相続について問題になり、遺言書が出てきた際、遺言書が自書されていない、遺言者が認知症であったなどの事情から、「これは本当に遺言者が書いたものなのか?」「遺言者は本当に内容を理解して遺言書を作成したのか?」といった疑問を抱いたことはないでしょうか。また、納得できない遺言書であったにもかかわらず怪しい遺言書を前に泣き寝入りをしてはいないでしょうか。
本記事では、遺言の種類を紹介したうえで、遺言が無効とされるケースについてご紹介し、遺言の内容に納得できない場合にどのように対処すべきかについても弁護士がご説明いたします。
1 遺言の種類について
遺言が無効となる場合についてご説明する前提として、遺言には様々な種類の遺言があることを知っていただく必要があります。以下では、遺言の種類及びそれぞれの遺言の特徴について簡単にご説明いたします。
(1) 自筆証書遺言
自筆証書遺言とは遺言の全文、日付、氏名を自書し、これに押印することによって作成される方式の遺言です(民法968条)。
(2) 公正証書遺言
公正証書遺言とは、民法969条所定の方式に従って、遺言者が遺言の内容を公証人に伝え、公証人がこれを筆記し、公正証書として作成する遺言です。公証役場に保管されるため、改ざん等の恐れがないことが特徴となります。
(3) 秘密証書遺言
秘密証書遺言は民法970条の方式に従ってなされる遺言であり、遺言者が署名押印した遺言証書を封印することにより、その内容が秘密にされることに特徴があります。
(4) その他の遺言
一般的に作成される遺言は以上のとおりですが、上記の遺言のほかにも、遺言者に死亡の危機が迫っている場合で署名押印ができない場合に作成される危急時遺言(民法976条、979条)や、一般社会との交通を断たれたものにより作成される隔絶地遺言(民法977条、978条)があります。
2. 遺言が無効になる場合とは
遺言が無効となる又は遺言を取り消すことができる場合とはどのような場合でしょうか。以下では、遺言が無効となる又は遺言を取り消すことができる場合について解説いたします。
(1) 遺言の方式に不備がある場合
上述のとおり、遺言には様々な種類があるところ、遺言は厳格な要式行為であり、それぞれ法律で定められた方式に従って作成していない遺言は無効となります。
方式に不備がある場合の具体例としては、自筆証書遺言であるにもかかわらず、自書がなされていない場合や遺言に押印がなされていない場合があります。
(2) 遺言者に遺言能力がない場合
遺言も法律行為であるため、遺言をする際には、法律行為を行うために必要な意思能力(遺言能力)が必要であり、遺言者に遺言能力がない場合には無効となります。遺言能力については、遺言の内容に応じて必要とされる程度が変わるとされており、遺言作成時にどの程度の判断能力を有していたかによって判断されます。
(3) 遺言書が偽造された場合
遺言書が作成権限のないものによって作成された場合、当該遺言は無効となります。遺言が偽造かどうかが問題となるのは主に自筆証書遺言や秘密証書遺言の場合であり、公正証書遺言の場合には公証人役場で遺言が作成、保管されるため、当該遺言が偽造により無効となる可能性は非常に低いです。
(4) 遺言が錯誤・詐欺・強迫によりなされた場合
遺言も法律行為である以上、錯誤・詐欺・強迫の規定の適用を受けるため、相続人は当該遺言を取り消すことができる可能性があります。具体的には、遺言書を作成する際に遺言者に重大な事実誤認があり、それにより遺言書が作成された場合には、相続人は当該遺言を取り消すことができます。もっとも、遺言が上記規定の適用を受けるのは、財産上の事項に限られ、身分上の事項(例えば推定相続人を廃除する場合)については、別途審判によって争われることとなります。
(5) 遺言内容が公序良俗違反である場合
遺言の内容が公序良俗に反する場合にも当該遺言は無効となります(民法90条)。具体例としては、遺言の内容がもっぱら不倫関係にあるものに対してなされたものであり、不倫関係の継続維持のために当該遺言が作成されたと認められる場合等には公序良俗に反する遺言として当該遺言は無効となります。
3. 遺言に納得できない場合の対処法
遺言について無効または取り消しを主張できる可能性があることについては上述のとおりです。以下では、遺言の内容に納得できない場合、どのように対応すればよいかについてご説明いたします。
(1) 資料の収集
遺言の内容について納得できない場合には、上記の無効又は取り消し事由が存在することを前提に事実関係の調査や証拠収集を行うことが非常に重要となります。どのような証拠を収集する必要があるかについては主張する事由ごとに異なりますが、無効であると考える理由を補強する客観的な証拠を収集することが重要となります。具体的には、無効事由として遺言作成時に遺言能力がなかったと考える場合、遺言者の遺言作成時の医療機関の記録等が重要な証拠となります。
なお、どのような事由を主張することを考えている場合であっても、遺言書の原本又は写しについては重要な証拠として収集し、保管する必要があります。
(2) 資料の収集後の対応
資料の収集後は、遺言無効を主張する手続きへと移行するところ、具体的な手続きとしては以下の方法が考えられます。
ア 関係当事者間の協議
遺言の無効を主張する方法として、関係当事者間で協議を行い、当該協議において無効を主張する方法が考えられます。協議によって解決する場合、遺言者の相続人のみならず、利害関係を有する当事者全員で合意する必要があります。
イ 家事調停
上記協議のほかに遺言無効を主張する方法として、家事調停の申し立てを行うという方法が考えられます。家事調停とは、調停機関(調停員)の仲介をもって当事者間の合意による解決を図る手続きとなります。かかる手続きは、調停において当事者間で合意が成立し、調書に記載されたときには確定判決と同一の効力を有するものとされ(家事事件手続法268条1項)、訴訟を経ずに遺言の無効を確定させることができます。
ウ 遺言無効の訴え
上記のほか(特に、当事者間の対立が激しく、合意による解決が期待できない場合)には、遺言無効の訴えを提起することとなります。この場合には、遺言者の遺言が無効であるかどうかについて裁判官によって判断されることとなります。

4. 弁護士に依頼するメリット
(1)相手方との交渉、訴訟対応を依頼者に代わって行うことができる
遺言無効について弁護士に依頼した場合、原則として弁護士が交渉、訴訟対応の窓口となります。これにより、相手方と直接かかわる必要がなくなるため、精神的な負担が軽減されます。また、書面作成についても弁護士に依頼することができますので、書面作成の時間的負担も軽減することができます。
また、遺言の無効の主張が成功するかどうかは、いかに証拠を集め、証拠から自身の主張を論理的に補強できるかにかかっているところ、専門家たる弁護士に相談することでより説得的な主張をすることができます。
(2) 法律知識に基づいた適切な解決ができる
遺言無効について法律知識が不十分なまま相手方と交渉を行うと知らないうちに著しく不利な合意を行ってしまう可能性があります。弁護士に依頼することで、法律的な観点から見たときにどのような解決が妥当な解決といえるかを前提に交渉や調停を行いますので、著しく不利な合意を行う可能性を減らすことができます。
(3) 訴訟となった場合の結果も踏まえた、依頼人にとって最も適切な解決を提示できる
遺言無効を主張する場合、最終的に訴訟によって解決する可能性もあります。弁護士に依頼する場合、現状の証拠や主張をもとに、訴訟となった場合にどれほど勝算があり、また、現状の勝算をもとにした場合、どのような解決を行うのが最も依頼者にとってメリットがあるかをお伝えすることができます。
5. 遺言に関するお悩みは千瑞穂法律事務所にご相談ください
これまで述べてきたとおり、遺言に関する問題について弁護士ができることは多くあります。当事務所では遺言に関する問題でお困りの方を全力でサポートいたします。
具体的には、遺言の無効事由の判断についてのリーガルコメントの提供、他の相続人の方との交渉、遺産分割調停及び遺言無効確認の訴えにおいて代理人として参加するなど様々なサポートを行っております。
また、千瑞穂法律事務所では、相続分野を強みとしている弁護士のほか、非常勤裁判官に任官されている弁護士や36年という長期にわたって裁判官を務めていた弁護士がおり、裁判官の視点も踏まえた解決方法の提示をすることが可能です。
遺言についての問題で悩まれている方は、お気軽にご相談ください。

