広島市およびその周辺都市圏において、長年にわたり事業を営んでこられた経営者の方や、代々の土地を守ってこられた資産家の方々にとって、「相続」は単なる財産の分配手続きではありません。それは、家や事業の歴史を次世代へと正しく承継し、一族の繁栄を盤石なものにするための、人生における最後の大事業といえます。
しかし、資産規模が大きくなればなるほど、そして資産の内容が複雑になればなるほど、リスクは高まります。これまで仲の良かった親族間であっても、ひとたび相続が発生すれば、数千万円、数億円という金額が動く現実に直面し、感情と利害が複雑に絡み合う「争族」へと発展するケースは後を絶ちません。
特にここ数年、広島市中心部での再開発に伴う地価の変動や、経営者の高齢化に伴う事業承継問題など、地域特有の事情も相まって、遺産分割の難易度は上がっています。
本記事では、富裕層や資産家の方が直面しやすい相続リスクと、それを回避して円満かつ戦略的に資産を承継するためのポイントについて、法的な視点から詳しく解説します。

1 広島の資産家・経営者の相続で「争族」リスクが高まる背景
なぜ、十分な資産がある家庭ほど揉めてしまうのでしょうか。「分けるものがこれだけあるのだから、喧嘩にはならないだろう」というのは、残念ながら誤解です。資産があるからこそ、分け方を巡る選択肢が増え、それぞれの主張が対立する余地が生まれてしまうのです。
1-1 広島市内中心部の地価上昇・再開発が招く「遺産評価」の激しい対立
相続財産の中で最も揉める原因となりやすいのが「不動産」です。特に広島においては、近年の広島駅周辺の再開発や、紙屋町・八丁堀エリア、さらには近郊の住宅地における地価の変動が、遺産分割に大きな影を落としています。
(1)評価額の数%のズレが「数千万単位」の差を生む、広島の不動産事情
預貯金であれば「1円」は誰が見ても「1円」ですが、不動産には「一物四価(実勢価格、公示地価、路線価、固定資産税評価額)」と呼ばれる複数の評価基準が存在します。 一般的な遺産分割協議では、相続税評価額(路線価等)を基準に話し合うことが多いですが、広島市中心部や人気のあるエリアの収益物件などでは、路線価と、実際に市場で売買される価格(実勢価格)との間に大きな乖離が生じることが珍しくありません。
資産規模が大きい場合、この評価方法をどちらにするか、あるいは鑑定評価をどのタイミングで入れるかによって、評価額に数千万円、場合によっては億単位の差が生じます。財産を受け取る側は少しでも評価を低く見積もりたいと考え、代償金をもらう側は高く評価してほしいと考える。この利益相反が、深刻な対立を生むのです。
(2)「先祖代々の土地」への思い入れと、資産価値の乖離が招く親族間の亀裂
また、広島市周辺の旧家や資産家の場合、「先祖代々の土地」に対する思い入れの強さも紛争の火種となります。 「長男が本家と土地を継ぐのは当然」と考える世代と、「法定相続分通りの権利を主張したい」と考える次世代との価値観の衝突です。特に、不動産以外の金融資産が少ない場合、不動産を取得しない相続人に対して支払う「代償金」が用意できず、結果として代々守ってきた土地を売却せざるを得なくなるという悲劇も起きています。
1-2 広島のオーナー企業特有の「事業承継」と遺産分割の板挟み
広島は、ものづくり企業をはじめとする優良なオーナー企業が数多く存在する地域です。経営者の相続において避けて通れないのが、自社株(非上場株式)の扱いです。
(1)自社株や事業用資産が遺産の大半を占めるケースの難しさ
会社経営者の場合、個人の資産と会社の資産が密接に関係しています。相続財産の大半が「自社株」であることも少なくありません。 後継者である長男に自社株をすべて相続させようとすれば、他の兄弟姉妹の遺留分を侵害してしまう可能性があります。かといって、株式を兄弟で分散して持たせてしまえば、会社の意思決定がスムーズにいかなくなり、将来的な経営権争い(お家騒動)に発展しかねません。
当事務所には、親族経営の会社の顧問弁護士としての実績も多く、株式の争奪戦や評価を巡る紛争を数多く目にしてきました。事業承継を絡めた遺産分割は、単なる財産分けではなく「企業の存続」がかかった重大な局面であり、会社法と相続法の両面に精通した高度な判断が求められます。
(2)高額な相続税納税による「資金不足」が引き起こす資産売却トラブル
富裕層の相続で必ず直面するのが「納税資金」の問題です。資産総額は大きくても、その多くが不動産や自社株などの「換金しにくい資産」である場合、相続税を支払うための現預金が手元にないという事態(キャッシュプア)に陥ります。 納税期限は相続開始から10ヶ月以内と決まっています。遺産分割協議がまとまらなければ、配偶者の税額軽減や小規模宅地等の特例といった有利な制度を使えないまま納税することになりかねません。焦って不動産を安く売り急ぐような事態を避けるためにも、早期の対策が不可欠です。
2 円満解決の第一歩は、広島・周辺エリアの全資産の「可視化」と「適正評価」
遺産分割協議を感情論にせず、建設的な話し合いにするための唯一の方法は、客観的な事実(数字)をテーブルに乗せることです。つまり、資産の「可視化」と「適正評価」です。
2-1 多岐にわたる財産を網羅した「財産目録」の精緻な作成
富裕層の方の資産は、複数の銀行口座、証券口座、国内外の不動産、ゴルフ会員権、美術品など、多岐にわたります。一部の相続人が財産を隠しているのではないかという疑心暗鬼が生まれると、信頼関係は崩壊し、協議は停滞します。
(1)広島市・周辺都市圏に点在する不動産・有価証券等の徹底的な洗い出し
まずは、正確な財産目録を作成することがスタートラインです。 特に不動産については、自宅だけでなく、投資用マンション、駐車場、山林、原野に至るまで、名寄帳などを活用して漏れなく調査する必要があります。当事務所では、同じフロア内で連携する全国規模の司法書士法人「みつ葉グループ」とともに、迅速かつ正確な不動産調査を行える体制を整えています。登記簿上の情報だけでなく、権利関係の複雑な不動産についてもスピーディに実態を把握できるのが強みです。
(2)経営者の場合に必要な「法人資産」と「個人資産」の峻別と整理
経営者の場合、会社に対する貸付金や、会社名義の保険、個人名義で会社に使用させている不動産など、法人と個人の資産が入り組んでいるケースが多々あります。これらを法的に整理し、どの範囲が遺産分割の対象になるのかを明確に切り分ける作業は、専門的知見なしには困難です。
2-2 不動産・自社株の評価額をめぐる争いの回避
財産のリストアップができたら、次は「いくらで評価するか」という最大の難関に挑みます。
(1)「相続税評価額」と広島の「実勢価格(時価)」の乖離への対応策
前述の通り、広島市内の一部エリアでは路線価と実勢価格に大きな開きがあります。公平な遺産分割を目指すならば、安易に路線価だけで計算するのではなく、市場価格を意識した調整が必要です。 しかし、単に「相場が高いはずだ」と主張するだけでは水掛け論になります。近隣の取引事例や、収益還元法を用いた理論的な価格など、説得力のある根拠を示す必要があります。
(2)地元の不動産事情に精通した専門家の意見書を活用し、客観的基準を作る
不動産評価で揉めそうな場合は、不動産鑑定士による鑑定評価や、信頼できる不動産業者の査定書を取得することが有効です。 当事務所は、地元の不動産鑑定士や不動産関連企業とも連携しており、特に評価の難しい賃貸アパートなどの収益不動産が含まれる案件を数多く手掛けてきました。実務に即した適正な評価額を算出することで、相続人全員が納得できる「着地点」を見出すサポートを行っています。
また、自社株の評価についても、純資産価額方式や類似業種比準方式など、会社の規模や状況に応じた適切な評価方法を選定する必要があります。これには、税務署で資産税分野を長年担当していた経験を持つ税理士との連携により、税務リスクも考慮した精緻な評価を行っています。

3 富裕層が検討すべき「公平」かつ「戦略的」な遺産分割スキーム
資産の全容と評価が固まれば、次は具体的な分け方(スキーム)の検討に入ります。富裕層の遺産分割では、単に法定相続分で割るだけでなく、資産を守り、活用するための戦略的な視点が求められます。
3-1 資産の散逸を防ぎ、広島での家・事業を守るための分割方法
不動産や自社株を共有状態(複数の相続人で持ち合うこと)にすることは、将来の禍根を残す最悪の選択肢です。次の世代、そのまた次の世代へと権利関係が複雑化し、売るに売れず、貸すに貸せない「塩漬け資産」を生み出してしまうからです。
(1)特定の相続人に不動産等を集中させる「代償分割」の活用と資金調達
事業承継者や、家を守る特定の相続人が主要な資産(不動産や自社株)を取得し、その代わりに他の相続人へ金銭を支払う「代償分割」が、資産散逸を防ぐための王道です。 この際、代償金をどう調達するかが課題となります。生命保険の活用や、金融機関からの融資、あるいは一部の遊休資産の売却など、資金調達のプランニングも含めた提案が必要です。
(2)納税資金を確保しつつ、資産価値を最大化する「換価分割」の選択
どうしても代償金が用意できない場合や、誰も取得を希望しない不動産がある場合は、売却して現金を分ける「換価分割」を検討します。 ただし、単に売ればよいわけではありません。譲渡所得税の負担や、売却のタイミングを見極め、手取り額が最大になるような売却戦略を立てることが重要です。ここでも不動産実務に強い専門家との連携が活きてきます。
3-2 高額な生前贈与と特別受益の適切な処理
富裕層の相続で頻繁に問題になるのが、生前贈与の扱いです。「長男は家の建築資金を出してもらった」「次女は留学費用を出してもらった」といった過去の援助は、法律上「特別受益」として遺産に持ち戻して計算するのが原則です。
(1)過去の資金援助や贈与を巡る不満を解消するための法的調整
特別受益の主張は、感情的な対立の温床となりやすい部分です。どこまでを特別受益と認めるか、その証拠はあるのか。当事者間で結論が出なければ、最後は家庭裁判所の裁判官が判断を下す審判で決まります。
当事務所には、広島家庭裁判所の現役の非常勤裁判官(家事調停官)が在籍しており、実際の調停現場でどのような判断が下されているかという「相場観」を熟知しています。 裁判所が認める可能性の低い主張に固執して時間を浪費するのではなく、見通しを踏まえた現実的なラインでの調整を行うことで、早期解決を図ることができます。
(2)遺産分割における「持戻し免除」の意思表示とその活用法
被相続人(亡くなった方)が、「生前贈与した分は、遺産分割の計算に含めなくてよい」という意思を示していた場合(持戻し免除の意思表示)、贈与を受けた相続人はその分を多く受け取ることができます。 遺言書などでこの意思表示を明確にしておくことは、特定の相続人を手厚く保護するための有効な手段となります。
4 広島で確実な資産承継を実現するために弁護士を活用するメリット
富裕層・資産家の相続においては、トラブルが起きてから対処する「事後対応」ではなく、トラブルを未然に防ぐ「予防法務」、そして万が一トラブルになった際も傷口を広げない「戦略的対応」が不可欠です。
4-1 「争族」を未然に防ぐ、法的効力の強い遺言書の作成
最も効果的なトラブル防止策は、法的に不備のない遺言書を作成することです。しかし、ただ「公正証書遺言」を作れば安心というわけではありません。
(1)遺留分侵害額請求を想定した、隙のない「公正証書遺言」の設計
資産規模が大きい場合、特定の相続人に財産を集中させようとすると、他の相続人の「遺留分(最低限の取り分)」を侵害する可能性が高くなります。遺留分を無視した遺言書を作ると、死後に「遺留分侵害額請求」という訴訟を誘発し、結局は家族が争うことになります。
当事務所には、裁判官を35年、公証人を8年務めたベテラン弁護士が在籍しています。公証人として数多くの公正証書遺言を作成してきた経験から、将来の紛争リスクを徹底的にシミュレーションし、遺留分対策(付言事項の工夫や、生前贈与との組み合わせ、生命保険の活用など)を講じた、極めて堅牢な遺言書の作成をサポートします。
また、近年注目されている「家族信託(民事信託)」についても、この元公証人の弁護士は広島における先駆者的な存在であり、遺言だけでは実現できない柔軟な資産承継(例えば、二次相続以降の承継先の指定など)の設計も可能です。
(2)遺言執行者を弁護士に指定し、複雑な資産承継手続きを確実に実行する
遺言書の内容を確実に実現するためには、「遺言執行者」の指定が重要です。資産が多岐にわたる場合、親族が執行者になると手続きの負担が重く、また他の相続人から公平性を疑われるリスクもあります。 弁護士を遺言執行者に指定していただくことで、預貯金の解約、不動産の名義変更、株式の書き換えなどの複雑な手続きを、中立的な立場で厳格かつ迅速に遂行することができます。
4-2 広島の他士業と連携した「法務×税務」のワンストップサポート
富裕層の相続は、法的な「分割」の問題と、税務的な「節税・納税」の問題が表裏一体です。どちらか一方だけを見ていては、最適な解決はできません。
(1)地元の税理士・不動産鑑定士と連携し、節税と紛争予防を両立
「税金は安くなったが、家族の仲は最悪になった」「円満に分けたが、想定外の税金がかかった」ということになっては本末転倒です。 当事務所は、相続税に強い税理士事務所や、不動産鑑定士や不動産業者などの不動産の実務家と密に連携し、法務と税務の両面からベストな解決策を提案できる体制(ワンストップサービス)を構築しています。
(2)広島家庭裁判所の実務傾向を踏まえた、現実的で有利な解決策の提案
最後に、万が一調停や審判になった場合、地元の裁判所がどのような判断傾向を持っているかを知っていることは大きなアドバンテージになります。 長年の裁判官経験を持つ弁護士や、現役の家事調停官として実務に携わる弁護士が在籍する当事務所は、裁判所の思考プロセスを熟知しています。「裁判官ならこの証拠をどう見るか」「この主張は通るか」という視点から戦略を立てることで、依頼者様にとって最大限有利かつ、納得感のある解決を目指します。
おわりに
資産家・富裕層の方にとっての相続対策は、単なる「手続き」ではなく、ご自身が築き上げてきた財産と想いを、愛する家族へと託すための「経営判断」です。
広島というこの地で、大切な資産を円満に、そして確実に次世代へつなぐために。 複雑な財産構成の整理から、遺言・信託の活用、そして万が一の紛争対応まで。相続・遺言の専門家集団である当事務所が、あなたの「家」と「資産」を守るためのパートナーとして全力でサポートいたします。
まずは一度、当事務所の初回相談をご利用ください。現状の資産状況を分析し、将来起こりうるリスクと、今打つべき対策について、具体的にお話しさせていただきます。

