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◆口座凍結までは預貯金の引出しが可能
被相続人が死亡して相続が発生した場合、金融機関はそれを知った時点で口座を凍結します。しかし金融機関が知るまでの間、口座は凍結されないため、通帳と預金印、またはキャッシュカードと暗証番号などがあれば、口座からお金を引き出すことができてしまいます。このように相続発生後に被相続人名義の口座から引き出されてしまったお金は、遺産分割の対象になるでしょうか?
◆原則、遺産分割の対象ではない
この点、遺産分割の対象財産は、相続発生時に被相続人のものとして存在していることが当然に必要ですが、それだけはなく、遺産分割を行う時点でも存在しなければならないことになっています。ですから、遺産分割前に被相続人名義の口座から引き出されてしまったお金は、原則としては、遺産分割の対象にはなりません。そのため、原則として、この引き出された預貯金については、家庭裁判所で行われる遺産分割調停・審判では取り扱うことはできず、不当利得返還請求の問題として、別途、地方裁判所で裁判を行うべきことになります。
◆例外として、遺産分割できる場合
もっとも、遺産分割調停の場において、調停に参加している相続人全員が調停の場で取り扱うことに同意すれば、例外として、引き出したお金も遺産分割の対象として取り扱うことができます。
この運用自体は、以前から行われていました。しかし、口座からお金を引き出した相続人の同意も必要であるところ、現実には、その引き出し行為をした相続人は同意しないというケースが多く、その場合には遺産分割の対象にできない、という不都合がありました。
そこで令和元年7月1日に施行された相続に関する新法では、引き出した相続人以外の相続人全員の同意があれば足りると定められました(改正後民法906条の2)。新法は、令和元年7月1日以降に発生した相続について適用されます。
◆相続開始「前」に引き出された預金は?
相続開始「前」の預金引出しについても、その引出し行為をした相続人が、遺産分割調停の場において同意しているのであれば、遺産分割の対象に含めることができます。
しかし、やはり多くの場合、預金を引出した相続人は同意しません。また新法の適用対象は、相続開始「後」の預金引出しなので、相続開始「前」の預金引出しには適用されません。
よって、預金を引出した相続人が同意しない場合には、別途、地方裁判所で不当利得返還請求の裁判を行う必要があります。
◆相続に関係する預金の引出しトラブルは千瑞穂法律事務所へご相談ください
相続に関係する預金の引出しトラブルは、多くの相続事例で発生しています。これを解決する方法として、遺産分割調停で取り扱えるのか、不当利得返還請求の裁判を別途、行わなければならないか、それを区別するのは、なかなか難しいと思います。
また、預金がすでに引き出されてしまっている場合、引出された預金がなくなってしまわないように、その預金を保全する措置を検討する必要もあります。
どのような手続きが必要になるかは、事案ごとにケース・バイ・ケースになるため、相続分野に詳しい弁護士のアドバイスが不可欠です。
千瑞穂法律事務所には、相続分野に詳しい弁護士が在籍していますので、相続に関する預金の引出しトラブルがある場合は、まずは千瑞穂法律事務所にご相談下さい。