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遺産分割協議において相続不動産の評価額はいくらにすればよいのか?
「親から相続した実家、遺産分割での評価額はいくらにすればいいの?」「兄弟間で評価額の意見が合わなくて困っている…」
大切なご家族が亡くなられた悲しみの中、不動産の相続問題で頭を悩ませていらっしゃる方は少なくありません。特に不動産の評価額は、相続人それぞれの利害が絡むため、深刻な対立(いわゆる「争族」)に発展しやすい問題です
この記事では、相続問題に精通した弁護士が、遺産分割における不動産評価の基本的な考え方から、ご自身の状況に応じた適切な主張、そしてお困りの際の対処法まで分かりやすく解説します。
1 なぜ相続不動産の評価額でもめてしまうのか?
遺産分割協議において相続不動産の分け方は大きく分けて、
①現物分割(相続人Aさんは相続不動産のうち不動産Aを取得し、相続人Bには不動産Bを取得するといった遺産分割を現物で分割する方法)、
②代償分割(特定の相続人が相続不動産を取得し、他の相続人には代償金を支払う方法)、
③換価分割(相続不動産を売却して現金化し、その現金を相続人間で分ける方法)
があります。
このうち③換価分割については売却して得られる現金を相続人間で分けるだけなので、相続不動産の評価でもめることが基本的にありません。
他方で、①現金分割の場合には、相続不動産の評価額を基準にして各相続人が取得する不動産や預貯金等の他の相続財産の取り分を協議するため、相続不動産の評価額がいくらなのかが問題となります。
また、②代償分割についても相続不動産の評価額を相続人間で合意した上で、合意した評価額に基づき、相続人不動産を取得する特定の相続人が、相続不動産を取得しない相続人に対して代償金を支払うため、そもそも相続不動産の評価額をいくらで合意するか問題となります。
具体的には、
①現金分割の場合には、相続人Aは自身が取得する相続不動産Aの評価額が、相続人Bが取得する相続不動産Bと比べて低い方が、相続不動産A以外の相続財産の取り分が増えることになるため、相続人Aとしては相続不動産Aの評価額が低いと主張することになります(反対に、相続人Bとしては相続不動産Bの評価額が高いと主張することになります)。
②代償分割の場合には、不動産を取得する特定の相続人としては他の相続人に支払う代償金を少なくするために相続不動産の評価額は低いと主張することになります。他方で、代償金を受け取る側の相続人としては相続不動産の評価額は高いと主張することになります。
このような相続人間の利害の対立が、「その金額は高すぎる」「安すぎる」といった感情的な争いを引き起こします。
2 相続不動産を評価する方法
遺産分割協議では、相続不動産をどのように評価するかについて法律上のルールはなく、「相続人全員の合意」によって相続不動産の評価額を決めることになります。
この際に相続不動産の合意形成の資料として用いられる相続不動産の評価方法には以下のようなものがあります。
① 固定資産税評価額に準拠する方法
固定資産税等の計算基準となる価格で、実勢価格の7割程度が目安です。
メリット
各不動産の評価額を算定することが簡潔であるという点です。
デメリット
3年に1度しか評価替えがされないため、実勢価格(実際に市場で売買されると想定される価格)や公示地価等と差が生じやすい点などです。
② 相続税評価額(路線価)に準拠する方法
相続税や贈与税の計算に用いる価格で、一般的に実勢価格の8割程度とされています。
土地については「路線価方式」(路線につけられた1㎡あたりの評価額(路線価)に土地の面積・形状に応じた調整計算をして算出する方法)又は「倍率方式」(固定資産税評価額に一定の倍率を乗じて算定する方法)により算定されます。他方で、建物については固定資産税評価額をそのまま使用します。
メリット
固定資産税評価額と同様に、評価額を算定することが基本的に簡潔であるという点です。また、毎年評価替えがされているため、固定資産税評価と比べて地価変動をより反映しているとされています。
デメリット
としては土地の形状等によっては調整して計算する必要がある点です。
③ 公示地価に準拠する方法
国土交通省が正常価格(自由公開市場で取引が行われるとした場合に通常成立すると認められる価格)として毎年公示する価格です。
メリット
比較的実勢価格に近いとされている点です。
デメリット
対象となる標準地・基準地が少なく、公示地価に基づいて遺産分割協議で対象となっている相続土地の評価を算定することが難しい場合がある点です。
④ 基準地標準価格(都道府県地価調査標準価格)に準拠する方法
都道府県が、毎年特定の基準地について公表している価格です。
メリットとデメリットは基本的に公示地価と共通です。
④ 不動産業者の査定
各相続人が、不動産業者に相続不動産に関する査定書の作成を依頼し、この査定書に基づき相続不動産の評価額を算定する方法です。
各相続人は取得した査定書の評価額が異なる場合には、複数の査定書の中間値や平均値に基づき評価額を決める方法などがあります。
メリット
コストを抑えつつ専門家の意見を反映した評価額を算定できる点です。
デメリットは査定書の作成者の責任が問われるものでないため、査定者、査定書を依頼した相続人の恣意が入り込む余地が低くはない点です。また、不動産業者に対して依頼する手間もかかります。
なお、遺産分割協議もし合意できずに家庭裁判所の遺産分割調停や審判に移行した場合、裁判所は原則として「遺産分割時の時価(実勢価格)」を基準に判断します。不動産鑑定士による鑑定や各相続人が提出した不動産業者の査定書などに基づき決定していきます。
3 相続不動産の額が低いと主張したほうが良い場合
相続不動産の額が低いと主張したほうが良い場合としては、自身が被相続人の方と同居していた相続不動産をそのまま相続したいなどの希望があり、①現物分割により自身が相続不動産を取得することを考えている場合や②代償分割により自身が相続不動産を取得し、他の相続人に対して代償金を支払うことを考えている場合などです。
なぜなら、相続不動産の評価額が他の相続人が取得する相続不動産以外の相続財産の金額や自身が他の相続人に支払う代償金の金額に影響するためです。
遺産が「評価額X万円の相続人不動産」と「現金3000万円」のみで、相続人が兄弟2人(この場合、各相続人の法定相続分は2分の1です)で、兄が相続不動産の取得を希望している事例をもとに、相続不動産の評価額がどのように影響するか説明いたします。
相続不動産の評価額が5000万円の場合には、各相続人の取り分は4000万円(相続財産8000万円×法定相続分2分の1)となります。この場合において、兄が相続不動産を取得するときには、弟は現金3000万円と取得したとしても本来の取り分より1000万円少なくなるため、兄は弟から代償金として1000万円を支払うように求められることになります。
他方で、相続不動産の評価額が2000万円の場合には、各人の取り分は2500万円(相続財産5000万円×法定相続分2分の1)となります。この場合においては、兄が相続不動産を取得したとしても、まだ500万円の取り分が残るため、弟に代償金を支払うことなく、現金500万円を得る余地があります。
相続不動産の額は低いと主張したほうが良い相続人としては、固定資産税評価額や相続税評価額により相続不動産の評価を行うように交渉することなどが考えられます。
4 相続不動産の額が高いと主張したほうが良い場合
相続不動産の額が高いと主張したほうが良い場合としては、①反対に自身が相続不動産の取得を希望しておらず、他の相続人が現物分割により相続不動産の取得を希望している場合や②代償分割により自身が代償金を受け取る場合などです。
相続不動産の額は高いと主張したほうが良い相続人としては、できるだけ実勢価格に近い公示地価等により相続不動産の評価を行うように交渉するほか、不動産業者から固定資産税評価額等より高額の査定書を取得し、固定資産税評価額等は実勢価格と離れていると主張し交渉することなどが考えられます。
5 まずは弁護士にご相談ください
相続不動産の評価額については様々な算定方法があり、相続不動産の評価額について他の相続人の合意を得ることに難航することは少なくありません。
当事者間の話し合いでどうしても合意できず遺産分割協議が成立しない場合、家庭裁判所での「遺産分割調停」、それでもまとまらなければ「遺産分割審判」を行っていくことになります。 このような場合には、時間や費用がかかるばかりか、他の相続人との関係性に少なからず悪影響があります。
不動産を含む遺産分割は、専門的な知識と交渉戦略が不可欠です。
少しでも「もめそう…」と感じたら、問題が深刻化する前に、ぜひ一度、相続問題に精通した弁護士にご相談ください。
当事務所では、裁判官や公証人としての経験が豊富なベテランから若手まで、複数の弁護士が在籍しており、あなたのお悩みに寄り添いながら、親身になって丁寧に対応させていただきます。
法律用語もかみ砕いて分かりやすくご説明いたしますので、どうぞご安心ください。
まずはお気軽にお問い合わせいただき、あなたの声をお聞かせください。

「遺産分割協議後に新事実発覚!?遺産分割のやり直しは可能か」
遺産分割協議を終えた後で、新たな事実が発覚したり、内容に納得がいかなかったりした場合、そのやり直しは可能なのでしょうか。 本記事では、遺産分割協議をやり直すことができるケース及び遺産分割のやり直しについてのポイントをご説明いたします。

遺産分割協議をやり直すことができる場合とは
遺産分割に不満があったとしても、一度遺産分割協議が有効に成立している以上、法的安定性を確保する観点から、それだけの理由で遺産分割協議をやり直すことは原則としてできません。もっとも、遺産分割協議の対象となる財産や意思決定過程に問題があり、遺産分割協議が無効となる又は取り消しが認められる場合や遺産分割協議の合意解除が認められる場合には、例外的に遺産分割のやり直しが認められる可能性があります。
以下では、遺産分割協議がどのような場合にやり直すことができるかについて裁判例も交えながらご説明いたします。
(1) 相続人全員の合意がある場合に遺産分割協議をやり直すことができるか
遺産分割協議は、当事者たる相続人の私的自治で行われるものです。そのため、相続人全員の合意があれば、遺産分割協議を合意解除したうえで、遺産分割協議をやり直すことが可能です。判例も、遺産分割協議の相続人全員による合意解除を認めています(最判平成2年9月27日)。
(2) 遺産分割協議の当事者に間違いがあった場合にやり直せるか
遺産分割協議の当事者に間違いがある場合としては①本来相続人となるべき者を何らかの事情で除外して遺産分割協議を行った場合や、②相続欠格である者など、相続人でない者を加えて遺産分割協議を行った場合があり、これらそれぞれについて遺産分割協議のやり直しが認められるかをご説明します。
まず、①の場合、そのような遺産分割協議は原則として無効となり、遺産分割協議のやり直しが認められる可能性が高いです。裁判例でも同様の事例において、遺産分割協が無効となるとしています(東京地判昭和39年5月7日)。もっとも、相続開始後、死後認知等によって相続人となった者がやり直しを請求する場合、すでに他の相続人が財産の処分等をしていれば価額の支払いによる解決となり、遺産分割協議が無効であるとしてのやり直しは認められません(民法第910条)。
次に、②の場合、遺産分割協議が無効となり、遺産分割協議のやり直しが認められるかについては、事情によって結論が異なります。この点について、裁判例では、法的安定性確保の観点から、原則として当該相続人でない者が取得するとされた部分に限って無効となるとして、遺産分割協議全体を無効としてやり直しをすることは認めていません(大阪地判平成18年5月15日)。もっとも、上記裁判例でも、遺産分割協議の全体を無効としなければ著しく不当な結果となるような特段の事情がある場合には遺産分割協議全体が無効となる余地を残しており、相続人でない者が取得するとしていた財産の重要性等の事情次第では遺産分割協議全体が無効となり、遺産分割協議をやり直すことが可能となるでしょう。
(3) 遺産の範囲に関して間違いがあった場合にやり直せるか
遺産の範囲に関して間違いがある場合としては①遺産に属しない財産を分割の対象とした場合や、②本来遺産分割の対象とすべき財産を遺産分割の対象としなかった場合があり、これらについて遺産分割協議のやり直しが認められるかをご説明いたします。
まず、①の場合には、実務上遺産に属しない部分の財産分割のみが無効となり、遺産分割協議のやり直しまでは認められないとしており、裁判例でも同様の考え方がとられています(名古屋高決平成10年10月13日)。
次に、②の場合については、遺産分割の前提となる財産に認識の食い違いが生じている以上、錯誤(民法第95条)が認められ、遺産分割協議を取り消すことで遺産分割のやり直しが可能となる可能性が高いです。裁判例でも②の事例で、錯誤(改正前民法95条)が認められた結果、遺産分割協議が全体として無効となるとしたものがあります(東京地判平成27年4月22日)。
(4) その他遺産分割のやり直しが可能な場合
一般的に遺産分割協議が無効となる可能性があるのは上記の(1)~(3)に記載した通りです。もっとも、上記の場合のほかにも、遺産分割協議において詐欺や脅迫が行われた場合や、遺産分割協議の前提とした事情について認識の食い違いがあった場合には遺産分割協議を取り消した上で、遺産分割協議のやり直しができるとされています(民法第94条、第95条、第96条)。
遺産分割のやり直しのポイント
続いて遺産分割のやり直しを希望される方へ向けたポイントを3つご紹介します。
まず1つ目のポイントは、遺産分割を相続人全員の合意によってやり直す場合、前回の遺産分割協議を全員の合意によってやり直すことを明記しておくことが重要であるということです。
遺産分割協議を1(1)に記載した相続人全員の合意解除によってやり直す場合、遺産分割協議が2回存在することとなります。そのため、のちに2回目の遺産分割協議の有効性を争われた場合に備え、遺産分割協議書に1回目の遺産分割協議を相続人全員の合意によって解除し、新たに遺産分割協議を行う旨を明記しておくことが望ましいです。
次に2つ目のポイントは、他の相続人の同意を得ず、1回目の遺産分割協議が無効であるとして遺産分割のやり直しを行う場合、証拠収集が非常に重要であるということです。
他の相続人の同意を得ず、遺産分割協議のやり直しを行い、争いになった場合、そもそも前回の遺産分割協議は無効であるとして、裁判所に対し、遺産分割協議無効確認の訴えを起こす必要がある可能性があります。こうした場合には、1回目の遺産分割協議の有効性に争いがあることを証拠によって示す必要があります。ですので、1回目の遺産分割が無効であることを示す客観的な証拠を収集しておくことが望ましいです。また、ご自身の考える証拠が十分なのか不安がある方は、弁護士等の専門家に相談することも有力な選択肢となるでしょう。
そして3つ目のポイントは、やり直しが必要であることが判明した場合には、できるだけ早く手続きを開始するないし専門家に相談することが重要であるということです。
理由としては、仮に遺産分割の無効、解除によるやり直しが認められ、新たに遺産分割協議を行うとしても、遺産が第三者に売却等されている場合には、当該遺産を取得できない可能性があるためです。平成30年の民法改正によって追加された民法第899条の2により、法定相続分を超える権利の承継については、対抗要件を備えなければ第三者に対抗することができないということが明記されました。これにより、遺産分割後、土地や建物についてやり直しを行う前に売却等が行われ、登記がされた場合には、やり直しによる遺産の取得を主張できなくなってしまいます。ですので、やり直しが必要であることが判明した場合には、遺産が売却・登記される前に、できるだけ早く手続きを開始したり、専門家に相談したりすることが望ましいでしょう。
遺産分割のやり直しについてのお悩みは当事務所にご相談ください
これまで述べてきたとおり、遺産分割のやり直しは原則として認められませんが、特段の事情がある場合や相続人全員の同意があれば可能です。もっとも、遺産分割のやり直しを考える場合、必要な資料の準備や証拠収集など、ご自身のみで行うには非常に大きな負担となる可能性が高いです。そして、これらの手続きについては、弁護士等の専門家のサポートを受けることで迅速かつ満足のいく解決が可能な可能性も高いといえます。そこで、当事務所では遺産分割のやり直しについての問題でお困りの方を全力でサポートいたします。
具体的には、遺産分割のやり直しが可能かどうかについてのリーガルコメントの提供、他の相続人の方との交渉、遺産分割協議無効確認の訴えを行うなど様々なサポートを行っております。
また、千瑞穂法律事務所では、相続分野を強みとしている弁護士のほか、非常勤裁判官に任官されている弁護士や36年という長期にわたって裁判官を務めていた弁護士がおり、それぞれの事例で遺産分割協議の無効によるやり直しを裁判官が認めるかどうかの判断基準をお伝えすることができ、裁判官の視点も踏まえた解決方法の提示をすることが可能です。
遺産分割のやり直しに関する問題で悩まれている方は、お気軽にご相談ください。

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