広島市においても、生涯未婚率の上昇やお子様のいないご夫婦のみの世帯の増加に伴い、「身寄りのない」資産家の方が増えています。
ご自身でビジネスを成功させたり、代々の資産を守ってこられた方ほど、ふとした瞬間にこのような不安を抱かれるのではないでしょうか。 「もし私が明日亡くなったら、この家や預金はどうなるのだろう?」 「誰が私の葬儀をあげ、誰がこの財産を管理するのか?」
対策を何もしないまま亡くなられた場合、最悪のケースでは、長年かけて築かれた財産が国のもの(国庫帰属)となり、広島の地で生かされることなく吸収されてしまいます。あるいは、顔も名前もよく知らない遠縁の方に渡ってしまうこともあります。
本記事では、広島市に拠点を置き、元裁判官・公証人が在籍する法律事務所の視点から、身寄りのない方が直面する相続の厳格な法的ルールと、ご自身の意思で財産を託すための具体的な法務対策について解説します。

第1 身寄りのない人が亡くなった後の「法定相続」と「財産の行方」
まずは、法律の原則を確認しましょう。ご自身が「身寄りがない」と思っていても、法律上は相続人が存在しているケースもあれば、本当に誰もいないケースもあります。
1.法律上の「身寄りがない」とはどのような状態か
民法では、誰が相続人になるか(法定相続人)とその順位が明確に決められています。
(1) 配偶者・子がいない場合の相続順位(直系尊属・兄弟姉妹)
配偶者とお子様(直系卑属)がいらっしゃらない場合、次に相続権を持つのはご両親や祖父母(直系尊属)です。しかし、ある程度の年齢の資産家の方であれば、ご両親はすでに他界されていることが多いでしょう。 その場合、相続権はご自身の「兄弟姉妹」に移ります。疎遠になっていたとしても、戸籍上の兄弟姉妹がいる限り、その方が法定相続人となります。
(2) 兄弟姉妹もすでに他界している場合(代襲相続人の範囲)
もし兄弟姉妹が先に亡くなっていたとしても、その兄弟姉妹にお子様(ご自身から見た甥・姪)がいれば、その甥・姪が相続権を引き継ぎます。これを「代襲相続」といいます。 「身寄りがない」と考えている方の中には、この「甥・姪」の存在を失念されているケースが多々あります。長年会っていない甥や姪が、あなたの全財産を受け継ぐ権利を持つことになるのです。
(3) 法律上の相続人が一人もいない「相続人不存在」のケース
配偶者、子(孫)、直系尊属、兄弟姉妹(甥姪)のすべてがいない場合、初めて法律上の「相続人不存在」となります。いとこ等の傍系親族には相続権はありません。
2.広島家庭裁判所での手続きを中心とした財産処理の流れ
では、相続人が誰もいない場合、遺された財産は自動的に国のものになるのでしょうか? 実はそうではありません。非常に複雑で長い法的手続きが必要となります。
(1) 利害関係人による「相続財産清算人」選任の申立て
亡くなった方に借金があった場合の債権者や、遺贈を受けた人などの利害関係人が、家庭裁判所に対して「相続財産清算人(旧:相続財産管理人)」の選任を申し立てます。 広島市にお住まいの方であれば、管轄は広島家庭裁判所となります。当事務所には広島家庭裁判所の現役の家事調停官(非常勤裁判官)も在籍しておりますが、裁判所での手続きは非常に厳格であり、選任される清算人は通常、地元の弁護士などが選ばれます。
(2) 官報公告と債権者・受遺者への支払・清算手続き
選任された清算人は、亡くなった方の財産を調査・管理し、官報で「相続人を探す公告」などを出します。そのうえで、借金があれば支払い、遺言があればそれに従って財産を渡すなどの清算業務を行います。
(3) 最終的な行き着く先は「国庫への帰属」
一定期間を経ても相続人が現れず、特別縁故者(後述)への分与もなければ、残った財産は最終的に国庫に帰属します。 つまり、生前に対策をしておかなければ、あなたが広島で築いた財産は換金され、国の一般財源として吸収されてしまうのです。
3.「特別縁故者」という制度の限界とリスク
「内縁の妻がいるから大丈夫」「長年世話になった友人がいるから彼にあげたい」と考える方もいらっしゃいますが、遺言書がない場合、それは「特別縁故者」の制度に頼ることになります。
(1) 内縁の妻や療養看護に努めた人が認められる厳格な条件
特別縁故者として認められるには、「被相続人と生計を同じくしていた」「療養看護に努めた」など、特別に親密な関係があったことを証明しなければなりません。単なる友人や、たまに世話をした程度では認められないことが多く、ハードルは非常に高いのが現実です。
(2) 広島家庭裁判所への申立て手続きと、認められるまでの期間
この制度を利用するには、相続人捜索の期間が終了した後に、改めて家庭裁判所に申し立てる必要があります。 申立てから認められるまでには、死後1年以上かかることも珍しくありません。その間、内縁の配偶者などは、住居や生活費の不安にさらされ続けることになります。
(3) 生前対策なしに死後の特別縁故者制度に期待するのは危険
裁判官を35年勤めた当事務所の弁護士の経験から申し上げても、裁判所の判断に委ねるというのは不確実性が高いものです。「おそらく認められるだろう」という希望的観測で対策を怠るのは、資産家としてあまりにリスクが大きいと言わざるを得ません。

第2 広島の資産家こそ対策必須!無対策の場合に生じる3つのリスク
資産をお持ちであればあるほど、放置した場合のリスクは深刻化します。ここでは大きく3つのリスクをご紹介します。
1.リスク1:疎遠な親族への「棚ぼた相続」
(1) 長年交流のない遠方の甥・姪が相続人になるケース
何十年も会っておらず、あなたの介護や看護に一切関与しなかった甥や姪が、法律上の権利として遺産を相続するケースです。
(2) 故人の意思とは無関係に資産が流出する「笑う相続人」問題
ご自身の葬儀にも来ないような親族が、あなたの死を知った途端に現れ、預金や不動産を持っていってしまう。これを「笑う相続人」と呼びます。ご自身の築いた財産が、感謝も想いもない相手に渡ることは、心情的にも耐え難いものではないでしょうか。
(3) 自身の財産を意図しない相手に渡さないための意思表示
この事態を防ぐには、遺言書で「誰に渡すか」を指定するしかありません。兄弟姉妹には「遺留分(最低限の取り分)」がないため、遺言さえあれば、疎遠な親族への流出を完全に防ぐことが可能です。
2.リスク2:広島市内の不動産管理不全と資産の死蔵
(1) 愛着のある広島の自宅や収益物件が競売・換価処分される
相続人がいない、あるいは手続きが放置されると、不動産は管理不全に陥ります。最終的に国庫へ帰属する場合でも、不動産は原則として競売等で換金されます。代々守ってきた土地や、こだわって建てた自宅が、二束三文で売却される可能性があります。
(2) 管理者が不在となることで生じる「空き家」問題と近隣トラブル
特に広島市は、平地だけでなく坂道の多い住宅地も多数存在します。管理者がいなくなった空き家は急速に傷み、庭木の越境や土砂災害のリスクなど、近隣住民に多大な迷惑をかけることになります。
(3) 自身が築いた富が、地域の役に立たずに国へ吸収される無念さ
特に、アパートなどの収益不動産をお持ちの場合、入居者への対応や修繕などの管理業務がストップしてしまいます。当事務所は不動産関連企業とも連携しており、こうした「動かない不動産」のトラブルを数多く見てきましたが、資産価値が毀損される前に手を打つことが重要です。
3.リスク3:死後の手続きの停滞と周囲への負担
(1) 葬儀や納骨を取り仕切る人がおらず、無縁仏となる恐れ
どれだけ資産があっても、死後の手続きを行う権限を持つ人がいなければ、葬儀社も契約できません。最悪の場合、自治体によって火葬され、無縁仏として合祀されることになります。
(2) 賃貸物件や各種契約の解約手続きが滞る
自宅が賃貸の場合の解約や、水道光熱費、入院費の精算など、誰かが事務を行わなければ債務だけが膨らんでいきます。
(3) 生前の交友関係者や賃貸人などに迷惑をかけるリスク
「誰かがやってくれるだろう」という甘えは、結果として、あなたを大切に思ってくれていた友人や知人に、法的権限のない中での対応を強いることになり、多大な迷惑をかけてしまいます。
第3 自分の意思で財産を託すための生前対策【遺言・遺贈】
こうしたリスクをすべて回避し、ご自身の想いを実現する唯一の方法が、生前対策です。
1.遺言書の作成が「最強の解決策」である理由
(1) 法定相続人以外(恩人・友人・団体)に財産を渡す方法
遺言書があれば、血縁関係に関係なく、お世話になった友人や、長年連れ添ったパートナーに財産を遺すことができます。「全財産を〇〇に遺贈する」という一行があるだけで、法的効力が生じます。
(2) 遺留分がない兄弟姉妹(甥姪)への対策としての有効性
前述の通り、兄弟姉妹には遺留分がありません。つまり、遺言書を作成することで、疎遠な親族からの介入を100%防ぐことができます。これは、身寄りのない資産家にとって最大の武器となります。
(3) 広島県内の公証役場で作る「公正証書遺言」の確実性
遺言書には自筆のものもありますが、紛失や無効のリスクを避けるため、公証役場で作成する「公正証書遺言」を強く推奨します。当事務所には、公証人を8年間務めた弁護士が在籍しております。広島の公証実務を知り尽くした視点から、将来的な紛争の余地を残さない、鉄壁の遺言書作成をサポートします。
2.広島の未来へつなぐ「遺贈寄付」という選択肢
(1) 広島市内の大学、NPO、平和関連団体等への寄付でレガシーを遺す
「特定の個人にあげる人がいない」という場合、ご自身の財産を社会貢献に役立てる「遺贈寄付」に関心を持つ方が増えています。広島大学などの教育機関や、平和記念公園に関連する団体、地元の文化振興財団など、ご自身が愛する広島のために資産を託すことができます。
(2) 包括遺贈と特定遺贈の違いと、不動産寄付の注意点
ただし、不動産のまま寄付を受け付けてくれる団体は多くありません。不動産を売却して現金化してから寄付する(清算型遺贈)などの工夫が必要です。当事務所は不動産実務に強い「みつ葉グループ」と連携しているため、こうした不動産の現金化を含む遺贈の設計もスムーズに行えます。
(3) 寄付の意思を確実に実現するための準備
寄付先の選定から、遺留分への配慮、税務上の処理まで、遺贈寄付は専門的な知識が必要です。善意が無駄にならないよう、事前の入念な調整が不可欠です。
3.「遺言執行者」を弁護士に指定すべき重要性
(1) 身寄りのない方の遺言は「誰が実行するか」が最大の鍵
遺言書を書いただけでは不十分です。あなたが亡くなった後、その遺言書の内容を実現する「遺言執行者」を指定しておく必要があります。身寄りがいない場合、信頼できる親族がいないため、専門家を指定するのが一般的です。
(2) 金融機関の解約や不動産登記をスムーズに進めるプロの役割
遺言執行者は、預金の解約、不動産登記(名義変更)、株式の売却など、あらゆる手続きを単独で行う権限を持ちます。特に、親族経営の会社の株式などをお持ちの場合、その取り扱いは非常にデリケートです。企業法務や事業承継に実績のある弁護士を執行者に指定することで、会社への影響を最小限に抑えることができます。
(3) 広島の地域事情に精通した弁護士に依頼するメリット
遺言執行は、地元の金融機関や行政とのやり取りが頻繁に発生します。広島の地域事情や手続きの慣行に精通した地元の弁護士に依頼することで、迅速かつ確実な執行が可能になります。
第4 「財産」以外の不安を解消する【死後事務・財産管理】
遺言は「財産」のことしか決められません。「身体の始末」や「生前の管理」については、別の契約が必要です。
1.お金だけでなく「身体の始末」をつける契約
(1) 広島市周辺の寺院・霊園への納骨・永代供養の生前予約
「先祖代々のお墓に入るのか、永代供養にするのか」「葬儀はどのレベルで行うのか」。これらを決定し、実行してもらうためには「死後事務委任契約」を結びます。広島市内や近郊の霊園事情に詳しい専門家とともに、生前に予約をしておくことが安心につながります。
(2) 家財道具の処分と遺品整理(デジタル遺品含む)の実務
住居の片付けや、パソコン・スマホ内のデータ消去(デジタル遺品)も、死後事務委任の範囲です。これらを誰に託すか決めておくことで、立つ鳥跡を濁さず、きれいな最期を迎えることができます。
(3) これらを第三者に託す「死後事務委任契約」とは
当事務所では、遺言の作成とセットで、この死後事務委任契約のご依頼を多く承っております。契約内容を公正証書にしておくことで、病院や葬儀社、役所に対しても権限を明確に示すことができます。
2.判断能力低下に備える生前の財産管理
(1) 任意後見契約による認知症リスクへの備え
亡くなる前、認知症などで判断能力が低下した場合の備えも重要です。「任意後見契約」を結んでおけば、信頼できる弁護士等が財産管理を行います。
(2) 広島市内の医療機関・施設入居時の身元保証問題への対応
高齢者施設への入居や入院の際、「身元保証人」を求められて困る方がいらっしゃいます。弁護士による見守り契約や財産管理契約があれば、こうした場面でもスムーズに対応できるケースが増えています。
(3) 定期的な見守り契約とホームロイヤー(顧問弁護士)の活用
お元気なうちから「ホームロイヤー(顧問弁護士)」として契約し、定期的に面談を行うことで、体調や考えの変化にいち早く対応できます。当事務所では、信託契約の第一人者でもある元公証人弁護士が、お客様の状況に合わせたオーダーメイドの財産管理スキーム(家族信託など)をご提案可能です。
第5 まとめ:広島で身寄りのない方こそ、オーダーメイドの終活設計を
身寄りのない資産家の方にとって、相続対策は「誰かのため」ではなく「ご自身のため」、そして「ご自身の尊厳を守るため」のものです。
1.法律の専門家を入れることで実現できる「安心」
(1) 遺言+遺言執行+死後事務委任のトータルサポート
遺言書の作成から、予期せぬ認知症への備え、そして死後の葬儀・供養の手配まで。これらをバラバラに依頼するのではなく、法律のプロにトータルで任せることで、盤石な安心が得られます。
(2) 地元の事情に通じた弁護士だからこそできるきめ細やかな対応
広島の不動産事情、裁判所の運用、地元の税理士・司法書士との強固なネットワーク。これらをすべて活用できるのが、当事務所の強みです。大手司法書士法人「みつ葉グループ」広島拠点や、相続税に強い税理士事務所と連携し、登記から相続税申告までワンストップで対応いたします。
(3) 元気なうちに当事務所へ相談するメリット
判断能力が低下してからでは、できる対策が限られてしまいます。「まだ早いかな」と思う今こそが、相談のベストタイミングです。
【お問い合わせ】
当事務所は広島市を中心に、資産を持つおひとり様、ご夫婦のみの世帯の相続対策を数多くサポートしています。 元裁判官・元公証人の知見を活かした確実な遺言作成から、複雑な不動産・株式を含む資産の承継まで、あなたの状況に合わせた最適なプランをご提案します。
あなたの築いた大切な財産を、あなたの意思通りに遺すために。 まずは初回相談にて、あなたの「想い」をお聞かせください。

