特別受益と寄与分とは?弁護士が特別受益・寄与分で損をしないための3Stepを解説

大切な方が亡くなる際には、相続時のことをあまり考えていない方も多いのではないかと思われます。もっとも、あなた1人が被相続人の方の看病をし、それなりにお金をかけたという場合、相続される額が他の相続人と同じだとすれば、不満に思われる方が多いのではないのでしょうか。

本記事では、そのような不満など相続時に生じることが多い不満、その不満を是正する制度について解説し、弁護士が認められるケースと請求方法をご説明いたします。

遺産分割で生じる不満

遺産分割の際の不満とはどのようなものなのでしょうか。よくある例をご紹介いたします。

(1) 「あの子だけずるい!」生前の援助が招く不公平

あなたのお父様が亡くなる際、相続財産が2000万円あり、相続人はあなたと兄の2人だけであったとします。もっとも、亡くなる直前、あなたのお父様がお兄様に対して生計の資本として1000万円を譲渡していたという事情が明らかになったとしましょう。
この際、お父様が亡くなった時点では相続財産が2000万円しかなかったのであるから、相続財産が原則通りに分配されると、あなたは相続財産として1000万円しか受け取ることができないということになってしまいそうです。これに対し、お兄様は亡くなる直前に譲渡された分も含めて2000万円を受け取ることになります。この際、あなたはお兄様に対し、「あの子だけずるい!」と思うことでしょう。

(2) 「私が面倒を見たのに!」生前の援助が招く不公平

上記と同様にあなたのお父様が亡くなる際、相続財産が2000万円であり、相続財産はあなたとお兄様の2人だけであったとします。そして、あなたのお父様は生前病院に入院しており、あなたはお父様が入院してから亡くなるまで500万円の支払いをしていたとしましょう。
この際、原則通りに相続を分配されると、あなたは1000万円ずつお兄様と同額の相続財産を受け取ることになります。この際、あなたはお兄様に対し、「私が面倒を見たのに同じ額を受け取るなんてずるい!」と思うことでしょう。

2. 不公平を是正する制度①(特別受益)

1(1)に記載した不公平(「ずるい!」と思う気持ち)を是正する制度として特別受益をご説明いたします。

(1) 特別受益とは

特別受益とは、被相続人から遺贈を受け、又は婚姻若しくは養子縁組のため若しくは生計の資本として贈与を受けた場合に当該遺贈又は贈与を特別受益といいます(民法903条1項参照)。
そして、特別受益が存在する場合、相続開始時に被相続人が有していた財産の価格に特別受益の価格を加えたものを相続財産とみなし(このようにして計算される財産を「みなし相続財産」という。)、かかるみなし相続財産を前提に相続分を算定します(このような定め方を「特別受益の持ち戻し」といいます。)。その後、特別受益を得ている者は、上記の特別受益の持ち戻しによって計算された額から特別受益の価額を控除した残額が具体的相続分となります(その他の相続人は、上記の相続分が具体的相続分となります)。

(2) 具体的計算方法

1(1)に示した例の相続分の具体的計算方法をご説明いたします。まず、1(1)で示した事例では、あなたのお父様はお兄様に対し生計の資本として1000万円を譲渡しており、かかる1000万円が「特別受益」に該当します。
 この場合、相続財産の2000万円に1000万円を加算した額である3000万円がみなし相続財産となります。そして、遺言等がない場合、それぞれ2分の1ずつ相続されることとなりますので、3000万円の2分の1、すなわち1500万円が特別受益の持ち戻しによって計算された額となります。そして、お兄様は1500万円から特別受益の額である1000万円を引いた500万円を受け取り、あなたは1500万円を受け取ることになります。

(3) 持ち戻し免除の意思表示について

以上が「特別受益」についての原則となります。もっとも、被相続人が特別受益に該当する贈与又は遺贈をする際、これらを持ち戻しによる計算をしない旨の意思表示をされている場合(これを「持ち戻し免除の意思表示」といいます。)、上記のような持ち戻しによる計算は行われなくなります(民法903条3項)ので、注意が必要です。

3. 不公平を是正する制度②(寄与分)

1(2)に記載した不公平(「ずるい!」と思う気持ち)を是正する制度として寄与分をご説明いたします。

(1) 寄与分とは

寄与分とは、相続人の中に、被相続人の事業に関する労務の提供又は財産上の給付、被相続人の療養看護その他の方法により被相続人の財産の維持または増加について特別の寄与をした場合にかけた金額を言います(民法904条の2参照)。
 そして、寄与分が存在する場合、相続分から寄与分に当たる金額を控除した額を相続財産とみなし(このようにして計算される財産を「みなし相続財産」という。)、かかるみなし相続財産を前提に相続分を算定します。その後、寄与分がある相続人は、みなし相続財産を前提に計算された額に寄与分を加えた額を具体的相続分として受け取ることになります(その他の相続人は上記の相続分が具体的相続分となります。)。

(2) 具体的計算方法

1(2)に示した例の相続分の具体的計算方法をご説明いたします。まず、1(2)で示した事例では、あなたはお父様が入院してから亡くなるまで500万円の支払いをしており、これは本来お父様の財産から支払われるべき額をあなたが支払ったものであり、「寄与分」に該当します。
 この場合、相続財産の2000万円から500万円を控除した1500万円がみなし相続財産となります。そして、遺言等がない場合、それぞれ2分の1ずつ相続されることとなりますので、1500万円の2分の1、すなわち750万円がみなし相続財産を前提とした相続分となります。そして、あなたは500万円分の寄与分がありますので、750万円に500万円を加えた1250万を受け取り、お兄様は750万円を受け取ることとなります。

4. 特別受益・寄与分で損をしないための3Step

 相続の際に生じる不公平を解消する制度についての説明は以上のとおりです。以下では、上記の特別受益・寄与分で損をしないためにあなたがとるべき行動を3Stepに分けて説明させていただきます。

(1) Step1(証拠集め)

あなたの行った支出が寄与分に当たるのではないか、また被相続人の方の支出が特別受益に当たるのではないかなどと疑問に思われた場合、これらの証拠(病院への支払いの領収書や、何月何日誰の口座に金銭を振り込んだかがわかる記録等)を残しておく必要があります。仮にあなたが、支出時点で相続時のトラブルが生じると思われないとしても、相続時点では関係が悪化し、トラブルに発展するというケースはよくあります。後の相続トラブルに備えておくという意味でも、これらの証拠は必ず残しておくべきでしょう。

(2) Step2(特別受益、寄与分該当性の判断)

 Step1のとおり証拠を収集した後は、これらの支出が特別受益、寄与分に該当するかを判断する必要があります。本記事で紹介した典型例以外にも寄与分、特別受益に該当する可能性のあるものは多くありますので、判断に迷われた場合には、弁護士等の専門家の意見を聞くことが望ましいでしょう。
 

(3) Step3(交渉、遺産分割調停)

 Step2で特別受益、寄与分に該当すると判断される場合には、そのような前提で計算した相続分を他の相続人に提示し、交渉を行います。こちらの主張に任意に応じてもらえる場合には問題は生じませんが、相手方がこちらの主張に応じてくれない場合、弁護士等の第3者を通じた交渉や遺産分割調停を行うことになります。このように紛争性の高い場合には、解決に専門的見解や法的手続きが必要となるケースが多いため、弁護士等の専門家に依頼することが望ましいでしょう。

5. 遺産の不公平に関するお悩みは当事務所にご相談ください

これまで述べてきたとおり、特別受益、寄与分の問題が生じている場合に、弁護士ができることも多くあります。当事務所では特別受益、寄与分の問題でお困りの方を全力でサポートいたします。
 具体的には、特別受益、寄与分該当性の判断についてのリーガルコメントの提供、他の相続人の方との交渉、遺産分割調停の代理人として参加するなど様々なサポートを行っております。
また、千瑞穂法律事務所では、相続分野を強みとしている弁護士のほか、非常勤裁判官に任官されている弁護士や36年という長期にわたって裁判官を務めていた弁護士がおり、裁判官の視点も踏まえた解決方法の提示をすることが可能です。

特別受益、寄与分の問題で悩まれている方は、お気軽にご相談ください。



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