はじめに
人生100年時代と言われて久しい昨今、広島県内においても高齢化の波は例外なく押し寄せています。当事務所には、広島市中区・東区・南区などの中心部や、その周辺の広域都市圏に不動産や自社株などの多額の資産をお持ちの方から、将来の財産管理に関するご相談が急増しています。
特に、資産家の方々が最も懸念されているのが、認知症による「資産の凍結(塩漬け)」です。
「親が認知症になったら、成年後見人を付ければ何とかなる」
かつては、そう安易に考えられていた時代もありました。しかし、法的な実務の現場を知る専門家の視点から申し上げれば、一定以上の資産をお持ちの方にとって、安易な成年後見制度の利用は、資産を目減りさせ、家や事業の存続を危うくする「最大のリスク」になりかねません。
本記事では、広島で長年、法律実務に携わってきた弁護士の視点から、なぜ富裕層・資産家が成年後見制度を避けるのか、その構造的な理由と、それに代わる「 家族信託 × 遺言 」という解決策について、実務の裏側を交えて解説します。

1 広島の資産家が陥りやすい「成年後見制度」の落とし穴
ご家族が認知症になり、判断能力が低下した場合、銀行口座の凍結解除や不動産売却のために「法定後見制度(成年後見)」の利用が検討されます。しかし、この制度の本質はあくまで「本人の財産保護」にあります。
「保護」といえば聞こえは良いですが、資産運用や経営の視点から見れば、それは「現状維持という名の手足の拘束」に他なりません。ここでは、資産家の方が成年後見制度を利用した際に直面する、予期せぬトラブルについて解説します。
(1)成年後見制度は「資産を守る」だけで「運用」はできない
成年後見人が選任されると、被後見人(ご本人)の財産は家庭裁判所の厳格な監督下に置かれます。後見人の役割は、財産を減らさないように守ることであり、増やすことや、家族のために有効活用することではありません。この「運用の壁」が、資産家にとって致命的な問題を引き起こします。
① 広島市内の収益物件における「大規模修繕」や「建替え」のハードル
例えば、広島市内に築30年以上の賃貸アパートを一棟所有しているケースを考えてみましょう。
オーナーであるお父様が認知症になり、成年後見人が付いたとします。その後、アパートの老朽化が進み、雨漏り対策の大規模修繕や、あるいは資産価値向上のための建て替えが必要になったとします。
通常であれば、銀行からアパートローン等の融資を受けて工事を行い、将来の家賃収入で返済するという経営判断を行うでしょう。しかし、成年後見制度下では、このような判断が極めて困難になります。
なぜなら、家庭裁判所や後見人は「借金を背負ってまで投資(工事)をして、もし失敗したら本人の財産が減ってしまうではないか」という保守的な判断を最優先するからです。
「将来のための投資」という経営的視点は、成年後見制度の「本人の財産保護」という理念とは相容れません。
- 大規模修繕ができない(入居者からのクレーム対応が困難)
- 空室対策のリフォームができない(家賃収入の減少)
- 建て替えができない(土地の有効活用がストップ)
結果として、修繕も建て替えもできず、資産価値が下がり続けるのを指をくわえて見ているしかない――いわゆる「資産の塩漬け」状態に陥る事例が、ここ広島でも後を絶たないのです。
② 柔軟な資産組み換えができず、相続税対策がストップするリスク
また、資産家にとって重要な「相続税対策」も、成年後見制度の利用によって完全にストップします。
- 「相続税を減らすために、手元の現預金を使って収益不動産を購入したい」
- 「孫の教育資金として生前贈与(暦年贈与)を行いたい」
- 「生命保険を活用して非課税枠を使いたい」
これらは、元気なうちであれば当然の権利として行える対策です。しかし、一度後見制度が開始されると、これらの行為は原則として認められなくなります。
「本人が使うわけではないお金を、なぜ他人に贈与するのか(本人の財産を減らすのか)」という理屈により、裁判所や後見人が許可を出さないためです。
当事務所には、税務署で資産税分野を長年担当していた税理士が所属する税理士事務所と連携体制がありますが、税務のプロの視点から見ても、「認知症発症後に対策が打てなくなり、結果として数千万円単位の相続税が発生してしまった」というケースは、ご家族にとってあまりに酷な結果と言わざるを得ません。広島市中心部や駅周辺など、地価が上昇傾向にあるエリアに土地をお持ちの方は、特に注意が必要です。
(2)親族後見人が選ばれない可能性と専門家報酬の負担
「後見人には家族(長男など)がなればいい」とお考えの方も多いですが、実務の実情はそう単純ではありません。
① 流動資産が多い場合に選任される「専門職・後見人」とは
現在の家庭裁判所の運用では、親族が後見人候補者として名乗りを上げても、そのまま選任されるとは限りません。特に、以下のようなケースでは、弁護士や司法書士などの「専門職・後見人」が選任される可能性が高くなります。
- 預貯金や株式などの流動資産が多額にある場合(概ね1000万円〜数千万円以上が目安とされることもあります)
- 賃料収入などで財産管理が複雑な場合
- 親族間で意見の対立がある場合
これは広島家庭裁判所の管内においても同様の傾向が見られます。
② 「専門職・後見人」への報酬支払の負担
見ず知らずの専門家が通帳や権利証を管理することへの心理的抵抗感もさることながら、経済的な負担も見過ごせません。
「専門職・後見人」の報酬は、管理する財産額に応じて家庭裁判所が決定します(月額2万円〜6万円程度、資産額によってはそれ以上)。ご本人が亡くなるまで毎月支払い続けなければなりません。
「資産を守るための制度を利用したはずが、長期間にわたる高額な報酬支払いで、かえって資産が目減りしてしまう」
このパラドックス(逆説)こそが、富裕層が成年後見制度を避ける最大の理由なのです。
2 富裕層の資産管理・承継に「家族信託」が選ばれる理由
前述のような成年後見制度の「硬直性」というリスクを回避し、資産家ならではの「運用」「承継」のニーズを満たす手法として、近年、広島の富裕層の間でも急速に普及しているのが「家族信託(民事信託)」です。
(1)認知症になっても「資産の凍結」を防ぐ仕組み
家族信託とは、一言で言えば「元気なうちに、信頼できる家族に財産の管理権限だけを移しておく契約」です。
① 委託者(親)の意思に基づき、家族が柔軟に管理・処分できる
仕組みはこうです。資産を持つ「委託者(親)」が、信頼できる「受託者(子など)」に対し、不動産や現金などの財産を信託します。そして、その財産から生じる利益(家賃収入など)を受け取る権利は、そのまま「受益者(親)」が持ち続けます。
この仕組みの最大のメリットは、「親が認知症になった後でも、受託者である子の判断で、資産の売却や活用ができる」という点です。
例えば、先ほどの「修繕が必要なマンション」の例で言えば、家族信託契約の中で「受託者は大規模修繕や建て替え、売却などの権限を持つ」と定めておけば、親が認知症になっても、子の判断で銀行融資を受け、工事を実行することができます。これに裁判所の許可は不要です。
これは、単なる財産管理の枠を超え、「親が培ってきた資産の価値を、子が受け継ぎ、さらに高めていく」という、資産家にとって理想的な承継の形と言えるでしょう。
② 【比較表】成年後見制度 vs 家族信託
ここで、成年後見制度と家族信託の違いを整理します。この違いを理解することが、資産防衛の第一歩です。
| 比較項目 | 成年後見制度 | 家族信託 |
| 開始のタイミング | 判断能力が低下した後 | 判断能力があるうち(元気なうち) |
| 財産管理の目的 | 本人の財産保護・現状維持 | 本人の希望・一族の繁栄・資産活用 |
| 不動産の売却・活用 | 原則不可(売却も厳格な要件あり) | 契約内容に基づき、積極的な活用が可能 |
| 相続税対策 | 原則不可 | 可能(信託契約の中で設計可能) |
| ランニングコスト | 専門家後見人の場合、月額数万円〜 | 基本的に無料(家族が管理するため) |
| 監督機関 | 家庭裁判所 | 原則なし(信託監督人を置くことも可) |
この表からも分かる通り、資産規模が大きく、積極的な運用や承継対策が必要な方ほど、家族信託のメリットは大きくなります。
(2)複雑な資産(収益不動産・自社株)への対応力
家族信託の真価は、金銭以外の「扱いの難しい資産」においてこそ発揮されます。
① 共有名義になりがちな不動産の分散リスクを防ぐ
相続において最もトラブルになりやすいのが不動産です。特に、一つの不動産を兄弟で共有名義にしてしまうと、将来、売却や活用の際に全員の同意が必要となり、事実上「塩漬け」になってしまうリスクがあります。
家族信託を活用すれば、不動産の管理処分権限は「受託者である長男」一人に集約しつつ、そこから得られる家賃収入などの経済的利益は「兄弟で分配する」といった設計が可能になります。
これにより、「権利の分散(共有)」を避けつつ、「利益の公平な分配」を実現することができるのです。
② 広島の経営者が注目する「自社株信託」による事業承継
また、広島で事業を営むオーナー経営者様からのご相談で多いのが、「自社株」の承継問題です。
認知症により議決権が行使できなくなれば、会社の経営はストップしてしまいます。かといって、まだ若く経験の浅い後継者に、生前に全ての株を譲渡することに不安を感じる経営者様も少なくありません。
このような場合、「自社株信託」が極めて有効です。
例えば、自社株を後継者に信託しつつ、「指図権(議決権行使について指示を出す権限)」を経営者自身が持ち続けるよう設計します。こうすることで、株の名義(法的形式)は後継者に移しつつ、実質的な経営権(議決権)は現社長が維持することができます。
そして、いざ社長が認知症になったり亡くなったりした際には、指図権が消滅し、完全に後継者に権限が移るようにしておけば、空白期間を作ることなくスムーズな事業承継が可能となります。
当事務所には、親族経営の会社の顧問弁護士としての実績が多数あり、株式の評価や争奪戦といった、いわゆる「お家騒動」の現場も数多く見てきました。その経験から申し上げれば、経営権の承継こそ、曖昧さを残さず、法的拘束力のある信託契約で固めておくべき最優先事項です。
3 「家族信託」だけでは不十分?「遺言」を併用すべき理由
ここまで家族信託の有用性をお伝えしましたが、実は「家族信託契約さえ結べば万全」というわけではありません。完璧な資産承継を目指すのであれば、伝統的な「遺言(公正証書遺言)」との併用が不可欠です。
(1)広島近郊の農地や山林など、信託に入れにくい財産も漏れなく承継する
家族信託契約では、特定の財産(例えば、主要な不動産やまとまった資金)を信託財産として指定します。しかし、生活費用の口座や、広島近郊にある山林・農地、将来入ってくる年金など、信託財産に入れない(入れにくい)財産も必ず手元に残ります。
これらの「信託に入らなかった財産」については、別途対策をしておかないと、通常の遺産分割協議が必要となり、そこで遺族間の話し合いがまとまらなければ、結局トラブルになってしまいます。
そのため、「信託財産は信託契約で承継先を決め、それ以外の財産は遺言ですべて〇〇に相続させる」というように、信託と遺言をセットで作成し、財産の承継先を網羅的に指定しておくこと(信託と遺言の相互補完)が、実務上のセオリーとなります。
(2)遺留分対策と「争族」の防止(弁護士による遺留分設計)
富裕層の相続において、避けて通れないのが「遺留分」の問題です。特定の相続人(例えば長男)に事業用資産や不動産を集中させようとすると、他の相続人(次男や長女など)から「遺留分侵害額請求」を起こされるリスクが高まります。
家族信託は、財産管理には強力な効果を発揮しますが、遺留分を完全に消滅させる魔法の杖ではありません。
だからこそ、「どの財産を信託し、どの財産を遺言で他の相続人に渡すか(代償金の原資とするか)」という、全体のバランスを考慮した緻密な設計が求められます。
当事務所には、元裁判官(35年在職)や元公証人(8年在職)という経歴を持つベテラン弁護士が在籍しています。
裁判官として多くの遺産分割調停や裁判の判決を下してきた視点、そして公証人として数多くの公正証書遺言や信託契約を作成してきた経験から、「どのような書き方をすれば揉めるのか」「裁判所はどう判断するのか」を熟知しています。
単に契約書を作るだけでなく、将来の紛争リスクを極限まで下げるための「遺留分対策」や、家族への想いを伝える「付言事項」の活用など、紛争の現場を知る弁護士ならではの視点でアドバイスを行っています。

4 広島で富裕層の相続対策なら、当事務所の「設計力」にお任せください
家族信託や遺言は、あくまで「道具」です。重要なのは、依頼者様ごとの資産状況や家族関係に合わせて、その道具をどう使いこなすかという「設計力」です。
(1)パッケージ商品ではない、オーダーメイドの法的スキーム
広島の税理士・不動産会社と連携した「法務×税務」のトータルサポート
近年、家族信託を定型的なフォーマットで安価に提供する業者も増えていますが、資産家の方々の事情は千差万別であり、テンプレートで対応できるケースは稀です。
特に、信託契約の内容は、将来数十年にわたってご家族を拘束する「家の憲法」のようなものです。一箇所の条文の不備が、将来的に数億円の損失や、取り返しのつかない親族間対立を生むこともあります。
当事務所では、法律の専門家としての知見はもちろん、他士業・他業種との強力な連携体制を構築しています。
例えば、全国規模の大手司法書士法人「みつ葉グループ」の広島拠点と同一事務所内で連携しており、信託に伴う複雑な不動産登記実務にも迅速に対応可能です。
また、元税務署の資産税担当であった税理士が所属する事務所とも密に連携しており、信託の設計段階から「相続税評価額への影響」や「損益通算の可否」など、高度な税務判断を取り入れたスキーム提案を行っています。
さらに、地元の不動産会社とも提携し、収益不動産の収支シミュレーションや評価も踏まえた、実効性の高いご提案が可能です。「法律的には正しいが、税務や経営的には損をする」といった縦割りの弊害を防ぎ、トータルで資産を守る体制を整えています。
(2)万が一のトラブルにも対応できる「紛争解決力」
契約書作成だけで終わらない、弁護士による安心のバックアップ
そして、私たちが弁護士である最大の強みは、「万が一、トラブルが起きた時に守りになれる」ということです。
司法書士やコンサルティング会社は、登記や契約書作成はできますが、もし相続人間で紛争が勃発した場合、代理人として交渉や調停を行うことはできません。
当事務所には、広島家庭裁判所の現役の非常勤裁判官(家事調停官)を務める弁護士も在籍しており、現在の調停実務の運用や、紛争の着地点を肌感覚で理解しています。
契約書の作成はゴールではなく、スタートです。長い運用期間の中で、もし予期せぬ意見の対立やトラブルが生じたとしても、紛争解決のプロフェッショナルである弁護士が、最後までご家族をお守りします。
5.よくあるご質問(FAQ)
富裕層・資産家の皆様から、当事務所によく寄せられるご質問をまとめました。
Q1. 家族信託は、どこの専門家に相談しても同じですか?
いいえ、大きく異なります。家族信託は「契約書の内容」がすべてであり、その設計には高度な法的知識と税務知識、そして紛争予測能力が求められます。経験の浅い専門家が作成した信託契約では、銀行口座が開設できなかったり、不動産の売却がスムーズにいかなかったりするトラブルが報告されています。当事務所では、元公証人や元裁判官の知見を活かし、金融機関の審査にも通る確実な契約書を作成します。
Q2. 広島市外に住んでいますが、相談は可能ですか?
はい、可能です。当事務所は広島市中心部にございますが、東広島市、呉市、廿日市市など、広島都市圏全域および周辺エリアからのご相談を承っております。Zoom等のオンライン面談も対応可能ですので、まずはお気軽にお問い合わせください。
Q3. まだ認知症ではありませんが、今から相談しても早すぎませんか?
決して早すぎることはありません。むしろ、家族信託も遺言も、認知症の診断を受けて判断能力がないとみなされると、一切の手続きができなくなります。ご本人がお元気で、ご自身の意思をはっきりと伝えられる「今」こそが、唯一の対策可能なタイミングです。
6.まとめ・お問い合わせ
資産家の方にとって、認知症対策と資産承継は、一刻の猶予も許されない課題です。
なぜなら、家族信託も遺言も、「判断能力がある(元気な)」うちにしか契約することができないからです。一度認知症が進行してしまえば、選択肢は今回解説した「成年後見制度」に限られてしまい、資産の凍結リスクを甘受せざるを得なくなります。
「うちはまだ大丈夫」と思われている今こそが、対策を講じるベストなタイミングです。
当事務所は広島市中心部に位置し、市内全域および近隣都市からのアクセスも良好です。
これまでの豊富な実務経験(裁判官・公証人経験、企業法務、不動産実務など)を結集し、あなたの資産とご家族の未来を守るための、最適な「法務戦略」をご提案いたします。
まずは、現状の資産構成にどのようなリスクが潜んでいるのか、診断することから始めてみませんか?
初回のご相談は無料で承っております。広島の地主様、経営者様からのご連絡を、心よりお待ちしております。

▼関連する記事はこちら▼
広島の資産を次世代へ守り抜く。富裕層・資産家のための「戦略的」相続対策と遺産分割
