「内縁の妻」や「献身的に介護した人」は遺産をもらえる?「特別縁故者」への財産分与を広島の弁護士が解説

「籍は入れていなかったけれど、30年近く一緒に暮らしてきました。彼の家も預金も、私には何の権利もないのでしょうか」

「子どものいない叔母の介護を10年続けてきました。叔母が亡くなったら、財産は国に持っていかれると聞いて驚いています」

広島で相続のご相談をお受けしていると、こうした声を耳にすることがあります。法律上の相続人ではない。けれど、亡くなった方のいちばん近くにいたのは自分だった。そういう方々です。

この問題は、決して珍しいものではなくなりつつあります。日本総合研究所の調査によれば、相続人がいないために国庫に帰属した金銭等は、2024年の1年間で1292億円に上りました。10年前の約3倍です。背景には、身寄りのない方の増加があります。65歳以上で亡くなった方のうち未婚だった方は10万人を超え、10年前の1.7倍になっています。

もっとも、相続人がいないからといって、すべてが自動的に国のものになるわけではありません。亡くなった方と特別な関係にあった人が、家庭裁判所に申し立てることで遺産の全部または一部を受け取れる制度があります。それが「特別縁故者に対する相続財産の分与」です。

ただ、この制度には、知らないと取り返しのつかない落とし穴がいくつもあります。申立てには短い期限があり、しかも誰もその期限を知らせてくれません。認められたとしても、遺産の全部がもらえるとは限りません。遺産に不動産や自社株が含まれていれば、話はさらに複雑になります。

以下、広島で遺言・相続を専門に扱う弁護士の立場から、実際の裁判例も交えながら、特別縁故者の制度を順を追ってご説明します。

このページの目次

第1 「特別縁故者」とは?

1 相続人がいないとき、遺産はどこへ行くのか

(1)「相続人がいない」といえるのはどんな場合か

最初に確認しておきたいのは、本当に相続人がいないのか、という点です。

民法では、亡くなった方の配偶者は常に相続人となり、そのほかに子(子が先に亡くなっていれば孫)、子がいなければ父母などの直系尊属、それもいなければ兄弟姉妹が相続人になります。兄弟姉妹が先に亡くなっていても、その子である甥や姪がいれば、甥・姪が相続人です。

「身寄りがない」と思われていた方でも、戸籍をさかのぼってみると、何十年も音信のなかった異母兄弟や甥・姪が見つかることは少なくありません。相続人が一人でも見つかれば、特別縁故者の制度を使う余地はなくなります。

逆に、配偶者・子・直系尊属・兄弟姉妹・甥姪がいずれもいない場合や、相続人全員が相続放棄をした場合には、「相続人がいない」状態になります。いとこや、亡くなった配偶者の兄弟姉妹(義理のきょうだい)は、どれほど親しくても相続人にはなりません。

(2)手続きをしなければ、最後は国のものになる

相続人がいない場合、遺産は、家庭裁判所が選ぶ「相続財産清算人」が管理し、借金や未払いの医療費などを支払って清算します。そのうえで残った財産は、民法959条により国庫に帰属します。

冒頭の1292億円という数字は、まさにこうして国に引き継がれた財産です。その中には、亡くなった方と長年暮らしたパートナーや、最期まで介護に通った親族がいながら、制度を知らないまま国に渡ってしまったものも含まれているのではないか、と考えてしまいます。

2 特別縁故者への財産分与という「最後の受け皿」

(1)民法958条の2が定めていること

民法958条の2第1項は、家庭裁判所は、相当と認めるときは、「被相続人と生計を同じくしていた者、被相続人の療養看護に努めた者その他被相続人と特別の縁故があった者」の請求によって、清算後に残った相続財産の全部または一部をこれらの者に与えることができる、と定めています。

被相続人とは、亡くなった方のことです。つまり、法律は特別縁故者として次の三つの類型を挙げています。

・亡くなった方と生計を同じくしていた人(生活費を一緒にしていた人)

・亡くなった方の療養看護に努めた人(介護や看病を担った人)

・その他、亡くなった方と特別の縁故があった人

(2)相続とは違い、家庭裁判所が「与える」制度であること

ここで誤解されやすいのですが、特別縁故者は「相続人に準じる人」として当然に遺産をもらえるわけではありません。

相続であれば、相続人は法律で決まった割合の権利を当然に持ちます。これに対し、特別縁故者への分与は、申立てを受けた家庭裁判所が「この人にどれだけ与えるのが相当か」を判断して、初めて権利が生まれる仕組みです。申立てをしなければ何も始まりませんし、申立てをしても、ゼロという判断もあり得ます。

(3)遺言書があれば話は変わる

亡くなった方が遺言書を残していて、「財産を〇〇に遺贈する」と書かれていれば、原則としてその内容が実現されます。内縁の妻や介護をしてきた方に財産を残すという点では、遺言書のほうがはるかに確実です。

特別縁故者の制度は、遺言書がなかった場合、あるいは遺言書が財産の一部にしか触れていなかった場合に、最後に頼ることになる受け皿だと考えてください。

第2 特別縁故者として認められる可能性がある人の具体例

1 「内縁の配偶者」「事実婚のパートナー」

(1)「生計を同じくしていた者」の典型例

婚姻届を出していない内縁の配偶者には、相続権がありません。何十年連れ添っても、法律上の配偶者でなければ相続人にはなれないのが日本の民法です。

そのため、内縁の配偶者は、特別縁故者として最も典型的に想定されている立場です。同じ家に住み、家計を一つにして暮らしてきたのであれば、「被相続人と生計を同じくしていた者」にあたる可能性が高いといえます。

(2)同居期間・家計の一体性・周囲の認識が判断を左右する

ただし、「内縁だった」と申立人が言うだけで認められるわけではありません。家庭裁判所は、同居していた期間、生活費をどのように負担していたか、親族や近所の人から夫婦として扱われていたか、といった具体的な事情を見ます。

住民票の記載(「妻(未届)」などと記載されていることがあります)、公共料金の引落口座、二人で写った写真、親族の冠婚葬祭への出席状況など、夫婦同然の生活だったことを示す材料が多いほど、判断は有利に傾きます。

2 「いとこ」など、法定相続人にあたらない親族

(1)いとこには相続権がない

先ほど触れたとおり、いとこは相続人になりません。亡くなった配偶者の兄弟姉妹(義理のきょうだい)や、甥・姪の配偶者も同じです。

しかし、身寄りのない方の生活を実際に支えているのは、こうした「相続人ではない親族」であることが多いものです。そうした方々が特別縁故者として認められた裁判例は、数多くあります。

(2)財産管理や手続きの代行で認められた例(広島高裁平成15年3月28日決定)

広島県内の事件で、参考になる裁判例があります。

亡くなった男性には相続人がおらず、2名の人が特別縁故者として財産分与を申し立てました。一人は、男性の亡き妻の弟です。もう一人は、男性の父方のいとこでした。

このいとこは、男性と年が近く、若いころから親しく付き合い、財産の管理を含む生活全般の相談に乗ってきました。男性が別の場所で暮らすようになってからも、留守宅の改修や管理、固定資産税の納付、年金や医療費の申請手続きなどを代わりに行い、男性が亡くなった後も役所での手続きを引き受けていました。

広島高等裁判所は、このいとこについて、介護をしたわけでも生計を同じくしていたわけでもないものの、「その他被相続人と特別の縁故があった者」にあたると判断しました。

(3)見守りと葬儀で認められた例(東京高裁平成26年5月21日決定)

東京の事件では、引きこもりがちになった被相続人を見守ってきた従兄が、特別縁故者と認められています。

この従兄は、被相続人の父親から「息子を頼む」と託され、父親の葬儀を取り仕切り、その後も近隣や民生委員に自分の連絡先を伝えて見守りを頼み、被相続人宅の害虫駆除や建物の修理を行っていました。被相続人が自宅で亡くなっているのが見つかった際には、発見に立ち会い、遺体を引き取って葬儀を出しています。

もっとも、この事件には続きがあります。分与された金額については、後ほど第3でご紹介します。

3 「献身的に介護・看護をしていた方」「生活の面倒を見ていた方」

(1)「療養看護に努めた者」とは

二つ目の類型は、亡くなった方の介護や看病を担った人です。自宅で同居して介護した場合だけでなく、施設や病院に入った後も足しげく通い、身の回りの世話や医師との面談、入退院の手続きなどを引き受けてきた場合も、これにあたり得ます。

(2)亡き妻の弟が自宅に引き取って介護を続けた例

先ほどの広島高裁の事件で、もう一人の申立人だった亡き妻の弟のケースが、まさにこの類型です。

男性は戦争で片足を失い、義足で生活していました。妻ががんで入院することになった際、妻の弟夫婦は、体の不自由な男性の生活を心配し、男性を自宅に引き取りました。妻が亡くなった後も男性は弟方での同居を続け、弟は家族の協力を得ながら、十数年にわたって男性の入通院や施設入所の世話をし、男性の死後は喪主として葬儀を出し、亡き妻と同じ墓に納めています。

血のつながりのない「義理の弟」であっても、これだけの関わりがあれば、特別縁故者として十分に評価されるということです。

(3)ヘルパーや施設職員など、報酬を得て介護していた場合

一方で、ホームヘルパーや施設の職員、家政婦など、仕事として報酬を受け取って介護をしていた方は、原則として特別縁故者にはあたりません。報酬を受け取った時点で、その労力には対価が支払われていると考えられるからです。

ただし、報酬に見合う範囲を大きく超えて、家族同然に長年世話を続けてきたような事情があれば、例外的に認められる余地はあります。

4 同居していた友人・知人のケース

(1)血縁がなくても対象になり得る

特別縁故者になるのに、親族である必要はありません。長年同居して互いに支え合ってきた友人や、身寄りのない方の生活を何年にもわたって支えてきた知人が、特別縁故者として認められることもあります。

ただし、親族でない場合は、「なぜこの人に財産を渡すことが、亡くなった方の意思に沿うといえるのか」を、より丁寧に説明する必要があります。

(2)介護施設などの法人が対象になることもある

特別縁故者は、個人に限られません。亡くなった方が長年入所していた社会福祉法人や、生前に深い関わりのあった団体など、法人が特別縁故者として分与を受けることもあります。

5 実際のご相談から見えること

(1)入院中から財産管理を引き受けた「おば」の事案

以前、亡くなった方の父の姉、つまり「おば」にあたる方からご相談を受けたことがあります。

亡くなった方には相続人がいましたが、全員が相続放棄をしたため、相続人がいない状態になっていました。亡くなった方が借りていた部屋は家財道具が置かれたまま残され、大家さんも困り果てていました。

このおばさまは、亡くなった方が入院したころから、ほかに引き受ける人が誰もいなかったため、事実上の財産管理を担ってこられました。法律上の義務がないのに他人のために事務を処理する、民法697条の「事務管理」にあたる関わり方です。相続財産清算人の選任を申し立てたのも、このおばさまでした。

(2)関わり始めた時期が判断を分ける

ところが、特別縁故者としての財産分与は認められませんでした。関わり始めたのが亡くなった方の入院後であり、関与が薄いと判断されたためです。

誰もやらないことを引き受けた方のご苦労を思うと、残念な結果でした。ただ、関わりの期間がもっと長ければ、認められた可能性はあったと私は考えています。特別縁故者の判断では、亡くなる直前の一時期にどれだけ尽くしたかだけでなく、それ以前からどのような関係が続いていたかが見られます。ご自身が特別縁故者にあたるかを考えるときは、亡くなる直前だけでなく、それ以前からの関わりを振り返ってみることが大切です。

第3 特別縁故者として財産分与を受けるための要件

1 「特別の縁故があった」と認められるポイント

(1)裁判所が見る四つの視点

三つの類型のうち、判断が最も難しいのは三つ目の「その他特別の縁故があった者」です。法律の文言がとても抽象的だからです。

先ほどの広島高裁平成15年決定は、この点について、生計を同じくしていた者や療養看護に努めた者に「準ずる程度に」、亡くなった方との間に具体的かつ現実的な精神的・物質的に密接な交渉があり、財産を分与することが亡くなった方の意思に合致するとみられる程度に特別の関係があった者をいう、と述べています。

そして、その判断にあたって考慮すべき事情として、次の四つを挙げました。

・生前における交際の程度

・亡くなった方が、その人から精神的・物質的に助けを受けた程度

・亡くなった後の実質的な供養の程度

・亡くなった方との血縁関係

このうち、どれか一つが満たされれば足りるというものではありません。四つの事情を総合して、「この人は生活を共にした人や介護した人と同じくらい、亡くなった方にとって大切な存在だったか」が判断されます。

(2)「その人に遺産が渡ることを、故人も望んだはずか」という視点

裁判所の判断の根底にあるのは、「もし亡くなった方が遺言書を書いていたら、この人に財産を残したのではないか」という問いです。

ですから、亡くなった方が生前に「あなたには世話になったから、何か残したい」と口にしていた、手紙やメモに感謝の言葉が残っている、といった事情は、それ自体が重要な意味を持ちます。

(3)関係を裏付ける資料を時系列で集める

家庭裁判所は、申立人の話だけでなく、それを裏付ける資料を見て判断します。思い出の品がたくさんあっても、それが「いつ、どんな関わりがあったのか」を示すものになっていなければ、説得力は生まれません。

役に立つ資料としては、たとえば次のようなものがあります。

・住民票や郵便物など、同居や生活の拠点を示すもの

・介護記録、通院・入院の付添いの記録、ケアマネジャーとのやり取り

・生活費や医療費を負担したことが分かる通帳や領収書

・手紙、年賀状、日記、LINEやメールのやり取り

・一緒に写った写真(撮影時期が分かるもの)

・親族、近所の方、施設職員などの陳述書

大切なのは、これらを関係の始まりから亡くなった後の供養まで、時系列に並べ、それぞれの出来事と結び付けて説明することです。資料がばらばらのままでは、裁判官に関係の全体像が伝わりません。

私が扱った事案でも、手元の資料を並べるだけでなく、関係を浮かび上がらせるための調査を重ねました。

一つは、亡くなった方の通帳を、いつ、誰が引き継いで管理していたかを確認することです。通帳の管理を任されていたという事実は、亡くなった方がその人をどれだけ信頼していたかを示す、分かりやすい手がかりになります。

もう一つは、葬儀で誰が喪主を務めたかです。誰が喪主になったかは、亡くなった方の周囲の人々が、その人をどのような立場の人と見ていたかを映し出します。

さらに、相続放棄をした元の相続人の方々から、亡くなった方と申立人との関係をどのように認識し、記憶しているかを聞き取ったこともあります。申立人自身の説明だけでは、どうしても「自分に都合のよい話」と受け取られかねません。利害の異なる立場の親族が「あの人がずっと面倒を見ていた」と語ってくれれば、その言葉は大きな裏付けになります。

2 認められにくいケース・裁判所の判断傾向

(1)通常の親戚付き合いや、たまの見舞い程度

盆や正月に顔を合わせていた、年に数回電話で話していた、入院中に何度か見舞いに行った。この程度の関わりは、親族として普通の付き合いの範囲内と評価され、特別縁故者とは認められにくいのが実情です。

ある時期に密接な交流があったとしても、それが短期間にとどまる場合も、同じように否定される傾向があります。

(2)亡くなった後の葬儀・供養だけの関わり

身寄りのない方が亡くなった後、親族として葬儀を出し、遺品の整理をし、お墓の手配をした。それは本当に大変なことですし、尊いことです。

ただ、特別縁故者の判断では、亡くなる前にどのような関係があったかが中心になります。生前にはほとんど交流がなく、亡くなった後の葬儀や供養だけを担ったという場合は、それだけで特別縁故者と認められるのは難しいと考えておいたほうがよいでしょう。

なお、立て替えた葬儀費用などは、特別縁故者の問題とは別に、相続財産清算人に対して精算を求める道があります。この点は、当事務所の別の記事「身寄りのない親戚が死亡。立替えた葬儀等の費用は?残った遺産の取得(相続)をできるのか?」で詳しくご説明しています。

(3)認められても全部はもらえない

もう一つ、ぜひ知っておいていただきたいことがあります。特別縁故者と認められても、遺産の全部がもらえるとは限らない、ということです。

先ほどの東京高裁平成26年決定では、従兄は特別縁故者と認められました。しかし、遺産の総額が3億7875万円余りあったのに対し、分与された金額は300万円でした。従兄は「遺産の1%にも満たない額では、特別縁故者と認めなかったも同然だ」と争いましたが、裁判所は、被相続人宅を訪れたのは年に数回程度で、生活を物理的にも精神的にも支えていたとまではいえないなどとして、300万円の判断を維持しています。残りの財産は、最終的に国庫に帰属することになります。

一方、広島高裁平成15年決定では、約4945万円の遺産について、二人の特別縁故者の縁故の濃さを「亡き妻の弟が7、いとこが3」と評価しました。十数年にわたって同居して介護してきた弟の縁故は、財産管理を中心としたいとこの縁故よりも相当濃いという判断です。そのうえで、弟には預金を中心に約69%、いとこには自宅の土地建物と一部の預金で約31%を分与しています。

この二つの裁判例から分かるのは、分与される額は、遺産の大きさではなく、縁故の濃さで決まるということです。遺産が大きければ大きいほど、「どこまでが相当か」という判断はシビアになると考えてください。

第4 特別縁故者になるための手続きの流れとスケジュール

1 相続人と遺言書の有無を確認

(1)戸籍による相続人調査

手続きの出発点は、本当に相続人がいないかの確認です。亡くなった方の出生から死亡までの戸籍、さらに父母や兄弟姉妹の戸籍までさかのぼって取り寄せ、相続人になり得る人を一人ずつ確認していきます。

古い戸籍は手書きで読みにくく、本籍地が何度も移っていることもあります。思い込みで「相続人はいない」と判断して手続きを進めた後で、甥や姪が見つかれば、それまでの準備が無駄になりかねません。

(2)遺言書の探し方

あわせて、遺言書がないかも確認します。公正証書遺言であれば、全国の公証役場で検索を依頼できます。自筆の遺言書でも、法務局の保管制度を利用していれば、法務局で照会することができます。自宅の金庫や書類の中、貸金庫に残されていることもあります。

遺言書が見つかり、財産を受け取る人が指定されていれば、特別縁故者の手続きによらずに済む場合があります。

2 相続財産清算人の選任申立て

(1)申立先は亡くなった方の最後の住所地の家庭裁判所

相続人がいないと分かったら、家庭裁判所に「相続財産清算人」の選任を申し立てます。申立先は、亡くなった方の最後の住所地を管轄する家庭裁判所です。広島市にお住まいだった方であれば広島家庭裁判所、県内のほかの地域であれば、呉・尾道・福山・三次などの支部が窓口になることもあります。

申立てができるのは、債権者などの利害関係人のほか、特別縁故者として分与を求めようとする人も含まれます。誰も清算人の選任を申し立てていなければ、特別縁故者になりたい人が自分で申し立てることになります。

(2)予納金の考え方

清算人には、通常、地元の弁護士が選ばれます。清算人の報酬や財産管理の費用が遺産から支払えない見込みのときは、申立人が「予納金」を家庭裁判所に納めるよう求められることがあります。

遺産に十分な預貯金があれば、予納金が低めに抑えられたり、手続きの最後に戻ってきたりすることもあります。逆に、遺産の大半が売却しにくい不動産であれば、まとまった予納金を求められる可能性があります。遺産の中身によって負担が大きく変わる部分ですので、申立ての前に見通しを立てておくことが大切です。

(3)申立書類・費用の細目

申立書や添付書類、印紙代などの細目は、当事務所の別の記事「身寄りのない親戚が死亡。立替えた葬儀等の費用は?残った遺産の取得(相続)をできるのか?」にまとめています。

3 債権者・相続人捜索の公告期間

(1)令和5年4月施行の改正で公告が一本化された

清算人が選ばれると、家庭裁判所は、清算人が選ばれたことと、相続人がいれば一定の期間内に名乗り出るべきことを、官報で公告します。この期間は6か月以上とされています(民法952条2項)。

清算人は、2か月以上の期間を定めて、債権者や遺贈を受けた人に請求を申し出るよう公告します。この期間は、先ほどの6か月以上の期間内に満了するものでなければなりません(民法957条1項)。

以前は、これらの公告を順番に行う必要があり、権利関係が確定するまで最低でも10か月ほどかかっていました。令和5年4月1日に施行された民法改正で公告が一本化され、最短6か月程度で確定するようになっています。

(2)清算人による財産の管理と換価

この間、清算人は遺産を調べて管理し、借金や未払いの費用を支払います。必要があれば、家庭裁判所の許可を得て、不動産や株式を売却して現金に換えることもあります。

4 特別縁故者への財産分与の申立て

(1)公告期間の満了後3か月以内

相続人を捜す公告の期間内に誰も名乗り出なければ、相続人がいないことが確定します。特別縁故者への財産分与の申立ては、この公告期間が満了した後3か月以内にしなければなりません(民法958条の2第2項)。

清算人の選任を申し立てた人であっても、この期間内に改めて分与の申立てをする必要があります。清算人の選任を申し立てたことで、分与の申立てまで済んだことにはなりません。

(2)清算人も裁判所も期限を知らせてくれない

ここが、この制度で最も注意していただきたい点です。

大阪家庭裁判所の手引きには、清算人に申立期間を連絡する義務はなく、家庭裁判所から知らせることもない、と明記されています。申立期間の確認は自らの責任で行う必要があり、清算人の選任からおおむね2〜3か月後を目安に、家庭裁判所に期間を問い合わせるよう案内されています。

公告は官報に掲載されますが、普段から官報を読んでいる方はまずいないでしょう。「そのうち連絡が来るだろう」と待っているうちに3か月が過ぎてしまえば、どれほど深い縁故があっても、分与を受ける道は閉ざされてしまいます。

(3)審理の進み方と、不服があるときの即時抗告

申立てを受けた家庭裁判所は、提出された資料を検討し、必要に応じて申立人から直接事情を聴いたり、書面で照会したりします。清算人の意見も聴いたうえで、分与するかどうか、分与する場合には何をどれだけ与えるかを判断します。

審判の内容に不服があるときは、審判の告知を受けた日から2週間以内に、高等裁判所に即時抗告をすることができます。先ほどの広島高裁の事件も、東京高裁の事件も、この即時抗告によって判断されたものです。

全体のスケジュールとしては、亡くなってから清算人の選任までに数か月、選任後の公告期間が6か月以上、そこから分与の申立てと審理を経て、分与を受けるまでに、少なくとも1年以上かかるのが一般的です。その間、内縁の配偶者の方などは、住まいや生活費の不安を抱えながら待つことになります。

第5 分与後の相続税と、遺産が高額な場合の注意点

1 分与された財産にも相続税がかかる

(1)遺贈で取得したものとみなされる

意外に思われるかもしれませんが、特別縁故者として受け取った財産にも、相続税がかかることがあります。

相続税法4条1項は、特別縁故者が相続財産の分与を受けた場合、その分与を受けた時の時価に相当する金額を、亡くなった方から遺贈によって取得したものとみなすと定めています。

(2)基礎控除と2割加算

相続人がいない場合、基礎控除は「3000万円+600万円×法定相続人の数」のうち3000万円の部分だけになります。分与された財産が3000万円を超えれば、相続税の申告が必要です。

さらに、特別縁故者は亡くなった方の配偶者や子ではないため、計算した相続税額が2割増しになります(相続税法18条)。配偶者の税額軽減などの優遇措置も、内縁の配偶者には使えません。

単純化した例でいうと、1億円の財産の分与を受けた場合、基礎控除3000万円を差し引いた7000万円に税率を当てはめると相続税は1400万円となり、これが2割増しで1680万円になります。財産の多くが不動産であれば、納税資金をどう用意するかも考えておかなければなりません。

(3)申告期限

申告の期限は、亡くなった日からではなく、財産の分与を受けたことを知った日の翌日から10か月以内です(相続税法29条1項)。手続きに時間がかかる分、亡くなってから相当の年月が経ってから申告期限が来ることになりますが、期限を過ぎれば延滞税や加算税がかかります。分与の見通しが立った段階で、税理士と準備を進めておくのが安心です。

2 収益不動産・自社株など、高額な遺産ならではの問題

(1)収益不動産は売却されるのか、そのまま受け取れるのか

遺産に賃貸アパートやマンションなどの収益不動産がある場合、清算の過程で清算人が売却し、現金にしてから分与されることもあれば、不動産のまま分与されることもあります。広島高裁平成15年決定でも、いとこには自宅の土地建物がそのまま分与されています。

不動産のまま受け取るのか、現金で受け取るのかによって、その後の管理の手間も、相続税の納税資金の準備も大きく変わります。入居者がいる物件であれば、清算中の賃料の管理や修繕も問題になります。どのような形で分与を受けるのが望ましいかは、申立ての段階から意識して主張しておく必要があります。

(2)共有不動産の持分の行方

亡くなった方が、不動産を誰かと共有していた場合はどうなるでしょうか。民法255条には、共有者の一人が相続人なく亡くなったときは、その持分は他の共有者に帰属するという規定があります。

この点について、最高裁判所平成元年11月24日判決は、共有持分も特別縁故者への分与の対象になり、分与されずに残った場合に初めて他の共有者に帰属する、と判断しました。たとえば、内縁の夫婦が自宅を共有していた場合、亡くなった夫の持分を、特別縁故者として妻が分与を受けられる可能性があるということです。

(3)同族会社の株式が遺産に含まれる場合

身寄りのない経営者の方が亡くなり、遺産の中に会社の株式が含まれていることもあります。この場合、株式は清算人の管理下に入り、会社の経営に関わってきた親族や役員が、思うように株主総会を開けないなどの影響が出るおそれがあります。

会社の株式の評価や、誰に株式が渡るかは、会社の今後を左右します。経営に深く関わってきた方が特別縁故者として申し立てる場合には、会社法や事業承継の観点も踏まえた主張が必要になります。

第6 特別縁故者の手続きを弁護士に相談するメリット

1 見通しと期限を最初に押さえられる

(1)認められる可能性と分与額の見通し

特別縁故者の申立ては、相続のように「割合」が決まっていない分、どこまで認められるかの見通しを立てることが難しい手続きです。これまでの裁判例の傾向と、ご相談者と亡くなった方との具体的な関係を照らし合わせることで、申立ての前に、認められる可能性やおおよその分与額の見通しをお伝えできます。

(2)期限の管理と資料の組み立て

先ほど述べたとおり、分与の申立てには3か月という短い期限があり、誰も知らせてくれません。弁護士が代理人となれば、清算人の選任申立てから分与の申立てまで、期限を管理しながら一貫して手続きを進めることができます。資料を時系列に整理し、裁判所に伝わる形で申立書を組み立てるのも、弁護士の役割です。

2 千瑞穂法律事務所がお手伝いできること

(1)元裁判官・現役の家事調停官の視点

当事務所には、35年間裁判官を務めた弁護士が在籍しています。また、広島家庭裁判所の非常勤裁判官である家事調停官を務める弁護士も在籍しています。家庭裁判所がどのような資料を見て、どのように判断するのかを、裁判所の内側から見てきた経験をもとに、申立ての方針を立てることができます。

(2)司法書士・税理士との連携

当事務所は、全国展開する司法書士法人みつ葉グループの広島拠点と同じ事務所で連携しており、分与を受けた不動産の登記にもすぐに対応できます。相続税に精通した税理士との連携により、分与後の相続税申告まで見据えたご相談が可能です。収益不動産や同族会社の株式が絡む相続も、数多く手がけてきました。

第7 よくある質問

1 Q 相続人が一人でもいたら、特別縁故者の制度は使えないのですか?

A はい。相続人が一人でもいれば、特別縁故者の制度は使えません。

ただし、亡くなった方の親族(6親等内の血族、3親等内の姻族)で、無償で介護などをして、亡くなった方の財産の維持や増加に特別の貢献をした方は、相続人に対して「特別寄与料」を請求できる場合があります(民法1050条)。たとえば、義理の親を介護してきた長男の妻などです。こちらは、相続の開始と相続人を知った時から6か月以内、または相続開始の時から1年以内に家庭裁判所に申し立てる必要があり、期限が短い点に注意が必要です。

2 Q 同居していなくても認められることはありますか?

A あります。別々に暮らしていても、定期的に訪問して身の回りの世話をしていた場合や、施設に入所した後も継続的に面会や手続きの世話をしていた場合には、療養看護に努めた者や特別の縁故があった者として認められる可能性があります。広島高裁平成15年決定のいとこも、同居はしていませんでした。

3 Q 申立ての期限を過ぎてしまったら、もう何もできませんか?

A 公告期間の満了後3か月を過ぎてしまうと、原則として特別縁故者として分与を受けることはできません。ただし、亡くなった方のために立て替えた葬儀費用や医療費などがあれば、清算人に対してその精算を求める余地があります。期限が迫っている、あるいは過ぎたかもしれないという場合でも、まずは早めにご相談ください。

4 Q 生前にできる対策はありますか?

A 最も確実なのは、財産を残したい方に遺贈する内容の遺言書を、公正証書で作っておいていただくことです。特別縁故者の制度は、あくまで遺言書がなかった場合の最後の手段にすぎません。身寄りのない資産家の方の生前対策については、当事務所の記事「広島でおひとり様資産家の遺産を残すには?国庫帰属を回避し想いを遺す生前対策」で詳しくご紹介しています。

第8 まとめ

相続人がいないとき、亡くなった方と生活を共にした方や、最期まで寄り添った方の思いを法的に形にできるのが、特別縁故者の制度です。

ただ、この制度は申立てをしなければ何も始まらず、その申立てには、誰も知らせてくれない3か月の期限があります。認められたとしても、分与される額は縁故の濃さによって大きく変わり、遺産が高額であれば、相続税や不動産・株式の扱いといった問題も避けて通れません。

「自分は特別縁故者にあたるのだろうか」「清算人が選ばれたと聞いたが、次に何をすればいいのか分からない」。そう感じた時点で、一度専門家に相談していただくことをお勧めします。

広島市中区の千瑞穂法律事務所では、元裁判官・現役の家事調停官の知見を生かし、相続人調査から清算人の選任申立て、特別縁故者への財産分与の申立て、分与後の登記や相続税の申告まで、一貫してサポートしています。広島市をはじめ広島県内にお住まいの方で、遺言・相続・遺産分割についてご不安やお悩みがございましたら、まずはお気軽に千瑞穂法律事務所にご相談ください。

本記事は執筆時点における関係法令および裁判例等を基礎として作成されたものであり、ご覧いただく時期によっては法令の改正や裁判例の変更等がなされている場合がございますのでご注意ください。なお、本記事は各位のご参考のために一般的な情報を簡潔に提供することを目的としたものであり、当事務所の法的アドバイスを構成するものではありません。具体的事案への適用にあたっては、当事務所の弁護士まで直接ご相談くださいますようお願いいたします。

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