叩かれるのは嫌だ」という場合もご安心ください。 当事務所は、大手司法書士法人「みつ葉グループ」の広島拠点と連携しており、さらに地元の不動産関連企業とも密接なネットワークを持っています。相続登記から売却査定、実際の売却活動まで、不動産実務に強いチーム体制で、スピーディーかつ有利な条件での現金化をサポートします。
3. (生前対策)家族信託を活用した管理権限の分離
もし、親御様がまだお元気であれば、「家族信託(民事信託)」が最も柔軟で効果的な対策となります。
(1) 所有権(利益)は公務員の子へ、管理権限は信託会社や他親族へ
家族信託を使えば、不動産から生じる「利益(家賃収入)」を受け取る権利と、不動産を「管理・処分」する権限を切り分けることができます。 例えば、管理権限は信頼できる親族や専門家に託し、公務員であるあなたは収益だけを受け取る(受益者となる)形にすれば、名義上の所有者ではなくなるため、管理業務の負担から解放されます(※副業規定との関係は個別に確認が必要です)。
(2) 遺言書だけでは解決できない「管理の手間」を消す方法
当事務所には、裁判官を35年、公証人を8年勤め、広島における信託契約実務の第一人者とも言えるベテラン弁護士が在籍しています。公証人時代に数多くの公正証書遺言や信託契約書を作成してきた経験から、形式的な不備のない、確実な信託スキームを構築できる点が大きな強みです。
第5 広島での収益物件トラブル事例と弁護士に依頼するメリット
最後に、公務員の方が自己判断で相続を進めた結果、陥ってしまったトラブル事例と、弁護士にご依頼いただくメリットをご紹介します。
1. 公務員相続人が陥りやすいトラブル事例(広島編)
(1) 事例1:広島市内のマンションを共有し、修繕方針で親族と揉めるケース
「とりあえず法定相続分通りに」と、公務員の長男と会社員の次男でマンションを共有相続した事例。 数年後、大規模修繕が必要になりましたが、費用を出したくない次男と、管理責任を感じる長男との間で意見が対立。結果、修繕ができずに空室が増え、長男は職場への兼業届の更新手続きのたびに精神的な負担を感じるようになってしまいました。
(2) 事例2:無許可で家賃を受け取り続け、職場への発覚を恐れるケース
親の死後、許可申請をしないまま数年間、駐車場収入を得ていた公務員の方。「今さら申請したら過去の分まで処分されるのでは」と恐怖で夜も眠れず、当事務所へ相談に来られました。 このケースでは、弁護士が代理人として法的に整理し、遅ればせながらも誠実に事情を説明するサポートを行いました。
2. 税理士と弁護士の役割の違い
相続というと「まずは税理士」と考える方が多いかもしれません。
(1) 税理士は「相続税」、弁護士は「遺産分割」と「公務員の身分保障」
確かに、相続税の申告は税理士の専門分野です。しかし、税理士は「どうすれば公務員の懲戒処分を防げるか」「兄弟間でどう不動産を分ければ揉めないか」という交渉や法的判断までは行えません。 当事務所は相続税に強い税理士事務所とも連携しているため、税金面のアドバイスも含めたワンストップ対応が可能です。
(2) 広島家庭裁判所の調停・審判を見据えた交渉は弁護士のみ
万が一、遺産分割で親族間の話し合いがこじれた場合、最終的には家庭裁判所での調停や審判になります。 当事務所には、広島家庭裁判所の現役の家事調停官(非常勤裁判官)も在籍しており、広島の裁判所がどのような基準で遺産分割の判断を下すのか、その実務感覚を熟知しています。この「現場の感覚」に基づいたアドバイスができることは、紛争を早期に、かつ有利に解決するための大きな武器となります。
まとめ(まずは広島の当事務所へご相談ください)
公務員の方が収益物件を相続する場合、「職場からの許可(副業問題)」と「親族間の公平(遺産分割問題)」という2つのハードルを同時にクリアしなければなりません。これは一般的な相続よりも複雑で、高度な判断が求められます。
ご自身のキャリアを守り、そして親御様が残してくれた大切な資産を次世代へ有効に引き継ぐために、一人で悩まず専門家を頼ってください。
当事務所は広島市に所在し、元裁判官・元公証人のベテラン弁護士や現役の家事調停官をはじめ、不動産・相続実務に精通したプロフェッショナルがチームで対応いたします。広島市内はもちろん、呉、東広島など県内全域からのご相談を承っております。
公務員の皆様からのご相談実績も豊富ですので、安心してお問い合わせください。

