Archive for the ‘相続コラム’ Category

【資産凍結のリスク】なぜ、広島の富裕層は「成年後見制度」を避けるのか?収益不動産と自社株を守るための法務戦略

2025-11-27

はじめに

 人生100年時代と言われて久しい昨今、広島県内においても高齢化の波は例外なく押し寄せています。当事務所には、広島市中区・東区・南区などの中心部や、その周辺の広域都市圏に不動産や自社株などの多額の資産をお持ちの方から、将来の財産管理に関するご相談が急増しています。

 特に、資産家の方々が最も懸念されているのが、認知症による「資産の凍結(塩漬け)」です。

「親が認知症になったら、成年後見人を付ければ何とかなる」

 かつては、そう安易に考えられていた時代もありました。しかし、法的な実務の現場を知る専門家の視点から申し上げれば、一定以上の資産をお持ちの方にとって、安易な成年後見制度の利用は、資産を目減りさせ、家や事業の存続を危うくする「最大のリスク」になりかねません。

 本記事では、広島で長年、法律実務に携わってきた弁護士の視点から、なぜ富裕層・資産家が成年後見制度を避けるのか、その構造的な理由と、それに代わる「 家族信託 × 遺言 」という解決策について、実務の裏側を交えて解説します。

1 広島の資産家が陥りやすい「成年後見制度」の落とし穴

 ご家族が認知症になり、判断能力が低下した場合、銀行口座の凍結解除や不動産売却のために「法定後見制度(成年後見)」の利用が検討されます。しかし、この制度の本質はあくまで「本人の財産保護」にあります。

 「保護」といえば聞こえは良いですが、資産運用や経営の視点から見れば、それは「現状維持という名の手足の拘束」に他なりません。ここでは、資産家の方が成年後見制度を利用した際に直面する、予期せぬトラブルについて解説します。

(1)成年後見制度は「資産を守る」だけで「運用」はできない

 成年後見人が選任されると、被後見人(ご本人)の財産は家庭裁判所の厳格な監督下に置かれます。後見人の役割は、財産を減らさないように守ることであり、増やすことや、家族のために有効活用することではありません。この「運用の壁」が、資産家にとって致命的な問題を引き起こします。

① 広島市内の収益物件における「大規模修繕」や「建替え」のハードル

 例えば、広島市内に築30年以上の賃貸アパートを一棟所有しているケースを考えてみましょう。

 オーナーであるお父様が認知症になり、成年後見人が付いたとします。その後、アパートの老朽化が進み、雨漏り対策の大規模修繕や、あるいは資産価値向上のための建て替えが必要になったとします。

 通常であれば、銀行からアパートローン等の融資を受けて工事を行い、将来の家賃収入で返済するという経営判断を行うでしょう。しかし、成年後見制度下では、このような判断が極めて困難になります。

 なぜなら、家庭裁判所や後見人は「借金を背負ってまで投資(工事)をして、もし失敗したら本人の財産が減ってしまうではないか」という保守的な判断を最優先するからです。

「将来のための投資」という経営的視点は、成年後見制度の「本人の財産保護」という理念とは相容れません。

  • 大規模修繕ができない(入居者からのクレーム対応が困難)
  • 空室対策のリフォームができない(家賃収入の減少)
  • 建て替えができない(土地の有効活用がストップ)

 結果として、修繕も建て替えもできず、資産価値が下がり続けるのを指をくわえて見ているしかない――いわゆる「資産の塩漬け」状態に陥る事例が、ここ広島でも後を絶たないのです。

② 柔軟な資産組み換えができず、相続税対策がストップするリスク

 また、資産家にとって重要な「相続税対策」も、成年後見制度の利用によって完全にストップします。

  • 「相続税を減らすために、手元の現預金を使って収益不動産を購入したい」
  • 「孫の教育資金として生前贈与(暦年贈与)を行いたい」
  • 「生命保険を活用して非課税枠を使いたい」

 これらは、元気なうちであれば当然の権利として行える対策です。しかし、一度後見制度が開始されると、これらの行為は原則として認められなくなります。

 「本人が使うわけではないお金を、なぜ他人に贈与するのか(本人の財産を減らすのか)」という理屈により、裁判所や後見人が許可を出さないためです。

 当事務所には、税務署で資産税分野を長年担当していた税理士が所属する税理士事務所と連携体制がありますが、税務のプロの視点から見ても、「認知症発症後に対策が打てなくなり、結果として数千万円単位の相続税が発生してしまった」というケースは、ご家族にとってあまりに酷な結果と言わざるを得ません。広島市中心部や駅周辺など、地価が上昇傾向にあるエリアに土地をお持ちの方は、特に注意が必要です。

(2)親族後見人が選ばれない可能性と専門家報酬の負担

 「後見人には家族(長男など)がなればいい」とお考えの方も多いですが、実務の実情はそう単純ではありません。

① 流動資産が多い場合に選任される「専門職・後見人」とは

 現在の家庭裁判所の運用では、親族が後見人候補者として名乗りを上げても、そのまま選任されるとは限りません。特に、以下のようなケースでは、弁護士や司法書士などの「専門職・後見人」が選任される可能性が高くなります。

  • 預貯金や株式などの流動資産が多額にある場合(概ね1000万円〜数千万円以上が目安とされることもあります)
  • 賃料収入などで財産管理が複雑な場合
  • 親族間で意見の対立がある場合

 これは広島家庭裁判所の管内においても同様の傾向が見られます。

② 「専門職・後見人」への報酬支払の負担

 見ず知らずの専門家が通帳や権利証を管理することへの心理的抵抗感もさることながら、経済的な負担も見過ごせません。

 「専門職・後見人」の報酬は、管理する財産額に応じて家庭裁判所が決定します(月額2万円〜6万円程度、資産額によってはそれ以上)。ご本人が亡くなるまで毎月支払い続けなければなりません。

 「資産を守るための制度を利用したはずが、長期間にわたる高額な報酬支払いで、かえって資産が目減りしてしまう」

 このパラドックス(逆説)こそが、富裕層が成年後見制度を避ける最大の理由なのです。

2 富裕層の資産管理・承継に「家族信託」が選ばれる理由

 前述のような成年後見制度の「硬直性」というリスクを回避し、資産家ならではの「運用」「承継」のニーズを満たす手法として、近年、広島の富裕層の間でも急速に普及しているのが「家族信託(民事信託)」です。

(1)認知症になっても「資産の凍結」を防ぐ仕組み

 家族信託とは、一言で言えば「元気なうちに、信頼できる家族に財産の管理権限だけを移しておく契約」です。

① 委託者(親)の意思に基づき、家族が柔軟に管理・処分できる

 仕組みはこうです。資産を持つ「委託者(親)」が、信頼できる「受託者(子など)」に対し、不動産や現金などの財産を信託します。そして、その財産から生じる利益(家賃収入など)を受け取る権利は、そのまま「受益者(親)」が持ち続けます。

 この仕組みの最大のメリットは、「親が認知症になった後でも、受託者である子の判断で、資産の売却や活用ができる」という点です。

 例えば、先ほどの「修繕が必要なマンション」の例で言えば、家族信託契約の中で「受託者は大規模修繕や建て替え、売却などの権限を持つ」と定めておけば、親が認知症になっても、子の判断で銀行融資を受け、工事を実行することができます。これに裁判所の許可は不要です。

 これは、単なる財産管理の枠を超え、「親が培ってきた資産の価値を、子が受け継ぎ、さらに高めていく」という、資産家にとって理想的な承継の形と言えるでしょう。

② 【比較表】成年後見制度 vs 家族信託

 ここで、成年後見制度と家族信託の違いを整理します。この違いを理解することが、資産防衛の第一歩です。

比較項目成年後見制度家族信託
開始のタイミング判断能力が低下した後判断能力があるうち(元気なうち)
財産管理の目的本人の財産保護・現状維持本人の希望・一族の繁栄・資産活用
不動産の売却・活用原則不可(売却も厳格な要件あり)契約内容に基づき、積極的な活用が可能
相続税対策原則不可可能(信託契約の中で設計可能)
ランニングコスト専門家後見人の場合、月額数万円〜基本的に無料(家族が管理するため)
監督機関家庭裁判所原則なし(信託監督人を置くことも可)

 この表からも分かる通り、資産規模が大きく、積極的な運用や承継対策が必要な方ほど、家族信託のメリットは大きくなります。

(2)複雑な資産(収益不動産・自社株)への対応力

 家族信託の真価は、金銭以外の「扱いの難しい資産」においてこそ発揮されます。

① 共有名義になりがちな不動産の分散リスクを防ぐ

 相続において最もトラブルになりやすいのが不動産です。特に、一つの不動産を兄弟で共有名義にしてしまうと、将来、売却や活用の際に全員の同意が必要となり、事実上「塩漬け」になってしまうリスクがあります。

 家族信託を活用すれば、不動産の管理処分権限は「受託者である長男」一人に集約しつつ、そこから得られる家賃収入などの経済的利益は「兄弟で分配する」といった設計が可能になります。

 これにより、「権利の分散(共有)」を避けつつ、「利益の公平な分配」を実現することができるのです。

② 広島の経営者が注目する「自社株信託」による事業承継

 また、広島で事業を営むオーナー経営者様からのご相談で多いのが、「自社株」の承継問題です。

 認知症により議決権が行使できなくなれば、会社の経営はストップしてしまいます。かといって、まだ若く経験の浅い後継者に、生前に全ての株を譲渡することに不安を感じる経営者様も少なくありません。

 このような場合、「自社株信託」が極めて有効です。

 例えば、自社株を後継者に信託しつつ、「指図権(議決権行使について指示を出す権限)」を経営者自身が持ち続けるよう設計します。こうすることで、株の名義(法的形式)は後継者に移しつつ、実質的な経営権(議決権)は現社長が維持することができます。

 そして、いざ社長が認知症になったり亡くなったりした際には、指図権が消滅し、完全に後継者に権限が移るようにしておけば、空白期間を作ることなくスムーズな事業承継が可能となります。

 当事務所には、親族経営の会社の顧問弁護士としての実績が多数あり、株式の評価や争奪戦といった、いわゆる「お家騒動」の現場も数多く見てきました。その経験から申し上げれば、経営権の承継こそ、曖昧さを残さず、法的拘束力のある信託契約で固めておくべき最優先事項です。

3 「家族信託」だけでは不十分?「遺言」を併用すべき理由

 ここまで家族信託の有用性をお伝えしましたが、実は「家族信託契約さえ結べば万全」というわけではありません。完璧な資産承継を目指すのであれば、伝統的な「遺言(公正証書遺言)」との併用が不可欠です。

(1)広島近郊の農地や山林など、信託に入れにくい財産も漏れなく承継する

 家族信託契約では、特定の財産(例えば、主要な不動産やまとまった資金)を信託財産として指定します。しかし、生活費用の口座や、広島近郊にある山林・農地、将来入ってくる年金など、信託財産に入れない(入れにくい)財産も必ず手元に残ります。

 これらの「信託に入らなかった財産」については、別途対策をしておかないと、通常の遺産分割協議が必要となり、そこで遺族間の話し合いがまとまらなければ、結局トラブルになってしまいます。

 そのため、「信託財産は信託契約で承継先を決め、それ以外の財産は遺言ですべて〇〇に相続させる」というように、信託と遺言をセットで作成し、財産の承継先を網羅的に指定しておくこと(信託と遺言の相互補完)が、実務上のセオリーとなります。

(2)遺留分対策と「争族」の防止(弁護士による遺留分設計)

 富裕層の相続において、避けて通れないのが「遺留分」の問題です。特定の相続人(例えば長男)に事業用資産や不動産を集中させようとすると、他の相続人(次男や長女など)から「遺留分侵害額請求」を起こされるリスクが高まります。

 家族信託は、財産管理には強力な効果を発揮しますが、遺留分を完全に消滅させる魔法の杖ではありません。

 だからこそ、「どの財産を信託し、どの財産を遺言で他の相続人に渡すか(代償金の原資とするか)」という、全体のバランスを考慮した緻密な設計が求められます。

 当事務所には、元裁判官(35年在職)や元公証人(8年在職)という経歴を持つベテラン弁護士が在籍しています。

 裁判官として多くの遺産分割調停や裁判の判決を下してきた視点、そして公証人として数多くの公正証書遺言や信託契約を作成してきた経験から、「どのような書き方をすれば揉めるのか」「裁判所はどう判断するのか」を熟知しています。

 単に契約書を作るだけでなく、将来の紛争リスクを極限まで下げるための「遺留分対策」や、家族への想いを伝える「付言事項」の活用など、紛争の現場を知る弁護士ならではの視点でアドバイスを行っています。

4 広島で富裕層の相続対策なら、当事務所の「設計力」にお任せください

 家族信託や遺言は、あくまで「道具」です。重要なのは、依頼者様ごとの資産状況や家族関係に合わせて、その道具をどう使いこなすかという「設計力」です。

(1)パッケージ商品ではない、オーダーメイドの法的スキーム

   広島の税理士・不動産会社と連携した「法務×税務」のトータルサポート

 近年、家族信託を定型的なフォーマットで安価に提供する業者も増えていますが、資産家の方々の事情は千差万別であり、テンプレートで対応できるケースは稀です。

 特に、信託契約の内容は、将来数十年にわたってご家族を拘束する「家の憲法」のようなものです。一箇所の条文の不備が、将来的に数億円の損失や、取り返しのつかない親族間対立を生むこともあります。

 当事務所では、法律の専門家としての知見はもちろん、他士業・他業種との強力な連携体制を構築しています。

 例えば、全国規模の大手司法書士法人「みつ葉グループ」の広島拠点と同一事務所内で連携しており、信託に伴う複雑な不動産登記実務にも迅速に対応可能です。

 また、元税務署の資産税担当であった税理士が所属する事務所とも密に連携しており、信託の設計段階から「相続税評価額への影響」や「損益通算の可否」など、高度な税務判断を取り入れたスキーム提案を行っています。

 さらに、地元の不動産会社とも提携し、収益不動産の収支シミュレーションや評価も踏まえた、実効性の高いご提案が可能です。「法律的には正しいが、税務や経営的には損をする」といった縦割りの弊害を防ぎ、トータルで資産を守る体制を整えています。

(2)万が一のトラブルにも対応できる「紛争解決力」

    契約書作成だけで終わらない、弁護士による安心のバックアップ

 そして、私たちが弁護士である最大の強みは、「万が一、トラブルが起きた時に守りになれる」ということです。

 司法書士やコンサルティング会社は、登記や契約書作成はできますが、もし相続人間で紛争が勃発した場合、代理人として交渉や調停を行うことはできません。

 当事務所には、広島家庭裁判所の現役の非常勤裁判官(家事調停官)を務める弁護士も在籍しており、現在の調停実務の運用や、紛争の着地点を肌感覚で理解しています。

 契約書の作成はゴールではなく、スタートです。長い運用期間の中で、もし予期せぬ意見の対立やトラブルが生じたとしても、紛争解決のプロフェッショナルである弁護士が、最後までご家族をお守りします。

5.よくあるご質問(FAQ)

 富裕層・資産家の皆様から、当事務所によく寄せられるご質問をまとめました。

Q1. 家族信託は、どこの専門家に相談しても同じですか?

 いいえ、大きく異なります。家族信託は「契約書の内容」がすべてであり、その設計には高度な法的知識と税務知識、そして紛争予測能力が求められます。経験の浅い専門家が作成した信託契約では、銀行口座が開設できなかったり、不動産の売却がスムーズにいかなかったりするトラブルが報告されています。当事務所では、元公証人や元裁判官の知見を活かし、金融機関の審査にも通る確実な契約書を作成します。

Q2. 広島市外に住んでいますが、相談は可能ですか?

 はい、可能です。当事務所は広島市中心部にございますが、東広島市、呉市、廿日市市など、広島都市圏全域および周辺エリアからのご相談を承っております。Zoom等のオンライン面談も対応可能ですので、まずはお気軽にお問い合わせください。

Q3. まだ認知症ではありませんが、今から相談しても早すぎませんか?

 決して早すぎることはありません。むしろ、家族信託も遺言も、認知症の診断を受けて判断能力がないとみなされると、一切の手続きができなくなります。ご本人がお元気で、ご自身の意思をはっきりと伝えられる「今」こそが、唯一の対策可能なタイミングです。

6.まとめ・お問い合わせ

 資産家の方にとって、認知症対策と資産承継は、一刻の猶予も許されない課題です。

 なぜなら、家族信託も遺言も、「判断能力がある(元気な)」うちにしか契約することができないからです。一度認知症が進行してしまえば、選択肢は今回解説した「成年後見制度」に限られてしまい、資産の凍結リスクを甘受せざるを得なくなります。

 「うちはまだ大丈夫」と思われている今こそが、対策を講じるベストなタイミングです。

 当事務所は広島市中心部に位置し、市内全域および近隣都市からのアクセスも良好です。

 これまでの豊富な実務経験(裁判官・公証人経験、企業法務、不動産実務など)を結集し、あなたの資産とご家族の未来を守るための、最適な「法務戦略」をご提案いたします。

 まずは、現状の資産構成にどのようなリスクが潜んでいるのか、診断することから始めてみませんか?

 初回のご相談は無料で承っております。広島の地主様、経営者様からのご連絡を、心よりお待ちしております。

▼関連する記事はこちら▼

広島の資産を次世代へ守り抜く。富裕層・資産家のための「戦略的」相続対策と遺産分割

富裕層の相続を脅かす「デジタル遺産」の正体とは?税務調査で狙われる見えない資産と、弁護士が教える防衛策

富裕層の相続を脅かす「デジタル遺産」の正体とは?税務調査で狙われる見えない資産と、弁護士が教える防衛策

広島の資産家・経営者の相続対策|弁護士が教える「争族」回避と遺言のポイント

2025-11-27

はじめに:築き上げた資産を、次世代の「幸福」として残すために

 広島市、そしてその周辺の広域都市圏で長年にわたり事業を営み、あるいは代々の土地を守り抜いてこられた皆様。皆様が築き上げた資産は、ご家族の未来を支える礎であると同時に、広島という地域の経済にとっても貴重な財産です。

 しかし、皮肉なことに、その資産の価値が高ければ高いほど、相続は単純な手続きでは終わりません。 「うちは税理士に任せているから相続税対策は万全だ」「子供たちは仲が良いから遺産分割で揉めることはない」。そうおっしゃる経営者や資産家の方ほど、いざ相続が発生した瞬間に、想定外の親族間トラブルに巻き込まれるケースを、私たちは数多く目の当たりにしてきました。

 相続税の申告は、あくまで国に対する納税の手続きです。一方、相続の本質は「家族の間で、誰が、何を、どう引き継ぐか」という、非常にデリケートな権利調整にあります。 

 本記事では、広島という地域の不動産事情や、地元企業の経営者特有の課題を踏まえ、なぜ富裕層の相続にこそ「弁護士」による法的な設計図(遺言・生前対策)が必要なのかを解説します。

1 なぜ、広島の富裕層・資産家の相続ほど「弁護士」が必要なのか

1-1 資産額とトラブルの深刻度は比例する

(1)広島市内中心部の不動産など、高額資産を巡る争いは親族間の深い亀裂を生む

 「争族(そうぞく)」という言葉が定着して久しいですが、資産規模が大きくなればなるほど、争いが生じた際の亀裂は深く、修復困難なものとなります。 例えば、預貯金が主な遺産であれば、1円単位で分割可能です。しかし、富裕層の方々の資産構成は、流動性の高い現金よりも、不動産や有価証券の比率が高いことが一般的です。

 特に、新駅ビル「ミナモア」が開業したことによる広島駅周辺地域の地価高騰の余波もあり、広島市中区(紙屋町・八丁堀周辺等)や南区などの地価が高いエリアに不動産を所有されている場合、その評価額は数千万、数億円に上ります。

 一つの不動産を複数の相続人で「共有」することは、将来の売却や活用の妨げになるため、法律家としては推奨できません。しかし、誰か一人が単独取得すれば、他の相続人との間で著しい不公平感が生まれます。 こうした高額な資産を巡る対立は、単なる金銭の問題を超え、過去の感情的なしこりまで呼び起こし、兄弟姉妹が絶縁状態になることも珍しくありません。このような事態を防ぐには、裁判所の判断基準(判例)を見据えた、法的に整合性の取れた分割案を提示する必要があります。

(2)税理士は「税金」のプロだが、「法的な揉め事の予防」は弁護士の領域

 多くの資産家の方は、顧問税理士や資産税に強い税理士とすでにお付き合いがあることでしょう。もちろん、相続税の節税対策は極めて重要です。当事務所でも、税務署にて長年資産税分野を担当していた経験を持つ税理士が所属する事務所と密に連携し、税務面での万全を期しています。

 しかし、税理士の主戦場は「対 税務署」です。「どうすれば税金が安くなるか」という視点と、「どうすれば家族が揉めないか」という視点は、似て非なるものです。 例えば、節税のために不動産を共有名義にすることが、法的には将来の共有物分割請求訴訟の火種になることもあります。また、遺産分割協議がまとまらなければ、配偶者の税額軽減や小規模宅地等の特例といった優遇措置も使えなくなってしまいます。 「揉めないための法的な予防策」を講じることができるのは、紛争解決のプロフェッショナルである弁護士だけなのです。

1-2 広島の土地事情と「分けにくい資産」のリスク

(1)広島市(中区・南区等)の収益物件や土地は分割困難で火種になりやすい

 広島は平地が少なく、資産価値の高い土地が特定のエリアに集中しているという地理的特性があります。特に、先祖代々受け継いできた土地や、投資用の賃貸マンション、アパートなどの収益物件は、物理的に分けることができません。

 当事務所は、大手司法書士法人「みつ葉グループ」の広島拠点と同一事務所内で連携しており、不動産登記実務や不動産関連企業との独自のネットワークを持っています。その実務の中で痛感するのは、広島の収益不動産は「家賃収入を生むドル箱」であるがゆえに、相続人の誰もが欲しがり、誰も手放したがらないという現実です。 「長男がアパートを継ぐ代わりに、次男には現金を」と調整しようとしても、不動産の評価額が高すぎて、見合うだけの現預金(代償金)が手元にないケースが多々あります。

(2)代償分割(金銭での解決)を行う際の資金調達と評価額の争い

 不動産を取得する代わりに、他の相続人に代償金を支払う「代償分割」という方法があります。ここで最大の問題になるのが「不動産の評価額」です。 「固定資産税評価額で安く計算したい長男」と、「実勢価格(時価)で高く計算してほしい次男」。広島市内の人気エリアであればあるほど、この二つの価格には大きな乖離(かいり)が生じます。

 こうした評価を巡る争いは、当事者同士の話し合いで決着がつかず、最終的には家庭裁判所での調停や審判に持ち込まれることになります。 当事務所には、広島家庭裁判所の現役の非常勤裁判官(家事調停官)として活動している弁護士が在籍しています。実際の調停現場で、不動産評価においてどのような鑑定方法が採用され、どのような落としどころが模索されるのか。その「裁判所の相場観」と「実務感覚」に基づいた、紛争を未然に防ぐアドバイスが可能です。

2 広島の経営者・オーナー社長が直面する「事業承継」の落とし穴

2-1 自社株の分散は「地元企業」の経営リスクそのもの

(1)法定相続分通りに株式を分けることの危険性(意思決定の麻痺)

 広島には、地域経済を支える優良な同族企業、中小企業が数多く存在します。経営者にとって、自社の株式は単なる財産ではなく「経営権」そのものです。 もし、有効な遺言書を作らずに相続が発生すれば、自社株は法定相続分に従って、妻や子供たちに分散してしまいます。会社経営に関心のない子供や、経営方針に反対する親族が株式を持つことで、株主総会での特別決議(定款変更、組織再編、役員の選任・解任など)ができなくなる恐れがあります。これは会社経営にとって致命的なリスクです。

 当事務所は、多くの親族経営会社の顧問弁護士を務めており、株式の分散が招いた経営の停滞や、支配権争い(いわゆるお家騒動)の現場を数多く見てきました。だからこそ、経営者の皆様には「株式だけは後継者に集中させる」ための法的手当てを強く推奨しています。

(2)後継者に株式を集中させる際に立ちはだかる「遺留分」の壁

 しかし、後継者である長男に株式を集中させようとすると、他の兄弟から「遺留分(最低限の遺産取得分)」を請求されるリスクが高まります。 自社株の評価額が高い場合、長男は莫大な遺留分侵害額を、現金で兄弟に支払わなければならなくなります。その資金を会社から借り入れれば会社の財務が悪化し、個人で用意できなければ株式を手放さざるを得ない。まさに、相続トラブルが企業の倒産リスクに直結するのです。

2-2 会社と個人の資産が混在している場合のリスク

(1)会社への貸付金や連帯保証の処理を誤ると、遺族が負債を負う可能性

 オーナー社長の場合、会社に対して個人の資金を貸し付けていたり(役員借入金)、会社の金融機関からの借入金の連帯保証人になっていたりすることが一般的です。 「会社への貸付金」も相続財産となるため、相続税の課税対象になります。しかし、会社に返済能力がなければ、遺族にとっては「現金化できないのに税金だけかかる不良債権」となります。また、連帯保証人の地位も原則として相続されるため、事業を継がない妻や娘が、巨額の保証債務を負うリスクもあります。

(2)広島市内の事業所兼自宅など、公私混同しやすい資産の法的整理

 広島市内では、1階が店舗や事務所、2階以上が自宅という自社ビル形式の不動産も多く見られます。土地は個人名義、建物は会社名義、あるいはその逆など、権利関係が複雑なケースも少なくありません。 こうした「公私混同」しやすい資産については、生前のうちに権利関係を整理し、適切な賃貸借契約を結んでおくなどの対策が必要です。事業承継に強い弁護士が入ることで、会社法と相続法の両面から、会社を守りつつ家族の生活基盤を守る設計が可能になります。

3 良かれと思った「生前贈与」が争族の引き金になる

3-1 節税対策としての贈与が招く「特別受益」の争い

(1)「広島市内に家を建ててもらった兄」と「何も貰っていない弟」の不公平感

 相続税対策として、暦年贈与などの生前贈与を活用されている方も多いでしょう。しかし、特定の子供だけに援助を行うことは、他の子供から見れば「不公平」以外の何物でもありません。 例えば、「長男は広島市内にマイホームを建てる際に頭金を出してもらった」「次女は私立大学医学部の学費を出してもらった」といった事実は、相続の場面で「特別受益」として蒸し返されます。

(2)過去の贈与を相続財産に持ち戻して計算する場合の複雑さ

 法律上、特別な利益(特別受益)を受けた相続人がいる場合、その贈与額を相続財産に「持ち戻して」計算することになります。しかし、「いくら持ち戻すのか」「当時の1000万円を今の貨幣価値に換算するといくらか」という計算は非常に複雑です。 曖昧な記憶や記録しかない場合、「言った言わない」の水掛け論になります。富裕層の相続では、数百万円、数千万円単位の贈与が行われることが多いため、この「過去の精算」が遺産分割協議における最大の争点になることが多々あります。

3-2 管理不十分な贈与が生む「名義預金」と「使途不明金」疑惑

(1)実態が伴わない贈与(名義預金)は、遺産分割協議の対象になり揉める原因に

 子供や孫の名義で通帳を作り、そこにお金を入れておく。これは税務署から「名義預金(実質的には親の財産)」と認定され、追徴課税されるリスクがあるだけではありません。遺産分割協議においても「あれは実質的に父の遺産だから、分割対象に含めるべきだ」という争いを生みます。

(2)地元金融機関の預金履歴を巡り、親族間で「使い込み」の疑惑が生じるリスク

 親の晩年、預金管理をしていた同居の子供が、生活費や介護費用のために預金を引き出すことがあります。しかし、死後に他の兄弟が通帳の履歴(広島銀行やもみじ銀行など)を開示した際、「使途不明な多額の出金がある。使い込んだのではないか?」と疑念を抱くケースが後を絶ちません。

 こうしたトラブルは、現役の家事調停官として多くの複雑な紛争を見てきた弁護士が在籍する当事務所だからこそ、「どこで揉めるか」を熟知しており、それを防ぐための証拠保全や記録管理の徹底をアドバイス可能です。

4 富裕層の遺言書作成における重要ポイント【遺留分対策】

4-1 「全財産を長男に」という遺言が逆に争いを生む

(1)他の相続人の権利「遺留分」を無視した遺言の末路

 「うちは公正証書遺言を書くから大丈夫」と思われている方も、その中身には細心の注意が必要です。「家督を継ぐ長男に全財産を相続させる」といった極端な遺言書は、他の相続人の「遺留分」を侵害し、かえって法的紛争を誘発します。 遺留分侵害額請求権が行使されると、原則として金銭で支払わなければなりません。対策なしに遺言を作れば、長男に過大な金銭負担を強いることになります。

(2)生前贈与も含めた「遺留分侵害額」のシミュレーションの重要性

 遺留分の計算には、不動産の評価額や過去の生前贈与も含まれます。正確なシミュレーションを行うには、高度な法的知識と計算能力が不可欠です。 当事務所には、裁判官を35年間、公証人を8年間勤めたベテラン弁護士が在籍しています。裁判所が最終的にどのような判断を下すかという「司法の視点」と、公証人として数多くの「有効な遺言」を作成してきた「実務の視点」。この両輪に基づき、将来の紛争リスクを極限まで抑えた、強固な遺言書の作成をサポートします。

4-2 弁護士が入ることで可能になる「付言事項」と「遺留分放棄」の活用

(1)法的効力はないが、家族への想いを伝える「付言事項」で感情的対立を防ぐ

 遺言書には、財産の分け方だけでなく、家族へのメッセージである「付言事項(ふげんじこう)」を記すことができます。 「なぜ、長男に多く残すのか」「会社を存続させることが、結果として一族全員の利益になる」といった親の真意を、弁護士が法的な文章の中に、心に響く形で織り込みます。これが子供たちの納得感を引き出し、遺留分請求を思いとどまらせる「最後の防波堤」となるのです。

(2)経営承継円滑化法などを用いた「遺留分に関する民法の特例」の活用

 経営者の方には、経営承継円滑化法を活用した「遺留分の除外合意」や「固定合意」という手法も検討できます。これには家庭裁判所の許可など複雑な手続きが必要ですが、事業承継に強い当事務所であれば、スムーズなサポートが可能です。 また、当事務所の元公証人である弁護士は、公正証書による「家族信託(民事信託)」の組成実績も豊富であり、広島における信託契約の第一人者とも言える存在です。遺言だけではカバーしきれない、より柔軟で長期的な資産承継(二次相続対策など)の設計についても、最高レベルのアドバイスを提供できます。

5 広島の資産を守る。当事務所が提案する富裕層向け相続サポート

5-1 遺言書の作成から執行までをワンストップで任せる安心感

(1)当事務所の弁護士が「遺言執行者」となり、広島法務局や銀行での手続きを代行

 素晴らしい遺言書を作成しても、いざ相続が発生した際に手続きが滞っては意味がありません。当事務所では、遺言書の作成だけでなく、その内容を確実に実現する「遺言執行者」への就任も承っております。 不動産の名義変更(広島法務局管轄)や、預貯金の解約・分配といった煩雑な手続きを、弁護士が責任を持って代行します。

(2)親族が執行者になる精神的負担と、公平性への疑義を回避する

 親族の誰かが遺言執行者になると、「手続きが遅い」「勝手なことをしているのではないか」と他の親族から疑われるストレスに晒されます。 利害関係のない第三者である弁護士が執行者となることで、手続きの透明性と公平性が担保され、ご家族は精神的な負担から解放されます。

5-2 広島の他士業(税理士・司法書士)との強力な連携

(1)相続税申告や不動産評価も、信頼できる広島の専門家ネットワークで対応

 富裕層の相続は、法務と税務、そして不動産登記実務が複雑に絡み合います。 当事務所は、不動産登記に強い司法書士法人「みつ葉グループ」との同一オフィス連携、そして元税務署職員の税理士とのネットワークを活かし、窓口一つで全ての課題に対応するワンストップサービスを提供しています。 それぞれの専門家がバラバラに動くのではなく、一つのチームとして密に連携することで、法的な安全性と税務的なメリットの両立(最適化)を目指します。

(2)法務と税務の両面から「最適解」を導き出すオーダーメイドの相続設計

 資産の内容やご家族の状況は、百人百様です。特に、不動産や自社株を含む資産家の相続においては、テンプレート通りの解決策は通用しません。 私たちは、元裁判官、元公証人、現役家事調停官、そして各分野の専門家という厚みのある知見を結集し、あなたの一族にとっての「最適解」をオーダーメイドで設計します。

まとめ:弁護士への早期相談が「一族の繁栄」を守るカギ

 広島の地で築き上げられた大切な資産。それを守り、次世代へつなぐことは、単なる事務手続きではなく、一族の繁栄を守るための「経営戦略」そのものです。 相続対策は、ご本人の判断能力がしっかりしている「今」しかできません。認知症になってしまってからでは、遺言も、生前贈与も、家族信託も、打つ手がなくなってしまいます。

 「うちはまだ元気だから大丈夫」ではなく、「転ばぬ先の杖」として。 資産規模が大きい方、広島市内に不動産や会社をお持ちの方こそ、地元の事情に精通し、あらゆる紛争パターンを知り尽くした当事務所へご相談ください。 まずは初回法律相談にて、現状の資産構成におけるリスク診断から始めましょう。あなたとご家族の安心のために、私たちが全力を尽くします。

▼関連する記事はこちら▼
広島の資産を次世代へ守り抜く。富裕層・資産家のための「戦略的」相続対策と遺産分割

広島の資産を次世代へ守り抜く。富裕層・資産家のための「戦略的」相続対策と遺産分割

2025-11-27

広島市およびその周辺都市圏において、長年にわたり事業を営んでこられた経営者の方や、代々の土地を守ってこられた資産家の方々にとって、「相続」は単なる財産の分配手続きではありません。それは、家や事業の歴史を次世代へと正しく承継し、一族の繁栄を盤石なものにするための、人生における最後の大事業といえます。

 しかし、資産規模が大きくなればなるほど、そして資産の内容が複雑になればなるほど、リスクは高まります。これまで仲の良かった親族間であっても、ひとたび相続が発生すれば、数千万円、数億円という金額が動く現実に直面し、感情と利害が複雑に絡み合う「争族」へと発展するケースは後を絶ちません。

 特にここ数年、広島市中心部での再開発に伴う地価の変動や、経営者の高齢化に伴う事業承継問題など、地域特有の事情も相まって、遺産分割の難易度は上がっています。

 本記事では、富裕層や資産家の方が直面しやすい相続リスクと、それを回避して円満かつ戦略的に資産を承継するためのポイントについて、法的な視点から詳しく解説します。

1 広島の資産家・経営者の相続で「争族」リスクが高まる背景

 なぜ、十分な資産がある家庭ほど揉めてしまうのでしょうか。「分けるものがこれだけあるのだから、喧嘩にはならないだろう」というのは、残念ながら誤解です。資産があるからこそ、分け方を巡る選択肢が増え、それぞれの主張が対立する余地が生まれてしまうのです。

1-1 広島市内中心部の地価上昇・再開発が招く「遺産評価」の激しい対立

 相続財産の中で最も揉める原因となりやすいのが「不動産」です。特に広島においては、近年の広島駅周辺の再開発や、紙屋町・八丁堀エリア、さらには近郊の住宅地における地価の変動が、遺産分割に大きな影を落としています。

(1)評価額の数%のズレが「数千万単位」の差を生む、広島の不動産事情

 預貯金であれば「1円」は誰が見ても「1円」ですが、不動産には「一物四価(実勢価格、公示地価、路線価、固定資産税評価額)」と呼ばれる複数の評価基準が存在します。 一般的な遺産分割協議では、相続税評価額(路線価等)を基準に話し合うことが多いですが、広島市中心部や人気のあるエリアの収益物件などでは、路線価と、実際に市場で売買される価格(実勢価格)との間に大きな乖離が生じることが珍しくありません。

 資産規模が大きい場合、この評価方法をどちらにするか、あるいは鑑定評価をどのタイミングで入れるかによって、評価額に数千万円、場合によっては億単位の差が生じます。財産を受け取る側は少しでも評価を低く見積もりたいと考え、代償金をもらう側は高く評価してほしいと考える。この利益相反が、深刻な対立を生むのです。

(2)「先祖代々の土地」への思い入れと、資産価値の乖離が招く親族間の亀裂

 また、広島市周辺の旧家や資産家の場合、「先祖代々の土地」に対する思い入れの強さも紛争の火種となります。 「長男が本家と土地を継ぐのは当然」と考える世代と、「法定相続分通りの権利を主張したい」と考える次世代との価値観の衝突です。特に、不動産以外の金融資産が少ない場合、不動産を取得しない相続人に対して支払う「代償金」が用意できず、結果として代々守ってきた土地を売却せざるを得なくなるという悲劇も起きています。

1-2 広島のオーナー企業特有の「事業承継」と遺産分割の板挟み

 広島は、ものづくり企業をはじめとする優良なオーナー企業が数多く存在する地域です。経営者の相続において避けて通れないのが、自社株(非上場株式)の扱いです。

(1)自社株や事業用資産が遺産の大半を占めるケースの難しさ

 会社経営者の場合、個人の資産と会社の資産が密接に関係しています。相続財産の大半が「自社株」であることも少なくありません。 後継者である長男に自社株をすべて相続させようとすれば、他の兄弟姉妹の遺留分を侵害してしまう可能性があります。かといって、株式を兄弟で分散して持たせてしまえば、会社の意思決定がスムーズにいかなくなり、将来的な経営権争い(お家騒動)に発展しかねません。

 当事務所には、親族経営の会社の顧問弁護士としての実績も多く、株式の争奪戦や評価を巡る紛争を数多く目にしてきました。事業承継を絡めた遺産分割は、単なる財産分けではなく「企業の存続」がかかった重大な局面であり、会社法と相続法の両面に精通した高度な判断が求められます。

(2)高額な相続税納税による「資金不足」が引き起こす資産売却トラブル

 富裕層の相続で必ず直面するのが「納税資金」の問題です。資産総額は大きくても、その多くが不動産や自社株などの「換金しにくい資産」である場合、相続税を支払うための現預金が手元にないという事態(キャッシュプア)に陥ります。 納税期限は相続開始から10ヶ月以内と決まっています。遺産分割協議がまとまらなければ、配偶者の税額軽減や小規模宅地等の特例といった有利な制度を使えないまま納税することになりかねません。焦って不動産を安く売り急ぐような事態を避けるためにも、早期の対策が不可欠です。

2 円満解決の第一歩は、広島・周辺エリアの全資産の「可視化」と「適正評価」

 遺産分割協議を感情論にせず、建設的な話し合いにするための唯一の方法は、客観的な事実(数字)をテーブルに乗せることです。つまり、資産の「可視化」と「適正評価」です。

2-1 多岐にわたる財産を網羅した「財産目録」の精緻な作成

 富裕層の方の資産は、複数の銀行口座、証券口座、国内外の不動産、ゴルフ会員権、美術品など、多岐にわたります。一部の相続人が財産を隠しているのではないかという疑心暗鬼が生まれると、信頼関係は崩壊し、協議は停滞します。

(1)広島市・周辺都市圏に点在する不動産・有価証券等の徹底的な洗い出し

 まずは、正確な財産目録を作成することがスタートラインです。 特に不動産については、自宅だけでなく、投資用マンション、駐車場、山林、原野に至るまで、名寄帳などを活用して漏れなく調査する必要があります。当事務所では、同じフロア内で連携する全国規模の司法書士法人「みつ葉グループ」とともに、迅速かつ正確な不動産調査を行える体制を整えています。登記簿上の情報だけでなく、権利関係の複雑な不動産についてもスピーディに実態を把握できるのが強みです。

(2)経営者の場合に必要な「法人資産」と「個人資産」の峻別と整理

 経営者の場合、会社に対する貸付金や、会社名義の保険、個人名義で会社に使用させている不動産など、法人と個人の資産が入り組んでいるケースが多々あります。これらを法的に整理し、どの範囲が遺産分割の対象になるのかを明確に切り分ける作業は、専門的知見なしには困難です。

2-2 不動産・自社株の評価額をめぐる争いの回避

 財産のリストアップができたら、次は「いくらで評価するか」という最大の難関に挑みます。

(1)「相続税評価額」と広島の「実勢価格(時価)」の乖離への対応策

 前述の通り、広島市内の一部エリアでは路線価と実勢価格に大きな開きがあります。公平な遺産分割を目指すならば、安易に路線価だけで計算するのではなく、市場価格を意識した調整が必要です。 しかし、単に「相場が高いはずだ」と主張するだけでは水掛け論になります。近隣の取引事例や、収益還元法を用いた理論的な価格など、説得力のある根拠を示す必要があります。

(2)地元の不動産事情に精通した専門家の意見書を活用し、客観的基準を作る

 不動産評価で揉めそうな場合は、不動産鑑定士による鑑定評価や、信頼できる不動産業者の査定書を取得することが有効です。 当事務所は、地元の不動産鑑定士や不動産関連企業とも連携しており、特に評価の難しい賃貸アパートなどの収益不動産が含まれる案件を数多く手掛けてきました。実務に即した適正な評価額を算出することで、相続人全員が納得できる「着地点」を見出すサポートを行っています。

 また、自社株の評価についても、純資産価額方式や類似業種比準方式など、会社の規模や状況に応じた適切な評価方法を選定する必要があります。これには、税務署で資産税分野を長年担当していた経験を持つ税理士との連携により、税務リスクも考慮した精緻な評価を行っています。

3 富裕層が検討すべき「公平」かつ「戦略的」な遺産分割スキーム

 資産の全容と評価が固まれば、次は具体的な分け方(スキーム)の検討に入ります。富裕層の遺産分割では、単に法定相続分で割るだけでなく、資産を守り、活用するための戦略的な視点が求められます。

3-1 資産の散逸を防ぎ、広島での家・事業を守るための分割方法

 不動産や自社株を共有状態(複数の相続人で持ち合うこと)にすることは、将来の禍根を残す最悪の選択肢です。次の世代、そのまた次の世代へと権利関係が複雑化し、売るに売れず、貸すに貸せない「塩漬け資産」を生み出してしまうからです。

(1)特定の相続人に不動産等を集中させる「代償分割」の活用と資金調達

 事業承継者や、家を守る特定の相続人が主要な資産(不動産や自社株)を取得し、その代わりに他の相続人へ金銭を支払う「代償分割」が、資産散逸を防ぐための王道です。 この際、代償金をどう調達するかが課題となります。生命保険の活用や、金融機関からの融資、あるいは一部の遊休資産の売却など、資金調達のプランニングも含めた提案が必要です。

(2)納税資金を確保しつつ、資産価値を最大化する「換価分割」の選択

 どうしても代償金が用意できない場合や、誰も取得を希望しない不動産がある場合は、売却して現金を分ける「換価分割」を検討します。 ただし、単に売ればよいわけではありません。譲渡所得税の負担や、売却のタイミングを見極め、手取り額が最大になるような売却戦略を立てることが重要です。ここでも不動産実務に強い専門家との連携が活きてきます。

3-2 高額な生前贈与と特別受益の適切な処理

 富裕層の相続で頻繁に問題になるのが、生前贈与の扱いです。「長男は家の建築資金を出してもらった」「次女は留学費用を出してもらった」といった過去の援助は、法律上「特別受益」として遺産に持ち戻して計算するのが原則です。

(1)過去の資金援助や贈与を巡る不満を解消するための法的調整

 特別受益の主張は、感情的な対立の温床となりやすい部分です。どこまでを特別受益と認めるか、その証拠はあるのか。当事者間で結論が出なければ、最後は家庭裁判所の裁判官が判断を下す審判で決まります。

 当事務所には、広島家庭裁判所の現役の非常勤裁判官(家事調停官)が在籍しており、実際の調停現場でどのような判断が下されているかという「相場観」を熟知しています。 裁判所が認める可能性の低い主張に固執して時間を浪費するのではなく、見通しを踏まえた現実的なラインでの調整を行うことで、早期解決を図ることができます。

(2)遺産分割における「持戻し免除」の意思表示とその活用法

 被相続人(亡くなった方)が、「生前贈与した分は、遺産分割の計算に含めなくてよい」という意思を示していた場合(持戻し免除の意思表示)、贈与を受けた相続人はその分を多く受け取ることができます。 遺言書などでこの意思表示を明確にしておくことは、特定の相続人を手厚く保護するための有効な手段となります。

4 広島で確実な資産承継を実現するために弁護士を活用するメリット

 富裕層・資産家の相続においては、トラブルが起きてから対処する「事後対応」ではなく、トラブルを未然に防ぐ「予防法務」、そして万が一トラブルになった際も傷口を広げない「戦略的対応」が不可欠です。

4-1 「争族」を未然に防ぐ、法的効力の強い遺言書の作成

 最も効果的なトラブル防止策は、法的に不備のない遺言書を作成することです。しかし、ただ「公正証書遺言」を作れば安心というわけではありません。

(1)遺留分侵害額請求を想定した、隙のない「公正証書遺言」の設計

 資産規模が大きい場合、特定の相続人に財産を集中させようとすると、他の相続人の「遺留分(最低限の取り分)」を侵害する可能性が高くなります。遺留分を無視した遺言書を作ると、死後に「遺留分侵害額請求」という訴訟を誘発し、結局は家族が争うことになります。

  当事務所には、裁判官を35年、公証人を8年務めたベテラン弁護士が在籍しています。公証人として数多くの公正証書遺言を作成してきた経験から、将来の紛争リスクを徹底的にシミュレーションし、遺留分対策(付言事項の工夫や、生前贈与との組み合わせ、生命保険の活用など)を講じた、極めて堅牢な遺言書の作成をサポートします。

 また、近年注目されている「家族信託(民事信託)」についても、この元公証人の弁護士は広島における先駆者的な存在であり、遺言だけでは実現できない柔軟な資産承継(例えば、二次相続以降の承継先の指定など)の設計も可能です。

(2)遺言執行者を弁護士に指定し、複雑な資産承継手続きを確実に実行する

 遺言書の内容を確実に実現するためには、「遺言執行者」の指定が重要です。資産が多岐にわたる場合、親族が執行者になると手続きの負担が重く、また他の相続人から公平性を疑われるリスクもあります。 弁護士を遺言執行者に指定していただくことで、預貯金の解約、不動産の名義変更、株式の書き換えなどの複雑な手続きを、中立的な立場で厳格かつ迅速に遂行することができます。

4-2 広島の他士業と連携した「法務×税務」のワンストップサポート

 富裕層の相続は、法的な「分割」の問題と、税務的な「節税・納税」の問題が表裏一体です。どちらか一方だけを見ていては、最適な解決はできません。

(1)地元の税理士・不動産鑑定士と連携し、節税と紛争予防を両立

 「税金は安くなったが、家族の仲は最悪になった」「円満に分けたが、想定外の税金がかかった」ということになっては本末転倒です。 当事務所は、相続税に強い税理士事務所や、不動産鑑定士や不動産業者などの不動産の実務家と密に連携し、法務と税務の両面からベストな解決策を提案できる体制(ワンストップサービス)を構築しています。

(2)広島家庭裁判所の実務傾向を踏まえた、現実的で有利な解決策の提案

 最後に、万が一調停や審判になった場合、地元の裁判所がどのような判断傾向を持っているかを知っていることは大きなアドバンテージになります。 長年の裁判官経験を持つ弁護士や、現役の家事調停官として実務に携わる弁護士が在籍する当事務所は、裁判所の思考プロセスを熟知しています。「裁判官ならこの証拠をどう見るか」「この主張は通るか」という視点から戦略を立てることで、依頼者様にとって最大限有利かつ、納得感のある解決を目指します。

おわりに

 資産家・富裕層の方にとっての相続対策は、単なる「手続き」ではなく、ご自身が築き上げてきた財産と想いを、愛する家族へと託すための「経営判断」です。

 広島というこの地で、大切な資産を円満に、そして確実に次世代へつなぐために。 複雑な財産構成の整理から、遺言・信託の活用、そして万が一の紛争対応まで。相続・遺言の専門家集団である当事務所が、あなたの「家」と「資産」を守るためのパートナーとして全力でサポートいたします。

 まずは一度、当事務所の初回相談をご利用ください。現状の資産状況を分析し、将来起こりうるリスクと、今打つべき対策について、具体的にお話しさせていただきます

富裕層の相続を脅かす「デジタル遺産」の正体とは?税務調査で狙われる見えない資産と、弁護士が教える防衛策

2025-11-25

はじめに:広島の資産家・経営者の間で「デジタル遺産」の相談が増えている理由

(1) 「思い出の写真」だけではない、巨額資産のリスク

 近年、テレビや雑誌で「デジタル遺産」という言葉を耳にする機会が増えました。「スマートフォンのロックが開かない」「SNSの追悼アカウントをどうするか」といった話題が一般的ですが、資産をお持ちの方や経営者の方にとって、デジタル遺産は「思い出」だけの問題ではありません。 それは、数千万円、時には億単位の金融資産が、誰にも知られずにデジタル空間に埋没してしまうという、極めて深刻な経済的リスクを含んでいます。

(2) 広島でも急増する「見えない資産」のトラブル

 実際に、広島市にお住まいの資産家の方や、代々事業を営む経営者の方々から、当事務所へ寄せられる相談の質が変わってきています。

  • 「亡くなった父が、ネット証券で株取引をしていたようだが、どこの証券会社かわからない
  • 海外の口座に資産があるらしいが、ログインIDが不明で、現地の言葉もわからず手出しができない
  • 仮想通貨(暗号資産)を持っていると聞いていたが、ウォレットのパスワードが見つからない

 これらは決して、東京のような大都市圏だけの話ではありません。ここ広島においても、インターネットバンキングの普及や資産運用の多様化により、「通帳のない資産」は急増しています。

(3) 発見の遅れが招く「税務調査」と「争族」

 デジタル資産の恐ろしい点は、「見えない」ことです。見えないからこそ、発見が遅れ、遺産分割協議が終わった後に多額の財産が出てきて揉め事になったり、最悪の場合、広島国税局の税務調査で指摘を受け、多額のペナルティ(重加算税など)を課されたりするケースも現実に起こり得ます。

 本記事では、広島を中心に多くの相続案件、とりわけ複雑な資産背景を持つ富裕層の相続をサポートしてきた弁護士の視点から、デジタル遺産に潜むリスクと、今すぐ取るべき具体的な防衛策について、徹底的に解説します。

1 広島の富裕層が見落としがちな「高額デジタル遺産」の範囲

 「自分はデジタルに疎いから関係ない」と考えているシニア世代の方ほど、注意が必要です。なぜなら、ご自身の意図しないところで、資産がデジタル化されているケースが多いからです。ここでは、広島の富裕層が特に注意すべき「見えない資産」の正体を明らかにします。

1-1 地方銀行のインターネットバンキングも「デジタル遺産」

(1)通帳が存在しない「ネット支店・Web通帳」の盲点

 「デジタル遺産」と聞くと、ビットコインなどの新しい技術を想像しがちですが、最も身近で、かつ高額な遺産となりやすいのが「インターネットバンキング」です。 広島にお住まいの皆様にとってなじみの深い広島銀行やもみじ銀行などの地方銀行でも、近年は「Web通帳(通帳レス口座)」への切り替えが進んでいます。紙の通帳を発行せず、スマホやパソコンで明細を確認するスタイルです。

(2)家族が「通帳がない=口座がない」と誤認するリスク

 これは非常に便利ですが、相続の場面では大きな落とし穴となります。遺された家族は、まず自宅の金庫やタンスから「紙の通帳」を探します。しかし、Web通帳口座には紙の通帳が存在しません。 そのため、「通帳がない=その銀行には口座がない」と誤認してしまうのです。その結果、数百万、数千万の預金が手つかずのまま放置され、長期間誰にも気づかれないまま「休眠預金」となってしまうリスクがあります。

1-2 資産運用・経営資産としてのデジタル財産

 富裕層の方々は、資産保全のために多様なポートフォリオを組まれていることが一般的です。その多くが、現在はデジタル上で管理されています。

(1)ネット証券・暗号資産(仮想通貨)・FXアカウント

 店舗型の証券会社と異なり、担当者が付かないネット証券(楽天証券、SBI証券など)では、口座名義人が亡くなっても証券会社側から連絡が来ることはありません。パソコンの中にしか存在しない株式や投資信託は、非常に発見困難な財産です。 また、数年前に「試しに買ってみた」ビットコインなどの暗号資産やNFTが、現在では大きな価値を持っていることも珍しくありません。しかし、これらにアクセスするための「秘密鍵(パスワード)」がわからなければ、その資産は事実上、電子の海に消えてしまいます。

(2)海外の金融機関・オフショア口座のオンライン管理画面

 資産分散のために海外の金融機関を利用している場合、郵送物が届かず、全てオンラインで完結しているケースも多々あります。現地の言語での対応が必要になることも多く、家族にとっては大きな障壁となります。

(3)経営者・法人名義の重要アカウント

 事業を営まれている経営者・オーナー社長の場合、問題はさらに複雑です。法人名義のネットバンキング口座や、会社のWEBサイト・ドメイン管理権限、クラウド会計データのアクセス権なども、広義のデジタル遺産に含まれます。 これらは個人の財産であると同時に「会社の命運を握る鍵」でもあります。社長にもしものことがあった際、経理担当者もログインできず、従業員への給与支払いや取引先への送金がストップしてしまう事態は、何としても避けなければなりません。 当事務所では、広島市内で事業を行う親族経営の会社の顧問弁護士も数多く務めており、こうした「事業承継に絡むデジタル資産の引き継ぎ」についても、経営上のリスク管理としてアドバイスを行っています。

2 「パスワードが分からない」では済まない! 3つの重大リスク

 デジタル資産のIDやパスワードが不明であることの弊害は、「ログインできない」という単純な話では終わりません。そこには、法的なトラブル、税務的なペナルティ、そして親族間の不和という、3つの重大なリスクが潜んでいます。

2-1 【税務リスク】広島国税局管内でも強化される「情報収集」

(1)税務署はデジタル上の入出金履歴(足跡)を徹底的に調査する

 「デジタル資産だから、税務署にもバレないだろう」と考えるのは、極めて危険な誤解です。むしろ、デジタルデータは「痕跡(ログ)」が必ず残るため、税務署にとっては調査しやすい対象とも言えます。 相続税の申告において、広島国税局をはじめとする税務当局は、近年デジタル資産の調査能力を飛躍的に向上させています。

 例えば、亡くなった方のメインバンクの入出金履歴(これもデジタルで照会可能です)を数年分遡り、ネット証券や暗号資産取引所への送金履歴があれば、そこから「申告されていない資産があるはずだ」と特定します。

(2)「知らなかった」は通用しない重加算税のペナルティ

 もし、相続人の方々がそのデジタル資産の存在を知らず、悪意なく相続税申告から漏れてしまっていたとしても、税務署から見れば「申告漏れ」です。場合によっては「仮装・隠蔽」とみなされ、本来の税金に加え、35%〜40%もの重い重加算税が課される可能性があります。

  当事務所は、国税OBである税理士(資産税分野を長年担当)が所属する税理士事務所と緊密に連携しています。そのため、「税務署がどこを見ているか」「どのようなお金の動きが指摘されやすいか」という視点を持った上で、法的な調査・対策を行うことが可能です。

2-2 【資産消失】数千万円単位の資産が永遠に引き出せなくなる

(1)ログインID不明による口座凍結と海外業者の対応困難性

 デジタル資産、特に暗号資産や海外のネット口座においては、セキュリティが極めて堅牢に作られています。これは通常時には「安全」を意味しますが、相続時には「壁」となります。 正規のIDとパスワード、あるいは二段階認証のためのスマートフォン(SIMカード)がなければ、相続人であってもアクセスが拒絶されることが多々あります。特に海外の業者の場合、日本の戸籍謄本や遺産分割協議書を提出しても、「現地の法律に基づく手続きが必要」と跳ね返されたり、そもそも日本語でのサポートが皆無であったりと、手続きが暗礁に乗り上げるケースが後を絶ちません。

(2)公的な証明書が存在しない怖さ

 結果として、そこに数千万円の価値があると分かっていても、永久に引き出せない「凍結資産」となってしまうのです。広島市内にある不動産であれば、登記簿などの公的な証明書が存在し、時間はかかっても必ず相続手続きができますが、デジタル資産にはそのような公的な後ろ盾がないものが多く、一度失うと取り返しがつかないという怖さがあります。

2-3 【争族トラブル】「県外に住む相続人」との情報格差

(1)広島の実家と県外の子供との間で生じる情報格差

 デジタル遺産特有の問題として、「家族間の情報格差」が挙げられます。例えば、広島のご実家で同居していた長男は、親のパソコンを見る機会があり、ネット証券の存在を知っていたとします。一方で、進学や就職で東京や大阪に住んでいる次男・長女は、親のデジタル資産のことなど全く知りません。

(2)隠匿の疑いが招く遺産分割協議の紛糾

 いざ相続となった際、もし長男がその情報を開示せず、こっそりと自分のものにしていたり、あるいはパスワードがわからず「無かったこと」にしようとしたりしたらどうなるでしょうか。 後になって「お父さんは株をやっていたはずだ」「もっと預金があったはずだ」と他の相続人が疑い始めると、一気に親族間の不信感が高まります。「兄さんが隠しているんじゃないか?」という疑念は、遺産分割協議を泥沼化させます。 

 当事務所には、広島家庭裁判所の現役の非常勤裁判官(家事調停官)を務める弁護士が在籍しております。調停の現場で、こうした「使途不明金」や「隠し財産」の疑いが、いかに家族の絆を壊し、解決を困難にするかを日々目の当たりにしています。

3 弁護士が推奨する「広島の資産家のための」生前対策

 デジタル資産のリスクを回避する唯一かつ最善の方法は、「生前の準備」に尽きます。ご本人が元気なうちにしかできない対策があります。ここでは、法的な効力を持たせた確実な対策をご紹介します。

3-1 資産目録の作成と「デジタル遺品」の整理

(1)ID・パスワードを安全かつ見つかる場所に保管する

 まずは、ご自身のデジタル資産の「棚卸し」から始めましょう。利用している銀行名(ネット支店含む)、証券会社名、暗号資産取引所、サブスクリプション等をリストアップし、紙の「財産目録」として残すことが第一歩です。 ただし、パスワードをそのまま紙に書いて机の上に置いておくのはセキュリティ上危険です。広島の銀行の貸金庫を利用したり、信頼できる専門家に預けたりするなど、「家族が見つけられる場所」かつ「安全な場所」に保管する方法が重要です。

(2)不要なネット資産の「断捨離」

 また、この機会に「終活」の一環として、使っていないクレジットカードや、少額しか入っていない休眠口座、不要なサブスクリプションを解約する「デジタル断捨離」をお勧めします。遺される家族の手続き負担を減らすことは、立派な相続対策です。

3-2 法的効力を持たせる「遺言書」への記載

(1)デジタル資産の承継者と権限を明確にする

 財産目録を作っただけでは、法的な強制力はありません。「誰にどのデジタル資産を継がせるか」を明確にするためには、遺言書の作成が必須です。 特にデジタル資産は、通常の預貯金以上に手続きが複雑です。遺言書の中で、「〇〇銀行のネット口座にある預金は長男に相続させる」と指定するだけでなく、その手続きをスムーズに行うための権限(アカウントの解約権限等)についても触れておく必要があります。

(2)裁判官・公証人経験に基づく強固な遺言作成

 当事務所には、裁判官を35年間、公証人を8年間勤めたベテラン弁護士が在籍しています。公証人とは、まさに公正証書遺言を作成するプロフェッショナルです。 「どのような文言で遺言を残せば、金融機関やデジタル業者がスムーズに手続きに応じてくれるか」「法的に不備のない遺言はどうあるべきか」という実務の勘所を熟知しています。デジタル資産のような新しい形態の財産を扱う場合でも、長年の経験に基づく法的思考により、紛争を未然に防ぐ強固な遺言書の作成をサポートいたします。

3-3 「民事信託(家族信託)」で認知症リスクに備える

(1)デジタル資産管理を家族に託す契約

 さらに進んだ対策として、「民事信託(家族信託)」の活用も視野に入ります。例えば、暗号資産やネット証券の運用をご自身が認知症等で判断能力を喪失した後も継続したい、あるいは凍結させずに管理したい場合、信頼できる家族に管理権限を託す契約を結んでおく方法です。

(2)広島における信託実務の第一人者によるサポート

 前述の元公証人の弁護士は、公証人在職中に数多くの信託契約公正証書を作成しており、広島における信託実務の第一人者とも言える存在です。デジタル資産と信託を組み合わせた高度な資産承継スキームについても、安心してご相談いただけます。

4 すでに相続が発生している場合の対処法(広島の相続人の皆様へ)

 もし、対策をする前に相続が発生してしまった場合でも、諦めるのは早計です。残された手掛かりからデジタル資産を発見し、保全するための調査手法があります。

4-1 デジタル遺産を発見するための調査手法

(1)デバイスと通知からの推認

 まずは、故人のスマートフォンやパソコン、郵便物を徹底的に確認してください。「【重要】〇〇銀行」「取引報告書」などの件名でメール検索をかけたり、ブラウザのお気に入りに金融機関がないか確認したりします。

(2)入出金履歴から「見えない口座」を特定する

 通帳やキャッシュカードがあるメイン口座の動きを見て、不明な振替(〇〇ショウケン、〇〇コイン等)がないかチェックすることも重要です。また、ネット専業銀行でも、年に一度程度は「重要なお知らせ」が郵便で届くことがあります。

4-2 手続きが困難な場合の専門家連携

(1) 弁護士照会による資産の洗い出し

 自力での調査に限界を感じた場合は、弁護士の介入が効果的です。弁護士は「弁護士会照会(23条照会)」という法的な調査権限を持っており、金融機関に対して故人の取引履歴や残高の開示を求めることで、隠れた口座を洗い出せる可能性があります。

(2)不動産手続きとのワンストップ対応

 また、デジタル資産だけでなく、広島市内の不動産や、県外の投資用不動産が遺産に含まれている場合も多々あります。 当事務所は、全国規模の大手司法書士法人「みつ葉グループ」の広島拠点と同一事務所内で連携運営しており、不動産登記の実務にも即座に対応可能です。デジタル資産の解約と、不動産の名義変更をワンストップで並行して進められるため、手続きのスピードが格段に上がります。

5 広島でデジタル遺産・富裕層の相続を当事務所に依頼するメリット

 デジタル遺産の相続は、ITの知識だけでなく、法律、税務、そして不動産など、多角的な専門知識が求められる総力戦です。当事務所が、広島の資産家・経営者の皆様に選ばれている理由をご説明します。

5-1 「裁判官・公証人の視点」と「現場の交渉力」の融合

(1)法の番人としての重厚な知識

 相続は、ただ手続きをすれば良いものではありません。「親族間で揉めないか」「税務署に指摘されないか」という深い洞察が必要です。当事務所では、元裁判官・元公証人という「法の番人」としての重厚な知識と経験を活かし、法的安定性の高い解決策を提案します。

(2)紛争現場で培った交渉力

 それに加え、遺産分割や株式争奪などの紛争現場で戦ってきた弁護士の「交渉力」を融合させ、依頼者様の利益を最大化します。

5-3 広島の専門家ネットワークによる包括的サポート

(1) 税理士連携による税務調査対策

 相続税の問題であれば連携する資産税専門の税理士とタッグを組み、税務調査リスクまで見据えたサポートを行います。

(2)複雑な資産(収益不動産・自社株)への対応力

 特に、賃貸アパートなどの収益不動産や、同族会社の株式(自社株)が絡む相続においては、評価額の算定や分割方法が極めて難解になりますが、当事務所には親族経営企業の事業承継や、収益不動産に関する紛争解決の実績が豊富にあります。 デジタル資産という「新しい課題」と、不動産・自社株という「伝統的な課題」。この両方を、広島という地域に根差したネットワークで解決できるのが、当事務所の最大の強みです。

6 よくあるご質問(FAQ):デジタル遺産相続の疑問

 広島の皆様からよくいただく、デジタル遺産に関する具体的なご質問にお答えします。

Q1. スマホのロックが解除できません。中身を見ないと相続手続きはできませんか?

 スマートフォンのロック解除がどうしてもできない場合でも、相続手続き自体は可能です。重要なのは「スマホの中身(写真等)」ではなく、「金融機関との取引事実」です。郵便物やメインバンクの通帳の履歴から取引先金融機関を特定できれば、スマホを開かずに直接金融機関へ照会をかけることができます。ただし、暗号資産のウォレット等、スマホ内にしか鍵がない場合は専門的な技術調査が必要になることもありますので、弁護士へご相談ください。

Q2. ネット証券のIDとパスワードが分かりません。どうすれば良いですか?

 IDやパスワードが不明でも、相続人であることを証明する書類(戸籍謄本など)を証券会社に提出すれば、口座の有無の照会や、残高証明書の発行依頼が可能です。ネット証券であっても、相続手続きのための書式は郵送等で対応してくれます。まずは「どこの証券会社を使っていたか」を特定することが先決です。

Q3. 仮想通貨(暗号資産)にも相続税はかかりますか?

 はい、かかります。亡くなった日の時価(評価額)で日本円に換算し、相続税の課税対象となります。暗号資産は価格変動が激しいため、評価額の算定や納税資金の確保(現金化のタイミング)が非常に重要です。申告漏れが多い分野ですので、税理士・弁護士と連携して慎重に進める必要があります。

Q4. 広島市外や海外に住んでいる相続人がいて、話し合いが進みません。

 デジタル遺産に限らず、遠方の相続人との遺産分割協議は難航しがちです。当事務所では、Web会議システム等も活用しつつ、弁護士が代理人として間に入り、感情的な対立を避けながら法的に公平な分割案を提示・交渉することが可能です。

まとめ:広島でデジタル資産の相続・遺言にお悩みの方はご相談ください

 デジタル化が進む現代において、資産家の方々にとって「デジタル遺産対策」は、避けては通れないリスクマネジメントです。 「見えない資産」は見えないからこそ、放置すればするほど、ご家族に大きな負担とリスクを背負わせることになります。

 しかし、ご安心ください。生前に適切な準備をしておけば、デジタル資産は次世代への有益な贈り物となります。また、相続発生後であっても、専門家の力を借りれば、資産を取り戻せる可能性は十分にあります。

 「自分の場合はどのような対策が必要か」 「亡くなった父のパソコンに資産が入っているかもしれない」

 そのようにお感じの方は、ぜひ一度、当事務所の無料相談をご利用ください。広島市および近郊エリアの皆様からのご相談を、経験豊富な弁護士チームがお待ちしております。

遺産分割協議において相続不動産の評価額はいくらにすればよいのか?

2025-10-21

「親から相続した実家、遺産分割での評価額はいくらにすればいいの?」「兄弟間で評価額の意見が合わなくて困っている…」

大切なご家族が亡くなられた悲しみの中、不動産の相続問題で頭を悩ませていらっしゃる方は少なくありません。特に不動産の評価額は、相続人それぞれの利害が絡むため、深刻な対立(いわゆる「争族」)に発展しやすい問題です

この記事では、相続問題に精通した弁護士が、遺産分割における不動産評価の基本的な考え方から、ご自身の状況に応じた適切な主張、そしてお困りの際の対処法まで分かりやすく解説します。

1 なぜ相続不動産の評価額でもめてしまうのか?

遺産分割協議において相続不動産の分け方は大きく分けて、

現物分割(相続人Aさんは相続不動産のうち不動産Aを取得し、相続人Bには不動産Bを取得するといった遺産分割を現物で分割する方法)、

代償分割(特定の相続人が相続不動産を取得し、他の相続人には代償金を支払う方法)、

換価分割(相続不動産を売却して現金化し、その現金を相続人間で分ける方法)

があります。

 このうち③換価分割については売却して得られる現金を相続人間で分けるだけなので、相続不動産の評価でもめることが基本的にありません

 他方で、①現金分割の場合には、相続不動産の評価額を基準にして各相続人が取得する不動産や預貯金等の他の相続財産の取り分を協議するため、相続不動産の評価額がいくらなのかが問題となります。

 また、②代償分割についても相続不動産の評価額を相続人間で合意した上で、合意した評価額に基づき、相続人不動産を取得する特定の相続人が、相続不動産を取得しない相続人に対して代償金を支払うため、そもそも相続不動産の評価額をいくらで合意するか問題となります。

 具体的には、
現金分割の場合には、相続人Aは自身が取得する相続不動産Aの評価額が、相続人Bが取得する相続不動産Bと比べて低い方が、相続不動産A以外の相続財産の取り分が増えることになるため、相続人Aとしては相続不動産Aの評価額が低いと主張することになります(反対に、相続人Bとしては相続不動産Bの評価額が高いと主張することになります)。

代償分割の場合には、不動産を取得する特定の相続人としては他の相続人に支払う代償金を少なくするために相続不動産の評価額は低いと主張することになります。他方で、代償金を受け取る側の相続人としては相続不動産の評価額は高いと主張することになります。

このような相続人間の利害の対立が、「その金額は高すぎる」「安すぎる」といった感情的な争いを引き起こします。

2 相続不動産を評価する方法

遺産分割協議では、相続不動産をどのように評価するかについて法律上のルールはなく、「相続人全員の合意」によって相続不動産の評価額を決めることになります。

この際に相続不動産の合意形成の資料として用いられる相続不動産の評価方法には以下のようなものがあります。

① 固定資産税評価額に準拠する方法

固定資産税等の計算基準となる価格で、実勢価格の7割程度が目安です。 

メリット

各不動産の評価額を算定することが簡潔であるという点です。

デメリット

3年に1度しか評価替えがされないため、実勢価格(実際に市場で売買されると想定される価格)や公示地価等と差が生じやすい点などです。

② 相続税評価額(路線価)に準拠する方法

相続税や贈与税の計算に用いる価格で、一般的に実勢価格の8割程度とされています。

土地については「路線価方式」(路線につけられた1㎡あたりの評価額(路線価)に土地の面積・形状に応じた調整計算をして算出する方法)又は「倍率方式」(固定資産税評価額に一定の倍率を乗じて算定する方法)により算定されます。他方で、建物については固定資産税評価額をそのまま使用します。

メリット

固定資産税評価額と同様に、評価額を算定することが基本的に簡潔であるという点です。また、毎年評価替えがされているため、固定資産税評価と比べて地価変動をより反映しているとされています。

デメリット

としては土地の形状等によっては調整して計算する必要がある点です。

③ 公示地価に準拠する方法

国土交通省が正常価格(自由公開市場で取引が行われるとした場合に通常成立すると認められる価格)として毎年公示する価格です。

メリット

比較的実勢価格に近いとされている点です。

デメリット

対象となる標準地・基準地が少なく、公示地価に基づいて遺産分割協議で対象となっている相続土地の評価を算定することが難しい場合がある点です。

④ 基準地標準価格(都道府県地価調査標準価格)に準拠する方法

  都道府県が、毎年特定の基準地について公表している価格です。

  メリットとデメリットは基本的に公示地価と共通です。

④ 不動産業者の査定

各相続人が、不動産業者に相続不動産に関する査定書の作成を依頼し、この査定書に基づき相続不動産の評価額を算定する方法です。

各相続人は取得した査定書の評価額が異なる場合には、複数の査定書の中間値や平均値に基づき評価額を決める方法などがあります。

メリット

コストを抑えつつ専門家の意見を反映した評価額を算定できる点です。
 デメリットは査定書の作成者の責任が問われるものでないため、査定者、査定書を依頼した相続人の恣意が入り込む余地が低くはない点です。また、不動産業者に対して依頼する手間もかかります。

なお、遺産分割協議もし合意できずに家庭裁判所の遺産分割調停や審判に移行した場合、裁判所は原則として「遺産分割時の時価(実勢価格)」を基準に判断します。不動産鑑定士による鑑定や各相続人が提出した不動産業者の査定書などに基づき決定していきます。

3 相続不動産の額が低いと主張したほうが良い場合

 相続不動産の額が低いと主張したほうが良い場合としては、自身が被相続人の方と同居していた相続不動産をそのまま相続したいなどの希望があり、①現物分割により自身が相続不動産を取得することを考えている場合や②代償分割により自身が相続不動産を取得し、他の相続人に対して代償金を支払うことを考えている場合などです。

なぜなら、相続不動産の評価額が他の相続人が取得する相続不動産以外の相続財産の金額や自身が他の相続人に支払う代償金の金額に影響するためです。

遺産が「評価額X万円の相続人不動産」と「現金3000万円」のみで、相続人が兄弟2人(この場合、各相続人の法定相続分は2分の1です)で、兄が相続不動産の取得を希望している事例をもとに、相続不動産の評価額がどのように影響するか説明いたします。

相続不動産の評価額が5000万円の場合には、各相続人の取り分は4000万円(相続財産8000万円×法定相続分2分の1)となります。この場合において、兄が相続不動産を取得するときには、弟は現金3000万円と取得したとしても本来の取り分より1000万円少なくなるため、兄は弟から代償金として1000万円を支払うように求められることになります。

他方で、相続不動産の評価額が2000万円の場合には、各人の取り分は2500万円(相続財産5000万円×法定相続分2分の1)となります。この場合においては、兄が相続不動産を取得したとしても、まだ500万円の取り分が残るため、弟に代償金を支払うことなく、現金500万円を得る余地があります。

相続不動産の額は低いと主張したほうが良い相続人としては、固定資産税評価額や相続税評価額により相続不動産の評価を行うように交渉することなどが考えられます。

4 相続不動産の額が高いと主張したほうが良い場合

相続不動産の額が高いと主張したほうが良い場合としては、①反対に自身が相続不動産の取得を希望しておらず、他の相続人が現物分割により相続不動産の取得を希望している場合②代償分割により自身が代償金を受け取る場合などです。

相続不動産の額は高いと主張したほうが良い相続人としては、できるだけ実勢価格に近い公示地価等により相続不動産の評価を行うように交渉するほか、不動産業者から固定資産税評価額等より高額の査定書を取得し、固定資産税評価額等は実勢価格と離れていると主張し交渉することなどが考えられます。

5 まずは弁護士にご相談ください

相続不動産の評価額については様々な算定方法があり、相続不動産の評価額について他の相続人の合意を得ることに難航することは少なくありません。

当事者間の話し合いでどうしても合意できず遺産分割協議が成立しない場合、家庭裁判所での「遺産分割調停」、それでもまとまらなければ「遺産分割審判」を行っていくことになります。 このような場合には、時間や費用がかかるばかりか、他の相続人との関係性に少なからず悪影響があります。

不動産を含む遺産分割は、専門的な知識と交渉戦略が不可欠です。

少しでも「もめそう…」と感じたら、問題が深刻化する前に、ぜひ一度、相続問題に精通した弁護士にご相談ください。

当事務所では、裁判官や公証人としての経験が豊富なベテランから若手まで、複数の弁護士が在籍しており、あなたのお悩みに寄り添いながら、親身になって丁寧に対応させていただきます。

法律用語もかみ砕いて分かりやすくご説明いたしますので、どうぞご安心ください。

まずはお気軽にお問い合わせいただき、あなたの声をお聞かせください。

身寄りのない親戚が死亡。立替えた葬儀等の費用は?残った遺産の取得(相続)をできるのか?

2025-10-21

1 はじめに

 身寄りのない親戚が亡くなり、葬儀や関連費用を立て替えた場合、その費用の精算や残された遺産の取得方法について、多くの方が疑問を抱かれることでしょう。本記事では、具体的な事例をもとに、これらの問題に対する法的な手続きや注意点を詳しく解説します。

2 参考事例の紹介

質問:先日、私の姪が亡くなりました。アパートの自室内で亡くなっているのが発見されたときには、死後1週間ほど経っていたようでした。

姪の両親は既に他界していて、兄弟もいないので相続人はいません。

私が親戚として姪の部屋の特殊清掃の手配や、火葬・葬儀などの事後手続を全て行い、費用が全部で150万円ほどかかりました。

姪の預金口座には500万円ほどありましたが、口座凍結されたので引出しはできませんでした。

私が支出した費用はどうなりますか? 姪の預金を私が相続することはできますか?

3 相続財産清算人の選任申立

 人がお亡くなりになった場合、多くの場合、相続人が死後の手続きを行います。そして、多くの場合、死後の手続きに要した費用は、相続人間の遺産分割協議において、必要経費として遺産から支出されることになります。

 ところが、相続人が誰もいない場合、相続人でない人が、やむを得ず、亡くなった方の死後の諸手続きを行うことがあります。その諸手続きに要した費用を、亡くなった方の遺産で支払ってもらうためには、まず、その遺産を管理して清算処理をする人である相続財産清算人を家庭裁判所に選任するように申立をすることが必要になります。

 相続財産清算人は、亡くなられた方の財産を管理して、その財産を処分したり、債権者に対して債務の弁済を行ったりする役割を担います。

【相続財産清算人の選任申立の手続き】

●申立人:

利害関係人(葬儀費用を立て替えた人など)や検察官が申し立てることができます。

●申立先:

亡くなられた方(被相続人)の最後の住所地を管轄する家庭裁判所。

●必要書類:

⑴申立書

⑵被相続人の出生時から死亡時までの戸籍謄本類

⑶被相続人の住民票除票または戸籍附票

⑷財産関係資料(預貯金の通帳、不動産全部事項証明書、株や債券といった有価証券に関する資料など)

⑸被相続人との利害関係を示す資料(例えば、被相続人と同居していたことがわかる住民票、健康保険証、看護記録や親族関係を示す戸籍謄本類、被相続人が書き残したメモ、被相続人が支払うべき費用を立て替え払いしたことを示す書類など)

●費用:

⑴収入印紙代(800円程度)

⑵予納郵便切手代(申立先の家庭裁判所によって、それぞれ異なるので確認が必要です)

⑶官報公告費用(約4000~5000円程度)

⑷予納金(選任された相続財産清算人が行うべき活動の内容に応じて、家庭裁判所が決定します。少なくとも10万円から20万円は必要で、活動内容によって、それ以上の金額の予納が必要となります)

4 葬儀費用等の請求手続

 相続財産清算人が選任された後、本来、亡くなられた方が支払うべきであった費用などを支払った人は、それらの費用を被相続人の財産(遺産)から優先的に支払うように、相続財産清算人に対して請求することになります。

【手続きの流れ】

⑴費用の証明:立て替えた費用の領収書や明細書を相続財産管理人に提出します。

⑵相続財産清算人の判断:相続財産清算人は、提出された資料をもとに、費用の妥当性や必要性を判断します。

⑶家庭裁判所の許可:相続財産清算人は、家庭裁判所と協議し、支出の範囲や金額が合理的かどうかを検討します。家庭裁判所が許可した範囲内で、費用を支出した人に対して、遺産からの支払いが行われます。

 注意点として、支出したのが葬儀費用の場合、葬儀の規模や内容、費用の額が社会通念上適切であることが求められます。過度に高額な葬儀費用や、被相続人の意思に反するような支出は、認められない可能性があります。

5 残余財産分与請求(特別縁故者)

 上記の費用支払の請求と併せて、特別縁故者として残余財産の分与を請求することも考えられます。

 特別縁故者とは、亡くなった人(被相続人)と特別に親しい関係にあったことを理由に、相続人ではないにもかかわらず、遺産の全部又は一部を取得できることになる人をいいます。

 特別縁故者として認められる可能性があるのは、次のような人です。

⑴被相続人と生計を同じくしていた人

 内縁関係にあった人や、事実上の養子・養親などとして、被相続人と同居して生計を同じくしていた人は、特別縁故者として認められる可能性があります。

⑵被相続人の療養看護に努めた人

 被相続人の生前に、ずっと親身になって世話や介護を行っていた人は、特別縁故者として認められる可能性があります。自宅療養の場合だけでなく、施設療養の場合も、認められる場合はあります。もっとも、介護や看護を仕事として行っていた人は、原則として特別縁故者とは認められません。

⑶被相続人と特別密接な関係にあった人

 その他にも、亡くなられた方(被相続人)と特別に密接な関係にあった人は、特別縁故者と認められる可能性があります。

 特別に密接な関係があったと言えるためには、通常の交流があった程度では足りません。上記⑴の生計を同一にしていた場合や、上記⑵の療養看護の場合と同程度に密接な交流があり、その方に相続財産を分与することが被相続人の意思に合致するとみられる場合といえるか、が重要になります。

 例えば、生前に被相続人と特に親しく交流していた友人知人の方や、遺言書こそないものの、生前に被相続人が「財産を譲りたい」と言っていたことが証明できるような相手の方、被相続人から生前に継続的に金銭援助を受けていた人などが考えられます。

【手続きの流れ】

 特別縁故者であると主張する人が、遺産からの財産分与を求める申立をするのは、「相続人不存在の確定後3カ月以内」に行わねばなりません。その期限を過ぎると遺産からの財産分与を受けられなくなるので、注意が必要です。

●必要書類:

⑴申立書

⑵申立人の住民票または戸籍附票

⑶被相続人の戸籍(除籍)謄本

●費用:

収入印紙 800円

6 生前にできる対策(遺言書等の作成)

 法定相続人がいない方が亡くなられた場合、生前にその方の面倒を見ていた方や、お亡くなりになった後に葬儀を行った方などが、その方の遺産から立て替えた費用の支出などを得ようとすると、上述したような手続きを行わなければならず、大変、面倒です。また、せっかく手続きをしても、家庭裁判所に認めてもらえないリスクもあります。

 そのような手間やリスクを避けるためには、生前に、遺言書や死後事務委任契約書を作成しておいてもらうという対策をしておくことができればベストです。

 具体的には、生前にお世話になっていた方に対して、財産を残す(遺贈する)といった内容の遺言書を作成してもらい、かつ、そのお世話になった方を遺言執行者として指名しておくこと、葬儀の方法などを指定して、その葬儀の主催を委ねる死後事務委任委任契約書を作成すること、そして遺言書や死後事務委任契約書を公正証書で作成しておくといった準備ができていると、お亡くなりになったあとの手続きがスムーズになります。

7 特別縁故者の生前対策、死後の各種申立は、千瑞穂法律事務所にご相談下さい

 千瑞穂法律事務所には、長年にわたり裁判官や公証人を務めた弁護士や、家庭裁判所の現役の非常勤裁判官として多くの遺産分割問題に取り組んでいる弁護士が在籍しています。そうした経験と実績に基づいて、特別縁故者の生前対策、死後の各種申立てについて、適切な法的助言を行うことができます。

 特別縁故者の生前対策、死後の各種申立ての問題でお困りごとがあれば、まずはお気軽に、千瑞穂法律事務所にご相談下さい。

生命保険の死亡受取金は、相続(相続税、遺産分割)の対象に含まれますか?

2025-10-21

◆「税法」と「民法」で異なる取り扱い

生命保険は、相続税(税法)での取り扱いと、遺産分割(民法)での取り扱いが異なるので注意が必要です。

◆「税法」での取り扱い

生命保険は、契約者(保険料負担者)・被保険者、死亡保険金の受取人が、それぞれ誰なのか、その組み合わせによって税金の種類が変わってきます。

相続の場面で取り扱われる生命保険のほとんどは、契約者(保険料負担者)と被保険者がどちらも親で、受取人が子供になっています。このような場合、課される税金の種類は、相続税になります。

ところで、相続税の対象となるのは、原則として遺産、すなわち死亡時に被相続人の名義であった財産です。死亡保険金は受取人固有の権利だと考えられているため、原則通りであれば、遺産には含まれず、相続税の対象にはならないと言えそうです。

しかし実際には、税法上、死亡保険金は「みなし相続財産」とされており、相続税の対象になります。ですから、生命保険金についても相続税は考えなければなりません。

もっとも、生命保険金には「500万円✕法定相続人の数」の相続税の非課税枠があり、その範囲内については相続税がかかりません。

◆「民法」での取り扱い

他方、民法においては、死亡保険金を「みなし相続財産」とするというような例外的な定めはありません。したがって、原則どおり、死亡保険金は受取人固有の権利であって、遺産分割の対象に含まれません。

遺産分割の話し合いの際に、死亡保険金の受取人が「自分には死亡保険金があるから、その分を考慮して、遺産分割の金額を調整しよう」と言う場合は、そのようにすることはできますが、そうでない場合、死亡保険金の額を遺産分割の対象に含めて計算するということはできません。

◆例外的に遺産分割の対象になる場合

このように民法においては、生命保険金は原則として遺産分割の対象にならないのですが、例外的に、遺産分割の対象となる場合があります。

たとえば、親が亡くなったときの財産(=遺産)が4000万円だったのに、特定の相続人に対して別途、死亡時に受け取れる生命保険金が3000万円あった、というような場合です。

このような場合、相続人同士の間で、取得できる財産額に大きな差が生じてしまい、不公平な結果となってしまいます。

そこで、相続人同士の間で不公平となる程度が著しい場合には、生命保険金を「特別受益」として取り扱い、これを「みなし相続財産」として計算上、遺産に組戻して計算して、遺産分割の対象とするという裁判所の判断が出るケースがあります。

具体的にどの程度の不公平さの場合、裁判所がそのような判断をするか、というのは、ケース・バイ・ケースとなりますが、裁判例をみると、生命保険金が遺産総額の6割を超えてくると、裁判所はそのような判断を行う傾向があるようです。

◆まずは千瑞穂法律事務所にご相談を

 このように生命保険金をどう取り扱うかは、税法と民法で異なりますし、また民法の遺産分割の場面でも、原則と例外があって、その区別は難しい面があります。そこで、相続の場面で生命保険金をどう考えればよいかは、生命保険金と相続の関係に詳しい弁護士に相談した方が良いでしょう。

 千瑞穂法律事務所には、生命保険金と相続の関係に詳しい弁護士が在籍しています。ですので、生命保険金と相続の関係で分からないことや困ったことがある場合には、まずは千瑞穂法律事務所にご相談下さい。

囲い込まれた親を救い出したい! 問題解決のための法的対応策とは?

2025-10-21

1 親の囲い込みはなぜ起こる?

 最近、「親の囲い込み」と呼ばれる事態が増えています。

 「親の囲い込み」とは、親族(多くの場合は子どもの一人)が、高齢の親を囲い込んでしまい、他の親族(他の子ども)に会わせないようにしてしまう、という事態です。「高齢の親に会いたいのに、親に会えない、親に会わせてもらえない」といった相談が増えています。

 では、なぜ、このような「親の囲い込み」が生じるのでしょうか?

 親が高齢になると、身体が不自由になったり、認知能力が低下してきたりするため、自立した生活が難しくなります。親が自立した生活が困難になった場合、子どもなどの親族による介護が必要になったりします。親の介護はとても大変なので、以前は、子どもたち同士で、介護が必要な親を「押し付け合う事態」が問題になっていました。

 ところが、最近では、前述のように「親の囲い込み」が問題になっています。

 「親の囲い込み」が生じる理由は、事案ごとに様々ですが、親の財産を巡る子ども同士の争いが背景にある場合が少なくありません。

 「親の囲い込み」をする側の立場の方の主張として、よく聞くのが「面倒な親の介護をずっと続けてきたのに、将来、親が亡くなったときの相続の場面で、親の面倒を全然みなかった他の兄弟たちと、遺産分配で全く同じ扱いをうけるのは、不公平だ」というものがあります。こうした不満を持つ方が、親の生前に、「何らかの形で親の財産を譲り受けておこう」とか、「自分に多く遺産を渡すような内容の遺言書を親に書いてもらおう」と思い、そのために「親の囲い込み」をする、というわけです。

2 「囲い込まれた」親の意思

 「親の囲い込み」が生じた場合、囲い込んだ子どもに対して、他の兄弟たちが「親に会わせてほしい」と言っても、囲い込んだ側の子どもは、なかなか親に会わせてくれません。そのときに、会わせない理由として「親自身が会いたくないと言っている」と説明していることも、少なくありません。

確かに、本当に「親自身が会いたくないと言っている」という場合も、ありえます。ただ、多くの場合、親は、自分の子ども達には会いたいと思うものです。ですから、「親自身が会いたくないと言っている」という説明は、囲い込んだ側の子どもが親の意思に反する説明をしている可能性もあります。また、親自身が実際に「会いたくない」と言っているという場合でも注意が必要です。というのも、囲い込まれる側の親は、高齢になり、すでに自分一人では生活が維持できないため、自分の面倒を見てくれる人に頼らなければ生活できない状況になっています。そのため、自分を「囲い込んでいる」子どもの考えを無下にはできず、半ば、その言いなりになってしまう、ということもあるからです。

3 親の囲い込みの態様

では、「親の囲い込み」は、どのように行われているのでしょうか?

まず、囲い込みをしている子どもが、親と同居しているケースがあります。この場合、囲い込んでいる子どもが「(親と同居している)自分の家に入るな」「親も会いたくないと言っている」などと言って、他の兄弟たちが家に入ることを拒むことで、「親の囲い込み」を実現します。

次に、親が病院に入院しているケースや介護施設に入居しているケースがあります。このような場合、病院や介護施設は「キーパーソン」として定められた人の意向に沿って行動するところ、囲い込みをする側の子どもが、この「キーパーソン」になり、その立場から、病院や介護施設に対して「他の兄弟に会わせるな」「親も会いたくないと言っている」などと指示を出すことで、「親の囲い込み」を実現します。

4 親の囲い込みを解決する方法

 「親の囲い込み」を解決するには、どうしたら良いでしょうか? 法的な手続きとして考えられる方法は、次のとおりです。

(1)法定後見人をつける方法(=×難しい)

 「親の囲い込み」が生じている場合、その親の認知能力(判断能力)が低下していることがあります。認知能力(判断能力)が低下している人に対して、その権利や財産を保護するために用意されている制度の1つが、法定後見制度です。

 法定後見制度は、本人の認知能力(判断能力)の低下度合いに応じて、家庭裁判所が、後見人、保佐人、補助人、のいずれかを選任して、本人に代わって法的手続をしたり(代理権)、本人の判断を補助したり(同意権)する、というものです。

 法定後見人の選任をすることができれば、法定後見人が家庭裁判所の監督の下で、適切な身上監護や財産管理を期待できます。

 もっとも、実際には、「親の囲い込み」が既に生じている状態から、法定後見人を家庭裁判所に選任してもらうのは、非常に困難です。

 家庭裁判所に対して法定後見人を選任するように求める場合、必要な提出資料の中に精神科医による診断書があります。家庭裁判所の裁判官が、本人に対して法定後見制度を適用することが必要であるか否か、必要であるとして、後見人、保佐人、補助人、いずれが適切かを判断するためには、本人の認知能力(判断能力)がどの程度であるのかについて記載された精神科医による診断書が、必要不可欠といえます。

 精神科医は、本人に対して問診をしたり、様々な検査をしたりして、診断書を作成します。ですから、精神科医は本人と会う必要があります。ところが、「親の囲い込み」がなされている場合、囲い込みを行っている側は、親に精神科医を会わせることもしません。その結果、精神科医による診断書を用意できなくなるのです。

 精神科医による診断書がないまま、家庭裁判所に法定後見人の選任を申し立てても、申し立てが却下される可能性が高いです。

 こうした訳で、「親の囲い込み」を解決するために、法定後見人の選任をするという方法は、難しいと言わざるを得ません。

(2)家庭裁判所の親族間紛争調整調停(=×難しい)

「親の囲い込み」の問題は、親子間・兄弟間の問題ですので、親族間の紛争です。親族間の紛争を解決するための制度としては、家庭裁判所の親族間紛争調整調停というものがあります。これは、紛争の当事者が、家庭裁判所に集まって、中立の第三者である調停委員を介して話し合いを行って、紛争の解決を図るというものです。

 親族間の紛争は、当事者同士で話し合って解決するのが望ましいため、このような制度が設けられているのですが、実際のところ、「親の囲い込み」の問題を親族間紛争調整調停で解決するのは困難です。

 というのも、そもそも調停制度は、裁判所を活用するものではありますが、基本的に当事者が任意に話し合いをすることを前提にしています。ですから、調停が行われる日に、当事者が参加するかどうかも、その人に任されており、参加する義務もなければ、参加しなかった場合の罰則もありません。ですから、「親の囲い込み」をした側の当事者が、誰も調停に参加しないというケースがほとんどです。このような場合、話し合いになりませんので、調停手続は不成立で終了になってしまいます。

 また、仮に「親の囲い込み」をした側の当事者が、調停に参加したとしても、調停参加者の認識や意見がまったく噛み合わないことも多いです。調停手続は、当事者が話し合って合意に達することで問題を解決する手続きですので、話し合っても合意に達しないときには、調停手続は不成立で終了になってしまいます。

 こうした訳で、「親の囲い込み」を解決するために、親族間紛争調整調停を行う方法も、難しいと言わざるを得ません。

(3)面会妨害禁止の仮処分(=△有効な場合がある)

「親の囲い込み」が生じている場合、排除されている側の子どもは、親に会いたくても会えません。この状態は、「親に会う権利」ないし「親に会うという法的に保護された利益」が侵害されていると考えることもできます。

 そのような権利侵害ないし要保護利益侵害をしないことを求める訴訟を行うという方法も考えられます。もっとも、通常の訴訟手続では、多くの場合、結論が出るまでに1年以上の期間がかかってしまいます。囲い込みをされている親は高齢であることが多いところ、訴訟に時間をかけていては、親が亡くなってしまうかもしれません。

 このように、訴訟での救済を求めていたのでは、侵害された権利ないし要保護利益の保護が実現できないような場合に、まずは仮の保護を実現させるための制度として「仮処分」という制度が用意されています。「仮処分」の制度は、法的な確定的な判断は後日行う訴訟で下してもらうとして、それまでの間、迅速に、取り急ぎの判断を下して、権利や利益を仮に保護しようというものです。

 この制度を活用して、「親との面会を妨害することを禁止する」という仮処分を下すよう裁判所に求める、という方法が考えられます。

 実際、この方法により、裁判所が「親との面会を妨害することを禁止する」という仮処分を下した事例があります(横浜地裁平成30年7月20日)。

 もっとも、この事例では、仮処分の申し立て前に、上述した「親族間紛争調整調停の申立て」や、「成年後見人選任の申立て」など、様々な方法を行ったにもかかわらず、親と会うことができなかった、という事情があったうえでの、裁判所の判断でした。

 ですから、この先行事例に基づけば、面会妨害禁止の仮処分を裁判所に下してもらうためには、事前に、それ以外の方法を尽くしていることが必要になると考えられます。

(4)損害賠償請求の訴訟(=△有効な場合がある)

前述したとおり、「親の囲い込み」が生じている場合、「親に会う権利」ないし「親に会うという法的に保護された利益」が侵害されていると考えることもできます

 そこで、「親の囲い込み」を不法行為として捉え、それによって権利ないし利益を侵害されたとして、それによって生じた損害の賠償を求める訴訟を提起する、という方法も考えられます。

実際、東京地裁は「親と面会交流したいという子の素朴な感情や、面会交流の利益は法的保護に値する」とし、合理的な理由なく面会を拒む行為は不法行為であるとして、面会を妨害した子供に対する損害賠償請求を認める判決を下しています(東京地裁令和元年11月22日判決)。

ただ、訴訟手続は判決を得るまでに通常は1年以上の時間がかかること、また、損害賠償請求が認められたからといって、直ちに親と会えるようになるわけではないことには注意が必要です。「親の囲い込み」が不法行為であると裁判所に認定されることにより、例えば「キーパーソン」の指示に従っていた病院や介護施設が、不法行為者である「キーパーソン」の指示に従わなくなり、親に会わせてくれるようになる、といった間接的な効果を期待することになります。

5 親の囲い込みをされそうなときには何をすべき?

 「親の囲い込み」が発生してしまった場合、これを解決するのは多くの困難を伴います。そこで、「親の囲い込み」が生じないようにすることが一番なのですが、もし「親の囲い込み」をされそうになったときは、何をすべきでしょうか?

 まず考えられるのは、親との信頼関係を維持し、より高めていくことです。親と多くあって、いろいろな話をして、親の考え方や意向を十分に踏まえて行動するようにしておけば、他の兄弟による「親の囲い込み」の芽を摘むことができる可能性があります。

 次に考えられるのは、「親の囲い込み」をしそうな兄弟と、よく話し合うことが考えられます。もし、事前の話し合いを通じて、「親の囲い込み」を行う動機がなくなれば、「親の囲い込み」を未然に防ぐことが可能になります。

 また、親がすでに病院や介護施設にいる場合には、他の兄弟ではなく自分自身が「キーパーソン」になるという方法もありえます。この場合は、もちろん、自分自身が囲い込む側になるということではなく、他の兄弟も自由に会えるようにしつつ、他の兄弟による親の連れ去りは防止する、という形になります。

 法的な対応として考えられるのは、もし親の認知能力(判断能力)が既に低下しているのであれば、早い段階から法定後見制度を利用しておくことです。法定後見制度を利用して、親に、後見人、保佐人、補助人、のいずれかが付いている場合、他の兄弟が「親の囲い込み」を行おうとする心理的な抑止力になります。

6 囲い込まれて不利な遺言書を書かれるなど相続トラブルになったら?

「親の囲い込み」によって親と会えないまま、親が亡くなってしまった後、遺産分割の場面で、親を囲い込んだ側の兄弟から親の遺言書があるという話が出てくることがあります。そのような場合、その遺言書には親を囲い込んだ側の兄弟に有利な内容(=自分にとっては不利な内容)が書かれている場合が多いです。このような場合には、親に会えなかった子どもたちは遺言書に納得せずに、相続トラブルになることが少なくありません。このような場合、どうすればよいでしょうか?

 もし、その遺言書が、親の本心から書かれているものであるならば、たとえその内容に不満があっても、法的には有効であると考えざるを得ません。したがって、そのような場合には、もし遺留分の侵害があれば遺留分侵害額請求をするしかない、ということになります。

 もっとも、「親の囲い込み」が生じている事案では、遺言書が作成された時点で、すでに親の認知能力(判断能力)が相当程度、低下していたというケースも少なくありません。そのような場合、遺言書に記載された内容を親自身がはっきりと理解できていなかった可能性があります。

そこで、遺言書が作成された時点での親の認知能力(判断能力)を判断するための資料(医療カルテ、介護記録、認知能力診断など)を取り寄せて検討することになります。そして、それらの資料に基づいて遺言無効訴訟を提起し、裁判所に認めてもらうことができたら、その遺言書を法的に無効にすることができます。

7 「親の囲い込み」にまつわるお悩みは弁護士に相談を

これまで述べた通り「親の囲い込み」の問題を解決するためには、多くの困難が伴います。また「親の囲い込み」に関係する相続トラブルも多発しています。

この点、千瑞穂法律事務所には、長年にわたり裁判官や公証人を務めた弁護士や、家庭裁判所の現役の非常勤裁判官として多くの親族間トラブルに取り組んでいる弁護士が在籍しています。

そうした経験と実績に基づいて、千瑞穂法律事務所では、「親の囲い込み」にまつわる様々な問題や相談に対して、適切な法的助言を行うことができます。

 「親の囲い込み」の問題や、それにまつわる相続トラブルについてお困りごとがあれば、まずはお気軽に、千瑞穂法律事務所にご相談下さい。

特別受益と寄与分とは?弁護士が特別受益・寄与分で損をしないための3Stepを解説

2025-10-21

大切な方が亡くなる際には、相続時のことをあまり考えていない方も多いのではないかと思われます。もっとも、あなた1人が被相続人の方の看病をし、それなりにお金をかけたという場合、相続される額が他の相続人と同じだとすれば、不満に思われる方が多いのではないのでしょうか。

本記事では、そのような不満など相続時に生じることが多い不満、その不満を是正する制度について解説し、弁護士が認められるケースと請求方法をご説明いたします。

遺産分割で生じる不満

遺産分割の際の不満とはどのようなものなのでしょうか。よくある例をご紹介いたします。

(1) 「あの子だけずるい!」生前の援助が招く不公平

あなたのお父様が亡くなる際、相続財産が2000万円あり、相続人はあなたと兄の2人だけであったとします。もっとも、亡くなる直前、あなたのお父様がお兄様に対して生計の資本として1000万円を譲渡していたという事情が明らかになったとしましょう。
この際、お父様が亡くなった時点では相続財産が2000万円しかなかったのであるから、相続財産が原則通りに分配されると、あなたは相続財産として1000万円しか受け取ることができないということになってしまいそうです。これに対し、お兄様は亡くなる直前に譲渡された分も含めて2000万円を受け取ることになります。この際、あなたはお兄様に対し、「あの子だけずるい!」と思うことでしょう。

(2) 「私が面倒を見たのに!」生前の援助が招く不公平

上記と同様にあなたのお父様が亡くなる際、相続財産が2000万円であり、相続財産はあなたとお兄様の2人だけであったとします。そして、あなたのお父様は生前病院に入院しており、あなたはお父様が入院してから亡くなるまで500万円の支払いをしていたとしましょう。
この際、原則通りに相続を分配されると、あなたは1000万円ずつお兄様と同額の相続財産を受け取ることになります。この際、あなたはお兄様に対し、「私が面倒を見たのに同じ額を受け取るなんてずるい!」と思うことでしょう。

2. 不公平を是正する制度①(特別受益)

1(1)に記載した不公平(「ずるい!」と思う気持ち)を是正する制度として特別受益をご説明いたします。

(1) 特別受益とは

特別受益とは、被相続人から遺贈を受け、又は婚姻若しくは養子縁組のため若しくは生計の資本として贈与を受けた場合に当該遺贈又は贈与を特別受益といいます(民法903条1項参照)。
そして、特別受益が存在する場合、相続開始時に被相続人が有していた財産の価格に特別受益の価格を加えたものを相続財産とみなし(このようにして計算される財産を「みなし相続財産」という。)、かかるみなし相続財産を前提に相続分を算定します(このような定め方を「特別受益の持ち戻し」といいます。)。その後、特別受益を得ている者は、上記の特別受益の持ち戻しによって計算された額から特別受益の価額を控除した残額が具体的相続分となります(その他の相続人は、上記の相続分が具体的相続分となります)。

(2) 具体的計算方法

1(1)に示した例の相続分の具体的計算方法をご説明いたします。まず、1(1)で示した事例では、あなたのお父様はお兄様に対し生計の資本として1000万円を譲渡しており、かかる1000万円が「特別受益」に該当します。
 この場合、相続財産の2000万円に1000万円を加算した額である3000万円がみなし相続財産となります。そして、遺言等がない場合、それぞれ2分の1ずつ相続されることとなりますので、3000万円の2分の1、すなわち1500万円が特別受益の持ち戻しによって計算された額となります。そして、お兄様は1500万円から特別受益の額である1000万円を引いた500万円を受け取り、あなたは1500万円を受け取ることになります。

(3) 持ち戻し免除の意思表示について

以上が「特別受益」についての原則となります。もっとも、被相続人が特別受益に該当する贈与又は遺贈をする際、これらを持ち戻しによる計算をしない旨の意思表示をされている場合(これを「持ち戻し免除の意思表示」といいます。)、上記のような持ち戻しによる計算は行われなくなります(民法903条3項)ので、注意が必要です。

3. 不公平を是正する制度②(寄与分)

1(2)に記載した不公平(「ずるい!」と思う気持ち)を是正する制度として寄与分をご説明いたします。

(1) 寄与分とは

寄与分とは、相続人の中に、被相続人の事業に関する労務の提供又は財産上の給付、被相続人の療養看護その他の方法により被相続人の財産の維持または増加について特別の寄与をした場合にかけた金額を言います(民法904条の2参照)。
 そして、寄与分が存在する場合、相続分から寄与分に当たる金額を控除した額を相続財産とみなし(このようにして計算される財産を「みなし相続財産」という。)、かかるみなし相続財産を前提に相続分を算定します。その後、寄与分がある相続人は、みなし相続財産を前提に計算された額に寄与分を加えた額を具体的相続分として受け取ることになります(その他の相続人は上記の相続分が具体的相続分となります。)。

(2) 具体的計算方法

1(2)に示した例の相続分の具体的計算方法をご説明いたします。まず、1(2)で示した事例では、あなたはお父様が入院してから亡くなるまで500万円の支払いをしており、これは本来お父様の財産から支払われるべき額をあなたが支払ったものであり、「寄与分」に該当します。
 この場合、相続財産の2000万円から500万円を控除した1500万円がみなし相続財産となります。そして、遺言等がない場合、それぞれ2分の1ずつ相続されることとなりますので、1500万円の2分の1、すなわち750万円がみなし相続財産を前提とした相続分となります。そして、あなたは500万円分の寄与分がありますので、750万円に500万円を加えた1250万を受け取り、お兄様は750万円を受け取ることとなります。

4. 特別受益・寄与分で損をしないための3Step

 相続の際に生じる不公平を解消する制度についての説明は以上のとおりです。以下では、上記の特別受益・寄与分で損をしないためにあなたがとるべき行動を3Stepに分けて説明させていただきます。

(1) Step1(証拠集め)

あなたの行った支出が寄与分に当たるのではないか、また被相続人の方の支出が特別受益に当たるのではないかなどと疑問に思われた場合、これらの証拠(病院への支払いの領収書や、何月何日誰の口座に金銭を振り込んだかがわかる記録等)を残しておく必要があります。仮にあなたが、支出時点で相続時のトラブルが生じると思われないとしても、相続時点では関係が悪化し、トラブルに発展するというケースはよくあります。後の相続トラブルに備えておくという意味でも、これらの証拠は必ず残しておくべきでしょう。

(2) Step2(特別受益、寄与分該当性の判断)

 Step1のとおり証拠を収集した後は、これらの支出が特別受益、寄与分に該当するかを判断する必要があります。本記事で紹介した典型例以外にも寄与分、特別受益に該当する可能性のあるものは多くありますので、判断に迷われた場合には、弁護士等の専門家の意見を聞くことが望ましいでしょう。
 

(3) Step3(交渉、遺産分割調停)

 Step2で特別受益、寄与分に該当すると判断される場合には、そのような前提で計算した相続分を他の相続人に提示し、交渉を行います。こちらの主張に任意に応じてもらえる場合には問題は生じませんが、相手方がこちらの主張に応じてくれない場合、弁護士等の第3者を通じた交渉や遺産分割調停を行うことになります。このように紛争性の高い場合には、解決に専門的見解や法的手続きが必要となるケースが多いため、弁護士等の専門家に依頼することが望ましいでしょう。

5. 遺産の不公平に関するお悩みは当事務所にご相談ください

これまで述べてきたとおり、特別受益、寄与分の問題が生じている場合に、弁護士ができることも多くあります。当事務所では特別受益、寄与分の問題でお困りの方を全力でサポートいたします。
 具体的には、特別受益、寄与分該当性の判断についてのリーガルコメントの提供、他の相続人の方との交渉、遺産分割調停の代理人として参加するなど様々なサポートを行っております。
また、千瑞穂法律事務所では、相続分野を強みとしている弁護士のほか、非常勤裁判官に任官されている弁護士や36年という長期にわたって裁判官を務めていた弁護士がおり、裁判官の視点も踏まえた解決方法の提示をすることが可能です。

特別受益、寄与分の問題で悩まれている方は、お気軽にご相談ください。

親の賃貸アパート、相続後の家賃は誰が受け取る?放置が招く「共有不動産の悲劇」と専門家による3つの解決策

2025-10-21

広島市内やその近郊で、親御さんが大切に経営されてきた賃貸アパートや駐車場。ご家族にとっては、安定した収益をもたらす貴重な資産であり、同時に多くの思い出が詰まったかけがえのない場所でもあるでしょう。

 しかし、いざ相続が始まると、真っ先にこんな疑問が頭をよぎりませんか?

親が亡くなった後、毎月入ってくるアパートの家賃は、一体誰が受け取る権利があるのだろう?

 この素朴な疑問こそ、資産家一族が深刻な相続トラブルに陥る、まさにその入り口なのです。「家族だから大丈夫」とこの問題を放置した結果、

「兄が全ての家賃収入を独り占めし、話し合いにも応じてくれない…」 

相続人の意見がまとまらず、誰も管理しないアパートが廃墟のようになっている…

 といった、取り返しのつかない事態に発展するケースを、私たちは広島でも目にしてきました。私たちは、これを「共有不動産の悲劇」と呼んでいます。

 この記事では、あなたのその最初の疑問に法律の専門家として明確な答えを提示し、放置した場合に待ち受ける「悲劇」の正体を明らかにし、そして、その全てを解決するための「専門家による3つの解決策」を具体的にお示しします。

 あなたの家族と資産の未来を守るため、ぜひ最後までお付き合いください。

1 【答え】相続後の家賃は「法定相続分に応じて相続人全員で」受け取るのが法律の結論

 まず、あなたの最初の疑問に、専門家として単刀直入にお答えします。

(1)最高裁判所が示したルール(判例)

 相続が開始してから遺産分割の話し合いが完了するまでの間に発生した家賃収入は、「遺産」そのものではありません。法律上は「遺産から生じる果実」と呼ばれ、遺産分割協議を待つことなく、発生した瞬間に、各相続人がその法定相続分に応じて受け取る権利が確定します。

 これは、最高裁判所が示した明確なルール(判例)であり、交渉や裁判における大前提となります。例えば、相続人が配偶者と子2人であれば、家賃収入を受け取る権利の割合は、配偶者が2分の1、子がそれぞれ4分の1ずつ、となります。

(2)なぜ、この単純なルールが深刻なトラブルを生むのか?

 それは、「遺産分割(財産分けの話し合い)」と「家賃の分配」が、法律上、完全に別問題として扱われるからです。

 多くの方は、「兄が管理している家賃収入も、遺産分割の際にまとめて精算すればいい」と考えがちです。しかし、法律上、これは間違いです。

 もし兄が3年分の家賃1,000万円を分配していなくても、家庭裁判所で行われる遺産分割の場で「兄は1,000万円多く得ているから、その分アパートの所有権は私が多くもらうべきだ」という主張は、原則として認められません。

 家賃の不払い問題は、遺産分割とは別に地方裁判所で行う「不当利得返還請求」という手続きで解決する必要があり、問題が二重化・複雑化してしまうのです。この法的な構造を理解していないと、話し合いはいつまでも平行線を辿ることになります。


2 【悲劇】放置が招く「共有不動産の悲劇」その恐るべき実態

 「共有不動産の悲劇」とは、問題を先送りした結果、資産と家族の両方を失ってしまう最悪のシナリオです。具体的には、次の3つの段階を経て深刻化していきます。

(1)悲劇①:金の切れ目が縁の切れ目。「賃料独り占め」と家族の断絶

 最も多く、最も根深いトラブルです。生前から親の不動産管理を手伝っていた長男が、相続発生後もそのまま管理を続け、他の相続人に収支を明かさず、賃料を分配しない。最初は「兄さんだから任せておこう」と思っていた他の兄弟姉妹も、やがて不信感を募らせます。

 電話をしても出ない、手紙を送っても返事がない。猜疑心は憎悪に変わり、かつて仲の良かった兄弟姉妹は、法廷で罵り合う関係へと堕ちていきます。

【弁護士の視点】 

 弁護士として数多くの骨肉の争いを見てきました。その経験から断言しますが、一度こじれた親族間の金銭問題が、感情的な話し合いだけで円満に解決することは、まずありえません。弁護士による内容証明郵便の送付や訴訟といった「法的な介入」という外部からの力を加えなければ、事態は確実に悪化の一途を辿ります。躊躇や遠慮は、あなたの正当な権利を永遠に失わせるだけなのです。

(2)悲劇②:誰も決められない。「塩漬け不動産」化による資産価値の暴落

 相続人の間で関係が悪化すると、不動産の経営(管理・運営等)に関する意思決定が完全にストップします。法律上、共有不動産(相続による遺産分割前の共有を含む)に関する行為には、以下のような厳格なルールがあるからです。

  • 大規模修繕や売却(変更・処分行為): 全員の同意が必要
  • 新規の賃貸契約(管理行為): 持分の過半数の同意が必要

 共有者の一人でも反対すれば、老朽化した建物の修繕も、有利な条件での売却もできません。空室が増え、雨漏りが発生しても、誰も責任を取らない。結果、広島市内の一等地にあるはずの優良物件が、管理不全のスラムと化し、資産価値は半値、更には3分の1へと転がり落ちていくのです。

(3)悲劇③:資産の強制喪失。望まない「競売」という結末

 相続人間での話し合いによる解決が絶望的となった場合の最終手段が「遺産分割調停・審判」です。しかし、これは諸刃の剣です。審判にまで至ると、裁判所が、当事者の主張する分割方法では公平な解決は困難と判断した場合、不動産全体を競売にかける、という判断を下すことがあります。

 競売による売却価格は、通常の不動産市場で取引される価格の6~7割程度になってしまうことも珍しくありません。つまり、法的手続きに訴えた結果、相続人全員が経済的に大きな損失を被るという、誰も望まない最悪の結末を迎えるリスクをはらんでいるのです。

3 【解決策】専門家集団が提言する「共有不動産の悲劇」を回避する3つの解決策

 ここまで見てきた悲劇を回避し、あなたとご家族の資産を守るため、私たちは状況に応じて3つの段階的な解決策をご提案します。

(1)解決策①:【紛争解決】発生してしまったトラブルを法的に、かつ有利に解決する

 すでに相続人間の関係がこじれてしまっている場合、感情的な話し合いは無意味です。法律という客観的なルールに則り、問題を解決する必要があります。

ア 交渉・調停・訴訟による権利の実現:

 弁護士が代理人として介入し、賃料の返還や遺産分割協議を進めます。当事者同士では不可能な冷静な交渉が可能です。話し合いがまとまらなければ、家庭裁判所での調停や審判、訴訟へと移行します。 

【調停の現場を熟知】

 広島家庭裁判所の調停の現場では、法律論だけでなく、当事者の感情やこれまでの経緯も重視されます。しかし、最終的に調停委員や裁判官の心を動かすのは、客観的な証拠と、第三者が聞いても納得できる論理的な主張です。私たちは、広島の調停実務を熟知しており、どのような資料を、どのタイミングで提出すれば、調停を有利に進められるかを戦略的にアドバイスします。

イ 揉めないための4つの分割方法の選択:

 不動産の分割には、4つの方法があります。私たちは、ご家族の状況を伺い、最適な方法をご提案します。

(ア)現物分割

 たとえば、不動産Aを長男が取得し、不動産Bを次男が取得する、といったように、現にある物を、物理的に分割する方法

 一つの筆の不動産を現物分割するような場合であれば、測量や分筆登記が必要となります。私たちは、提携している土地家屋調査士や司法書士と連携して、円滑な手続きの進行をサポートします。

(イ)代償分割

  一人が不動産を取得し、他方に金銭を支払う方法

 不動産をいくらと評価すべきなのか、適切な主張を行うために、提携している不動産業者からの査定書を取得したり、提携している不動産鑑定士に鑑定意見書の作成を依頼するなどのサポートを行います。

(ウ)換価分割

  不動産を売却し、現金を公平に分ける方法

 売却する方法のなかでも、相続人同士が協力しあって行う「任意売却」と、裁判所の手続きで強制的に行う「競売」とがあります。「競売」では適正な価格が実現できないので、換価分割をするのであれば「任意売却」をお勧めしています。提携している不動産業者を通じて、適切な価格での販売の実現をサポートします。

(エ)共有分割

 共有名義のままにする方法(非推奨

 これは問題を将来に先送りするだけであり、私たちは、この選択肢を回避する方法を全力で模索し、提案します。

(2)解決策②:【生前対策】「争族」の火種そのものを消し去る

 最も賢明で、最も効果的な解決策が、問題が起きる前に手を打つ「生前対策」です。これは、親が子に残せる、最高の贈り物です。

  • 遺言書|あなたの「想い」を法的な形にする 

 遺言書があれば、そもそも遺産分割協議は不要となり、「共有不動産の悲劇」は起こりえません。

 【多くの実務経験から】

 弁護士として多くの遺言作成に立ち会いました。その経験から言えるのは、愛情のこもった「付言事項」(なぜその分割にしたのか、家族への感謝などを綴る欄)が、時に法的な効力以上に、残された家族の心を繋ぎ、無用な争いを防ぐ力を持つということです。私たちは、法律的に完璧なだけでなく、あなたの「想い」が100%伝わる、血の通った公正証書遺言の作成を、言葉選びの段階からお手伝いします。

  • 家族信託|認知症による資産凍結をも乗り越える究極の承継手法

 遺言は死後の対策ですが、生前のリスクで最も恐ろしいのが「認知症による資産凍結」です。家族信託は、元気なうちに信頼できる家族に財産の管理権限を託すことで、この最悪の事態を回避できる柔軟な制度です。

 【元公証人が在籍する強み】

 当事務所には、その信託契約公正証書をご自身の手で数多く作成してきた、広島の信託実務における第一人者が弁護士として在籍しています。 私たちは、信託契約のあらゆるパターンを熟知しています。だからこそ、法務・税務・登記、そしてご家族の感情面まで、360度どこにも隙のない「失敗しない」信託契約を設計できるのです。これは、他のどの事務所にも決して真似のできない、当事務所の強みです。

(3)解決策③:【高度な資産承継】資産と事業を次世代へ円滑に引き継ぐ

 複数の収益物件や親族経営の会社をお持ちの資産家の皆様には、より高度な戦略が必要となります。

  • 資産管理会社の設立・活用:

 法人を設立し、そこに不動産を所有させることで、相続の対象を「不動産」から「法人の株式」へと転換します。これにより、後継者に株式を集中させることで経営権の分散を防ぎ、安定した資産経営を継続できます。

  • 事業承継と自社株対策:

 親族経営の会社がある場合、株式の承継が最大の難問です。株式が分散すれば、会社の経営は即座に不安定化します。

【元国税OB税理士と弁護士の連携】

  私たちは、税務署で資産税を長年担当した元国税OB税理士と緊密に連携しています。税務署の視点を熟知した税理士と、数々の事業承継紛争を解決してきた弁護士がタッグを組むことで、後継者への円滑な株式集中と、他の相続人の遺留分対策、そして相続税の圧縮という、複雑な方程式の最適解を導き出します。

【知らないと数千万円損も】広島の相続不動産「円満売却」の絶対法則|税金・揉め事・事業承継の最適解

4 結論:「あなたに全てを託したい」当事務所が広島の資産家から選ばれる、唯一無二の7つの理由

 ここまでお読みいただき、ありがとうございます。最後に、なぜ私たちが、広島の複雑な不動産・事業承継の問題の解決に、絶対的な自信を持っているのか。その理由を「7つの強み」としてお伝えさせてください。

  1. 信託実務の第一人者】元公証人による絶対的な信頼性

 私たちは、机上で家族信託を語るだけの事務所ではありません。信託契約公正証書をその手で作成してきた張本人であり、広島の信託実務を知り尽くした第一人者が、あなたの未来を守るための、完璧で、戦略的な信託契約を設計します。

  1. 【最終判断者の視点】元裁判官在籍

 あなたの紛争がもし裁判になれば、最終判断を下すのは裁判官です。私たちは、その「判断者」の思考を知るからこそ、決して負けない戦略を立てられます。

  1. 【調停の現場を知る】現役の広島家裁・家事調停官在籍

 広島の相続紛争の「今」を、私たちは知っています。どのような主張が通り、どのような提案が調停委員の心を動かすのか。机上の空論ではない、生きたノウハウがここにあります。

  1. 【登記までワンストップ】大手司法書士法人と一体運営

 法的な解決が決まっても、不動産の名義変更(登記)ができなければ意味がありません。私たちは、司法書士法人みつ葉グループとの連携で、解決から実行までをシームレスに行います。

  1. 【税務署の視点を熟知】元国税OB税理士との連携

 相続に税金問題はつきものです。私たちは、税務署の思考を読み解き、あなたの税負担を最小化し、税務調査にも耐えうる万全の対策を講じます。

  1. 【不動産実務に精通】不動産関連企業との強力なネットワーク

 私たちは、広島の優良不動産会社と常に連携しています。絵に描いた餅ではない、現実的な不動産の価値や市場動向を踏まえた、最も有利な解決策をご提案します。

  1. 【事業承継のプロ】親族経営の顧問実績多数

 私たちは、多くの親族経営企業の法律顧問をしています。だからこそ、単なる相続問題としてではなく、会社の未来、従業員の生活まで見据えた、大局的な視点での事業承継サポートが可能です。

 私たちは、弁護士、司法書士、税理士、不動産のプロが結集した、あなたの資産と家族を守るための「専門家チーム」です。

【当事務所からのメッセージ】

もう、一人で悩まないでください。あなたのその悩み、私たちには解決できます。

 相続問題は、風邪と違って、時間が経っても自然に治ることはありません。むしろ、時間と共にガン細胞のように蝕み、気づいた時には手遅れになります。

今、この瞬間のあなたの小さな一歩が、ご家族の未来を、そしてあなた自身が守りたかったはずの「大切なもの」を救う、唯一の道です。

 まずは、お話をお聞かせください。あなたの状況を整理し、私たちが提示できる「未来へのロードマップ」を、具体的にご説明します。相談したからといって、依頼を強要することは決してありません。安心してお問い合わせください。

未来を変える60分が、ここにあります。

 当事務所は広島市中心部にございます。お電話または下記フォームより、お気軽にご連絡ください。

« Older Entries

keyboard_arrow_up

0829620339 問い合わせバナー 事務所概要・アクセス